Science April 12 2024, Vol.384

合体によって生じる恒星の磁場 (Stellar magnetism produced by a merger)

恒星の磁場のほとんどは(太陽を含む)、対流が起こっている内部の層で発生するダイナモによって生み出される。大質量星(太陽質量の8倍以上)には内部に対流がないため、なぜ大質量星の7%程度に磁場があるのかは不明であった。Frostたちは、干渉計と分光法を用いて大質量連星系を観測し、連星系のひとつの構成要素が磁気を帯びており、伴星よりも若く見えることを見出した。彼らは、この連星系には元々は3つ以上の星があり、その後合体を経て磁場を持つ星が生まれ、それが若く見えるようになったと主張している。著者たちは、理論モデルと比較した結果、この合体シナリオにおける連星系の性質を再現した。(Wt)

Science p. 214, 10.1126/science.adg7700

AGIの為のオン・チップ光コンピューターに向けて (Toward on-chip optical computing for AGI)

汎用人工知能(AGI)の急速な発展に伴い、次世代コンピューターに対する性能とエネルギー効率の要求が高まっている。光コンピューターはそれら目標を達成する可能性を有しており注目を集めているが、現在の光集積回路、特に光ニューラル・ネットワーク(ONN)は、規模と計算能力に限界があり、最近のAGIタスクはほとんどこなせない。Xuらは、分散型回折-干渉ハイブリッド光コンピューター・アーキテクチャーを開発し、ONNの規模を100万ニューロン級まで効率的に向上させた。筆者らは、複雑な千カテゴリー級の分類とAGI生成コンテンツ・タスクを実行するためにオン・チップで13.96百万ニューロンONNを実験的に実現した。報告された成果は、様々な応用を担う実世界光コンピューターに向けての有望な一歩である。(NK,KU,nk)

【訳注】
  • 汎用人工知能(artificial general intelligence (AGI)):人間が実現可能なあらゆる知的作業を理解・学習・実行することができる人工知能。
Science p. 202, 10.1126/science.adl1203

すべての温度で 強靱な合金 (Tough alloys for all temperatures)

耐火合金は熱と摩耗に対しては非常に耐性があるが、延性と破壊に対する耐性がない。Cookたちは、この一般的な傾向に当てはまらない、ニオブ、モリブデン、タンタル、ハフニウムで構成される高融点合金を発見した。この合金はキンク・バンドを形成し、そこで結晶の回転が歪みを吸収するため、破壊靱性が大幅に向上している。この高い破壊靱性は極低温条件から非常に高温まで及び、この合金を幅広い温度範囲にわたる用途に対して魅力的にしている。(Sk,nk,kh)

【訳注】
  • キンク・バンド:結晶内のすべり面が局部的に鋭く折れ曲がり、格子方位が回転している帯状の部分
Science p. 178, 10.1126/science.adn2428

オーガニックなんてものではない (Not the organic kind)

土壌の無機炭素(SIC)は、地球規模の炭素循環における土壌の役割を調査するほとんどの分析において、その近縁である有機炭素に比べて後回しになってきた。Huanたちは、現場調査に基づくSIC測定の大規模なデータベースを機械学習モデルで分析することによりこの不均衡に取り組み、世界中の土壌に無機炭素がどのくらい存在するのか、そしてまた将来の損失に対してどの程度脆弱なのかをより適切に推定した。彼らは、毎年10億トン近くの無機炭素が陸水に向けて失われており、将来の損失は通常のシナリオでは今後30年の間に世界のSICを230億トンほど減らすだろうということを見出した。この値は、無機炭素が大気および水圏の炭素動態の重要な要素であることを表している。(Uc,KU,nk,kh)

Science p. 233, 10.1126/science.adi7918

脊髄の学習が明らかになる (Spinal learning unfolded)

運動学習は、練習と繰り返しを通じて得られる運動技能の獲得と保持を必要とする。運動学習のさまざまな段階に関与する脊髄内の神経回路と細胞集団は、十分には明確になってはいない。Lavaudたちは、遺伝子改変マウス・モデル、光遺伝子学、および電気生理学からなる種々の方法を用いて、運動学習の習得に必要な脊髄内の脊髄後角介在ニューロン集団を特定した。それらとは別の脊髄内介在ニューロン集団であるレンショウ細胞が、学習された運動技能の保持と呼び戻しに極めて重要であることが分かった。これらの結果は、運動に関する学習と記憶における脊髄回路の寄与に光を当てるものである。これらの回路を標的にすることは、運動機能回復訓練期に治療的価値を持つかもしれない。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • レンショウ細胞:筋運動では、脊髄中の運動ニューロンからの出力が筋に伝達され筋張力が変化するが、その伝達性を抑制し、運動ニューロン系の律速機として働く脊髄中の細胞。
Science p. 194, 10.1126/science.adf6801

DNAジャイラーゼが行動の準備を整える (DNA gyrase poised for action)

DNAの超らせんとそれを調節する酵素は不可欠であり、遍在している。数十年にわたる研究にもかかわらず、II型トポイソメラーゼがどのようにしてDNA基質を認識するのかは不明である。Vayssieresたちは、40年ほど前に予測されたモデルに対する決定的な構造的証拠を提供している。大腸菌ジャイラーゼは、負超らせんのDNA小円のねじれ応力に抗してDNAを正結び目に巻き、切断されるはずの鎖とその切れ目を通過するはずの鎖の両方に同時に結合する。極低温電子顕微法構造は、II型トポイソメラーゼの中に保存されている新しい酵素の溝を明らかにしている。(KU,kh)

【訳注】
  • DNAジャイラーゼ:細菌が持つDNAトポイソメラーゼII型の1種で、DNA二本鎖の両鎖を切断することで鎖を回転させねじれさせる働きをする。
  • DNAトポイソメラーゼ:本鎖DNAの一方または両方を切断し再結合する酵素の総称
Science p. 227, 10.1126/science.adl5899

合成の再考による改善手段 (Improving access by rethinking synthesis)

オリゴヌクレオチド治療は、広範囲の病気や応用にわたって遺伝子発現を調節するための強力な基盤として出現している。しかしながら、その複雑な化学合成、安定性と純度についての懸念、およびコストがその開発および用途を制限してきた。Obexerたちは、製造の状況を変え、また、より広範囲の治療応用を可能にすることを約束する、オリゴヌクレオチドの化学合成および酵素合成における最近の進歩について検討している。(hE,nk,kh)

Science p. 174, 10.1126/science.adl4015

すべてのアクチン線維を支配する1つの環 (One ring to rule all actin filaments)

アクチン線維の成長は、細胞の運動と形態形成に物理的な力を与える。アクチン結合タンパク質の大きなクラスであるホルミンは、アクチン線維の成長端に結合して移動し、さまざまな細胞プロセスにおけるアクチン線維の集合を調節する。Oosterheertたちは、アクチン線維の末端を環状に取り囲む、機能的に異なる3種のホルミンの低温電子顕微法構造を決定した。これらの構造は、生化学実験と併せて、ホルミンがどのようにして線維を長距離にわたって伸長させ、アクチン・サブユニット付加の速度を特異的に制御するかを説明する。この研究は、ホルミンの活性を操作し、生理学的プロセスと疾患におけるホルミンのさまざまな役割を理解するための基礎を提供する。(KU,kh)

Science p. 176, 10.1126/science.adn9560

プラスチックのメタノールに対する脆弱性 (A plastic’s weakness for methanol)

エポキシ樹脂から作られるプラスチックは、強度と耐熱性の面で特に優れているが、これらの特性はまた、それらを分解して再使用するのを困難にさせる。Wuたちは、他の点では驚くほど堅牢であるがメタノール中で容易に分解される、エポキシ樹脂の生物資源由来の変種について報告している(NichollsとForsによる展望記事参照)。それにより回収された成分はその後、閉ループ型再利用のために元の単量体へと変換して戻すことができる。著者たちは、さらにこの樹脂の再利用手順の下で処理されたガラス繊維との複合材料では、環境負荷の少ないガラス繊維が回収されることを実証している。(MY,kj,kh)

Science p. 177, 10.1126/science.adj9989; see also p. 156, 10.1126/science.ado8562

次元性を拡張する (Extending dimensionality)

ホール効果とは、外部磁場の存在下で電流の流れに対して横方向に電位差が現れることであり、一般的には2次元導体に関連している。古典的な図式では、垂直磁場によってローレンツ力が働くため、これらの系の電子は平面円軌道を描いている。Bouhironたちは、冷却されたジスプロシウム原子の系を用いて、この概念を4次元に拡張した。この次元のうち、二つは空間の次元であり、二つは原子の内部状態に対応するいわゆる合成次元である。この系は、理論的な予想通り、非自明なトポロジカル特性を示し、非平面サイクロトロン軌道を特徴とする。(Wt,kh)

Science p. 223, 10.1126/science.adf8459

平らに寝ることの価値 (The value of lying flat)

ペロブスカイト層を劣化から守る配位子は、太陽電池の抵抗を増加させることもある。Chenたちは、配位子をペロブスカイト層の表面上に平らに寝かせることにより、この問題を最小限に抑えた。設計研究により、平面方向で2つの隣接する鉛 (II) イオン欠陥部位を結合し、さらにフラーレン電子伝達層とのエネルギー不整合を最小限に抑える配位子として、4-クロロベンゼンスルホン酸が特定された。照射面積1平方センチメートルの逆型太陽電池は、24.7%の電力変換効率を有し、その効率の95%が65°Cで1200時間の連続動作でも維持された。(Sk,kh)

Science p. 189, 10.1126/science.adm9474

エネルギー効率の良いコンデンサ (Energy-efficient capacitors)

優れた誘電特性を備えた材料は、より優れたコンデンサを開発するために重要である。エネルギー密度の高い誘電体は多くの場合比較的非効率であり、充・放電中に廃熱が発生する。Zhangたちは、誘電特性を改善するための2つの方法を組み合わせて、エネルギー効率の良いチタン酸バリウム基材の材料を作った(Chenによる展望記事参照)。著者らは、高エントロピー設計を用いて絶縁破壊強度を高めており、それは多くの添加元素の追加を必要とする。彼らはまた、強誘電体相の境界付近の組成を見出しており、それが効率を向上させている。その結果が、超高エネルギー密度を維持する、より効率的な誘電体である。(Sk,nk,kh)

Science p. 185, 10.1126/science.adl2931; see also p. 158, 10.1126/science.ado7736

窒素固定を行う細胞小器官 (An organelle for nitrogen fixation)

窒素を固定する微生物と、成長に窒素を必要とする炭素を固定する真核生物との間には、多くの協力関係が形成されている。ニトロプラストと呼ばれる内部共生体由来の窒素を固定する細胞小器官を持つ真核生物の可能性が考えられている。内部共生体としてシアノバクテリアをもつ海藻を研究して、Coaleたちは、軟X線断層撮像法を用いて藻類の細胞形態と分裂を可視化し、これらの細胞内の色素体やミトコンドリアの状況と同様に、内部共生体が分裂して均等に分けられる協調的な細胞周期を明らかにした。 (Massanaの展望記事を参照)。プロテオミクスにより、この内部共生体のタンパク質のかなりの部分が藻類によってコードされ、藻類から移入されており、生合成、細胞の成長、分裂に不可欠なタンパク質も含まれていることが明らかになった。これらの結果は、内部共生体から真の細胞小器官への移行について興味深い見解を提供する。(Sh,kj)

【訳注】
  • 色素体:植物の細胞の細胞質中にある色素を含む小体。葉緑体・有色体(トウガラシやトマトの果実、ヒマワリの花弁などの細胞に含まれる)・白色体(お米の胚乳など)など。
  • プロテオミクス:広義には生体内の細胞や組織におけるタンパク質の構造や機能を総合的に研究する学問分野を指す用語だが、ここでは細胞に含まれているすべてのタンパク質の構成と機能の全貌を網羅的に解析するプロテオーム解析を指す。
Science p. 217, 10.1126/science.adk1075; see also p. 160, 10.1126/science.ado8571

界面活性剤なしの水と油の混合物 (Surfactant-free oil and water mixtures)

油と水などの異種化合物は界面活性剤の助けなしでは混合しないと、基礎化学は教えている。一般的に、ある液滴を他のものの中で安定化できるようにするには、第3成分の添加が必要となる。Nannetteたちは、この挙動の例外、すなわち水と重合体でできた油との混合を明らかにした。水の小滴表面に一層の薄い油層が吸着すると、この薄層は水小滴を安定化して小滴間に弱い引力を引き起こし、長期の安定性をもたらす。(MY,kj)

Science p. 209, 10.1126/science.adj6728

雄性ホルモンが皮膚免疫を形成する (Male hormones shape skin immunity)

免疫力の違いは生物学的な性別に関連している。Chiたちは、雌マウスが皮膚内により多くのT細胞、樹状細胞、および2型自然リンパ球(ILC2) を持っていることを見出した (PutturとLloydによる展望記事参照)。これらの免疫細胞の数は、雄性ホルモンによって調節されていたが、雄性ホルモンは、両性のILC2に発現するアンドロゲン受容体によって感知される。ILC2は皮膚の樹状細胞の恒常性に必要なサイトカインを産生し、比較的高レベルのアンドロゲン受容体を発現した。アンドロゲンに応答して皮膚内のILC2の負の制御が、雄マウスの皮膚における樹状細胞の数と活性化状態を制限し、雌雄間の局所免疫応答の違いに寄与しているのかもしれない。(KU,kj)

【訳注】
  • アンドロゲン:雄性ホルモン、男性ホルモンとも呼ばれる。ステロイドの一種で、生体内で働いているステロイドホルモンのひとつ。
Science p. 175, 10.1126/science.adk6200; see also p. 159, 10.1126/science.ado8542