AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science January 22 2021, Vol.371

エンハンサーと遺伝子の相互作用が分離を駆り立てる (Enhancer-gene interactions drive split)

動物界の多くの種では、オスとメスの表現型が異なる。その1つの例はオスのショウジョウバエに見られる翅の斑点で、メスのハエには見られない。GalouzisとPrud'hommeは、X連鎖黄色遺伝子とそのエンハンサーを研究している。彼らは、形質の遺伝学的研究を行った結果、オスに特異的な表現型は、エンハンサーと遺伝子の間のトランス相互作用によって引き起こされるという証拠を見出した。このトランス相互作用は、メスにおいて見つかる2つのコピーにおいては遺伝子を沈黙させるのに対し、オスではX染色体が1本のみであるため相互作用は生じず、遺伝子が発現する。このようにこの遺伝子は、オスとメスのハエで異なっているゲノム相互作用によって制御されているようであり、トランスベクションとして知られる現象の一例である。(ST,MY,kj,kh)

【訳注】
  • X連鎖:性染色体のX鎖にある遺伝子が、メンデル遺伝様式で子孫に伝えられること。
  • エンハンサー:遺伝子活性化因子と結合して遺伝子の転写量を大幅に増大させる、真核生物DNA上の塩基配列領域のこと。
  • トランスベクション:相同染色体間のアリル同士の相互作用によって後生的に表現形質が変化すること。
Science, this issue p. 396

T細胞性免疫における代謝回路 (A metabolic circuit in T cell immunity)

ナイーブT細胞は、エフェクターT細胞(Teff )へと分化する際に、代謝系が再編成されて、ミトコンドリアによる酸化的リン酸化に依存するものから好気性解糖に依存するものへと移行する。Xuたちは、ピルビン酸を乳酸に変換する解糖酵素である乳酸脱水素酵素A(LDHA)が、この過程で重要な役割を果たしていることを見出した。リステリア属細菌のListeria monocytogenesに感染したマウス内で分化したTeff は、 ホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)シグナル伝達によりLDHAを作動させた。LDHAは、アデノシン三リン酸(ATP)の産生を促進することにより、次に、効果的なTeff応答に必要な、PI3Kに依存する転写因子Foxo1の不活性化を促進した。このように、解糖で作られるATPは、PI3K依存性シグナル伝達の測定と調節の両方を行う可変抵抗器のように作用する。この型の正のフィードバック回路はまた、ガン細胞で認められるワールブルク効果に対する機構的な説明を提供するかもしれない。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • ナイーブT細胞:骨髄で産生した前駆細胞が胸腺で分化成熟して作られた、抗原と一度も遭遇したことのないT細胞のこと。γδT細胞、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞の3種がある。
  • エフェクターT細胞:全身に送られたCD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞が、それらに特異的な過程を経て活性化されて作られた免疫応答性の細胞障害性T細胞とヘルパーT細胞のこと。
  • ワールブルク効果:ガン細胞が、有酸素下でもミトコンドリアの酸化的リン酸化よりも、解糖系でATPを産生する現象のこと。
Science, this issue p. 405

グルコースとガラクトースに対して酵母が切り替わる (Yeast switches for glucose and galactose)

生物の中には、自身がおかれている環境に応じて代謝経路を切り替えることができるものがある。このような例の1つが酵母であり、酵母は炭素源として糖のグルコースとガラクトース間を転移することができる。Boocockたちは、この能力が淘汰を受け、単一種内の淘汰された一揃いの酵母株中で、非両立的な2つの代謝経路の保持という結果になったことを示している。系統発生学的な分析は、このような異なる経路が、酵母の種内と種間の株で異なる3つの遺伝子によって仲介され、1000万年から2000万年間にわたって経路が、多分維持されてきたことを、支持している。(Uc,MY,ok,kh)

Science, this issue p. 415

二領域からの太陽系の形成 (Two-part formation of the Solar System)

隕石の測定結果は、内部太陽系と外部太陽系は、2つの異なる物質の貯蔵所から形成されたことを示している。既存のモデルでは、最初に形成された木星によって、原始惑星円盤に隙間が開いて、これらが分割されたと提案されてきた。Lichtenbergたちは、それよりも水蒸気を含む領域と固体の氷を含む領域の境界である雪線が、最初に外側に移動し、次に内側に移動して、2つの別々の微惑星の集団を形成したと主張している。そして、それらの微惑星は衝突によって成長し、惑星を形成した。このモデルによるシミュレーションは、隕石のデータを説明し、他の恒星周囲の原始惑星円盤の天文学的観測と整合している。(Wt)

Science, this issue p. 365

電荷輸送経路を開く (Opening charge transport pathways)

ペロブスカイト系太陽電池では、開回路電圧を上げるために必要なパッシベーション層の絶縁性が、電池の直列抵抗もまた増加させ、曲線因子(フィルファクター)を制限している。電力変換効率のほとんどの改善は、開回路電圧の上昇によるものであり、曲線因子の改善が報告された例は、ほとんどの場合非常に小さな面積の単電池に限られていた。Pengたちは、ナノ構造化された酸化チタン電子輸送層を用いて、高導電性の局所領域を形成することで、より大きな面積(1平方センチメートル)を持つ単電池の曲線因子を0.84にまで高めた。(Wt,ok,nk,kh)

【訳注】
  • 曲線因子(フィルファクター):太陽電池において、最適動作点での出力(最大出力)を、開放電圧と短絡電流の積で割った値。
Science, this issue p. 390

攻撃から防御へ (From offense to defense)

ヘビの毒は、主に獲物を制圧および/または殺すために使用され、ほとんどの毒には死や麻痺を促進する明確な作用がある。しかしながら、ヘビの1つの群では、毒が進化し、捕食用から防御用に移行した。具体的には、「毒液を吐く」ヘビの3つの異なる系統では、毒は捕食者を阻止するために用いられる。Kazandjianたちは、これらの系統の中では、細胞毒性成分を哺乳類の感覚神経細胞に作用して痛みを引き起こす混合物に変えるという、類似の適応が起こったことを示している。著者たちは、これらの系統に対する捕食の増加が、毒機能の類似の変化につながったと主張している。(Sk,kh)

Science, this issue p. 386

抗ウイルス反応は性別によって異なる (Antiviral responses differ with sex)

COVID-19は、女性よりも男性により高い死亡の危険性があり、この差を説明できそうな生物学的要因があるか否かについて疑問が投げ掛けられている。展望記事において、TakahashiとIwasakiは、特に年齢によって、抗ウイルス免疫反応が男性と女性でどのように異なるかについて論じている。彼らはまた、COVID-19患者の免疫反応分析における性差と、これが死亡率、再感染、およびワクチン反応に影響を与えていそうかどうかについても論じている。これらの考察は、ホルモンの変化があった人々(ホルモン療法患者や閉経した女性など)、性分化疾患、および性同一性障害の人たちにおける抗ウイルス反応に対して意味を持つかもしれない。(Sk)

Science, this issue p. 347

発達から疾病へ (From development to disease)

遺伝子においてであれ、細胞においてであれ、神経回路においてであれ、脳の発達がうまくいかないと、神経発達障害が結果として起こる。Klinglerたちは、大脳皮質奇形と神経精神障害との関連に特に焦点を当てて、阻害された発達がどのように臨床症状を引き起こすかを総説している。この発達過程の複雑さが、症状の多様性と変動性の根底にあるのかもしれない。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. eaba4517

Cryo-EMがポリコーム相互作用を明らかにする (Cryo-EM uncovers polycomb interactions)

ポリコーム・ファミリー酵素には、遺伝子抑制に関与するクロマチン修飾因子PRC1とPRC2が含まれる。これらの複合体の触媒機能はよく知られているが、それらの機能的関係は分かっていない。Kasinathたちは低温電子顕微鏡法(cryo-EM)を用いて、ユビキチン化ヒストンH2A、PRC1の生成物およびPRC2-活性化補因子JARID2とAEBP2を含有するヌクレオソーム間の相互作用を可視化し、PRC2のPRC1依存的動員における分子基盤を与えている。彼らはまた、JARID2とAEBP2がヒストン上の2つのトリメチル・リジン転写マークによってPRC2の抑制効果を部分的に克服することを示している。この研究は、PRC2の調節が、PRC2補因子とヒストン翻訳後修飾との間の複雑な相互作用を含むことを示唆している。(KU)

Science, this issue p. eabc3393

ヒストン修飾間のクロストーク (Cross-talk between histone modifications)

ヒストン修飾は、真核生物のゲノムにおける転写と遺伝子サイレンシングの根底をなす複雑なタンパク質ネットワーク内で中心的役割を果たしている。ヒストン修飾を正確に行う酵素は、その触媒活性の時空間的な微調整を受ける。一例はトランス-ヒストン・クロストークで、それはある1つのヒストン修飾が別のヒストン修飾に関与する酵素を活性化する。Valencia-Sanchezたちは、ヒストンH4リジン16アセチル化(H4K16ac)(解かれて転写可能を示すクロマチン標識)が、Dot1ヒストンH3リジン79メチル基転移酵素を直接刺激することを示している。構造的、生化学的、および細胞のデータは、H4K16acによるDot1の調節を説明し、それが Dot1の2番目の正の調節因子であるヒストンH2Bユビキチン化とどのように協調しているかを示している。(KU,kj)

Science, this issue p. eabc6663

細胞の美しさは皮一重 (Cellular beauty is skin deep)

ヒトの皮膚は障壁として働き、とりわけ、病原体の侵入を防ぐ。Reynoldsたちは、単一細胞配列解析を用いて、発育中の胎児および成人の両方の試料源から得られた皮膚の図録を作成し、異種の皮膚細胞集団にわたる相違性と類似性を特定した。この図録では、調査された2つの病態(アトピー性皮膚炎と乾癬)における遺伝子発現が、健康な成人の皮膚での遺伝子発現とは違っていて、胎児期の皮膚の特徴が炎症を起こした成人の皮膚で発現されることを示唆していた。さらに、健康な胎児および成人の皮膚と、病気を患っている人たちの皮膚の免疫細胞組成に違いが認められた。(MY,kh)

Science, this issue p. eaba6500

相転移の展開を監視する (Watching a phase transition unfold)

層状物質である1T-ポリタイプの二硫化タンタルは、いくつかの複雑な電荷秩序相を持っている。ある相が別の相に実際にどう移行するかを、現在の技術で直接観察するのは難しい。Danzたちは、ポンプ・プローブ超高速暗視野電子顕微鏡を用いて、このような遷移を微細な空間的および時間的分解能で追跡した(Kogarによる展望記事参照)。その目標を達成するために、彼らは、探針として用いられる電子線に工夫を加えて、遷移に特有の特徴を明らかにした。(Sk,ok,nk,kh)

【訳注】
  • 1T(結晶構造):遷移金属ジカルコゲナイドの六方晶系の単位胞で、カルコゲンが正八面体的に金属原子を囲む構造。
  • ポリタイプ:同じ化学組成をもつ物質が異なる原子配列を示す多形の一種であって、同じ構成単位をもったものの配列順序のみが異なる層状結晶。
  • 電荷秩序:遷移金属の3d電子で、二種類の電荷状態が交互に規則正しく整列した状態。
  • ポンプ・プローブ法:調べたいと思う現象を引き起こすためのポンプパルスレーザーと、タイミングをずらしながら瞬間の現象を切り出して記録するためのプローブパルスレーザーを組み合わせて、超高速現象の時間発展を得る(ストロボスコープのような)方法。
Science, this issue p. 371; see also p. 341

単ー原子の反応性をモデル化する (Modeling single-atom reactivity)

貴金属は、酸素還元のような難しい反応でしばしばその威力を発揮する。これは多くの場合、d電子帯の位置によって説明される効果である。貴金属の費用を最小化する1つの方法は、それらの金属を単一原子として分散することである。Hulvaたちは、担持された単一原子の反応性を調べるために、ニッケル、銀、イリジウムなどのさまざまな遷移金属を、Fe3O4 (001) 支持体上に蒸着した。これらの単一原子は、下地の鉄原子列の間にある酸素二原子配位の同じサイトに吸着した。反応性の代用として一酸化炭素の吸着について調べたところ、支持体への電荷移動と一酸化炭素が引き起こした構造変化により、d電子帯は影響を強く受けた。これらの効果は、電子構造だけに基づき予測された値に比べて、吸着エネルギーを弱めることができる。(NK,MY,kj)

Science, this issue p. 375

Z-オレフィンをイリジウムでそのまま保つ (Keeping Z-olefins intact with iridium)

遷移金属触媒は、炭素-炭素二重結合に隣接する炭素原子を修飾する多様な方法を提供する。しかし、これらの反応の過程では、二重結合が弱くなる傾向にあり、そこに付いた置換基が前後に回転できるようになる。このため、2つの大きな基が結合軸の同じ側にある(Z-オレフィンとして知られている配置)ところから反応が始まると、生成物ではそれらの置換基は最終的には反対側になる。Jiangたちは、隣接する炭素をエナンチオ選択的に置換するのに必要な間だけこの前後回転を防止するキラルなイリジウム触媒を報告している(Malcolmsonによる展望記事参照)。(MY)

【訳注】
  • エナンチオ選択性:立体異性体のどれかが優先的に得られる反応の性質。
Science, this issue p. 380; see also p. 345

サルモネラ菌は免疫代謝から利益を得る (Salmonella profits from immunometabolism)

広範な代謝経路の組替えが、感染過程の間にさまざまな免疫細胞に発生する。これらの変化を細胞内の病原体が利用できるかどうかは、未解決問題のままである。Rosenbergたちは、ネズミチフス菌(S. Tm)の感染が、コハク酸代謝物のマクロファージへの蓄積を誘発することを報告している(LynchとLesserによる展望記事参照)。クエン酸回路のこの重要な中間体は、S. Tmの病原性遺伝子を活性化し、微生物の抵抗性を導く。さらにC4-ジカルボン酸のトランスポーターであるDcuBを通したコハク酸の能動輸送は、マクロファージ内のS. Tmの病原性と生存に必要である。クエン酸回路中間体の検出は、より一般的に、細胞内病原体の抵抗プログラムを開始する合図として役立つかもしれない。(Sh,kj)

【訳注】
  • 免疫代謝:肥満が免疫系に影響して炎症を促進するなど、生体や細胞の代謝と免疫応答の動的な関係。
  • マクロファージ:白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化する。
  • トランスポーター:細胞膜上に存在し、膜間の物質輸送を担う膜タンパク質。
  • 能動輸送:イオンや分子が濃度勾配に逆らって細胞膜を通して輸送される現象。
Science, this issue p. 400; see also p. 344

表皮フェロモンの概日調節 (Cuticular pheromone circadian regulation)

ハマダラカの幾つかの種は、アフリカにおける主要なマラリア媒介者である。ハマダラカのオスは、1日のある時間に種特有の群がって飛ぶ行動を示し、メスを交尾に引き付ける。Wangたちは、代謝機能および免疫機能を持つ遺伝子の転写様式が、交尾用の群飛翔への生理的な命令と相関する概日周期を示すらしいことを見出した(Manoukisによる展望記事参照)。温度と光の状況を変更することで、また、概日時計の調節に対するマスター遺伝子であるperiodtimelessをノック・アウトすることで、著者たちは、飼育カゴでの実験と閉鎖型屋外条件を組み合わせて、交尾用飛翔行動を混乱させた。律動的に発現した不飽和化酵素のノック・アウトは、表皮の炭化水素フェロモン産生を減らして交尾の成功を制限した。蚊の交尾行動を日周調節するこれらの重要な相互作用要素は、マラリア制圧方法の選択肢に対する対象候補となる。(MY,nk)

【訳注】
  • マスター遺伝子:ある形質や機能の発現に対して、きっかけを作っている、中心的役割を果たしている、あるいはそれらに関与する遺伝子群を遺伝子群をまとめて調節している遺伝子のこと。
Science, this issue p. 411; see also p. 340

脱ユビキチン化の誤りが病気を引き起こす (Deubiquitylation errors cause disease)

多くのタンパク質は、正常な機能のためにユビキチン化の可逆的修飾を必要とし、脱ユビキチン化の失敗は病気を引き起こすことがある。Beckたちは、X連鎖OTUD5遺伝子における欠陥を突き止め、同様の表現型を持つ一群の男性患者(すべてOTUD5にミスセンス変異を持つている)を集めた。患者の組織と動物モデルの分析を通じて、彼らは脱ユビキチン化における共通の欠陥を突き止め、この誤りが神経外胚葉の分化を損なうことを示した。彼らは、この障がいを LINKED症候群(linkage-specific-deubiquitinylation-deficiency-induced embryonic defects)と名付けた。この研究は、クロマチン再構成過程と発生への連鎖特異的なユビキチン切断の決定的な重要性を実証している。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • ユビキチン化:ユビキチンと呼ばれる低分子量のタンパク質が標的タンパク質に結合し、標的タンパク質(正常な機能を失ったタンパク質等)の目印付けが行われること。目印付けされたタンパク質は、タンパク質分解酵素で後に分解される。
  • X連鎖:性染色体のX鎖にある遺伝子が、メンデル遺伝様式で子孫に伝えられること。
  • ミスセンス変異:遺伝子中の塩基が正規のものと異なる他の塩基に変わっていること。
  • クロマチン再構成:クロマチン構造の動的な調節で、凝縮したゲノムDNAに対する転写調節装置のタンパク質のアクセスを可能にし、遺伝子発現の制御が行われる。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.abe2116 (2021).