Science December 13 2024, Vol.386

サンゴのために涼しく保つ (Keeping cool for corals)

サンゴ礁は熱ストレスに非常に弱く、それがサンゴの白化や死をもたらす。長期的には、熱ストレスはサンゴ礁の構造の劣化、沿岸保護の喪失、世界的に重要な漁業の喪失につながる可能性がある。Lachsらは、もしより熱耐性のある系統が自然選択される時間があるならば、またはそれらが人工的に導入されたならば、特に敏感なサンゴの分類群が耐えられる条件の範囲をモデル化した。遠隔地のパラオから主要なミドリイシサンゴ種のデータを収集し、地球規模気候変動のさまざまなシナリオの下でそれらの適応が歩調を合わせられるかどうかを推定した。この予測結果は完全に望み薄というわけではないが、どのようなシナリオが続こうとも、サンゴ礁が生き残る可能性を最大化する唯一の方法は、温室効果ガスの人為的排出を直ちに削減することだ。(Uc,nk,kh)

Science p. 1289, 10.1126/science.adl6480

変わりゆく気候の料金 (The toll of a changing climate)

人間が引き起こした気候変動の影響の1つに、海洋熱波の増加がある。海洋熱波とは、海水が通常よりもかなり高温になる現象である。こうした現象が、生産者から捕食者まで、海洋生物に打撃を与えることは分かっていたが、水温が通常レベルまで下がってもその影響が続くのかどうかははっきりしていない。Rennerたちは、2014年から2016年の間の海洋熱波中にウミガラスのアラスカの個体数の半分以上が死に、推定される損失数が400万羽に上ることを報告している。最近のその後の集団個体数の推定では、回復の証拠は見つかっておらず、この熱波が生態系の交代をもたらしたかもしれないことを示唆している。(Sk,nk,kh)

Science p. 1272, 10.1126/science.adq4330

エネルギー収穫用薄膜 (Energy-harvesting sheets)

体熱のようなものを収穫するための柔軟な熱電素子を見つけることは、これまで困難であった。Chenたちは、テルル化ビスマスのナノプレートとテルルのナノロッドを組み合わせることにより、大規模で柔軟な薄膜にスクリーン印刷するための熱電インクを改良した。このインクのスクリーン印刷・焼結が熱電特性を改善し、有望な量のエネルギー収穫を示す素子の構築構築を可能にした。この方法は他の材料にも有効であり、大規模で柔軟な熱電素子を製造する方法を提供する。(Sk,KU,kh)

Science p. 1265, 10.1126/science.ads5868

太陽型の星のスーパーフレア発生率 (The superflare rate of Sun-like stars)

太陽フレアは、太陽の活動領域から放出される明るく一過性の多波長放射である。直接観測された最も強烈な太陽フレアは、約10^32ergのエネルギーを放出する。太陽はそれよりも強烈なフレアを発生させることができるのか、またどのくらいの頻度で発生するのかは不明である。Vasilyevたちは、ケプラー宇宙望遠鏡によって観測された56,000個の太陽型星の明るさ測定を調査した。その結果、約10^34~10^35ergのエネルギーを持つ明るい恒星フレアが3000個近く確認された。それらはスーパーフレアと呼ばれる。この発生率は、一つの恒星について1世紀に1回程度1である。もし太陽がこのサンプルの星のように振る舞えば、同じような割合でスーパーフレアを発生する可能性がある。(Wt,nk,kh)

Science p. 1301, 10.1126/science.adl5441

両方に役立っている (Benefiting both)

海洋保護区 (MPA) は、その境界線内の種を保護することが繰り返し示されてきた。これは、マグロなどの広範囲に回遊する種にさえ当てはまる。しかしながら、もう1つ言われているMPAの利点は、漁業の可能な地域への(派生的効果としての)魚の「溢出」(spillover)である。このことが回遊魚の場合にも生じるかどうかは、それらの地域をまたいだ移動を考慮すると、未解決の問題であった。Lynhamたちは、高い移動性の種、具体的には太平洋とインド洋において経済的に重要なマグロに対してさえも、MPAからの派生的利益があることを示している。このような結果は、MPAが種と漁業の両方を保護するために不可欠であることを明確に示している。(Sk,nk,kh)

Science p. 1276, 10.1126/science.adn1146

流れにおける変化 (A shift in flow)

川はその源流域で小さな系として始まり、河口に流れ下り、浸食様式、堆積、エネルギー供給、生態学的群集に影響するさまざまな物理的で水文学的な状態を展示する。FengとGleasonは世界中の290万の川の毎日の河川流量を地図化して、それらの川の流量特性が過去数十年にわたってどのように変化した可能性があるかを測定した。彼らは、1984年以降、源流域での平均流量が増加し、流域河口で減少したことを見出した。他の結果の中では、これらの変化は源流域での100年に1度の大氾濫の頻度を増大させた一方で、下流域での氾濫発生可能性は変化しなかった。(MY,nk,kh)

Science p. 1305, 10.1126/science.adl5728

タンパク質に基づく細胞ニューラル・ネットワーク (Protein-based cellular neural network)

生体回路を含むように操作された細胞は強力な診断および治療手段となる可能性をもつ。Chenたちは、多数の入力の量を比較して、「勝者総取り」の出力を与える、タンパク質に基づくニューラル・ネットワークを設計した。このシステムは、標的分子と結合したときに、ヘテロ二量体を形成するようにプログラム化された設計タンパク質を用いる (GallowayおよびJohnstoneによる展望記事参照)。この二量体形成により、ウイルスのプロテアーゼの活性が再構成され、これが出力ノードと単一の「勝者」出力との間の相互阻害を可能にする。出力はアポトーシスの誘導などの細胞中の機能的変化と関連づけることができる。この結果は分類ネットワークを作り、生細胞中で調整可能な決定制御ができることを示している。(hE)

Science p. 1243, 10.1126/science.add8468; see also p. 1225, 10.1126/science.adu1327

DNAを移動させて天然物をあぶり出す (Mobilizing DNA to uncover natural products)

抗菌剤耐性遺伝子は、宿主染色体から独立した自己複製する小さなDNA片である耐性プラスミド内に密集することが多い。この組織体はプラスミド伝達を介して細菌種間に耐性遺伝子が急速に広がることを可能にする。Xieたちはこれらの系から着想を得て、CRISPR-Casに基づく系を開発して、細菌染色体由来の巨大遺伝物質断片を同じ細胞内のプラスミドへと移動させた。この切替えは、行うことが困難であるかもしれない細菌由来の生合成遺伝子の複製とクローン化を可能にする。野生型細菌または異種系での遺伝子集団の発現向上は、これまで特性が明らかでなかった4つの天然物群の同定を可能にした。(MY)

【訳注】
  • プラスミド:細菌内で染色体DNAとは別に存在する一般に環状型のDNA。独立した複製機構をもち、細胞分裂では娘細胞に安定して受け渡される、また細菌間の接合を通して細菌間でも伝達される。
Science p. 1242, 10.1126/science.abq7333

相互接続の前途 (The road ahead for interconnects)

集積回路の占有面積の縮小が、性能限界の要因をトランジスタそのものからトランジスタ間の相互接続へと移行させている。新材料が回路に組み込まれるにつれて相互接続経路が長くなり、配線が細くなり、より多くの種類の接続が必要になるため、相互接続による抵抗-静電容量遅延は、デバイス密度が高くなるほど悪化する。Kimたちは、材料のキャリア平均自由行程と凝集エネルギーに焦点を当て、より優れた相互接続を開発するための戦略を総括した。(Wt,nk,kh)

Science p. 1238, 10.1126/science.adk6189

まだまだ学ぶべきことが (Still more to learn)

古風なホミニン(ヒト族)から現生人類の遺伝子流動、およびその逆は、近年十分に実証されてきた。しかしながら、遺伝子移入された多様体における選択の作用や、この混合に寄与したホミニン個体群の多様性について、多くの疑問が残っている。Iasiたちは、59の古代人の試料と275の現代人の試料のゲノム・データにおけるネアンデルタール人の祖先を特定した。彼らは、遺伝子流動がおそらく約6,000年にわたって起こり、正と負の選択がこれらの遺伝子移入されたセグメントにおいて約100世代以内で作用したことを見出した。驚くべきことに、著者たちは、現生個体群に見出された遺伝子移入レベルの上昇にもかかわらず、東ユーラシア人への遺伝子移入の2回目の波の証拠を見出せなかった。(KU,nk,kh)

Science p. 1239, 10.1126/science.adq3010

良い肺修復と悪い肺修復 (Good and bad lung repair)

肺のような器官は多様な組織区画を備えた複雑な構造をしており、それぞれはそれ自身の幹細胞集団が管理している。個々の区画は損傷や疾患の際に別々に機能することがあり、どの細胞を治療標的にするかの特定を困難にしている。Jonesたちは、肺胞線維芽細胞が急性損傷に対する肺の応答を方向付け、気道上皮幹細胞の肺胞上皮幹細胞との競争を促進することを報告している。この競争均衡における変更は、急性損傷で生じるヒト肺疾患でも認められる。これらの研究から得られたデータは、肺の呼吸機能の適正な再生を促進する重要な経路に光を当てており、今後の治療標的を示唆するものかもしれない。(MY,kh)

【訳注】
  • 線維芽細胞:真皮に存在し、皮膚の機能を保つ上で重要な細胞。揖傷が加わると揖傷部に遊走し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの産生を始めるなど、創傷治癒過程の中で重要な働きを果たす。
Science p. 1240, 10.1126/science.ado5561

雑種におけるシグナル形質の選択 (Selection on signal traits in hybrids)

性選択は表現型に劇的な影響を及ぼす可能性があるが、これらの変化を種分化と結び付けることは困難であった。Schieldたちは336羽のツバメ (Hirundo rustica) の配列決定を行い、表現型的に多岐にわたる集団におけるシグナル形質の遺伝的基礎を調べた。遺伝子流動が集団間で起こった雑種地帯の存在にもかかわらず、著者たちは、これらの特性の根底にある遺伝子近傍の多様体が複数染色体にわたる連動を示すことを見出した。これらの形質の根底にある遺伝子座の少数性が、それらの連鎖を維持しやすくしている可能性があり、最終的種分化におけるこれらの形質の重要性を支持している。(KU,kh)

【訳注】
  • 性選択:異性をめぐる競争を通じて起きる進化のこと
Science p. 1241, 10.1126/science.adj8766

感情ループ (Emotional loops)

感情体験は行動に強い影響を及ぼす。即時初期応答遺伝子であるニューロンPASドメイン・タンパク質4 (Npas4) は、感情体験後にその発現を増し、行動に影響を及ぼす。Akikiたちは、近位Npas4プロモーター内のDNAに結合できるNpas4長鎖非コード・エンハンサーRNA (lnc-eRNA) を発見した。この結合事象が、エンハンサーと近位プロモーター間に3次元クロマチン・ループを形成するRNA/DNAハイブリッドRループ構造を生成し、最終的には急速なNpas4遺伝子発現をもたらす (CzarneckiとHellerによる展望記事参照)。Npas4lnc-eRNAは、慢性ストレスまたはコカイン曝露によって引き起こされる行動変化に必要であった。これらの結果は、感情体験を行動変化に結び付ける重要な調節機構を特定する。(KU,kh)

Science p. 1282, 10.1126/science.adp1562; see also p. 1223, 10.1126/science.adu0431

素晴らしい海底の景色 (Stunning seafloor scenes)

海底の詳細な地図は船舶の航行によってもたらされるが、衛星高度測定法を使って得ることもできる。Yuたちは、「Surface Water and Ocean Topography mission」のほんの1年間のレーダー高度測定観測結果を用いて、高解像度の全球海底地図を開発した(HwangとYuによる展望記事参照)。この新しい衛星観測結果は古い観測結果の約2倍の解像度を有し、海底の地質学的特徴をよりよく理解する機会を提供している。(Sk)

【訳注】
  • Surface Water and Ocean Topography mission:全地球表面の表面水(淡水、海水)を観測するNASAとCNES (国立宇宙研究センター) の共同プロジェクトであり、その海洋重力場のデータから海底地形の推定が可能となる。
Science p. 1251, 10.1126/science.ads4472; see also p. 1222, 10.1126/science.adu0697

ファージには出現が重要 (Appearances count for phage)

細菌に寄生するウイルスである、バクテリオファージは非常に多様である。このようなファージの多様性を生み出す機構は不明であるが、温泉に生息するものから腸内に生息するものまで、あらゆる種類の微生物群に影響を及ぼす。Pyensonたちは、安定なクローン大腸菌を用い野生で捕獲されたファージ群を培養することによって、ファージ群の動態を実験的に調べた。著者らは、宿主細菌個体群の中に自然に出現する成長表現型におけるさまざまな多様体に対するファージの好みがあるので、多数のファージ種が安定に共存できることを見出した。(Sh,kh)

Science p. 1294, 10.1126/science.adk1183

より優れた正孔輸送体へさかのぼって取り組み (Working back to better hole transporters)

逆設計方法は、ペロブスカイト太陽電池用の高性能の有機正孔-輸送半導体を特定した。Wuたちは、鈴木カップリング反応を介して共役有機分子のライブラリを合成し、大規模なデータ群を作成し、これらの分子を正孔輸送体として評価した。ベイジアン・モデルは、素子の性能に基づいて訓練され、分子記述子に基づいて新しい候補を合成するために使用された。最適な分子は、最先端の基準正孔輸送体の24.6%に対して26.2%の電力変換効率を達成した。(KU,kh)

【訳注】
  • ベイジアン・モデル:データの因果関係を分析する手法の1つ
  • 分子記述子:分子の特性などの特徴量を数字に変換したもの
Science p. 1256, 10.1126/science.ads0901