AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science August 3 2018, Vol.361

海底光ファイバによる地震検出 (Submarine fiber optic earthquake detection)

地震観測網は地震を検出し、設置が容易な陸地では一般的である。しかしながら、 地球表面のほとんどは、地震計の設置が困難な海洋の下にある。Marraたちは、今回、地震を検出するために、通常の海底通信ケーブルが使用できることを見出した。地震波の通過に伴う微小な歪みの変化が、超安定レーザによる使用中の光ファイバ・ケーブルを通して送られるレーザ光によって検出された。この方法は、大陸間の光ファイバ・ケーブルを海底の歪検出器に転用し、我々の地震記録能力を飛躍的に向上させることができるかもしれない。(Sk,kh)

Science, this issue p. 486

降雨の減少による没落 (Falling from a fall in rainfall)

古典期終末期における低地古代マヤ文明の衰退を引き起こすためには、降雨量がどの程度減少しなければならなかっただろうか? この衰退は、過去の気候変動(この場合は干ばつ)が、いかに一集団を崩壊させ得るかについて、よく引用される例である。 Evansたちは、メキシコのチチャンカナブ湖の水の同位体組成を測定し、その期間中にどのくらい降水量が減少したかを定量化した。年間降水量は、平均で約50%、最もひどい干ばつ状態の間は、最大70%まで低下したにちがいない。(Sk,ok,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 古典期終末期:マヤ文明の時代区分の一つで、AD 830~950 に相当する。
  • 低地古代マヤ文明:マヤ南部の低地で発展した文明
Science, this issue p. 498

磁場を強める (Cranking up the field)

クプラート超伝導体は、その状態図の正常(非超伝導)領域であっても多くの異常な特性を示す。いわゆる「異様な金属」相において、通常の金属の抵抗が温度に対して二次関数的に変化するのに対して、この材料は温度に対し線形的に抵抗が変化する。Giraldo-Gallo等は、最大80テスラまでの非常に強い磁場環境下において、ランタン系クプラート薄膜の磁気抵抗が磁場に対して、予期される二次関数的変化ではなく、線形的に変化することを今回見出している。この2つの線形依存性は、クプラートの非超電導状態の理論に関する課題を与える。(NK,KU,ok,kj,kh)

【訳注】
  • クプラート:銅を中心金属とする形式上陰イオン性となっている錯イオン
Science, this issue p. 479

ヒト低身長の遺伝学 (The genetics of human short stature)

インドネシアのフローレス島には、絶滅したホモ・フローレシエンシス(Homo floresiensis)と現代人によるより最近の移住を含む、ホミニン居住の長い歴史がある。更に、フローレス(島)には小体格のヒトがかなり存在し、ホモ・フローレシエンシスは他のホミニンに比べて成人の身体が小柄であった。Tucciらは ホモ・フローレシエンシスの化石が発見された洞窟の近くに住む小体格のヒトの集団から、10人の配列決定されたゲノムを含む32人の個体間の遺伝的変異を調べた。これらの個体は、低い身長を説明する複数の遺伝子が関与する選択の徴候を示し、ネアンデルタール人およびデニソワ人双方からのゲノム内容を持っているが、他の古代ホミニン系統は含まない。したがって、低身長はこの場所で選択されており、ホミニンのステージで少なくとも2回独立に短身長に進化した。(NA,KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • ホミニン:ヒト族。類人猿を除く現生種と絶滅種の人類を表す。このホモ・フローレシエンシスは身長1m、脳がたった400CCしかない。
Science, this issue p. 511

実践的な生物学教育キット (Hands-on biology education kits)

合成生物学は典型的な21世紀の技術である。生きている細胞を成長させるためには特殊な装置と専門知識が必要であるため、教育環境で実践的な合成生物学を実施することが困難である。Huangたちは、凍結乾燥-無細胞(FD-CF)反応を利用して2つの常温保存可能な「単に水を加えるだけ」の合成生物学教育キットを開発した。この安価なキットは、視覚、嗅覚、および触覚を動員させるように設計されている。このキットは、教室及び他の低資源環境においてFD-CF反応を実施するための教育的基盤技術を確立する。(KU,kj,nk,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aat5105 (2018).

自然界の変動する選択 (Fluctuating selection in nature)

自然環境の変化は、一つの種内の個体に対してそれぞれ異なる選択パラメータをとらせることが出来る。セイタカミゾホオズキ(Mimulus guttatus)の個体数は、その土地での有効水分量と夏の干ばつ発生により制約を受ける。これは、植物の大きさによって決定される結実量と、受粉時期との間の、選択的な相反関係をもたらす。Trothたちは、187種の系統のセイタカミゾホオズキの配列決定と表現型決定を行い、植物と花の大きさ、および急速な開花に関連する遺伝的変異体を同定した。3年以上にわたって調査された野生個体群では、降雨パターンによって選択の大きさが変わった。このように、変動する選択が、この種における遺伝的変異を維持しているのかもしれない。(Sk,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 475

火星の南半球の極冠の下にある液状水 (Liquid water under Mars' southern ice cap)

火星は、固体または気体の形態の大量の水を宿していることが知られている。そして、表面の岩石は、遠い過去にこの惑星に液状水があったという明確な証拠を示している。現在の火星に液状水が残っているかどうかは、長い間議論されてきた。Oroseiたちは、Mars Express探査機からのレーダー測定を使用して、火星の南半球の極冠における液状水を探索した (Diezによる展望記事を参照のこと)。彼らは、Planum Australe 地域の固体の氷の下に、20キロメートル幅の液体の水の湖を発見した。その水は、おそらく溶解した塩と上にある氷の圧力によって凍結しないでいる。火星に液状水が存在することは、宇宙生物学と将来の人間による探査に影響を与える。(Wt,nk,kh)

Science, this issue p. 490; see also p. 448

結局、接触ということだ (It's all about your contacts)

膜接触部位は近年、細胞小器官間交信を私たちが理解する上で、前線に躍り出てきた。Wuたちは、これらの重要な構造が、細胞小器官の分裂および脂質輸送を含む、さまざまな重要機能の促進をどのように助けているのかについて概説している。小胞体と、さまざまな細胞小器官や原形質膜との間の接触に注目することで、細胞恒常性と生命体の健康におけるこれらの接触の一般性と重要性が明らかになる。(MY,ok)

Science, this issue p. aan5835

リーダーシップと責任 (Leadership and responsibility)

グループのリーダーシップは最も重要であり、社会のあらゆる側面に浸透している。リーダーシップの研究は、リーダーシップ選択の機構的または神経生物学的基礎を調べるために、計算モデル作成や神経画像処理技術を使用することが今まで殆どなかった。Edelsonたちは、リーダーシップを執るという選択がメタ認知プロセスに基づいていることを実験的かつ理論的に発見した(Fleming and Bangによる展望記事参照)。「責任嫌悪」のより少ない人はリーダーシップ点数が高かった。信号検出理論とプロスペクト理論を組み合わせた計算モデルは、この優先度の機構的理解を与えた。神経画像処理実験は、鍵となる理論的概念が、内側前前頭皮質、上側頭頂回、側頭頂接合部、および前島を含む、脳ネットワークの活性と結合性においてどのようにコードされているかを示した。(KU,ok,kj,nk,kh)

【訳注】
  • メタ認知:認知過程及びその関連事物(データや情報)に関する自分自身の知識をいう
  • プロスペクト理論:不確実性下における意思決定モデルの一つ
Science, this issue p. aat0036; see also p. 449

多重化された細胞内タンパク質地図を作成する (Making multiplexed subcellular protein maps)

免疫蛍光顕微鏡法を用いて細胞と組織内のタンパク質局在の可視化を可能にすることは、細胞生物学の発展とその先のための鍵であった。Gutたちは、複数の空間的規模にわたる生物学的試料において40を越える異なるタンパク質の検出を達成する大量高速処理方法を報告している。これは、数千の単一細胞におけるそれらの発現レベルの同時定量化を可能にする。即ち、これら単一細胞の個々の中の様々な区画、細胞小器官、および細胞構造へのそれらの詳細な細胞内分布を捉え、そしてこの情報の全てを多細胞性の文脈の中に置く。このような種々のスケールをまたぐデータ群は、異なる多細胞性、細胞性および薬理学的文脈に対する応答を測定し、新しい細胞状態を明らかにするために、細胞内タンパク質地図の包括的プロファイリングを達成するための人工知能に基づくコンピュータ・ビジョン・アルゴリズムに力を与える。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. aar7042

類似機能を持つ種を入れ替える (Interchanging species of similar function)

自然状態の下では、細菌は混じり合い、相互作用しあう群集を形成する。そのような群集がどのように組み立てられ、安定化するのかを理解することは、生物工学的応用から我々の腸に起きていることに至る様々な状況において重要である。Goldfordたちは、数百から数千もの配列変異体を含む、土壌と植物由来の細菌群集を採取した。これらの細菌群は、低濃度単一炭素源中で培養した後に継代培養され、それから、他方の代謝物を相互に与えられた。その後、結果の細菌群集が16SリボソームRNAに対して配列決定され、その結果が数学モデル化された。定常状態下で存続した細菌種の組成は再現性よく収束し、最初に接種された種組成ではなく、実験で課せられた条件を反映した。とはいえ、 粗い系統発生的観点では、分類学的基本形が存続した。(MY,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 16SリボソームRNA解析:リボソームの小サブユニットのRNA塩基配列を基にして、細菌・古細菌のの進化系統や、任意の環境中における群集構造を解析する方法の1つ。
Science, this issue p. 469

破壊された星からの拡大する電波ジェット (An expanding radio jet from a destroyed star)

星が超大質量ブラックホールに近づきすぎると、潮汐崩壊事象(tidal disruption event TDE)で星はばらばらになる。Mattilaたちは、合体しつつある一組の銀河であるArp 299で、突発天体を発見した。彼らは、それを TDE と解釈している。可視光は星間塵によって隠されるものだが、このTDE は多量の赤外線を放射した。電波観測では、物質がブラックホールに落ちるにつれて相対論的なジェットが生成され、ジェットは数年にわたり膨張していることが明らかになった。この結果は、超大質量ブラックホールの周りにどのようにジェットが形成されるかを明らかにし、多くの TDE が可視光領域の探査では見逃される可能性があることを示唆している。(Wt,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 482

歪ませるためのエピタキシャル法(An epitaxial route to strain)

歪みは、材料特性に劇的な影響を与えることがある。Zhangたちは、PbOとの複合材料中でエピタキシャル成長させることにより、PbTiO3材料に大きな歪みを導入した。2つの材料の境界では、それらの通常は異なる格子定数が一致させられ、その歪みが生じた。結果として、電場が存在しない状態でさえ、このPbTiO3薄膜は非常に大きな電気分極を示した。この方法は、他の機能材料の作成に適用できるかもしれない。(Sk,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 494

十分だが多すぎない幹細胞 (Enough but not too many stem cells)

植物の茎頂分裂組織では、適度の数の幹細胞が、分化組織を組み立てる細胞の安定供給を生み出す。幹細胞が少なすぎると、植物は成長できない。多すぎると成長は暴走する。Zhouたちは、幹細胞増殖の制御を分析した。彼らは、HAIRY MERISTEMタンパク質がWUSCHEL(WUS)が機能できない領域を規定するのだが, この領域を超えるとWUSが拘束されずに幹細胞増殖を促進することを見出した。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 茎頂分裂組織:植物成長点である茎頂の分裂組織。未分化な細胞を維持したまま、遺伝的に決定されているプログラムに則って周縁部の細胞を器官分化に向けて送り出し続ける。これにより、植物の地上部組織が形成される。
  • HAIRY MERISTEM:WUSと共同で茎頂分裂組織の生成を制御する転写調節因子。
  • WUS:植物成長点である茎頂の分裂組織で成長を停止させないよう、幹細胞維持に作用する転写因子タンパク質。
Science, this issue p. 502

カルシウムに対するチャネル (A channel for calcium)

細胞質基質とミトコンドリア間のカルシウム濃度の正しい平衡を保つことは、細胞生理にとって必須である。 ミトコンドリア・カルシウム・ユニポーター(MCU)と呼ばれるカルシウム選択性チャネルは、ミトコンドリア中へのカルシウム流入を仲介する。Yooたちは、アカパンカビ(Neurospora crassa )由来のMCUの高分解能構造を報告している。このチャネルは、可溶性領域と膜領域との間で異なる対称性を持つ4つのMCUプロトマーによって形成される。突然変異による解析と合わせて、この構造は、チャネル内の2つの酸性環がカルシウムの選択性をもたらすことを示唆する。(Sh,kj,kh)

【訳注】
  • 細胞質基質:細胞質から細胞内小器官を除いた部分
  • プロトマー:タンパク質1分子が数個のサブユニットから成る場合、そのサブユニットの各の1個をさす
Science, this issue p. 506

病原体耐性のためにコムギを改変する (Altering wheat for pathogen resistance)

コムギは世界的に1人当たり約20%のカロリーとタンパク質を提供しているが、今日栽培されているこのえり抜きの栽培品種は、貧弱な病原体耐性に悩まされている。これは、新たに出現した有害生物がコムギの収穫に大きな被害を与えるので、食料安全保障に関する懸念を招いている。WulffとDhuggaは展望記事で、交雑や遺伝子組み換えにより、野生コムギ由来の病原体耐性遺伝子をえり抜き品種に導入するさいの課題と可能性を議論している。この取り組みは、この重要な食料資源の収穫を高めて維持することを可能にするはずである。(MY,KU,kh)

Science, this issue p. 451

何故、海草藻場は守られねばならないのか (Why seagrass meadows should be protected)

海草は世界中の沿岸に沿って見られるが、人間活動の脅威の下にある。展望記事において、Cullen-UnsworthとUnsworthは、海草がたくさんの重要な機能をもっていることを説明している。例えば、海草は多様な海洋生物種、多数の商業漁業種などの生息地を供給しており、大量の炭素を蓄積している。海草藻場の損失はこのように、炭素排出量の増加の原因となり、生物多様性や食料安全保障の脅威となるかもしれない。海草藻場の規模と特性に対する研究は保全努力の情報を提供するのには役立つが、このような重要な生態系の更なる損失を避けるために時間が一番重要である。(Uc,KU,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 446