人生からストレスを取り除く (Taking the stress out of life)
モデル生物である線虫Caenorhabditis elegansにおいて、ニューロンは末梢にタンパク質恒常性を伝達して老化に影響を及ぼし得ることが示されている。Frakesたちは今回、全身的なタンパク質恒常性と老化の中心的な調節因子としても作用する星状細胞様グリア細胞を特定している(Miklas と Brunet による展望記事参照)。彼らは、折り畳まれていないタンパク質への小胞体応答(unfolded protein response of the endoplasmic reticulum:UPRER )を仲介する転写因子XBP-1s(XBP-1 spliced form)の恒常的活性型がグリア細胞の特定の亜集団で発現すると、線虫の寿命が延長することを発見した。グリアXBP-1sは、遠位腸細胞でUPRER の誘導を開始し、これにより、線虫は慢性的小胞体ストレスに対してより耐性となる。神経ペプチドのシグナル伝達は、グリアを介した寿命と末梢UPRER の誘導に必要であった。このことはニューロンXBP-1sによって開始される機構とは異なる機構を示唆している。したがって、老化のこの動物モデルにおいては、わずか4つの細胞(星状細胞様グリア細胞)が生物としての生理機能と老化を制御することができる。(KU,MY,nk,kj,kh)
【訳注】
- Caenorhabditis elegans :成虫の大きさが約1mmで全細胞数が約1000個の線虫。受精から成虫に至るまでの細胞系譜が明らかになっている。
- 小胞体ストレス:細胞小器官の一種である小胞体の内腔に構造異常タンパク質が蓄積されること。これにより細胞への悪影響が生じる。
- UPR:小胞体ストレスに対して、構造異常タンパク質を処理してストレス状態を緩和する機構。小胞体膜にある受容体の活性化により誘導される。
Science, this issue p. 436; see also p. 365