層の架橋による高密度化 (Densification via bridging layers)
MXene(マキシン)は興味深い特性を有する層状の2次元の金属炭化物および窒化物の族であるが、合成中に空洞が形成されるとその性質は失われてしまうかもしれない。水素結合剤と共有結合剤の連続的な架橋結合を用いることによって、Wanたちは、層状構造を緻密化し、空洞を取り除くことができた。この手順は、機械的強度と靭性、導電性、および電磁干渉からの遮蔽性の向上をもたらした。(Sk,nk,kj)
AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約 |
MXene(マキシン)は興味深い特性を有する層状の2次元の金属炭化物および窒化物の族であるが、合成中に空洞が形成されるとその性質は失われてしまうかもしれない。水素結合剤と共有結合剤の連続的な架橋結合を用いることによって、Wanたちは、層状構造を緻密化し、空洞を取り除くことができた。この手順は、機械的強度と靭性、導電性、および電磁干渉からの遮蔽性の向上をもたらした。(Sk,nk,kj)
近年の液相超高速電子線回折技術の進歩により、電離放射線と液体水との相互作用で短時間に生じると理論的に推定されてきただけのものを観測することが可能になった。Linたちは、短寿命のラジカル-カチオンの対であるOH(H3O+)を捕捉した直接的な証拠を提供している(Caoによる展望記事参照)。この対は、液体水のイオン化後に生じると長年仮定されてきたが、これまで構造的な解決がなされていなかった。著者たちは、イオン化中心の周りの解離とそれに続く無輻射構造緩和を追跡している。(MY,kh)
大豆や他のマメ科植物は、根粒内の窒素固定細菌と共生関係を形成しており、これによってこの植物が必要な栄養素の供給準備を確保している。Wangたちは、地上の光と地下の根粒形成を統合するシグナル伝達経路を解明した。2種類の移動可能な調節因子が光に反応してシュートから根に移動し、一緒になって根粒形成因子の発現を誘発するシグナル伝達モジュールを根に形成する。このようにして、シュートが光合成の生産性を維持するのに十分な光を見ると、根は窒素固定を強化する信号を受け取る。(Sk,kh)
2021年2月7日、インドの Uttarakhand州で重力浸食(地滑りや山崩れなど)・洪水の事象が発生し、200人以上が死亡し、2つの水力発電所が被害を受けた。Cookたちは、インド北部における地域地震観測網のさまざまな観測点で、この事象の発生時からの遠地地震信号が記録されていることを発見した。この信号は、災害発生箇所から最大100km離れた場所で観測されており、こうした遠方の監視ステーションが早期警報に役に立つ可能性を示している。今回の発見は、このような遠隔地にあるヒマラヤ山脈の谷間における重力浸食を監視する別の方法を示唆している。(Wt,kh)
鉄依存性酵素はアリール環を効率的にヒドロキシ化するが、合成触媒を用いてこの活性を再現することは難しいことが分かっている。Chengたちは、ジスルフィド配位子が鉄を活性化して、過酸化水素を用いたさまざまなアレーンの炭素-水素のヒドロキシ化を触媒することを報告している。この方式は、官能基がないアレーンをより速くヒドロキシ化させるが、従来法のヒドロキシ化位置の選択性とは異なり、フェノールをさらなるヒドロキシ基できれいに官能基化することもまた可能である。著者たちは、従来法を補完するこのヒドロキシ化位置の選択性を、複雑な置換様式を持つ医薬品をヒドロキシ化することを通じて紹介している。(MY)
クプラートにおける超電導性は、反強磁性の”親”状態に正孔または電子を添加することによって発現する。ドーピング濃度を増やすにつれて、反強磁性体は異常な超電導体に移行し、最終的にはフェルミ液体になる。Koepsellらは、光格子に捕捉された極低温の強く相互作用するリチウム-6原子を用いてこの一連の現象をシミュレートした。同等の秩序相は、実験的に得られる温度ではいまだ到達しないのだが、研究者らは、幅広い正孔ドーピング濃度にわたってスピン-正孔多点相関を測定することが出来た。ドーピング濃度とこれら相関の進展は、ポーラロン相からフェルミ液体への転換が起きていることを明らかにした。(NK,KU,nk,kj,kh)
小胞体(ER)において、オリゴマー形成は、小胞体ストレス応答中のシグナル伝達を調節する中心的段階である。Tranたちは、ストレスを受けたヒト細胞におけるERサブドメインに存在するERストレス・センサーIRE1αの活性なオリゴマー形態を視覚化した。このER領域は、高度に分岐した細い(直径約28ナノメートル)吻合ERチューブで構成され、周囲のER構造と連続していた。これらの狭いIRE1αサブドメイン・チューブの内腔内で、規則的なタンパク質の密度が観察され、IRE1αの内腔ストレス感知ドメインの規則正しいオリゴマーから期待される値と一致していた。この配置は、IRE1αによるシグナル伝達に関与する正のフィードバック機構を示唆しているのかもしれない。(KU,nk)
現在使用中のプラスチックの大部分は化石燃料から作られ、それらの製造に電力を供給するためにも付加的な化石燃料が燃焼される。たくさんの研究が、次世代ポリマーのためのより持続的な構成要素を見つけることに焦点を当てている。Meysたちは、現在の多種多様な市販のモノマーでさえ、正味ゼロの温室効果ガス排出量で製造かつ重合できる可能性があることを示唆する一連のライフ・サイクル分析を報告している。このサイクルは、プラスチック廃棄物の再利用を、焼却から捕捉された二酸化炭素あるいはバイオマス由来の二酸化炭素の化学的還元と結びつけることに立脚している。(Uc,KU,kj,kh)
血友病の従来の治療は、定期的に凝固因子を輸注することで、患者に欠乏している凝固因子を置換することであったが、この治療方法は多くの課題を提起する。凝固因子に依らない治療の進歩、特に遺伝子治療の進歩は、血友病の治療を変えるかもしれない。展望記事で、Ragniは、凝固連鎖反応を解決する二重特異性抗体治療や、アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いて導入遺伝子を送達して凝固を回復させる遺伝子治療方法など、凝固因子に依らない血友病治療における最近の進展について論じている。課題や潜在的危険性がないわけではないが、血友病の遺伝子治療から学んだ教訓は、他の単一遺伝子疾患に対する遺伝子治療を開発する基礎を作ることができるかもしれない。(MY)
体外配偶子形成(IVG)の研究は、生殖細胞の発生(卵形成および精子形成)を培養で再構成することを目的としている。SaitouとHayashiは、哺乳類のIVGにおける最近の進展をいくつか紹介している。マウスの多能性幹細胞から成熟した卵母細胞や精子細胞を作製する方法と培養条件の進歩は、霊長類やヒトの細胞を用いた同様の研究の参考になっているが、種によって違いが明らかにある。IVGは、不妊症の新たな診断やモデル化など、生殖医療に大きな可能性を秘めている。ヒトのIVGを実現するためには、さらなる集中的な取り組みが必要であるが、技術的な障害が克服されるにつれて、生殖目的の技術の潜在的な応用に慎重な配慮をする必要がある。(ST,nk,kj,kh)
十年規模の気候の変動と変化は、天候、農業、生態系、経済など、私たちの世界のほぼすべての側面に影響を及ぼしている。したがって、その出現を予測することは、多方面にわたって極めて重要である。Powerたちは、熱帯太平洋の十年規模の気候の変動と変化について分かっていること、どの程度それをシミュレートして予測できるかを、そしてその理解をどのように改善できそうかを概説している。より正確な予測には、より長くてより詳細な計器記録と古気候の記録、改善された気候モデル、およびより優れたデータ同化法が必要であろう。(Sk,KU)
がんは遺伝子病で、多くのがん研究は発がん性変異を同定して、それらが病状進行にどのように関わっているかを決めることに焦点を合わせている。 三報の論文は、がんを促進するタンパク質相互作用のネットワークによって変異がどのように処理されるかを論証している(ChengとJacksonによる展望記事を参照)。Swaneyたちは頭頸部がんに焦点を当て、がんに豊富な相互作用を同定し、ヒトがんで頻繁に変異するキナーゼであるPIK3CAの点変異体依存性の相互作用から、如何に薬剤応答が予想できるかを論証している。Kimたちは乳がんに焦点を当て、腫瘍抑制遺伝子BRCA1に機能的に関わる2つのタンパク質と、PIK3CAを調節する2つのタンパク質を同定している。 Zhengたちは統計モデルを開発し、PIK3CAとアクトミオシン・タンパク質の複合体を含む、さまざまながんの種類にわたって変異圧力下でのタンパク質ネットワークを同定している。これらの論文は、がんのゲノム・データの解釈に役立つであろう情報源を提供している。(Sh,nk,kj,kh)
CRISPR-Casシステムは、ゲノム編集やその他のバイオテクノロジーを変革してきた。しかしながら、RNA誘導型ヌクレアーゼのより広い起源と多様性はほとんど未解明のままである。Altae-Tranたちは、3つの異なるトランスポゾンにコードされたタンパク質、IscB、IsrB、およびTnpBが、自然界に存在する再プログラム可能なRNA誘導型DNAヌクレアーゼであることを示している(RoussetとSorekによる展望記事参照)。ガイドの多様なコード化機構を明らかにしたうえで、著者たちはIsrB、IscB、およびCRISPR-Cas9間の進化的関係を解明している。全体として、OMEGA(obligate mobile element-guided activity)システムと名付けたこれらの新しく特徴が明らかにされたシステムは、生命のすべての領域で見出だされ、バイオテクノロジーの開発に利用される可能性がある。 (KU,kj,kh)
誘電体コンデンサは、少なくとも短時間であればエネルギーを蓄えることができる重要な電子部品である。Panたちは位相場シミュレーションを用いて、優れた誘電特性をもつ材料を生み出す可能性のある、酸化鉄ビスマス、酸化チタンバリウム、サマリウム・ドーピングの適切な組み合わせの決定を推し進めた (Chuによる展望記事を参照のこと)。シミュレーションは一連の実験的測定を指示し、この系が、極性ドメインをナノメートル規模に縮めることで非常に高エネルギーの貯蔵能力を生み出すことができることを示している。これらの材料は、高出力への応用と故障の抑制に役立つ可能性がある。(Wt,nk,kh)
急性感染症を引き起こす伝染性の高いウイルスは、どのように集団に再発性の問題を引き起こすのだろうか? このような感染症は、集団免疫が発達するにつれて消えていくと予想されるはずだが、口蹄疫ウイルス(FMDV)は再び出現することがある。Jollesたちは、FMDVがどのようにアフリカ・スイギュウにおいて風土病であり続け、家畜における病気の貯蔵庫として機能しているかを調べた(HampsonとHaydonによる展望記事を参照)。著者たちは、ウイルスが保菌動物の集団に持続していることを見いだした。目立たなくて、まれな、かつ散発的な伝播は、抗原の変化と感受性の高い子牛の季節的な誕生に助けられて、ウイルスを消失から救っている。(KU,nk,kh)