AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science October 9 2020, Vol.370

雌モグラにおける間性現象 (Intersexuality in female moles)

雌モグラは間性であり、哺乳類における特有の形質である、雄性化する卵精巣を発達させる。Realたちは、イベリア・モグラのゲノムを配列決定し、トランスクリプトーム、エピジェネティック、およびクロマチン相互作用のデータを統合する比較戦略を適用することにより、この形質の起源を調べた。彼らは、アンドロゲン転換遺伝子 CYP17A1と精巣前因子遺伝子 FGF9の3次元の調節状況を変えるモグラ特異的なゲノム再編成を解明した。これら両方の遺伝子は、モグラの性殖腺で異なる発現パターンを示す。遺伝形質転換マウスの使用により、循環するテストステロン濃度を増加させ、性殖腺の雄性化を誘発するこれらの因子の能力が確認される。この研究は、統合的アプローチがどのようにゲノム変動の表現型への影響を明らかにできるかを強調している。(KU,kh)

【訳注】
  • 間性:雌雄異体の生物において、性別に関する遺伝子の構成が全身で一様であり、かつ雌雄の中間の形質を示すこと。
  • テストステロン:アンドロゲンに属するステロイドホルモンで、男性ホルモンの一種
Science, this issue p. 208

インフルエンザ予防接種後の免疫力 (Immunity after the flu shot)

現在,季節性インフルエンザの予防接種が毎年推奨されているのは,流行するインフルエンザ・ウイルス株が絶えず変化していることと,ワクチンによって作られる抗体応答が時間の経過とともに低下するためである.健康な志願者を対象としたヒト研究で、Davisらはインフルエンザ・ワクチン接種後の抗体応答を追跡した。彼らは、ワクチンが、骨髄中で抗体を分泌する形質細胞の生成に導くかどうかを調査した。骨髄はこれらの形質細胞を何年も生存させるリンパ系器官である。ワクチン接種によって、インフルエンザに特異的な細胞が生成されたが、そのほとんどは短命で、1年以内に失われた。少数の細胞が1年以上生存し続けたという事実は、インフルエンザ・ワクチンの寿命を改善できる可能性を示唆しており、インフルエンザに対する万能ワクチン開発のための重要な情報を提供する。(ST,KU,kh)

Science, this issue p. 237

過去と未来を表現する (Representing the past and the future)

適応行動には、経験を先見的と遡及的の両方で分析する能力を必要とする。前方向整列の神経活動は、逆方向整列のシーケンスの保存または表現をどのように容易にすることができるのだろうか? Wangたちは、ラットの多くの個々の海馬CA1神経細胞からの多重四電極による記録法を使用すると同時に、シータ波を示す電場電位を同時記録した。場所細胞ネットワークの空間的表現は各シータ波内の前方掃引と後方掃引の間で周期的に変動した。後方再生はシータ波のピークと関連し、前方再生はシー波の谷に関連していた。ほとんどの細胞は1つのカテゴリーに分類されたが、深層の神経細胞に対応するいくつかの細胞はバイモジュラー応答を示した。後方再生は嗅内入力によって駆動されたが、前方再生はCA3入力によって引き起こされた。これらは、将来および過去の経験をコーディングするための根底とにある基礎に関する重要な洞察である。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 247

時空が再構築された (Spacetime, reconstructed)

ホログラフィック双対性の理論は、重力システムと、そのシステムの境界に存在する強い相互作用が働く共形場理論(conformal field theory CFT)との間の対応関係に特徴がある。この対応を通じて、CFTは重力系の時空の幾何形状を符号化する。Van Raamsdonkは、この理論的枠組みにおける量子もつれの役割を分析した。著者は、単一のCFTを検討する代わりに、相互にもつれているが相互作用はしないCFT"ビット"の集合体をその出発点とした。これらのビットが集団として符号化する時空は、もともとのCFTが集団として符号化するものに任意精度の近似であることが示された。これは、量子もつれが時空の出現に決定的な役割を果たしていることを示唆している。(Wt,kj,kh)

Science, this issue p. 198

リン酸負極を設計する (Engineering phosphorous anodes)

電池研究の焦点は、リチウム、ナトリウム、およびカリウムといったさまざまな正極の開発であったが、負極材料の改良も重要な目標である。シリコンは、その並外れた容量により、グラファイトに取って代わる可能性を示しているが、リチウム化-脱リチウム化過程中の劇的な体積変化が、しばしば不具合を引き起こす。Jinたちは、中心部が黒リンと黒鉛でできており、膨潤させたポリアニリンで覆われた複合材料を開発した。以前の取り組みとは対照的に、炭素とリンの間の結合は、容量と繰り返し安定性を犠牲にすることなく、高充電速度を可能にする。(Sk,kj)

Science, this issue p. 192

海草藻場の成功した回復 (Successful restoration of seagrass beds)

1999年以来、バージニア州沿岸のラグーン(礁湖)中への7000万を超える海草アマモの種子の散布は、それまで失われていた海草藻場の3600ヘクタール以上の再建という結果をもたらした。Orthたちは、海草の回復が、生産物と動物多様性の急速な増加、炭素と窒素の隔離の増加、海洋濁度の減少、そして従来枯渇していた沿岸ホタテの増加に繋がっていることを見出した。これは生態系回復の規模の大きい成功物語であり、持続的な初期努力が生態系回復を支援する正のフィードバックに繋がった時、生態学的崩壊の反転が可能であることを実証している。(Uc,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.abc6434 (2020).

幹細胞のための安全な空間を築く (Building a safe space for stem cells)

分裂組織は、植物を作り上げる幹細胞の集まりで、ウイルス感染に耐性がある。Wuたちは今回、シロイヌナズナの新芽の茎頂分裂組織において幹細胞産生の維持を助ける転写因子であるWUSCHELが、また茎頂分裂組織の幹細胞領域をウイルスから守ることを示している。WUSCHELは、リボソームRNAのプロセシングとリボソームの安定性を調節するメチル基転移酵素を阻止することで、ウイルスのタンパク質合成を抑制した。(MY,kj)

【訳注】
  • RNAプロセシング:DNAから転写されたRNAがリボソーム中で翻訳機能が発揮されるよう加工される全ての工程のこと。スプライシングや修飾などが含まれる。
Science, this issue p. 227

生物工学的血管の発展 (Evolution of bioengineered blood vessels)

動脈を修復および置換するための生物工学的手法は、1世紀以上にわたって開発が進められてきた。初期の人工的手法ではゴムを基材とした代替品が用いられたが、それはその後、高分子織物の使用に発展し、つい最近では、実験室における血管の成長を可能にする生物学的手法に発展した。NiklasonとLawsonは、患者自身の血管の再生を可能にする科学的および技術的進歩を概説している。著者らは、人間の生理機能を模倣した条件下で組織成長に適した基質と組み合わせた場合に、どのようにして血管細胞が機能的な生物工学的動脈を作り出すことができるかについて論じている。これらの生物学的手法は、今後、血管疾患の管理および治療方法を前進させるための道を開く。(Sk)

Science, this issue p. eaaw8682

電気分解は熱を感じる (Electrolysis feels the heat)

太陽光と風力によって電力を供給される電力インフラには、これらの電源の間欠性を補うための柔軟な蓄電装置を必要とする。これに関連して、Hauchたちは、水および/または二酸化炭素を化学燃料に分解するための、固体酸化物による電気分解装置の技術進歩を概説している。正極と負極間の酸化物伝導に依存するこれらの装置は、触媒として非貴金属を使用し、600℃以上で動作する。このため、熱力学的および速度論的な効率の点で利益が得られる。著者たちは、電池成分に関する最近の最適化は勿論、システム・レベルの構築体に関する最適化にも焦点を当てている。(Wt,KU)

Science, this issue p. eaba6118

コウモリとウイルスに関する疑問 (Questions about bats and viruses)

コウモリは、動物宿主から人間に転移した幾つかの最近の病気の原因とされてきた。コウモリの炎症性免疫応答は減弱していて、それが彼らを他の哺乳動物よりも多くのウイルスに耐えられるようにし、結果としてコウモリを動物原性感染症ウイルス進化の温床にしていることが示唆されてきた。展望記事において、StreickerとGilbertは、動物原性感染症ウイルスの発生源としてのコウモリについて何が分かっているのかを論じ、そのような一般化に与えるコウモリの多様性の影響について疑問を提起している。さらに、動物原性感染症の動物からの溢出はほとんど分かっておらず、また複雑な過程であり、選別、野生生物取引、消費などの人為的な行為によって影響される。動物原性感染症におけるコウモリの役割は、解決策が見つかる前に、長期監視を含むさらに多くの調査を必要とする。(MY,KU,kj,kh)

Science, this issue p. 172

生体外でのHIV-1の複製と組込み (HIV-1 replication and integration in vitro)

HIV-1は宿主細胞に感染するのに、その一本鎖RNAゲノムを二本鎖DNA複製物へと逆転写し、その複製物を宿主染色体に組込む必要がある。逆転写と組込みは、別々に特性が明らかにされてきたが、細胞外で一緒に再構成されていなかった。Christensenは今回、ウイルスのコア粒子が、無細胞系で完全な逆転写と組込みを完結できることを報告している。ウイルス・コアのカプシド外殻は効率的な逆転写に必要で、複製中のDNAはカプシドの開口部からループ状で出てくることができる。組込みは細胞抽出液を必要とし、そのためこの無細胞系は、宿主側の因子がHIVの生活環の前半にどのように寄与しているかを分析するのに有用であるはずだ。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • コア粒子:ウイルスは、ウイルスの遺伝情報を担うRNAやDNAが保持されたコア粒子と、それを取り囲むタンパク質粒子からなるカプシドと呼ばれる殻からなる。さらに種類(インフルエンザ・ウイルスやコロナ・ウイルスが含まれる)によっては、外側に、脂質と糖タンパク質からなるエンベロープと呼ばれる被膜を持つ。
Science, this issue p. eabc8420

アチョー、と風邪をけり出す好中球? (ACHOO!-trophils?)

風邪から免れる人がいる一方で、どの年も風邪をひく人がいるのが何故かはほとんど分かっていない。Habibiたちは、志願者たちを普通の風邪の原因病原体の1つである呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に暴露し、その後の2週間にわたって彼らの経過を追跡した(MirchandaniとWalmsleyによる展望記事参照)。感染する者を感染しない者から分ける主な因子は、感染者が、RSVへの暴露前に気道での好中球活性化の兆候を呈していたことだった。逆に、感染から守られた人たちは、ウイルス接種後すぐにインターロイキン17シグナル伝達の増加を示した。同様に、好中球に対する化学誘引物質で事前処理されたマウスは、RSV感染およびCD8陽性T細胞駆動性疾患に、より罹りやすかった。サイトカイン活性を調節できる好中球のタンパク質分解酵素は、この差異を説明し、そしてRSVおよび他の呼吸器感染症に対する治療標的を提供できるかもしれない。(MY,kh)

【訳注】
  • 好中球:白血球の1種で、殺菌性特殊顆粒を持つ顆粒球。盛んな遊走運動を行い、主に生体内に侵入してきた細菌や真菌類の貪食殺菌を行う。
  • インターロイキン17:メモリーT細胞およびナチュラル・キラー細胞によって産生され、主に好中球の遊走と活性化を誘導するサイトカイン。
  • 化学誘引物質:好中球などの運動性の細胞に、その物質が存在する方向に向かう走化性を引き起こす効果を持つ化学物質で、サイトカインに属する
Science, this issue p. eaba9301; see also p. 166

動く標的 (A moving target)

Ablキナーゼは重要なシグナル伝達タンパク質で、白血病と他のガンでは調節不全となり、イマチニブなどの阻害剤の標的である。他のキナーゼと同様にAblキナーゼは動的で、立体構造の動態調節は、活性の調節にとって非常に重要である。Xieたちは核磁気共鳴を用いて、Ablキナーゼ・ドメインが1つの活性状態と2つの不活性状態の間で相互転換することを示した。イマチニブは不活性の立体構造を安定化し、また幾つかの耐性変異は、この不活性立体構造を不安定化することにより作用する。調節ドメインを含む組換えタンパク質では、キナーゼ・ドメインと調節ドメインの相対的配置に依存して、キナーゼ・ドメインは活性状態か抑制状態の1つのどちらかで安定化する。キナーゼの立体構造動態の理解は、選択性薬剤の設計に活用できる。(MY)

Science, this issue p. eabc2754

疲労のもつれを解く (Disentangling fatigue)

繰り返し荷重をかけると金属が疲労し、亀裂が形成されて材料全体に伝播すると、最終的には役に立たなくなる。Lavensteinたちは、ニッケルにおけるこの過程の始まりを研究した。彼らは、高分解能の観察を用いて、転位がどのようにして亀裂形成に先立つ持続的すべり帯と呼ばれる微細構造形質に進展するかを追跡した。さらに一定の間隔のパターンをとる転位のもつれの進展は、永続的なすべり帯の基礎を形成しており、金属の疲労亀裂を理解するための指針を提供する。(Sk,ok,kj,kh)

Science, this issue p. eabb2690

界面標的化が興奮毒性を回避する (Interface targeting skirts excitotoxicity)

従来のN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)拮抗薬を用いて神経変性疾患を治療するほぼ全ての試みは、失敗している。これは、NMDARが神経細胞死の促進因子であるだけでなく、シナプス可塑性と学習や記憶などの認知機能における本質的な生理学的役割を持っているためである。Yanたちは、 神経細胞死へつながる NMDARの構造的基礎を調べた(Jonesによる展望記事参照)。死を促進する活性は、本質的な生理学的機能ではなく、NMDARのTRPM4との物理的相互作用によって影響された。TRPM4は、細胞内カルシウム、脱分極、および温度によって活性化されるカルシウム不透過性イオン・チャネルである。その後の構造に基づく薬剤のコンピューター・スクリーニングにより、NMDAR-TRPM4相互作用界面をブロックするが、重要なNMDARの健康な機能を残す神経保護小分子の発見を導いた。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. eaay3302; see also p. 168

柔軟な棘突起タンパク質 (Flexible spikes)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)棘突起タンパク質は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体への結合により、宿主細胞中にウイルス侵入を可能にするので、中和抗体に対する主要な標的である。約20~40の棘突起タンパク質がウイルス粒子の表面を飾る。Turo?ovaたちは、 棘突起タンパク質が、グリコシル化部位によって十分に保護されている3つのちょうつがいによってウイルス表面に柔軟に接続されていることを示している。これらのちょうつがいによって与えられる柔軟性は、複数の棘突起タンパク質がどのように協調しながら宿主細胞の平らな表面に接続するかを説明するものかもしれない。(KU,kh)

Science, this issue p. 203

2次元超電導への別の方法 (Alternative route to a 2D superconductor)

遷移金属二ジカルコゲナイド単一層は、超電導を含むエキゾチックな物性を示す。このような試料を手に入れる通常の方法は、三次元(3D)結晶を剥離することである。一方で、Devarakondaらは、遷移金属二カルコゲナイド六方晶 NbS2と Ba3NbS5材が交互に重なった層から構成される超格子を成長させた。不活性なBa3NbS5層は、NbS2超電導層それぞれを解離させ、結果として高いキャリア移動度を有する二次元(2D)超電導を示した。高移動度と次元減少が組み合わせにより、エキゾチックな量子相を引き起す可能性がある。(NK,KU,kh)

Science, this issue p. 231 see also p. 170

反応性を調整するための電位法 (A potential method to tune reactivity)

有機化学において、反応速度は、反応性炭素中心から電子密度を供与または引き抜く置換基に敏感は場合が多い。Heoたちは、反応物が電極に繋がれているとき、印加電位の分極効果が類似の影響を及ぼすことができ、本質的に調整可能な官能基として作用することを報告している。著者たちは、エステル加水分解とアレーン・クロスカップリング反応はもちろん反応の途中で分極を反転させることで恩恵を受ける2段階の酸からアミドへの変換反応でも同様に、速度調整を実証している。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 214

変化が変化を生む (Change begets change)

人新世では、人間が生態系を変化させ、絶滅を引き起こし、種の分布を再構成している。我々がこれらの変化を促進するにつれて、我々は新たな種の山を作り出しつつある。このような「新規集団」は我々の時代に固有のものではないので、過去の出来事に関連した多様性と絶滅の様式は、現在の集団再構築の影響を解明するのに役立つかもしれない。Pandolfiたちは、過去約6600万年にわたる海洋プランクトンの集団を調べ、新しい集団の出現がさらなる新規性と絶滅につながることを見出した(DornelasとMadinによる展望記事参照)。集団の変化は環境の変化に対する自然な生物学的応答であるが、現在の変化の速度は差し迫った、かつ急激な影響を引き起こすかもしれない。(Sk)

Science, this issue p. 220; see also p. 164

砦であるCIITAはウイルスを上陸させない (The CIITAdel keeps viruses at bay)

ウイルス耐性に関わる細胞機構をよりよく理解することは、次世代の抗ウイルス療法に必要である。Bruchezたちはトランスポゾンを介した遺伝子活性化スクリーニング法を用いて、エボラ・ウイルスに対してこれまでに報告されていない宿主制限因子を調べた(WellsとCoyneによる展望記事を参照)。著者らは、主要組織適合遺伝子複合体クラスII転写活性化因子(CIITA)と言う転写因子が、不変鎖(CD74)のp41アイソフォームの発現を促すことでヒト細胞株に耐性を誘発することを見出した。CD74 p41は次に、カテプシンを介したエボラ・ウイルス糖タンパク質のプロセシングを妨害し、結果としてウイルスの融合と侵入を防ぐ。CD74 p41は、また重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含むコロナウイルスのエンドソーム侵入を阻止できる。この研究は、フィロウイルスやコロナウイルスなどのカテプシン依存性ウイルスに対する将来の治療に役立つはずである。さらに、使用されるスクリーニング戦略は、他の危険な病原体に対する耐性機構を明らかにするための設計図として役立つかもしれない。(Sh,KU,kh)

【訳注】
  • トランスポゾン:細胞内で、ゲノム上の位置を移動するDNA配列。
  • アイソフォーム:基本的な機能は同じだが構造の一部が異なるたんぱく質。
  • エンドソーム:細胞の飲食作用によって細胞内に取り込まれた物質の輸送や代謝に関わる袋状の構造体。
  • カテプシン:細胞内でタンパク質のペプチド結合を加水分解し2つ以上のポリペプチドを作る、タンパク質分解酵素の一種。
  • タンパク質のプロセシング:翻訳(生合成)直後のタンパク質は一般に不活性。種々の修飾を行って活性なタンパク質へと変化・成熟させる過程。
Science, this issue p. 241 see also p. 167

金を追求する (Going for the gold)

単粒子の極低温電子顕微鏡法(cryo-EM)は、構造生物学者にとって頼りになる技術になった。データ処理と再構成の方法は改善されてきたが、構造ごとに必要とされる時間を削減しつつ高分解能での再構成を確実に達成するためには、試料の準備とデータ収集を革新することが不可欠である。Naydenovaたちは、粒子を浮遊固定する非常に薄い氷の層の反りを防ぐ金の試料保持部材を設計することにより、情報損失の主な原因である電子線起因の粒子の動きの問題に取り組んだ(RappとCarragherによる展望記事を参照)。粒子変位が無視しうるほどになることにより、構造因子の「ゼロ曝露」状態への外挿が可能になり、cryo-EM 構造では一般に失われる特徴を明らかにする。単位分解能あたりではるかに少ない粒子しか必要とせず、それにより特に高分解能での構造決定が大幅に高速化される。(Sk,kj,kh)

Science, this issue p. 223; see also p. 171