ヒト大脳皮質における配線原則 (Wiring principles in the human cortex)
ヒト大脳皮質における神経細胞の特性と接続性を理解することは、認知機能を支える機構の理解に不可欠である。現状の大脳皮質シナプス構造に関する知識のほとんどは、げっ歯類に対する研究から得られたものである。Pengたちは、ヒト大脳皮質切片から得られた、パッチクランプ法による多ニューロン記録を解析して、シナプス接合形態を支配する原則を特定し、その結果をげっ歯類の大脳皮質の活動と比較した。げっ歯類とは異なり、ヒト大脳皮質における接続形態は不均質で、有向かつほぼ非巡回グラフ(directed Acyclic Graph: DAG)トポロジーを示す。神経回路網モデルにおけるこれらの原則の使用は、機能的に関連する課題において神経回路網作動の広がりを増やし、処理能力を向上させた。これは、ヒトの大脳皮質におけるこのような接続形態の特性が、高次の計算を容易にしていることを示唆している。(MY,KU,nk,kh)
- パッチクランプ法:針電極を用いて細胞の電位測定を行う方法の1つ。電極がガラス管微小ピペット内に装着されていることで、細胞膜を穿刺して細胞膜の一部を取り除いた際に、その部分がピペットにより密封状態となって高絶縁が達成され、正確な電位測定が可能になる。
- マルチニューロン記録:多数の神経細胞の発火活動を同時に測定して解析すること。
- 有向非巡回グラフ(Directed Acyclic Graph: DAG):閉路のない有向グラフのことで、サイクルが存在しないため、ある頂点から同じ頂点に戻ってこれないという特徴がある。