AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science November 24 2017, Vol.358

地球全体の夜が明るくなる (Brightening nights across the globe)

人工照明による夜間の暗闇の減少は、よく文書化された生態学的・社会学的な結果をもたらす。 過剰な屋外照明は、地上からの光学望遠鏡による天体観測の品質もまた落としている。 今や衛星のセンサー技術は、野外照明が世界全体でいかに変化しつつあるのかを反復観測が明らかにするところまで良くなってきている。 それで、Kyba たちは悪化を続けている問題について実証している。 人工的に屋外照明された地球の面積は、既に照明された地域における屋外照明の輝度と同様、年2 % 以上の割合で増加している。(Uc,MY,kj,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1701528 (2017).

霊長類の脳を成功させる原因 (The makings of the primate brain)

非ヒト霊長類の脳はヒトの脳と似ているが、両者の間の認知能力の差は、表面的な類似性が全体を捉えていないことを教えている。 Sousa たちは、トランスクリプトソームと組織学的分析を重ね合わせ、何が、ヒト脳を非ヒト霊長類の脳と違ったものにしているのかを調べた。 転写因子をコードしている遺伝子のような幾つかの発現変動遺伝子は、転写プログラムを変える可能性がある。 発現が変動する他のものは神経調節系に関連するものであった。 さらに、ヒトの新皮質で見つかるドパミン作動性介在ニューロンは、非ヒトであるアフリカ類人猿の新皮質には存在しなかった。 ニューロンでの転写プログラムのそのような相違が、さまざまな神経発達障害の根底にあるかもしれない。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • トランスクリプトソーム:ここでは、ある生物個体や、組織、細胞の転写産物(mRNA)の全体像を定量的あるいは定性的に把握することで、対象とする遺伝子発現の全体像を見ようとする研究手法のことを言っている。
  • 発現変動遺伝子:発現の強度や時間が平均と比べて有意に差がある遺伝子。
  • 介在ニューロン:中枢神経系に存在し、比較的短い軸索を持ち、軸索の分布範囲が所属する部位に限局し、近傍の神経細胞のみと情報交換を行うニューロンのこと。
Science, this issue p. 1027

正確なトランスクリプトーム工学 (Precise transcriptome engineering)

疾病関連転写物を修正する効率的かつ正確な RNA 編集は、遺伝病治療に役立つものと大きな期待をもたれている。 Cox たちは、タイプVI の CRISPR-Cas 系のエフェクターである Cas13b の能力を利用して、特定の RNA を直接に標的とした(Yang と Chen による展望記事参照)。 彼らは、Cas13b を ADAR2 のアデノシン・デアミナーゼ・ドメインと融合させ、合理的タンパク質工学を用いて、結果の酵素を改善した。 この手法は、RNA ノックダウンと RNA 編集プラットフォームを造り、哺乳類細胞において効率的かつ特定の RNA の枯渇と修正を可能にした。(KU,MY,kj,kh)

【訳注】
  • トランスクリプトーム:細胞中に存在するすべての mRNA、あるいはその転写物を言う。
  • エフェクター:タンパク質(特に酵素)に選択的に結合して、その機能を促進または阻害する小分子のこと。
  • ADAR2:adenosine deaminase acting on RNA type 2
  • ノックダウン:遺伝子そのものを破壊するノックアウトと異なり遺伝子の転写量を減少させる操作。
Science, this issue p. 1019; see also p. 996

寸法規模全体での挙動普遍性 (Behavioral universality across size scales)

ガラス状材料は、原子水準であろうと、ずっと長い距離の規模であろうと、長距離秩序の欠如によって特徴づけられる。 しかし、それらの挙動の共通性は、これらの異なる規模において、どの範囲まで維持されるのであろうか。 Cubuk たちは、実験とシミュレーションを用いて、7 桁にわたる長さを通じての普遍性を示した。 そのような系での粒子の再配列は、粒子直径数個程度の欠陥が介在して成立する。 この再配列は、材料の柔軟性と降伏挙動に相関する。(Sk,MY,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 降伏挙動:金属などで応力に対する歪みを示す関係。
Science, this issue p. 1033

陽子の磁気モーメントを確定する (Nailing down the proton magnetic moment)

電荷符号反転、空間反転、時間反転、の3つ変換を同時に受けた場合には、基本的物理法則は変わらないと信じられている。 この電荷・偶奇性・時間の反転(CPT)対称性を確かめるには、陽子のような粒子の基本的特性を高精度で知ることが望ましい。 Schneider たちは、二重イオントラップを用いて、単一捕捉陽子の磁気モーメントを 0.3 ppb の精度で決定した。 CPT 対称性の厳密な検証のために、反陽子の磁気モーメントを同様の精度で計測することが今や必要である。(NK,MY,nk,kh)

Science, this issue p. 1081

ネットワーク科学では、変化は良いものだ (In network science, change is good)

歴史的には、ネットワーク科学は、ノードが永久的なリンクによって接続されている静的ネットワークに焦点を当てていた。 しかし、タンパク質間相互作用からソーシャル・ネットワークに至るまでのネットワーク・システムでは、リンクは変化する。 Li たちは、永久的なリンクは、システムの制御を容易にすると思われるかもしれないが、一時性は、実際のネットワークとシミュレーションによるネットワークとにおいて有利であることを示している。 一時的なネットワークは、より効率的に制御することができるので、対応する静的なネットワークよりも必要なエネルギーは少なくてすむ。(Wt,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 1042

TAPBPR-MHC I 複合体の2つのスナップショット (Two snapshots of the TAPBPR-MHC I complex)

細胞傷害性 CD8 陽性 T 細胞は、主要組織適合複合体クラス I(MHC I)によって提示される抗原ペプチドを精査することで、感染細胞とがん性細胞を認識する。 ペプチドの結合と交換は、シャペロン・タパシンと TAPBPR によって仲介される一連の事象において小胞体中で生じる(Cresswell による展望記事参照)。 Thomas と Tampe は、MHC 分子を安定化するために光開裂可能な高親和性ペプチドを使用することで、TAPBPR-MHC I 編集複合体の結晶構造を解明した。 Jiang たちは、TAPBPR がいまだ結合可能な切り詰められたジスルフィド結合ペプチドが存在する MHC I 分子を結晶化した。 これらの相補的なスナップショットは、シャペロンがペプチドを含まない MHC I 分子の溝を安定化させるという動的過程を明らかにする。 これは、MHC I がペプチド候補を試してみるのを助け、高親和性抗原ペプチドの豊富なペプチド目録の作製を促進する。(KU,kh)

【訳注】
  • シャペロン:タンパク質の折りたたみや複合体形成を助けるタンパク質。
  • タパシン:MHC クラス 1 複合体のメンバーで、TAP(transporter associated with antigen processing)ペプチド・トランスポーターと MHC クラス 1 分子を架橋させる。
  • TAPBPR:TAP-binding-protein-related
Science, this issue p. 1060, p. 1064; see also p. 992

観察された選択に基づいて評価を順位づける (Ranking valuations on the basis of observed choices)

二つの目標間で選択せざるを得ない場合、我々は、なすべきことを決定する前に、必要な行動のコストと比較した目標達成の利益を見積もる。 これはまったく単刀直入な推論だと思われ、他人にもこの推論を適用できることがわかったとしても驚くべきことではない。 つまり、よりコストのかかる行動を必要とする目標を選択したと考えられる人は、その目標をより高く評価しているに違いない。 驚くべきは、Liu たちの報告によれば、言語習得前の子供も同じ方法で推論することができることだ。(Sk,nk,kh,kh)

Science, this issue p. 1038

二受容体の物語 (A tale of two receptors)

キメラ抗原受容体(CAR)T 細胞療法に関する爆発的な研究増加にもかかわらず、ほとんどの前臨床試験は、免疫不全マウスに形質導入されたヒト T 細胞を用いている。 CAR 活性が T 細胞受容体(TCR)との共業によってどのように影響されるかを決定するために、Yang たちは、免疫適格性マウスにおいて CD19 と遺伝子導入 T 細胞を標的とする CAR を使用した。 TCR 抗原への CD8 陽性 CAR T 細胞の暴露は、T 細胞の疲弊、アポトーシス、および治療効果の低下をもたらした。 この現象は、CD4 陽性 CAR T 細胞では観察されなかった。 したがって、T 細胞生物学の考察は、CAR T 細胞治療をさらに改善できるかもしれない。(KU)

【訳注】
  • キメラ抗原受容体(CAR)T 細胞療法:ガン患者から採取された T 細胞の受容体に、遺伝子操作によりガン抗原(例えば CD19)を認識する抗体遺伝子を導入し、培養した後に、再びガン患者に戻す治療法。
  • 形質導入:ファージやウイルスを用いた遺伝子導入。
  • 免疫適格性:抗原を認識して抗体を作る能力があること。
  • T 細胞の疲弊:腫瘍抗原に繰り返し暴露されると T 細胞が活性を失うこと。
Sci. Transl. Med. 9, eaag1209 (2017).

光遺伝学的手段の内部動作 (The inner workings of an optogenetic tool)

チャネルロドプシンは、そのゲート開閉が光によって制御される膜チャネル・タンパク質である。 その本来の環境において、チャネルロドプシンは緑藻類が光に反応して動くことを可能にする。 ニューロンにおけるその発現は、光遺伝学として知られる方法であり、神経活動の正確な制御を可能にする。 Volkov たちは、最も広く使用されている光遺伝学的手段であるチャネルロドプシン 2 の高分解能構造を、開口状態の寿命がより長い変異体の構造とともに記述している(Gerwert による展望記事参照)。 光活性化は、複雑な水素結合ネットワークを揺り動かして膜チャネルを開く。 その構造は、より良い光遺伝学的手段を設計するための基礎を提供する。(KU,MY,nk,kh)

Science, this issue p. 10.1126/science.eaan8862; see also p. 1000

反磁性を電流で調整する (Tuning diamagnetism with current)

材料の特性は、化学的不純物添加、磁場、あるいは圧力のような、いろいろな手段で調整可能である。 Sow たちは、小さめの密度の電流を用いて、モット絶縁体である Ca2RuO4 を、半金属に変化させた。 同時に、その反磁性応答(外部印加磁場に対抗する能力)は、他のどの非超伝導材料よりも高い水準に上昇した。 この強力な実験用調整つまみとしての電流の使い方は、他の同様な材料にも応用可能かもしれない。(Sk,kh)

【訳注】
  • モット絶縁体:結晶内を運動する電子の間のクーロン反発力による電子相関に基づいて生じる絶縁体。
  • 半金属:伝導帯の下部と価電子帯の上部がフェルミ準位をまたいでわずかに重なり合ったバンド構造を有する物質。
Science, this issue p. 1084

柔軟性のあるゼオライトでエチレンを精製する (Purifying ethylene with flexible zeolites)

エチレンは多くの化学品とポリマーに対する主要原料であるが、その製造には、エネルギー消費型工程である、エタンとの深冷分離を必要とする。 理論的には、純シリカ・ゼオライトは、パラフィン類からのオレフィン類の分離にうまく適合している。 Bereciartua たちは、非常に微細な孔を持つ純シリカ・ゼオライトを合成した。 これは、静的状態では、パラフィン類とオレフィン類のどちらも取り込まない。 しかしながら、分子動力学計算は、このゼオライトの細孔は柔軟であるはずだと示唆した。 実際、吸着競合実験でこのゼオライトは、エチレンとエタンの混合流からエチレンを優先的に吸着した。(MY,ok)

【訳注】
  • 純シリカ・ゼオライト:ゼオライトのうち、骨格構造がアルミニウムを含まず、二酸化ケイ素のみからなるゼオライトのこと。
  • パラフィン類:飽和基のみからなる鎖状炭化水素化合物。
  • オレフィン類:炭素-炭素二重結合を有する鎖状炭化水素化合物。
Science, this issue p. 1068

トポロジカルな起源を持つ流体の波 (Fluid waves with topological origins)

物質の境界から生じるトポロジカル効果は、固体物理学ではよく知られており、トポロジカル絶縁体の基礎となっている。 Delplace たちは、類似のトポロジカルな起源をもつように見える大気と海洋の波について記述している(Biello と Dimofte による展望記事参照)。 この波が存在するのは、地球の回転が対称性を破壊する性質を有するためであり、これは気候系に対してある固定的なトポロジカルな拘束を課すことを可能としている。 これらの知見は、多種多様な地球物理学的および天体物理的な流れを理解するのに有用であろう。(Wt,kj,kh)

Science, this issue p. 1075; see also p. 990

メタマテリアルでねじられる (Getting twisted with metamaterials)

古典的な固体力学の概念では、外力に応じる変形は、材料の自由度の拘束により制約されている。 例えば、あなたがある材料を押した場合、その応答でその材料がねじれるとは思わない。 Frenzel たちは、押されると右や左に大きくねじれる力学的メタマテリアルを設計した(Coulais による展望記事参照)。 巨視的材料に対するこの種の対掌性の設計は意外であるが、この結果は、特異な変形挙動を持つ材料の開発に対して、より一般的な方法を指し示している。(MY,ok,kh)

【訳注】
  • メタマテリアル:構造設計により、自然界にはない振る舞いをとるようになった材料や物質構成のこと。
Science, this issue p. 1072; see also p. 994

ルビジウムを量子縮退に詰め込む (Packing rubidium into quantum degeneracy)

アルカリ元素気体のような原子気体が極低温に冷却されると、それらは量子縮退の状態に達することが可能であり、その量子特性が前面に現れる。 この過程においては、一番最後の段階は気化冷却であり、そこでは最も熱い原子を量子縮退気体から離脱させる。 Hu たちは、気化冷却段階を回避し、より速く、そして原子損失のより少ない手順を考え出した。 この方法は、87Rb 原子の気体が保持された光格子のレーザー光を、ガス密度が次第に高くなるように反復的に操作すること、に基づいている。この方法は、他の種類の原子にも広く応用可能であろう。(Sk,nk,kh)

【訳注】
  • 縮退:対称性により、2つ以上の異なったエネルギー固有状態が同じエネルギー準位をとること。
Science, this issue p. 1078

溶解無機炭素の固定者が明かされる (Dissolved inorganic carbon fixers revealed)

海のほとんどは暗闇である。 それでも、この惑星の大部分の炭素循環が起きているのは、光合成用の太陽光から隔たった、この暗闇の中である。 Pachiadaki たちは、分類学上のある門に属している亜硝酸酸化細菌が、中深海の海洋で溶解無機炭素の主要固定者であることを示している。 著者たちは、海洋原核生物の何千もの単一増幅ゲノムの配列を決定した。 そして、真正化学合成独立栄養細菌を、炭水化物を輸送できないものと、亜硝酸酸化還元酵素を発現するものの、30 以上を同定した。 この酵素は電子を供給し、炭素を固定化する逆トリカルボン酸回路を駆動する。 ゲノムの多くは、アンモニアと他の基質を産生する能力を持っていて恐らく亜硝酸産生型の代謝を持つ相手に栄養を与える、微生物の存在もまた示唆する。(MY,kh)

【訳注】
  • 化学合成独立栄養細菌:無機化合物(硫化水素、アンモニア、2 価鉄イオンなど)を酸化してエネルギーを得る細菌。
  • 逆トリカルボン酸回路:一部の細菌が持つ、二酸化炭素と水から有機化合物を作る化学反応回路のこと。
Science, this issue p. 1046

mRNA 3'末端処理のための構造的基礎 (Structural basis for mRNA 3′-end processing)

真核生物の mRNA 3' 末端処理機構は、転写機構と相互作用し、mRNA 基質上にポリアデニル化配列を付加する。 Casanal たちは低温電子顕微鏡、質量分析、および生化学的再構成を用いて、mRNA 3' 末端処理機構が、ヌクレアーゼ、ポリメラーゼおよびホスファターゼのモジュールへと組織されることを示した。 その複合体のポリメラーゼ・モジュールは、RNA 基質と補助因子をまとめるためのハブとして機能して、転写と協調して効率的かつ制御されたポリアデニル化を達成する。(KU,MY,kj,kh)

Science, this issue p. 1056

媒介生物の蔓延を防いで、病気をやっつけろ (Control the vector, beat the disease)

マラリア、リーシュマニア症、デング熱のような感染症は媒介昆虫により伝染する。 展望記事で Hemingway は、これらの生物媒介性疾病を蔓延防止する上での、殺虫剤の役割に対するありがちな過小評価に光を当てている。 よく用いられる殺虫剤に耐性を持つ昆虫の出現は、病気蔓延防止の努力を損ねるが、新規殺虫剤の開発者はこれを上市しようとする際に、多くの障害に直面している。 この問題は、殺虫剤処理した蚊帳に対して特に切実である。 併用による新規な殺虫剤導入は、耐性発現の可能性を低くするだろう。 世界保健機構の指導と勧告に対する効率化された作業が、そのような処置を迅速化するのに役立つかもしれない。(MY,kh)

【訳注】
  • リーシュマニア症:熱帯・亜熱帯・南ヨーロッパなど 90 カ国以上の地方で広く見られ、サシチョウバエ類の吸血でトリパソーマ科原虫に感染することで発症する。
Science, this issue p. 998

宿主RNAがウイルス複製の促進を助ける (Host RNA helps promote viral replication)

ウイルスは生存のため、宿主の代謝網を利用する。 Wang たちは、マウスとヒトの細胞両方において、多くのウイルスの複製を増進する長鎖非翻訳 RNA(lncRNA)を特定した(Kotzin たちによる展望記事参照)。 細胞質で働くこの lngRNA の発現はウイルスにより誘発され、Ⅰ 型インターフェロンと無関係だった。 この lngRNA は、代謝酵素グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼに直接結合して、この酵素を刺激した。 このウイルスの戦略は、代謝機能障害とウイルス感染が関係する臨床疾患と関連性があるかもしれない。(MY,kh)

【訳注】
  • Ⅰ 型インターフェロン:ウイルス感染で誘導される抗ウイルス系のサイトカイン。
  • グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ:すべての生物体内に存在し、窒素代謝やアミノ酸合成に関わる酵素の1つ。
Science, this issue p. 1051; see also p. 993

核は線維症に向かうスイッチを切る (A nuclear off-switch for fibrosis)

CD44 は細胞外基質成分であるヒアルロン酸の受容体である。 CD44 の標準アイソフォームは、線維症を促す筋線維芽細胞の分化を促進する。 対照的に、筋線維芽細胞分化の阻止または逆転は、もう一つの切り方でスプライシングされたアイソフォーム、CD44v7 / 8 に依存する。 Midgley たちは、ヒアルロン酸分解酵素であるヒアルロニダーゼ2(HYAL2)が、CD44 のスプライシングの決定に非酵素的役割を持つことを見出した。 抗分化因子に曝露されたヒト肺線維芽細胞において、HYAL2 は、CD44 前駆体 mRNA 上のスプライシング機構の成分を置換して、CD44v7/8 mRNA の産生を促進した。(Sh,MY,kj)

【訳注】
  • アイソフォーム:構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質。
  • スプライシング:DNA から写しとった遺伝情報のなかから不要な部分を取り除く分子的な編集作業。
Sci. Signal. 10, eaao1822 (2017).

腫瘍免疫は FIP200 なしでは悪戦苦闘する (Tumor immunity flounders without FIP200)

腫瘍微小環境は、エフェクター T 細胞と記憶 T 細胞の機能を損なうが、ナイーブ T 細胞に対するその影響は十分に理解されていない。 Xia たちは、自食作用の構成要素である FIP200 が、T 細胞によって仲介される抗腫瘍応答の促進に決定的な意味をもつことを示している。 卵巣癌患者とマウス腫瘍モデルでは、ナイーブ T 細胞のアポトーシス割合がより高く、自食作用が損なわれていた。 これは、FIP200 の選択的喪失と結び付けられ、それがアポトーシス促進因子と抗アポトーシス因子の平衡を崩した。 腫瘍由来の乳酸は FIP200 の発現を抑制し、その結果として強まったアポトーシスと弱まった抗腫瘍反応を引き起こした。(Sh,kj)

【訳注】
  • 腫瘍微小環境:腫瘍の周囲に存在して栄養を送っている正常な細胞、分子、血管など。
  • エフェクター T 細胞:B 細胞などの腫瘍抗原提示で分化・活性化した T 細胞。
  • ナイーブ T 細胞:抗原刺激をまだ受けてない T 細胞。
  • アポトーシス:あらかじめ遺伝子で決められたメカニズムによって自殺的に細胞が脱落死する現象。
Sci. Immunol. 2, eaan4631 (2017).