AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science October 14 2022, Vol.378

タンパク質の単一分子読み取り (Single-molecule reading of proteins)

現代のDNA配列決定法では非常なハイスループット(高処理能)で単一分子を調べることができるが、タンパク質の配列決定では、典型的には集合技術を用い、比較的純粋な材料を大量に必要とする。Reedたちは、光学的チップに固定されたサンプル・タンパク質のペプチドのN末端の最初の数個のアミノ酸を認識する一連の標識タンパク質を作製した。一時的な結合によりスペクトル信号、会合速度と解離速度が得られ、末端アミノ酸を決定するのに用いることができる。単一分子上の複数のアミノ酸は, その末端に隣接するアミノ酸を次第に明らかにするタンパク質分解酵素を添加することによって, 次に読み取ることができる。(hE,ok,nk,kj,kh)

Science, abo7651, this issue p. 186

ミリ秒での神経活性化の追跡 (Millisecond neural activation tracking)

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)は、人間の脳の理解に大きな貢献をしてきた。しかし、基となる信号の時間的・空間的分解能に限界があるため、異なる脳領域間の情報伝達から認知機能がどのように生まれるかについての情報を得ることはできなかった。Toiたちは、fMRIによって神経細胞活動の直接的な画像化を可能にする方法を開発した (van KerkoerleとCloosによる展望記事参照)。この方法は、MRI本来の利点である高い空間分解能を維持しながら、その時間分解能はミリ秒の程度である。そのため、神経活動の時系列的な伝播を、脳において機能的に定義されたネットワークを介して、検出することがこうして可能となる。神経発火グの直接的な相関を画像化できることは、非侵襲的な神経画像化にとって大きな革新となる。(Wt,kh)

Science, abh4340, this issue p. 160; see also ade4938, p. 139

熱にとっての一方交通路 (A one-way street for heat)

ほとんどの材料では,熱勾配の向きを反転させても熱伝導率は変化しない。熱整流素子を見つけることが困難なため、熱の流れを管理するのに重要なはずの熱ダイオードの開発が阻害されている。Y. Zhangたちは、二セレン化モリブデンと二セレン化タングステンからなるヘテロ構造が、電気と熱の両方を整流することを見出した。この効果の大きさは、その界面の相対的な形状と熱勾配に依存する。この発見は、高集積回路におけるより高効率な放熱方法を開発する機会を与えるものである。(Wt,ok,nk,kh)

Science, abq0883, this issue p. 169

再検討される老化マーカー (Senescence marker revisited)

p16INK4a腫瘍抑制因子(この因子は加齢の際の老化のマーカーとしてよく使用される)を発現する細胞を探索することで、Reyesたちは若いマウス肺の幹細胞ニッチ内にp16INK4aを発現する線維芽細胞の集団を同定した。その集団の肺上皮細胞が有毒な化合物で損傷を受けると、その細胞は分泌を増加させ、気道幹細胞を刺激して上皮を再生するようであった。この知見は、すべてのp16INK4aを発現する細胞が老化しているのかどうか、およびそのような細胞を除去する戦略 (老化細胞が有害である可能性があるため) が、これまで認識されていなかったこのような有益な効果を妨げる可能性があるのではないかという疑問を提起している。(KU,ok,nk,kj,kh)

Science, abf3326, this issue, p. 192

成長とストレス応答の均衡をとる (Balancing growth and stress responses)

小さな硫酸化ペプチドの一群は、モデル植物シロイヌナズナにおいて成長促進ホルモンとして作用している。Ogawa-Ohnishiたちは、これらのPLANT PEPTIDE CONTAINING SULFATED TYROSINE (PSY)ファミリー・ペプチドのいくつかの構造を解析し、シロイヌナズナのロイシンに富む反復配列受容体キナーゼ(LRR-RK)のサブファミリーXI中にPSYの受容体を同定した。これらの多様な機能をもつ受容体キナーゼが、PSYであるペプチド・ホルモン・リガンドによって抑制されない場合、これらの受容体は植物の成長を抑制し、ストレス応答遺伝子を活性化する。非生物的または生物的ストレスに直面したとき、PSY維持シグナルを失った植物細胞はこの分岐シグナル伝達点から、手持ち資源を成長からストレス応答に転用することができる。(KU,nk,kj,kh)

Science, abq5735, this issue p. 175

複合材を作るための化学反応による方法 (A reactive way to make a composite)

異なる材料を混ぜ合わせて複合材を形成することは、単一材料ではできないことを達成するために特性を調整する方法の一つである。しかしながら、異種材料を混合または模様的混合 (pattern)することが困難な場合がある。Rylskiたちは、弾性領域中の強固な領域を模様的混合することにより、多重材料 (multimaterial)を生成する方法を開発した。彼らは、暗所ではシス-ポリシクロオクテンを重合し、明所ではトランス-ポリシクロオクテンを形成する、二元触媒系を用いた。この手法は、密着して結合された粘弾性 (ソフト) 領域と半結晶 (ハード) 領域を持つポリオクテナマーをもたらし、高分子材料の特性を空間的に制御する能力を提供した。(Sk,ok,nk,kh)

【訳注】
  • ポリオクテナマー:環状オクテン(octene)の開環メタセシス重合によりできる。直鎖状や環状の高分子であるポリオクテナマーはゴム素材など可塑剤に用いられる。
Science, add6975, this issue p. 211

病気の期間の細胞系譜を追跡する (Tracing cell lineages during disease)

細胞バーコード付け技術は発生生物学の研究に広く用いられてきた。それらは今や、ヒトの病気を研究するのに用いられつつあり、病気の機構への予想外の洞察を得るのに役立っている。Sankaranたちはレビュー記事で、現状の細胞バーコード付けの取り組みに対する概要を提供している。彼らは、クローン性分析での応用、ヒトの血球新生とガンにおける細胞系譜追跡での応用について記述し、また、潜在的な将来の応用について議論している。(MY,nk,kh)

Science, abm5874, this issue p. 152

ブタ臓器の移植 (Pig organ transplants)

最近の研究は、ブタからヒトへの臓器の異種移植の可能性を実証してきており、それは臓器置換の需要への対処になるかもしれない。Sykes は、展望記事において、ブタの臓器をヒト以外の霊長類に効果的かつ安全に移植する方法に関する我々の理解の進展について論じている。最初のブタからヒトへの移植が、この手法の有望性と、まだ克服しなければならない課題を明らかにしている。問題の1つは、ブタにヒトの拒絶反応を減らすための必要な変更がなされており、宿主に感染する可能性のあるウイルスがいないことを保証することである。著者は、研究はまだモデル系で実施する必要があるが、この命を救う可能性のある治療法の試みはヒトでも続けるべきであると主張している。(Sk,kh)

Science, abo7935, this issue p. 135

病原体がパイロプトーシスを抑制する方法 (How a pathogen inhibits pyroptosis)

パイロプトーシスは、感染を制御するために哺乳動物宿主によって採用されるプログラム細胞死の炎症誘発性の形態であるが、病原体がこの免疫応答をどのように回避するかはほとんど解明されていない。Chaiたちは、結核菌によって分泌される既知のタンパク質ホスファターゼであるPtpBは、リン脂質ホスファターゼとして作用することを見出した。このホスファターゼはユビキチンによる活性化で宿主原形質のホスホイノシチドを脱リン酸化してパイロプトーシス抑制する。これらの知見は、病原体が宿主の膜組成を変化させることによってパイロプトーシスを抑制するという巧妙な戦略を明らかにし、PtpB-ユビキチン相互作用界面を標的とする結核治療法の可能性を提供している。(KU,nk)

【訳注】
  • パイロプトーシス:炎症性のプログラム細胞死で、これは、病原体に反応して集まった多タンパク質複合体であるインフラマソーム(Inflammasome)によって引き起こされる。
  • ホスホイノシチド:真核生物の細胞膜の細胞質側に存在するリン脂質のの一つ
Science, abq0132, this issue p. 153

冷たい感覚 (Chilly reception)

哺乳類の寒冷刺激の感覚は、さまざまな化学物質 (メントールの霜の降りるような感触が浮かぶ)にも応答する一過性受容体電位メラスタチン8 (TRPM8)チャネルによって仲介される。冷たさの受容体作動薬によるチャネル活性化の分子基盤は、明確ではなかった。その理由は、一つには以前の取り組みが構造実験の際に完全に開くことができない最適でない作動薬、あるいは鳥類のチャネルを用いていたためである。Yinたちは、脱感作を誘発しない冷たさを感じる二つの型の作動薬の組み合わせを用いて、開いた状態におけるマウスのチャネルの低温電子顕微構造を決定し、イオン伝導と一致し、そして電気生理学と分子動力学の実験によって支持される小孔とゲートの変化を明らかにした。脂質ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸は、そのチャネルの感作に重要な役割を果たしており、それは作動薬の1つまたは両方が存在しない閉じた状態と中間状態によって部分的に明らかになった。(Sh,KU,ok,kj,kh)

【訳注】
  • チャネル:細胞の生体膜に存在し、刺激によって開閉するゲートと特定の電荷と大きさをもつイオンが通過する小孔を形成している膜貫通タンパク質の受容体。このうち温度感覚や痛覚などさまざまな刺激によって生じる電位が短時間で変化し戻るものを、一過性受容体電位(TRP)チャネルと言う。
Science, add1268, this issue p. 154

ルビスコの小サブユニット助手の起源 (Origins of Rubisco’s small subunit sidekick)

誤りのない活性、特性、安定性の維持は、代謝触媒が直面する課題であって、これは多くの場合、多量体からなる複合体を形作ることで解決されている。I型ルビスコ, これは植物、シアノバクテリアなどの好気性光合成生物や一部の非光合成細菌で見出される炭素固定触媒であるが、の大きな触媒性サブニットはそのような複合体を核心的な小さなサブユニットを用いて構成している。Schulzたちは祖先配列を復元することで、この小サブユニットの採用が、ルビスコの進化、特に、その二酸化炭素に対する特性にどのように寄与しているかを研究した(Sharwoodによる展望記事参照)。酵素活性測定と大分子の構造が、この小サブユニットがすぐに核心的となり、二酸化炭素に対する活性と特性の向上などの、大サブユニット内におけるより広い機能変化への道を開いたことを明らにした。(MY,KU,nk,kh)

【訳注】
  • ルビスコ(Rubisco):リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼという酵素で、光合成におけるCO2固定の最重要の反応を触媒する酵素。
Science, abq1416, this issue p. 155; see also ade6522, p. 137

燃料電池の呼吸を助ける (Helping fuel cells breathe)

プロトン交換膜型燃料電池では、ナフィオン・アイオノマーは通常、白金触媒を過剰に包み込んで触媒を阻害し、また触媒層内の気体輸送を妨害することがある。Q. Zhangたちは、スルホン化共有結合性有機構造体(COF)をナフィオンに添加することで、白金に基づく活性が60%向上することを示した(MaとLutkenhausによる展望記事参照)。COFの六角形細孔が気体輸送を向上させ、細孔壁に固定されたスルホン酸基が、触媒活性を抑制してしまう、白金へのナフィオンの結合を低減する。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • ナフィオン:テトラフルオロエチレンとスルホン酸基含有フッ素ビニルエーテルの共重合で作られた非架橋性高分子。フッ素基による優れた化学的安定性・耐熱性とスルホン酸基による優れたプロトン伝導性を持ち、燃料電池中でプロトンを効率よく白金触媒に送り込む役割を担う。
  • アイオノマー:イオン性高分子のこと。
  • 共有結合性有機構造体:自己組織化によって組みあがり、共有結合で出来たジャングルジム状の骨格とナノの大きさの細孔を持つ有機構造体。
Science, abm6304, this issue p. 181; see also ade8092, p. 138

金属ナノ粒子の帯電を可視化する (Visualizing metal nanoparticle charging)

金属酸化物上に担持された金属ナノ粒子の帯電は触媒反応中に起こり、X線光電子放出分光法を用いた平均電荷として、あるいは走査型プローブ顕微法を用いた表面電位における異常値として測定することが出来る。Asoらは超高精度電子線ホログラフィーを用いて、二酸化チタン結晶上に担持された単一白金ナノ粒子の帯電状態を直接的に明らかにした (GaoとTerasakiによる展望記事参照)。位相シフト解析は、表面から真空中に伸びた白金ナノ粒子の突起部分の周りの帯電から生じるわずかな変化を可視化した。白金ナノ粒子は、二酸化チタン担持体上のナノ粒子の構造(格子ひずみ)或いはその配向に依存して、一個~六個の電子を獲得したり失ったりすることが出来た。(NK,KU,nk,kj,kh)

Science, abq5868, this issue p. 202; see also ade6051, p. 133

微生物を用いた混合廃棄物のファンネル法 (Funneling mixed waste with microbes)

現在のプラスチックのリサイクル方法は、化学成分で選別する必要があるため、コストがかかり、出発プラスチックよりも品質や価値の低い製品ができてしまう。もし、プラスチック廃棄物を価値のある化学中間体に変換することができれば、混合廃棄物を原料として利用することが経済的に現実性のある手段になるかもしれない。Sullivanたちは、一般的な消費者向けプラスチックの混合物を分解・改質できる、2段階の酸化と生物学的ファンネル化法を開発した(Yanによる展望記事参照)。最終生成物は、第2段階での微生物の代謝工学によって調整することができ、結果として様々な汎用化学品や特殊化学品に合わせた変換が可能になるはずである。(Uc,nk,kj,kh)

【訳注】
  • 生物学的ファンネル法 (biological funneling):微生物による生物学的処理を、funnel (じょうご) に入れるような、未調整・混合状態の原料に適用することで, 効率化を計る手法。
Science, abo4626, this issue p. 207; see also ade5658, p. 132