フィブリルの運動はペプチドによるシグナル伝達を改善する (Fibril motion improves peptide signaling)
シグナル伝達性ペプチド配列を持つ組織再生用タンパク質からなる人工足場は、しばしば限られた有効性しかない。Álvarezたちは、1つはグリア瘢痕を軽減しもう1つは血管形成を促進する、神経再生を促進する2つのペプチド配列を持つ超分子ペプチド・フィブリルからなる足場を合成した(WojciechowskiとStevensによる展望記事参照)。麻痺性のヒト脊髄損傷のあるマウス・モデルで、フィブリル遺伝子のシグナル伝達領域の外側のテトラペプチド部の変異は、フィブリル内の激しい超分子運動を促進することによって回復を改善した。最も強い活動力を持つ変異は、皮質脊髄軸索の再成長と髄鞘形成、機能的血管再生、および運動ニューロンの生存をもたらした。(Sh,nk,kj,kh)
【訳注】
- フィブリル:直鎖状の生体高分子を意味する。ここでは、シグナル・ペプチド配列領域やテトラペプチド部を持つポリペプチドが、可逆的な非共有結合で形成した棒状構造体を指す。
- シグナル・ペプチド配列:細胞外に分泌されるタンパク質の前駆体末端に存在する、25個前後のアミノ酸残基からなる配列で、細胞質内で生合成されたタンパク質の、輸送や局在化を指示する。
- 足場:再生誘導のための細胞の周辺環境。
- 超分子:共有結合のような強固な結合ではないが安定した構造を持つ物質。マクロには安定な構造をとっているように見えるが、結合や脱離などが活発に生じて、いわゆる動的平衡状態の物質も含まれる。
- グリア瘢痕:損傷を受けた中枢神経系で、損傷周囲部に反応性星状膠細胞が集積して形成される高密度の瘢痕組織。
- テトラペプチド:アミノ酸4個で構成されたペプチド。
- 髄鞘形成:髄鞘は、神経細胞の軸索を外部から電気的に遮断する絶縁体として機能する鞘で、神軸索が一定の径に達すると髄鞘形成が開始される。
Science, abh3602, this issue p. 848 see also abm3881, p. 825