AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science September 24 2021, Vol.373

北アフリカの太古の貝ビーズ (Early shell beads from North Africa)

貝ビーズは個人的同一性を特徴づけるために使われた、人類の前歴史時代の最も古い細工品の1つである。これらの存在はまた、我々ヒト科の祖先の認知能力が拡大しつつある兆しを示している。Sehassehたちは、モロッコのビズモウン洞窟の中石器時代遺跡で海生貝のビーズを発見している。このビーズは初期のホモ・サピエンスによって作られた14万2千年前のもので、この大陸で回収された中では今までのところ最も古いものである。北アフリカの中石器時代の期間を通じてのこのビーズの使用は、文化的継続性の明確な証拠を示すもので、また、南アフリカで得られた同時期の考古学的証拠と対照をなす、この時代におけるアフリカ大陸各地でのモザイク状の文化発展を示唆している、と著者たちは主張している。(Uc,MY,nk)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.abi8620 (2021).

二酸化炭素からデンプンへ、植物要らずで (From carbon dioxide to starch: no plants required)

多くの植物は、光合成でできたグルコースを重合体にする。そしてこの重合体は、長期のエネルギー貯蔵にうってつけの不溶性のデンプン粒を根や種子に形成する。Caiたちは、二酸化炭素が無機触媒によってメタノールに還元され、次に酵素により、先ず三炭糖と六炭糖に変換され、そして重合体デンプンに変換される、混成方式を開発した。この人工デンプン同化経路は、多くのさまざまな出所の生物から得られた酵素を遺伝子組み換え操作したものに依拠している。それは、他の炭素固定合成方式と比べて、また用いる測定基準によっては農作物と比べてさえ、優れた速度と効率でアミロースやアミロペクチンを生成するよう調整することができる。(MY,kh)

【訳注】
  • アミロース、アミロペクチン:ともにデンプンの構成成分で、アミロースは直鎖構造、アミロペクチンは枝分かれ構造であるもの。
Science, abh4049, this issue p. 1523

アメリカ大陸における初期の足跡 (Early footsteps in the Americas)

過去1世紀にわたる大量の考古学研究にもかかわらず、アメリカ大陸への人間の移住の時期はまだ解決しそうにない。ニューメキシコのホワイトサンズ国立公園のオテロ湖のむき出しの露頭の研究の中で、Bennettたちは、約23,000年から21,000年前として年代決定された多数の人間の足跡を明らかにしている。これらの発見は、最終氷期最盛期中の約2千年間、氷床によって作り出された北方に広がる移動障壁の南で、北アメリカでの人間の存在を示している。この時期は、北半球の突然の温暖化事象であるダンスガード・オシュガー事象2と一致した。この事象は、湖の水位を下げ、人間と巨大動物相が新たに露出した表面を歩くことを可能にし、地質学的記録に保存されることになった足跡を作り出した。(Sk,nk,kh)

Science, abg7586, this issue p. 1528

放射をトポロジカルに同期する (Topologically locked for emission)

レーザー系では、レーザー・アレイを形成することでその出力を高めることができる。しかし、個々のレーザーは独立しているため、結果としてはコヒーレントな出力が得られない場合がある。Dikopoltsevたちは、トポロジカルな垂直共振器型面発光レーザー(vertical-cavity surface-emitting laser:VCSEL)アレイを実現したことを報告している。アレイに基づくレーザー発光のトポロジカルな性質は、アレイ中の個々の垂直共振器面発光レーザーを連結し、エバネッセント光のトポロジカル面内伝搬を結合することよって実現された。アレイのトポロジカルな特徴によって注入同期が強制的に行われ、すべてのエミッター(この場合は30個)が単一の可干渉レーザーとして動作する。この進展は、大規模な可干渉レーザー・アレイを実現する上で重要である。(Wt,MY)

Science, abj2232, this issue p. 1514

より広く根を張り巡らす (Building a wider root network)

根が土の中で成長するにつれて、側根が発生して水と栄養物への到達範囲を広げる。主根のまさにどこでこれらの側根が発生するのかは、根の振動性体内時計によって組織される。Dickinsonたちは今回、開始シグナルをシグナル伝達分子レチナールの形で同定した。レチナール結合性タンパク質である温度感受性リポカリンの振動発現が、レチナールのシグナルが側根成長を始めることのできる根の位置を定める。(MY)

【訳注】
  • レチナール:ビタミンA(レチノール)の末端がアルデヒド(-CHO)になった物質。
  • リポカリン:レチナールなどを運搬する細胞外分泌タンパク質。
Science, abf7461, this issue p. 1532

ケイ素負極の全固体電池 (Silicon anode solid-state batteries)

全固体電池の研究は、リチウム金属負極を中心に進められてきた。合金系の負極は、より安全であると思われるにもかかわらず、1つには比容量が低いことが原因であまり注目されてこなかった。Tanたちは、ミクロン大のケイ素粒子から、炭素結着剤と共に負極で使用できる薄膜を作り出す、懸濁液を基にした手法を開発した。全固体電地に組み込むと、さまざまな温度で優れた性能を発揮し、フル・セルで優れたサイクル寿命(充放電繰り返し可能回数)を示した。(Sk,nk)

【訳注】
  • フル・セル:正極および負極とも実用的な二次電池材料で構成した電池。(一方の電極のみの評価を対象とした構成の電池をハーフ・セルという)
Science, abg7217, this issue p. 1494

粒子と付き合う (Going with the grain)

表面構造の変化は、酸化物に担持された金属ナノ粒子を、特定の触媒反応に対してより活性にすることがある。Huangたちは、酸化アルミニウム上のパラジウム・ナノ粒子の蒸気前処理が、他の酸化および還元前処理とは異なり、高密度の双晶境界をもたらしたことを示している。表面におけるこれらの安定粒界の密度は、より高いメタン酸化速度およびより低い反応開始温度と相関していた。レーザー・アブレーションによる追加の欠陥部位の導入は、さらに活性の高い触媒を作り出した。(Sk)

【訳注】
  • レーザー・アブレーション:固体表面にレーザー光を照射することにより、固体表面の構成物質が爆発的に放出される現象。
Science, abj5291, this issue p. 1518

ヒト基準ゲノムの次のステップ (Next steps for the human genome reference)

最初のヒト・ゲノム配列が発表されてから20年が経過し、RoodとRegevは展望記事でヒト・ゲノム・プロジェクトが残してきたものと次のステップを深く検討している。彼らは、ヒト基準ゲノムの影響について議論し、克服すべき長期的な問題を、特に多様性の観点において、明らかにしている。実際、単一のヒト基準ゲノムが、今日なされている応用に適しているかどうかは、まだ答えが出ていない。また、ヒト・ゲノム配列を利用して、どのように機構的な洞察を得て人間の健康状態を改善することができるのかということも、研究の中心テーマとして残っている重要な課題である。やるべきことはまだ多いが、ヒト・ゲノム・プロジェクトが科学と社会に多大な影響を与えてきたこと、そしてこれからもそうであり続けることは明白である。(ST,nk,kh)

Science, abl5403, this issue p. 1442

エチレンへの経路を追跡する (Tracing a path to ethylene)

エチレンは化石炭素源から工業的に製造されるが、植物と微生物は、少数の例外的な酵素反応により少量のエチレンを産生する。Copelandたちは、酸素同位体追跡実験と生化学試験を用いて微生物のエチレン形成酵素を研究して、提案されている機構を試験した。この酵素は、非ヘム鉄中心を使って酸素を活性化しているものだが、異なる機構で2つの明確に区別できる酸化反応を触媒している。これらの反応の1つは完全に経路外のもので、共基質であるアルギニンの断片化に至る。もう1つの反応は、他の共基質である2-オキソ・グルタル酸塩を、エチレン、炭酸水素塩、および2分子の二酸化炭素へと完全に断片化することができる。しかしながら、後者はしばしばここから外れてオメガヒドロキシ酸生成物をもたらしてしまう。(MY,kh)

【訳注】
  • ヘム鉄:ポルフィリンが配位した錯体の中心にある2価の鉄原子。酸化還元能力があり、生体中の種々の酵素反応に関与している。
Science, abj4290, this issue p. 1489

表現型に関わる反復 (Repeats associated with phenotype)

ゲノム内の反復配列がヒトの表現型に影響を与える程度をはっきりさせることは困難であった。Mukamelたちは、UK バイオバンクで数千のゲノムを調べたところ、臨床的に関連性のあるものを含め、ヒトの表現型に対する一般的な遺伝的多様体の最大の影響のいくつかが、タンパク質をコードする反復配列多型から生じることがわかった(GymrekとGorenによる展望記事参照)。これらの反復するタンパク質領域の大きさとコピー数の影響をマッピングすると、遺伝的多様体が、リポタンパク質(a)濃度、身長、男性型脱毛症など、ヒトの表現型に関連付けられる。さらに、これらの反復配列の対立遺伝子と頻度は、アフリカ系とヨーロッパ系の個人間で異なり、虚血性心疾患の危険因子であるリポタンパク質(a)濃度など、形質の臨床的関連性において集団間で違いをもたらす。(Sh,MY,kj)

【訳注】
  • 反復配列多型:ヒトゲノムには、塩基配列が繰り返される反復配列が数十万箇所存在する。人口の1%以上の頻度で観測される遺伝子を構成するDNA配列の個体差を示す遺伝子多型のうち、この反復回数の相違が多型として現れたもの。
  • バイオバンク:血液や組織などの検体とそれに付随する診療情報などを保管し、医学研究に活用する仕組み。UKバイオバンクは、2006年から始められたイギリスの長期大規模なもの。
  • リポタンパク質(a):低比重リポタンパク質(LDL)を構成するアポタンパクB-100に、異なるアポタンパク質であるアポタンパク質(a)が結合しているLDL類似リポタンパク質。
Science, abg8289, this issue p. 1499; see also abl7794, p. 1440

異常性の回復 (Restoring strangeness)

銅酸化物(クプラート)超伝導体は多くの複雑な相を有しており、それらの相互関係を解明することで、クプラートの性質を明らかにできる可能性がある。このような興味深い相のうちの2つは、異常金属相と電荷密度波(charge-density wave:CDW)秩序であり、クプラートの相図では隣り合っている。異常金属相の特徴である電気抵抗の温度に対する線形依存性は、CDW相では消失する。Wahlbergたちは、クプラートYBa2Cu3O7-δの薄膜を歪ませて、CDW秩序を抑制した(Le Taconによる展望記事参照)。共鳴非弾性X線散乱と輸送特性の測定を行った結果、研究者たちはCDWを抑制することで、相図のCDWの部分において温度線形な抵抗率が回復することを見出した。(Wt,kh)

Science, abc8372, this issue p. 1506; see also abi9685, p. 1438

量子状態での捕捉と入れ換え (Quantum trapping and shuffling)

光ポテンシャルに捕捉された原子またはイオンからなる、プログラム制御可能なアレイが、量子シミュレーションの優れた技術基盤として近年登場している。しかし、これらアレイと接続して、処理中の量子情報にアクセスし、その情報を別のモジュールに送ることは難易度の高い課題である。Đorđevićたちは、光ピンセットに把持された原子とナノフォトニクス共振器を組み合わせて、量子状態を完全制御し、非破壊的に量子状態を効率的に読み出し、かつ原子対のもつれを実証する混成量子システムを開発した(Kaufmanによる展望記事参照)。著者たちは、共振器場の内部および外部双方での原子操作を組み合わせて、量子ビットを共振器モード状態とモード外状態とに入れ換えることにより、より規模の大きなシステムに拡張できるであろう発展可能な光インターフェイスを実証している。(NK,MY,kj)

Science, abi9917, this issue p. 1511; see also abk2617, p. 1436

多能性因子が心臓形成を促す (Pluripotency factor drives cardiogenesis)

研究によると、成体哺乳類の心臓は心臓幹細胞を含んでおらず、そして心筋細胞の大部分は細胞分裂をおこなわないことを示している。したがって、損傷後に心臓の再生は制限される。心筋細胞の分裂終了性は、心臓の腫瘍形成を阻止するが、同時に心筋細胞の再生を最小限に抑える。Chenたちは、細胞型特異的な多能性因子の発現が、成体の心筋細胞を胎児の心筋細胞に似た状態に脱分化させ、結果として成体の心筋細胞が有糸分裂に再び入ることができると報告している(WangとBlauによる展望記事参照)。多能性因子の発現が長期間にわたって持続すると、心筋細胞は多能性状態に再プログラムすることができる。心筋細胞が部分的にしか再プログラムされない場合、心臓は腫瘍形成せずに再生する。(KU,nk)

Science, abg5159, this issue p. 1537 see also abl8679, p. 1439

備蓄と管理 (Stockpiling and control)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2のパンデミックの大惨事から脱した勝因の1つは、いくつかの強力なワクチンの迅速なる開発であった。しかしながら、パンデミックになって18か月そしてワクチン承認後6か月以上経っても、豊かな国が相変わらず主要な恩恵を受けている。Wagnerたちは、裕福な国におけるワクチン備蓄が、低、中所得国での疾病率に及ぼす影響、およびワクチンの初期の成功を危険にさらす可能性のある新たな変異株の突発に対する影響をモデル化している。ワクチンを容易に入手できる国にとって、ワクチンを公平に共有して、入手の少ない国における疾病負荷を減らし、患者の移入に常に厳しい警戒をしなければならないコストを削減し、そしてウイルスの進化を最小限に抑えることのほうがより良いであろう。(KU,nk,kh)

Science, abj7364, this issue p. 1488