AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science April 26 2019, Vol.364

大気汚染規制のモデル化 (Modeling air pollution regulation)

中国政府は、まとめてジン-ジン-ジ(Jing-Jin-Ji)として知られる、北京(Beijing)・天津(Tianjin)・河北省(Hebei)の悪名高いスモッグ大都市圏における大気汚染を減少させるという野心的な目標を設定した。しかしながら、しかし、その汚染対策は、例えば石炭発電所のような責任のある工業を国内の隣接地域に移しているだけの可能性がある。Fangたちは、このような規制手段の効果についてモデルを構築した。ジン-ジン-ジ領域においては大気汚染の主要成分の低下を見るかもしれないが、現在の手法は中国北部一帯で汚染物質のより高い放出をもたらし、そして淡水のようなすでに乏しい天然資源に脅威を与えるかもしれない。(Uc,KU,ok,nk,kj,kh)

【訳注】
  • ジン-ジン-ジの最後のジは河北省の旧名 "冀" (Ji) に由来する。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aav4707 (2019).

イオン・チャネル複合体の多様性 (Diversity in ion channel complexes)

AMPA受容体は、神経系における速いシナプス伝達を仲介し、そして学習と記憶に重要な役割を果たしているグルタミン酸活性化イオン・チャネルである。この受容体は4つのサブユニットのさまざまな組み合わせから作られる四量体であり、サブユニット構成の種類から生じる機能的多様性を持つ。Zhaoたちは、ラットの脳から得られた未変性の受容体を精製し、10種の異なる複合体の構造を低温電子顕微鏡によって決定した。4つのサブユニットに対してある種の配列が好まれる。重要な開閉要素−膜貫通ドメインとリガンド結合性ドメインの間のつなぎ部分−の構造は、この受容体がどのように機能するのかを明らかにしている。(MY,KU,nk,kh)

【訳注】
  • グルタミン酸活性化イオン・チャネル:シグナル伝達物質であるグルタミン酸をリガンドとして受容してイオンチャネル部位が開き、イオン(AMPA受容体の場合は、ほとんどNa+/K+)が透過するチャネル。これにより膜電位が調節される。
Science, this issue p. 355

容易な氷除去 (Easy ice removal)

表面への氷の蓄積は、例えば飛行機の翼の表面や高層ビルの側面などでは、危険な状況を引き起こすことがある。氷の付着力は、その結合力を最小化するように処理された表面に対しても通常、表面被覆量に依存するであろう。Golovinたちは、付着強度に限定される場合の除氷力と、付着靭性に限定される場合の除氷力を比較した。通常の着氷防止材料は、付着強度を最小にすることに焦点を合わせているが、著者たちは、もし材料が低付着靭性を考慮して設計されていれば、除氷力はもはや被覆面積の関数ではないことを示している。(Sk,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 付着靭性:接合または積層された異種材料間の界面靭性(たわみを与えた場合の剥がれ易さ)
Science, this issue p. 371

気温以上の海水循環(Circulation more than temperature)

大陸の配置と海面水位の変化が、7000万年前から3000万年前の間の海洋の酸素濃度と脱窒速度に影響を及ぼした。Kastたちによるその所見は、現代の海洋との根本的な違いを示しており、そこでは低酸素域の範囲が主に地球規模の気温によって制御される。海洋有機物の窒素同位体組成の変化は、インド・プレートとアジア・プレートの衝突、およびその結果生じた海洋循環の変化と相関している。その後、地球規模の寒冷化が氷床を成長させるとともに生じた海面水位の低下に応じて、同位体組成はさらに変化した。(Sk,nk,kh)

【訳注】
  • 脱窒:窒素化合物を分子状窒素として大気中へ放散させる作用または工程
Science, this issue p. 386

硫黄が地殻運動の秘密を明かす (Sulfur tells tectonic secrets)

プレート・テクトニクスは、地質時代の間に、地球表面がどのように形作られるかを支配している。しかしながら、この重要な過程がいつ地球で始まったのかは分かっていない。Smitたちは、ダイヤモンド中の硫黄同位体を使って、大気中の硫黄がプレートの沈み込みを通して30億年前にマントルに入り込んでいることを示した。より古いダイヤモンドはこの痕跡を持っておらず、地球上でプレート・テクトニクスが始まった時期をおよそ30億年前に制約している。(Sk,ok,kh)

Science, this issue p. 383

新しいタンパク質チャネルのファミリー (A new protein channel family)

細胞を外界の酸性条件にさらすと、細胞は生理的および病理学的プロセスに影響を与える塩素イオン伝導チャネルを活性化する。Yangたちは偏りのないRNA干渉選別法を使用して、そのような水素イオン活性化イオン伝導を可能にするチャネル・タンパク質を解明した。水素イオン活性化チャネルにおいてPACと呼ばれる、このタンパク質は、2つの予測される膜貫通領域を持ち、これまでに解明されたいかなるチャネルとも異なる。このチャネルの解明は、脳卒中後の組織損傷から高地環境へのチベット原住民の適応にまで及ぶ、その生理学的役割の研究を促進するはずである。(KU,kh)

Science, this issue p. 395

肝細胞を新鮮に保て (Keep hepatocytes fresh)

新たに分離された初代のヒト肝細胞(PHH)は、体外でその自己性と機能を早急に失い、感染性肝疾患のモデル化および薬剤選別におけるその適用を制限する。Xiangたちは、培養PHHの成熟機能を長期間保持できる、5つの化学物質を用いた単純で効果のある培養条件について述べている。この方法で培養されたPHHは、ウイルスの全生活環を支え、かつB型肝炎ウイルスの長期感染を再現できる。この系は、新規な抗ウイルス戦略を開発するための有用な薬剤を選別する実験基盤を作り出した。(MY,ok,kh)

Science, this issue p. 399

量子通信の心地よい振動 (Good vibrations in quantum communication)

量子情報処理の技術基盤は通常、互いに通信するためにキュービットを必要とする。これまでは、フォトン(光またはマイクロ波のいずれか)が、キュービット間の量子状態を伝送する優れたキャリアであった。しかしながら、固体系においては、材料そのものが持つ固有の振動特性であるフォノンが有利になるはずである。Bienfaitらは、音響通信チャネルを通じてあちこち遍歴できるフォノンの決定性放射と捕獲について述べており、それは或る一つの超伝導キュービットから他の超伝導キュービッへの量子状態のフォノンに基づくコヒーレント伝送、及び音響チャネルを介在してその二つのキュービットの量子もつれを可能にする。この結果は、表面弾性波を用いて 混成量子固体系をつなぐ手段を提供する。(NK,KU,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 368

汎用化学製品を空気から調達? (Sourcing commodity chemicals from air?)

地上で育つ植物は、炭素に基づく自分たちの組織構造のすべてを二酸化炭素(CO2)から作る。一方で、化学者によって建設される工場は、その炭素原料として石油と天然ガスを使う。総説において、De Luna等は、CO2を直接電気化学還元してエチレンやアルコールのような汎用化学製品を製造するために予想される課題と可能性を調査している。再生可能エネルギー電力の価格がキロワット時当たり4セントを下回り、かつ電気-化学変換効率が60%に達すると、製造コストは化石燃料に基づく技術に競合するだろうと彼らは見積もっている。(ST,KU,nk,kj,kh)

Science, this issue p. eaav3506

「野性」を促進する (Facilitating “wildness”)

人間は、地球上のほとんどの陸地を侵略し了えた。現在の絶滅の危機は、人間が原生自然に与えた影響の証である。生物多様性を有する惑星系を維持するという望みがあるのならば、私たちは、他の種と共存する方法を習得し、他の種のためにの空間を残す方法を学び始めなければならない。「再野生化」の実践は、私たちが変えてしまった景観に野生地と野生性を回復するための方法として出現してきた。Perinoたちはこの概念を検討し、それを広く、かつ、現在進行している人間との相互作用を考慮する方法で実行するための枠組みを報告している。(Wt,nk,kh)

Science, this issue p. eaav5570

シナプス部位で信号を調節する (Regulating signals at synapses)

脳の興奮性シナプスにおいて、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)と呼ばれる四量体陽イオン・チャネルは、学習と記憶の根底をなす細胞過程で重要な役割を果たしている。AMPARは、GluA1-4サブユニットから作られるさまざまな構成からなる異種四量体である。Herguedasたちは低温顕微鏡を用いて、海馬における最も一般的なAMPARの型で、その調節性サブユニットであるTARPγ8と複合体を形成したGluA1/2異種体の構造を決定した。この構造は、この複合体の構成を示し、チャネル伝導が補助サブユニットにより、どのように制御・調節されるのかの洞察を提供する。(MY)

【訳注】
  • TARP:4つの膜貫通ドメインと細胞質内のC末端ドメインからなり、チャネル孔を形成せずAMPA受容体に結合して、AMPA受容体の開口確率の増大や、AMPA受容体発現密度を高める作用を示す。TARPγ8が属するⅠ型はAMPA受容体のC末端部位へ結合する配列を持つ。
Science, this issue p. eaav9011

肥満脂肪への焦点を1つに絞る (A singular focus on fat)

脂肪組織は、2つのやり方で拡大することができる。すなわち、個々の脂肪細胞の大きさの増加によるか、脂肪細胞の数の増加を通してである。前者の過程は代謝疾患を促進し、後者はそれを防ぐ。Merrickたちは単一細胞のRNA配列決定を用いて、マウスとヒトで脂肪組織を生じる間葉系前駆細胞の階層を明らかにした(ChauとCawthornによる展望記事参照)。彼らは、DPP4と呼ばれるタンパク質を発現している前駆細胞が、異なるシグナルに応答して2つの別々の型の前駆脂肪細胞を生じることを見出した。このDPP4前駆体は、脂肪組織周囲のコラーゲンとエラスチンの線維からなる(体液で満たされた)網状組織に常在する。原理的に、前駆細胞の脂肪細胞への分化を増やす治療介入は、代謝疾患を改善するかもしれない。(MY,kh)

【訳注】
  • 間葉系:細胞と細胞の間にあって、コラーゲンなどを産出して細胞を支持する役割を持つ。間葉系に存在する間葉系幹細胞は、骨細胞、脂肪細胞、神経細胞などに分化する能力を持つ。
  • エラスチン:哺乳動物の結合組織 (軟骨,腱,靭帯,大動脈など) にコラーゲンなどとともに広く存在する構造タンパク質。
Science, this issue p. eaav2501; see also p. 328

幹細胞ワールドにおける支配 (Domination in the stem cell world)

ノーベル賞受賞の発見は、特殊化された細胞が遺伝子的に幹細胞に再プログラム化され、結果として体内のあらゆる細胞型になる能力を獲得できることを示した。しかし、再プログラミング中に何が起こるかは、完全には理解されていない。Shakibaたちは実験的および数学的アプローチを用いて、皮膚細胞が再プログラミング中に競合し、幹細胞状態に向かって進行するにつれて、お互いに抹殺することを示した(WolffとPurvisによる展望記事参照)。「勝者」は、神経堤に由来する特別な種類の皮膚細胞である。この種の細胞は通常、胚発生中に出現し、皮膚、筋肉、および神経系を含む様々な組織に移動する。(KU,kh)

Science, this issue p. eaan0925; see also p. 330

グラファイトが第二音波を手に入れる (Graphite gets a second sound)

弾道的および拡散的な格子熱輸送という両極端の間に、第二音波として知られている珍しい波のような状態の可能性がある。Hubermanたちは高速の過渡熱格子測定を用いて、85ケルビンから125ケルビンの間のグラファイトに第二音波の存在を示した(Shiによる展望記事参照)。これまでの第二音波の観測はまれであり、非常に低い温度での、同位体的に純粋な物質に限られていた。グラファイトでの第二音波の観測は、おそらくその層状の性質によるものであり、この熱輸送方法が他の二次元材料でも得られるかもしれないことを示唆している。(Sk,kj,kh)

【訳注】
  • 第二音波:熱が、通常の拡散ではなく、空気中を伝播する音波のように高速で伝播し、高い熱伝導度を示す現象
Science, this issue p. 375; see also p. 332

原子散乱が結合形成を明らかにする (Atom scattering reveals bond formation)

分子が衝突すると、それらは新たな化学結合を形成することができる付加複合体を形成する。しかしながら、エネルギーがこの複合体からその分子の他の部分に流れていかないならば、新しい結合は通常、単に解離するだろう。従って結合形成には効果的にエネルギーが放出されねばならない。Jiangたちは、グラフェンからの水素原子の散乱を観察し、その結果を第一原理ポテンシャル・エネルギー曲面と動力学的的シミュレーションを用いで解釈した(Hornekaerによる展望記事参照)。近垂直入射で、この実験は、水素原子が6原子の炭素環の中心と衝突するときに一過性の炭素-水素結合形成を探査する。急速な分子内振動緩和が、結合形成中に起こる軌道の再混成と構造変形から生じる。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 379; see also p. 331

スプライシング触媒中心の形成 (Creation of the splicing catalytic center)

完全に組み立てられた触媒前のプレBスプライソソームの触媒中心は、たとえ全ての断片がこの複合体中に存在していても、まだ形成されていない。CharentonたちはヒトのプレB複合体の構造を解明し、ヘリカーゼPrp28がメッセンジャーRNA前駆体の5'スプライス部位をU1核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)からU6 snRNAにどのように移動させるかについての詳細な機構的洞察を提供している。5'スプライス部位とU6との対形成は、一連の立体構造変化を誘発し、Brr2ヘリカーゼの再配置およびヘリカーゼ活性部位へのU4 snRNAの積み込みを引き起こす。これがU4/U6 snRNA二本鎖の巻き戻しをもたらし、そしてスプライソソーム活性部位を形成するためにU6が折り畳まれてU2と対形成することを可能にする。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • スプライソソーム(Spliceosome):タンパク質とRNAの複合体で、転写されたmRNA前駆体からイントロンを取り除いて成熟RNAにする機能を持つ。この過程はPre-mRNA スプライシングと呼ぶ。
Science, this issue p. 362

シグナル伝達ハブの構築 (The architecture of a signaling hub)

アデニル酸シクラーゼ(AC)は、様々な入力に応答して、シグナル伝達分子である環状アデノシン一リン酸を生成する。ACは、上流の受容体によって活性化されるGタンパク質によって調節される。Qiたちは、低温電子顕微法により活性化Gタンパク質αsサブユニットに結合したウシ横隔膜由来AC9の構造を3.4オングストローム分解能で決定した。この構造は、膜貫通ドメインと触媒ドメインをつなぐ螺旋ドメインを含む、AC9の完全な構築を提供する。このモデルは、自己抑制機構を示唆することを含めて、各々の領域がどのように相互作用をして酵素活性を調節するかを明らかにする。(Sh,kh)

【訳注】
  • アデニル酸シクラーゼ:細胞膜上に存在し、ATPを環状アデノシン一リン酸とピロリン酸への変換を触媒する酵素。
  • サブユニット:複数のタンパク質によって構成されるタンパク質複合体の、構成単位となる単一のタンパク質分子。
Science, this issue p. 389

「モノのインターネット」の出費 (Cost of the “Internet of Things”)

しばしば「モノのインターネット」(IoT)と呼ばれる、ネットワーク化された電子機器は、現代の生活において役割を増加させている。しかし、それらの使用は、全体的なエネルギー使用を減らすのだろうか、増やすのだろうか? 展望記事において、HittingerとJaramilloは、個々の機器は、局所的なエネルギー使用量を減らす可能性があると説明している。たとえば、住宅内のスマート暖房システムはエネルギー使用を最適化できる可能性がある。ただし、遠隔地でのエネルギー使用やデバイス製造、ユーザーの行動もまた、考慮されなければならない。たとえば、それぞれの世帯が過去よりも多くの機器を購入した場合、全体的なエネルギー使用量は増加する可能性がある。デバイス使用のこれらの側面に関する研究は、社会がエネルギー使用量の増加を避けながらモノのインターネットの利点を享受できるよう、政策に情報を提供するものでなければならない。(Wt,kj,kh)

Science, this issue p. 326