植物幹細胞の位置決定 (Positioning of plant stem cells)
維管束形成層組織は、木部組織と師部組織を反対側に作り出す一層の両面性幹細胞を含有している。成長様式と細胞運命決定がこれらの両面性幹細胞の位置をどのように決定するのかは謎のままである。Eswaranたちはモデル植物のシロイヌナズナにおいて、形成層の幹細胞因子として、ある転写因子ファミリーを特定した。彼らは隔離に基づくモデルを提案し、ペプチドTDIFのその受容体であるPXYへの強い結合が、オーキシン-PXYの濃度勾配端でどのようにTDIFの移動を止め、これにより、転写因子が発現する狭い領域が幹細胞性の決定を可能にすることを実証している。動物と同様に植物は、隔離に基づくフィードバックを介して対向するモルフォゲン濃度勾配を用いて、位置決定と細胞運命決定を正確に制御している。(MY,kh)
- 維管束形成層:茎や根の肥大成長を担う分裂組織。単に形成層ともいう。木部と師部の間にある1層の維管束内形成層と、その内周側にある木部分化状態の細胞群と、外周側の師部分化状態の細胞群からなる。茎頂、根端の分裂組織は出芽前に形成されるが、形成層は出芽後に作られる。
- TDIF:ペプチドホルモンの1種で師部側の細胞で産生される。木部分化を阻害する。
- PXY:TDIFの受容体。
- 隔離に基づくモデル:互いに異なる細胞運命決定因子が、中間の位置で捕捉・隔離され(ここではTDIF)、中間状態の細胞(ここでは形成層)が生じるというもの。
- オーキシン:植物の成長ホルモン。ここでは木部分化を促進する役割を果たしている。
- モルフォゲン:濃度依存的に細胞の発生運命を決定する物質。