AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science August 26 2022, Vol.377

不規則な計画 (An irregular plan)

不規則な微細構造を持つ材料は、自然界では一般的であり、多くの場合、興味深い特性を持っている。Liuたちは、限られた数の基本的な要素から不規則な材料を生成するために、成長に着想を得たプログラムを考案した。任意の複雑さを持つ基礎的要素を用いて、著者たちは、一連の局所的規則に従ってそれらを確率論的に接続した。その結果は、広範囲の機能特性を持つ自然系の多様性を反映していた。(Sk,ok,nk,kh)

Science, abn1459, this issue p. 975

炭素系平滑コンデンサ (Carbon-based filter capacitors)

平滑コンデンサは、入力供給源の波形を平滑化して交流を直流へと変換するフィルタ回路で用いられる。それらの主流はアルミニウム電解コンデンサで占められてきたが、その面積当たりの電気容量が小さいため、概して電子回路中の最大部品であり、このため、小型化に対する可能性を制限している。Hanたちは、三次元多孔性の陽極用酸化アルミニウム(AAO)鋳型を用いて、炭素管の網目構造を構築した。その管系中で彼らは、ニッケル触媒ナノ粒子を沈着させ、そして化学気相成長法を用いて垂直方向に整列したカーボンナノチューブを成長させた。AAQの除去後、可撓性薄膜が得られた。この薄膜は、面積当たりの電気容量が120ヘルツで25%向上し、電気化学的性能を低減せずに直列につなぐことができる。(MY,KU,kh)

Science, abh4380, this issue, p. 1004

低侵襲的ガンの分類法 (Minimally invasive cancer classification)

腫瘍特異的転写因子-結合位置を図化することによるホルモン応答性ガンの分子的特徴づけは、ガンの進行を追跡するために有望である。しかしながら、侵襲的生検や手間のかかるクロマチン免疫沈降および配列決定 (ChIP-seq) 法がこのアプローチの範囲を限定している。Raoたちは、血漿中に循環するセル-フリーDNAの配列決定による低侵襲的な方法を開発して、エストロゲン受容体-陽性乳ガンにおける転写因子結合の正確な地図を作成した。著者らは、この図化方法をうまく用いて、様々なタイプのエストロゲン受容体発現と死亡率に関連する腫瘍を分類した。(hE,nk,kh)

【訳注】
  • セル-フリーDNA:細胞死の自然なプロセスで血流へ放出されるDNAの短い断片。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.abm4358 (2022).

急速眼球運動の意味 (The meaning of rapid eye movement)

睡眠は、夢見に伴うことが知られている急速眼球運動(REM)を特徴とする相を含んでいる。しかし、これらの眼球運動は、その睡眠状態における意識の内容と関係しているのだろうか? SenzaiとScanzianiは、覚醒中と睡眠中のマウスの視床前背側核にある頭方位細胞の活動を記録した(De ZeeuwとCantoによる展望記事参照)。眼球運動の方向と振幅は、REM睡眠中の仮想環境にいるマウスの頭部の方向とその振れ幅をコードしていた。跳躍性眼球運動を用いて、マウスの現実世界と仮想世界 (それぞれ覚醒中とREM睡眠中の対応) における行動上の頭部の向きを予測することが可能だった。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 頭方位細胞:頭が特定の方位を向いたときに高頻度に活動する細胞。
Science, abp8852, this issue p. 999; see also add8592, p. 919

もう一つのねじれ (Another twist)

メタ表面は特別に設計された誘電体素子の並びであり、バルク光学素子の機能を薄膜に変換する。Santiago-Cruzらは、連続体における束縛状態の物理を高効率の光捕捉に利用して、それぞれ量子光源及びキラル光源として動作するメタ表面を実証している。ヒ化ガリウムにおいてパターン形成されると、この量子光源はもつれた光子対を幅広い波長域全体でつくり出すことができ、結果として複雑な量子状態を形成することができる。筆者らは、発光性分子をドーピングされた誘電体メタ表面を用いて、キラル光及びキラル・レーザー発振を実現した。両手法は、集積光デバイスや量子光デバイスを開発するのに役立つであろう。(NK,KU,kj,kh)

Science, abq8684, this issue, p. 991

貧弱になった食物網 (Depauperate webs)

過去 50年間で、動物の個体群の60%が絶滅に追いやられてしまった。それ自体ですでに悲劇的ではあるが、そのような損失は、生物系の生態学的健全性にも深刻な影響を及ぼす。Frickeたちは、過去130,000年にわたる世界中の哺乳類の集団社会を調べ、これらの集団内の連結、すなわち関係性の半分以上が失われていることを見出した(O'Gormanによる展望記事参照)。この損失は種の絶滅に起因しているが、種内の個体の総数も減少しているため、現存する種の範囲内での減少にも起因している。このような損失は、生態系の長期的な持続性と機能に深刻な影響を与えるかもしれない。(Sk,nk,kh)

Science, abn4012, this issue p. 1008; see also add7563, p. 918

改造染色体 (Designer chromosomes)

合成生物学の目標の一つは、遺伝子工学により改造されたDNA配列を用いて複雑な多細胞生命体を作り出すことである。染色体レベルも含めた大きなスケールでDNAを操作できることは、この目標に向けた重要な一歩である。これまで、染色体レベルの遺伝子操作は、一倍体酵母でのみ行われてきた。Wangらは、一倍体胚性幹細胞に遺伝子編集を適用することにより、マウスで染色体丸ごと連結を達成し、19対の染色体をもつ動物, つまりこの種の標準より1対少ない, を生み出すことに成功した。(ST,kj,kh)

Science, abm1964, this issue p. 967

遺伝子と歴史をつなぐ (Connecting genes and history)

南ヨーロッパと西アジアへの人の定住と人についての多くの物語は、何千年もの間受け継がれ、そしてこれらの物語は集団に関する我々の理解に寄与してきた。ゲノム・データは、書かれた歴史から独立してこれらのパターンを真に理解する機会を与える。三つの論文で、Lazaridisたちは、Southern Arcと呼ばれるこの地域全体から 700 を超える古代のゲノムを調べた。これは初期の農耕文化から中世以降までの11,000年におよぶものである (ArbuckleとSchwandtによる展望記事参照)。これらの結果に基づいて、著者たちは、以前の理解は、現代の表現型、古代の書物および芸術的描写に頼っていたために、初期のインド-ヨーロッパ人の不正確な像を与えたことを指摘し、そして彼らは、これらの文化を形成した複雑な移動と集団統合の歴史を修正した。(KU,nk,kh)

Science, abm4247, abq0755, abq0762, this issue p. 939, 940, 982; see also add9059, p. 922

パンデミックの発生地 (Pandemic epicenter)

2019年から2020年にかけて、コロナウイルスが野生動物から人へと溢出し、人間を苦しめるパンデミックの最もよく記録された1つを引き起こした。しかしながら、2019年12月のパンデミックの起源については未だに論争中である。Worobeyたちは、最初に人感染が報告された中国の武漢市からさまざまな証拠を集めた。これらの報告書は、初期の人患者のほとんどが華南海鮮卸売市場の周辺に集中していたことを確認している。市場内で、そのデータは統計的に、初期の人患者がある一区画にいたことを指し示す。その場所は、生きた野生動物の売買業者が集まり、ウイルス陽性の天然個体が集中していた。関連するレポートで、Pekarたちは、2020年2月以前のゲノム多様性が、AとBの2つの異なるウイルス系統で構成されていることを見出したが、これはヒトへの少なくとも2つの別々の種間伝播事象の結果であった (JiangとWangによる展望記事参照)。ウイルス溢出を取り巻く正確な出来事は今後も常に曖昧なままであろうが、これまでのすべての状況証拠は、おそらく2019年11月から12月の間に、中国武漢の華南市場で複数の動物由来感染事象の発生を示している。(KU,nk,kh)

Science, abp8337, abp8715, this issue p. 951, p. 960; see also add8384, p. 925

空中浮揚された相互作用 (Levitated interactions)

巨視的な物体を真空中で捕捉し、光の場によって浮遊させて、運動基底状態まで冷却することができれば、計測に応用可能な高感度センサーを得ることができる。Rieserたちは、2個のシリカ・ナノ粒子の捕捉を実証し、それらの間の光誘起された双極子-双極子相互作用を探査した(Pedernalesによる展望記事参照)。この結果は、ナノスケールの物体でのもつれやトポロジカル量子問題を研究するための、完全に調整可能で拡張性のある技術基盤開発への道筋を与える。(Wt,kj,kh)

Science, abp9941, this issue p. 987; see also add1374, p. 921

吸収を完全無欠にする (Perfecting absorption)

光の吸収は、多くの自然過程やデバイス応用において重要である。少量の光を吸収するのは簡単だが、すべての光を吸収するのは一般に困難である。しかし、干渉効果の一つであるコヒーレント完全吸収プロセスでは、極めて特定された空間モードの光は、空洞の特性に正確に整合していれば、完全に吸収できることが示された。Slobodkinたちは今回、この概念をマルチモードのコヒーレント完全吸収にまで拡張した (Bertolottiによる展望記事参照)。著者たちは、自己結像型空洞設計を用いて、複雑な空間モードがほぼ完全に吸収されることを実証している。(Wt,kh)

Science, abq8103, this issue p. 995; see also add3039, p. 924