AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science February 3 2023, Vol.379

フィードバックが火災を促進 (Feedback promotes fire)

山火事と局所的な気象の相互作用は、短期的な山火事の変動性にどの程度影響するのだろうか? Huangたちは、大規模なフィードバックが地中海、米国西海岸、南東アジアにおける異常火災の重要な駆動力であることを示している。煙エアロゾルが太陽エネルギーを捕捉・吸収し、地域の風と降雨パターンを変化させ、最終的に火災の発生を促進する。これらの相互作用が、大気汚染への曝露を増加させ、山火事の拡大を加速させる正のフィードバックを構成している。(Uc)

Science, add9843, this issue p. 457

既存の合成アルゴリズムを最大限に活かす (Making the most of synthesis algorithms)

複雑な分子に至る合成経路を予測するソフトウェアが急速に洗練さを増してきた。それでも、それのアルゴリズムが人間の直観を再現あるいは補完する範囲はまだ不確かである。Linたちは、30以上の合成法が文献で報告されているアルカロイドを生成する市販の逆合成プログラムに挑戦した。結果のアルゴリズムはいずれの先行文献の方法も取り上げていなかったマンニッヒ反応を一貫して提案した。ただし、この経路の残りの部分にある欠点は人間が介在して補完した。優先度の高い重要な工程にグラフ準拠方法を補足するという工夫によって、著者たちはこの標的の最短の合成を達成した。(hE,KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 逆合成:逆合成解析は、有機合成化学の多段階合成において、目的とする化合物を得るための効率的な合成経路を決定する方法であって、目的とする分子を単純な構造の前駆体へと合理的に切り分けることによりなされる。最終的には、同様な手法を繰り返すことにより、各々の前駆体を入手容易な、もしくは市販されている化合物へと導く。
Science, ade8459, this issue p. 453

注意が皮質のフィードバックを変える (Attention alters cortical feedback)

注意の神経基盤は、いまだ完全には理解されていない。DebesとDragoiは、個々のニューロンと細胞集団の注意による調節が皮質フィードバック投射によって行われているという因果関係を示す証拠を提示している。局所的入力およびフィードフォワード皮質内入力を変えることなく視覚野皮質領域V1へ フィードバック信号を送る皮質領域V4の軸索を抑制してしまうと、応答利得、ネットワーク計算の精度、およびシナプス後領域V4ニューロン応答の注意による調節における注意-誘発性の利点が実質的になくなった。これらの知見は、刺激が存在する場合にのみ、フィードバック信号が視覚野応答を調節することを示している。フィードバックは他のトップダウン・プロセスを制御すると仮定されてきたため、これらの結果は、多くの応答様式にわたる広範な現象に影響を与えるかもしれない。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • 注意:ここでは心理学用語として使われていて、情報処理の進行を制御するメカニズムを意味する。 [参照記事: https://learn-tern.com/4-attention-type/認知心理学【4種類の「注意」】学習力を上げるために学ぶべき「注意」の理論]
Science, ade1855, this issue p. 468

ヒトの概日性遺伝子発現を追跡する (Tracking human circadian gene expression)

遺伝子発現の律動的概日変化はモデル生物でよく記録されてきたが、データは霊長類および特にヒト由来のものに限られている。Talamancaたちは、 約900人の提供者集合中の個々人に概日周期のある位相を割り当てることができるアルゴリズムを開発した。この手法により彼らは、46の組織からの試料において遺伝子発現における概日周期変化を検出することができた。女性は、特に肝臓と副腎において、転写物の律動性がより高かった。この結果はまた、年を取った人々では律動性が概して鈍っていることを確認した。(MY,nk,kh)

Science, add0846, this issue p. 478

キラルな対イオンによる光酸化還元 (Photoredox with chiral counterions)

光酸化還元触媒は、発色団と反応基質間の光励起電子移動を使って化学反応性を高める。反応基質が発色団に配位しない場合には、立体選択性の制御が困難なことがある。Dasたちは、カチオン性発色団がキラルなアニオンと対になる反応選択性の高いやり方について報告している。発色団の還元後に、活性化した反応基質(この場合は、[2+2]環化付加を起こす前の酸化スチレン誘導体)とアニオンが対になり、それにより、2つの可能な鏡像生成物のうちの1つだけの形成が有利となる。(MY,kh)

【訳注】
  • 対イオン:電気的中性を維持するためにイオン種に付随するイオン。
  • [2+2]環化付加:2つのビニル基(2つの炭素間の不飽和結合からなる化学基)が付加反応を起こして環を形成する化学反応。
Science, ade8190, this issue p. 494

ガラス質氷の近傍を動き回る (Milling around glassy ice)

氷は、少数のアモルファス構造と共に多くの結晶相を有している。様々な分野で重要な影響を及ぼしているため、氷の複雑な構造図を理解することは重要である。Rosu-Finsenらは、低温域において六方晶氷をボール・ミルにかけることで中密度アモルファス氷が形成されることを発見した。独特の密度と構造は、その氷を新しい形態の氷として同定するのに役立ち、この重要な物質の安定なアモルファス構造がどうであるかという問題が浮上する。(NK,KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • ボール・ミル:粉砕機の1種で、セラミックなどの硬質のボールと、材料の粉を円筒形の容器にいれて回転させることによって、材料をすりつぶして微細な粉末を作る装置。1
Science, abq2105, this issue p. 474

初期の地球上の炭素 (Carbon on the early Earth)

黒色チャートは、長い間、最古の微生物生命体の保存された化石探しの対象とされてきたが、これらのチャートの炭素 (黒色を提供している) が生物活動に由来するかどうかは議論の的になっている。RasmussenとMuhlingは、最も議論の的になっている産出地の1つである、オーストラリア北西部のPilbara地域にある35億年前の黒色チャートを再調査した。この場所の化石に関する以前の報告は、分散した炭素に対する非生物的供給源という提案により疑問視されてきた。これらの岩石とより若い類似体の研究を用いて、著者らは、有機物に富んだ熱水流体からの非生物的起源を報告している。この研究は、他の黒色チャートの起源にも影響を与えるものであり、初期の地球では熱水流体が有機物の供給源だったかもしれないことを示唆している。(Sk,kh)

【訳注】
  • チャート:二酸化ケイ素を主成分とする堆積岩の一種で、様々な色を有する。放散虫・海綿動物などの動物の殻や骨片が海底に堆積してできた岩石とされるが、無生物起源のものがあるという説もある。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.add7925 (2023).

伸縮性のある気密封止部材 (Stretchable hermetic seals)

伸縮性のある電子機器および技術に関する見過ごされがちな側面は、それらを気密に保護するための材料の選択である。Shenたちは、伸縮性のある機器向けの、共晶ガリウム・インジウムに基づく液体金属気密封止部材を考案した。液体金属の低い気体透過性と流動特性は、他の材料で生じる透過性と弾性率の間の相反関係を克服する。著者らは、伸縮性のある電池と揮発性液体を用いる熱伝達機器の保護を実証している。(Sk,kh)

Science, ade7341, this issue p. 488

パンデミックの不確実性から学ぶ (Learning from uncertainty in a pandemic)

COVID-19パンデミックは、監視データを分析するための数学モデル化と、公衆衛生政策に情報を提供するための疫学調査の重要性を強調した。展望記事でCauchemezたちは、正確なデータ収集の重要性と、感染の発生率、重症度、集団免疫、ワクチンの有効性などの重要な健康対策を評価するのに最も役立つようなデータ様式について説明する。数学モデルは、主要なパラメータの推定、短期予測と中期介入シナリオの構築、変異株とワクチン接種の影響予測に不可欠だが、モデル作成手段群は、将来のパンデミックに対する確実な準備を確実にするためにさらなる開発が必要である。(Sh,kh)

Science, add3173, this issue p. 437

力と繊維 (Forces and fibers)

細胞壁に囲まれているため、植物細胞は、成長する際に形と移動性が制約される。CoenとCosgroveは、植物の形態形成に対する、および、力学的な制約がどのようにして植物の複雑な形を作るのかに対する、最新の洞察を概説している。彼らは、分子規模から巨視的規模において、機械的な力がどのようにして植物組織に作用を及ぼすのかについて説明している。(MY)

Science, ade8055, this issue p. 452

NHCから炭素原子(C)を引き抜く (Pulling C out of NHCs)

遊離炭素原子を生成する方法は、通常、医薬品合成に適切な選択的液相化学とは相容れない。Kamitaniたちは、N-複素環式カルベン (NHC) 化合物の加熱により、不飽和アミドへの炭素原子のきれいな移動をもたらし、結果として同時に生じるジアミンの喪失と共にラクタムを生成できることを報告している (NakanoとLuptonによる展望記事参照)。この反応様式は、NHCのかなりの安定性を考えるとやや驚くべきことであり、複雑な分子に無修飾炭素中心を導入する汎用性のある手段を提供する可能性がある。(KU,kj,kh)

Science, ade5110, this issue p. 484; see also adf2201, p. 439

可能性を広げる複合電解質 (An enabling composite electrolyte)

リチウム空気電池は、エネルギー密度の点でガソリンと競合する余地がある。しかし、多くの系において、反応経路は、1電子移動または2電子移動であり、それぞれで過酸化リチウム(Li2O2)または超酸化リチウム(LiO2)が生成される。Kondoriたちは、セラミック-ポリエチレンオキサイド系の複合固体電解質を用いたリチウム空気電池を研究し、それが酸化リチウム(Li2O)の形成と分解を経て4電子酸化還元反応を引き起こすことを見出した (DongとLuによる展望記事参照)。Li10GeP2S12ナノ粒子を埋め込んだ複合電解質は、4電子移動過程による高いイオン伝導度と安定性と高いサイクル安定性を示す。(Wt,kh)

Science, abq1347, this issue p. 499; see also ade2302, p. 436

マグマの結びつき (A magmatic nexus)

ハワイ島は、マウナケア、マウナロア、キラウエアという有名な火山によって形作られている。現在、キラウエアが圧倒的に活発であるが、他の火山も同様に噴火する可能性がある。Wildingたちは、20万回以上の地震を用いて、深さ 40キロメートルにおいてこれらの火山に流れ込むマグマの形状を図示した (Flindersによる展望記事参照)。マグマはキラウエアとマウナロアをつなぐ岩床複合体 (sill complex)を形成しており、マウナケアとのつながりを示す証拠もある。この観測は、火山間の地下の繋がりがはるかに大きいことを示唆しており、マグマの輸送について興味深い洞察を与えている。(Wt,kh)

Science, ade5755, this issue p. 462; see also adf2993, p. 434