水滴サイズのスペクトル (A spectrum of droplet sizes)
気候モデルは、雲の放射効果を計算するために、雲の水滴の大きさの分布の表現に依存している。ただし、想定される水滴サイズのスペクトルは正確ではないかもしれず、それらの計算に誤差を生じる可能性がある。Allwayinたちは、水滴の大きさの分布が、小さなスケールでは想定よりも狭く雲内でも不均一であって、雲全体平均とは異なっていることを示す航空機からの測定結果を報告している。(Wt,kh,nk)
気候モデルは、雲の放射効果を計算するために、雲の水滴の大きさの分布の表現に依存している。ただし、想定される水滴サイズのスペクトルは正確ではないかもしれず、それらの計算に誤差を生じる可能性がある。Allwayinたちは、水滴の大きさの分布が、小さなスケールでは想定よりも狭く雲内でも不均一であって、雲全体平均とは異なっていることを示す航空機からの測定結果を報告している。(Wt,kh,nk)
二次元電子系への強磁場の印加は、分数量子ホール状態と呼ばれる相関電子状態の形成をもたらす。これらエキゾチック状態はトポロジー的に堅牢であり、凝縮系物理やフォールト・トレラント(耐障害)量子計算分野において関心を集めている。Wangたちは、超伝導量子ビット格子を用いて分数量子ホール物理を光学的にシミュレートした結果を報告している。著者たちは、4×4配列の量子ビットを用いて、電子系の同等物が作るトポロジカル特徴を示す強相関フォトニック状態の形成を実証している。この人工モデルによるボトムアップ手法は、トポロジカル量子コンピューティングの実現やトポロジカル量子物理全般の研究のための規模拡大可能な技術基盤を提供する。(NK,kh,nk)
脳の神経細胞は、発達中に左または右の個性を獲得する。しかしながら、この非対称性の決定要因となる機構は、まだ完全には解明されていない。Powellたちは、ゼブラフィッシュの脳の発達を研究し、手綱核の神経細胞が左右非対称の性質を獲得するには、膜貫通タンパク質Cachd1が必要であることを発見した。Cachd1の機能喪失は、手綱核神経細胞が左の個性を獲得する確率の増大を引き起こした。機構的には、Cachd1が、Wnt共受容体であるFrizzledとLrp6を結合することによってこの機能を発揮する。脳内でのWnt信号伝達のCachd1による調節は、これまでないがしろにされてきた、ゼブラフィッシュの脳の非対称性を決定するために必要な機構を表している。(Sk,kj,kh)
テロメアは染色体末端にある配列で、細胞が分裂するにつれて短くなる。この短縮化を打ち消すために、テロメラーゼは高度に調節されたやり方でテロメアを伸長する。伸長が短すぎると細胞の老化と加齢性疾患をもたらし、また、長すぎると幾つかのガンにかかりやすくなる。Karimianたちは、彼らがテロメア・プロファイリングと呼ぶ、テロメア配列を解析する方法を開発し、テロメアが、現在のモデルが予測するような同じ長さには必ずしも調節されていないことを見出した。それよりむしろ、各テロメアは各自が固有の平衡長を持つ。この研究は、まだ知られていないテロメア長の調節機構が存在することを示している。これらの機構を調べることは、ガンや特定の変性疾患を治療する新しい方法に情報を与えるであろう。(MY,kh,nk)
立方晶相の炭化モリブデン(α-Mo2C)は、600°Cで二酸化炭素を100%の転化率で一酸化炭素(CO)に転換できる。この逆水性ガス・シフト反応に対しては他の結晶相のα-Mo2Cが用いられてきたが、Ahmadi Khoshooeiたちは、高い活性と高い安定性の両方を持つ純粋結晶相α-Mo22Cに対する規模拡大可能な合成について記述している。この結晶相は、この吸熱反応を工業的に規模拡大可能にさせるのに必要な高温かつ大量処理の反応条件下で、500時間以上活性を維持する。著者たちはこの高活性を、1つにはCOと結晶表面との相互作用が弱いことと、結晶格子間に酸素原子が存在することによるとしている。(MY)
概日時計の構成要素であるBmal1を欠くマウスは、リズムの乱れを示すだけでなく、早期老化と筋萎縮も示す。Kumarたちは、脳内の中枢時計と筋内の末梢時計が持つ特定の役割を探索するために、脳と骨格筋、あるいはその両方でBmal1を標的発現させることで、概日時計機能を回復させた。早期老化と筋機能不全を大幅に抑制するのに、両方の時計の回復が必要だった。筋内の時計は、それだけではリズム性を回復させなかったが、脳内の時計からの信号を選別して適切な筋機能を実現するよう働いた。行動タイミングをうながす時間帯制限摂食は、中枢時計の喪失に対する部分的な代替になりえた。そのような洞察は、概日時計の乱れが老化に果たす役割についての理解を深め、高齢者の筋機能を守る有望な方策を与えるはずである。(MY,kj,kh)
大きな双極子モーメントを持つ原子間の双極子相互作用は、量子シミュレーションに利用できる。これらの相互作用を増大させるには、原子を近接させればよい。Duたちは、双極子ジスプロシウム原子の二層系を約50ナノメートルの距離で隔てて作製することで、この課題に取り組んだ。この道具立てにより、研究者たちは、固体系におけるクーロン・ドラッグ(Coulomb drag)測定に関連した実験で、一方の層に作用することで他方の層の振動を引き起こすことができた。(Wt,nk)
B細胞は抗体を産生する白血球であり、多くの場合、腫瘍微小環境内で見出だされる。Maたちは、270人を超える患者から採取した21種類の異なるガン全体の腫瘍浸潤性B細胞を調べた(TellierとNuttによる展望記事参照)。著者たちは、単細胞トランスクリプトーム、B細胞受容体レパートリー、およびクロマチン接近可能性のデータを編集して、腫瘍関連B細胞が濾胞外経路またはより標準的な胚中心経路のいずれかによって抗体分泌細胞に分化したことを報告している。濾胞外B細胞グループの腫瘍は、胚中心B細胞を有する腫瘍と比較して、臨床予後が不良であり、免疫療法に対する抵抗性を示した。T細胞依存性免疫抑制に影響を与えることが知られているグルタミン由来代謝物利用へのB細胞の後成的変化が、機能障害性の体液性応答や、腫瘍に対する濾胞外B細胞の有害な影響とに関連している可能性がある。(KU,kj)
ソーシャル・ネットワークの特徴を利用すること(例えば、"噂好き"を特定すること)は、集団全体に知識を効果的に拡散してきた。しかし、情報を受け取る理想的な最前線の個人(メッセージ拡散を後押しする「シード」となるインフルエンサー)を選ぶには、以前はソーシャル・ネットワーク全体をマッピングする必要があったが、それは高くつき、時間を要し、また実行不可能なことが多い。ネットワーク内の全個人の完全なマップがなくても、最適なシードを特定することは可能なのだろうか? AiroldiとChristakisによるフィールド実験では、ホンジュラスの極貧で孤立した村落という非常に困難な状況において、この疑問が調査された。友人が最適な友人をシードとして推薦するという「友情のパラドックス」戦略を拡張することで、彼らのアルゴリズムは、完全なネットワーク地図がなくても、ソーシャル・ネットワーク全体に効率的にシードを分配した。この拡張可能な戦略は、無差別標的よりも効果的であり、低・中所得国の福祉を向上させるための広範囲に及ぶ政策的含意を持つものであった。(Uc,MY,kh)
光共振器内に置かれた超低温原子は、光子を介した相互作用を通じて相互作用することが可能である。Luoたちは、垂直定在波共振器内に存在する冷たいルビジウム原子を用いて、そのような系を設計した。共振器内にレーザー光を照射することで、一対の原子がそれらの運動量を交換する相互作用が引き起こされた。これにより、量子磁性のモデルの実現だけでなく、メスバウアー効果に似た集団的原子反跳現象の実現が可能になった。(Sk)
ヒドロゲルは水分含有量が高いため、生体組織と容易に調和し、良好なイオン伝導性も示し、これによりヒドロゲルを生体センサーとして使用することが可能となる。しかしながら、ヒドロゲルは通常、電子伝導性が低く、電気信号を取り出すことが困難である。炭素または金属のドーピングは役立つことがあるが、これはヒドロゲルの他の特性にひどい悪影響を及ぼす。Liたちは、カチオン性骨格を持つ導電性高分子を用いてヒドロゲルを合成し、その後非共有結合性架橋剤である1,3-ベンゼンジスルホン酸二ナトリウムを添加したが、これが水中で膨潤するが安定した状態を保つ高分子を形成した(GaoとFabianoによる展望記事参照)。著者たちは、半導体ヒドロゲルを用いて有機電気化学トランジスタと有機電界効果トランジスタを作製し、脳波を記録するその能力を実証した。(KU,kh,nk)
細胞周期の正しい制御が失われることがガン細胞の主な特徴であり、ゲノム重複や異数性に至りうる。McKenneyたちは、哺乳動物の培養細胞において、細胞周期制御に及ぼすリボトキシック・ストレス(抗生物質アニソマイシンによる翻訳の妨害)やその他のストレスの影響を研究した(Westendorpによる展望記事を参照)。ストレスを受けた細胞では、ストレスで活性化されたタンパク質キナーゼが、サイクリン依存性キナーゼCDK1、CDK4およびCDK6の抑制を引き起こし、これによって、ある細胞は有糸分裂に入ることなくDNA複製を再開して多倍体に至った。細胞周期のG2期におけるこのCDK4/6の役割はこれまで知られていなかった。この知見はG2期における後期促進複合体に対する制御への洞察を与えるものであり、またガンにおけるゲノム不安定性のさらなる理解と操作への道筋を示すものである。(hE)
マラリア原虫は複雑な生活環を有しており、抑制策のための多くの潜在的な標的を提供している。原虫の生活環の中で最も脆弱な時期の1つは、原虫が有性生殖に向けて成長する時期である。Doggaたちは、赤血球内で無性で成長している過程と有性で成長している過程にわたって、37,000以上の熱帯熱マラリア原虫細胞から作られた、ショート・リード配列決定法とロング・リード配列決定法による、内容に富んだ単一細胞トランスクリプトーム地図を作り上げた(CarltonとCunningtonによる展望記事参照)。複数の株の熱帯熱マラリア原虫に感染した一個人から得られた原虫が地図データと比較された。実験室培養株と比較して、提供者の野生株由来の原虫株の間では遺伝子発現にかなりの不均一性が見られ、実験室培養とは異なり、雄性と雌性の原虫成長に予期せぬ生活環のステージが観察された。(Sh,MY,kj)
脊髄髄膜瘤は重度の二分脊椎症であり、最も一般的な種類でもある。多くの国が主食に葉酸補充を導入してから、ここ数十年でその発生率は減少したが、脊髄髄膜瘤は世界の多くの地域で依然として課題となっている。さらに、葉酸による食事強化が常に効果的であるとは限らず、遺伝的素因と同様に、一部の薬剤や病状も病気のリスクに影響を与える可能性がある。脊髄髄膜瘤の遺伝学を研究するために、Vongたちは、大規模な多国籍二分脊椎シーケンス・コンソーシアムを設立した。このコンソーシアムからのデータに基づいて、著者たちは脊髄髄膜瘤のリスクを大幅に高める染色体22q11.2での欠失を特定し、次にこの染色体上の特定の一遺伝子の欠失が神経管の発生をどのように変えることができるかを示した。(KU,kj,kh)