植物の防御を寄せ付けない (Keeping plant defenses at bay)
植物とその病原菌は絶えず分子レベルの軍備拡張競争を行っている。Sanguankiatticaiたちは、植物病原菌シュードモナス・シリンガエが、植物によって認識され防御を誘発する、フラジェリンからの免疫ペプチドの放出を通常ならば始めるであろう植物分泌のグリコシダーゼを抑制することを見出した (Schroederの展望記事参照)。著者たちは高分解能低温電子顕微法と化学合成研究を行ない、このグリコシダーゼ抑制物質であるグリコシリンがガラクトースを模倣する独特なイミノ糖であることを示した。グリコシリンの生合成は、感染過程で毒性調節因子によって誘発され、独特なイミノ糖生合成経路によって行われた。グリコシリンはまた、植物タンパク質の糖鎖付加と細胞外代謝産物の蓄積を変化させた。多くの植物関連病原菌はグリコシリンを産生することができ、このことは、糖鎖生物学的操作が植物-病原菌の相互作用における共通の戦場となる可能性を示唆している。(Sh,KU,nk,kh)
【訳注】
- シュードモナス・シリンガエ:着生細菌として植物の葉の表面に生息するグラム陰性性の桿菌であり、鞭毛を持ち運動性がある。ほとんどの場合、病原性を示すことなく栄養を寄主植物から獲得している。
- グリコシダーゼ:糖と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合であるグリコシド結合を加水分解する酵素の総称。
- フラジェリン:菌の鞭毛の主成分であるタンパク質。有鞭毛型細菌の菌体には多量に含まれている。
- イミノ糖:環中の酸素原子が窒素原子に置き換わった構造を持つ糖の総称
Science p. 297, 10.1126/science.adp2433; see also p. 252, 10.1126/science.adx0288