AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science November 17 2017, Vol.358

キンギョソウはどうやってその色を選択したのか (How the snapdragon chooses its color)

ある種のキンギョソウでは、マゼンタ色が地になっている黄斑が、最高の訪問場所であることをミツバチに教える。 近縁の亜種の花々は、主が黄色で、そこに目標であることを示すマゼンタの筋を持つ。 Bradley たちは、色模様を調節する遺伝子座を分析した。 この遺伝子座は、色素の生合成を抑制する小さな RNA の群をコードする逆位の遺伝子重複を含んでいる。 キンギョソウの亜種が共存するピレネー地方由来の花の分析は、自然淘汰がこの遺伝子座に作用していることを示している。(MY,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 逆位の遺伝子重複:ゲノム中にすでにある遺伝子が重複してゲノム中に作られ、作られた遺伝子の一方が、その相補配列をとり、元の配列に対して逆向きになっていること。 例えば 5'---TTACGnnnnnnCGTAA---3'。
Science, this issue p. 925

視界から次元を隠す方法 (How to hide a dimension from view)

次元圧縮は、先進的な弦理論の必須の構成要素であり、この世界を記述するのに用いられる余剰次元は、視界から隠される、つまり圧縮される。 Pendry たちは、特殊な光学特性を作り出すようメタマテリアルが設計される変換光学の概念を用いて、プラズモン構造において、圧縮された次元が可能であるかもしれないことを理論的に示した。 例えば、金属格子と周期的に不純物添加されたグラフェンを用いたシミュレーションでは、二次元構造が三次元材料の光学特性を示すことが明らかになった。 どう見ても、次元の一つが圧縮されているかのように見える。 この結果は、広帯域の光吸収体の設計において、実際的に応用できるかもしれない。(Sk,MY,ok,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 915

宇宙の陽電子の風変わりな起源 (Exotic origin for cosmic positrons)

いくつかの宇宙線検出器は、予想以上の陽電子が地球に到達していることを見出してきた。 一部の研究者は、これを暗黒物質粒子の消滅などのような風変わりな(exotic)物理学の徴候として解釈している。 他の研究者は、パルサーでの陽電子生成とそれに続く地球への拡散が関わるという、もっと平凡な説明を選んでいる。 Abeysekara たちは、高エネルギーの電子と陽電子によって生成された、2つの近接するパルサーの周りの、広がったガンマ線放射を検出した。 この広がった放射領域の大きさを用いて、パルサーによって生成された陽電子が宇宙空間を通してどの程度拡散したかを計算した。 その結果、それは、地球に到達する能力がないと判明した。 したがって、地球上で検出された過剰な陽電子は、隣接パルサー群よりももっと風変わりな起源を有しているに違いない。(Wt,MY,kh)

Science, this issue p. 911

リョコウバトの遺伝学 (Genetics of the passenger pigeon)

今は絶滅してしまったリョコウバトは、かつては地上で最多の脊椎動物の1つだった。 Murray たちは、その生息域内の異なる場所で見つかった4体のリョコウバト標本のゲノムを調べた。 彼らは、リョコウバトにおける集団の大きさ、ゲノムの構造と組み換え、自然選択の間の相互作用について述べている。 彼らは、遺伝的多様性の減少が、この鳥が人間の圧力に応答する道をほとんど与えず、このことが最終的に絶滅に追いやったと結論付けている。(MY)

【訳注】
  • リョコウバト:北アメリカ大陸東岸に棲息していたハト科の渡り鳥で、鳥類史上最も多くの数がいたと言われ、最後の保護個体が1914年に絶えた。
Science, this issue p. 951

転写活性化の構造基盤 (Structural basis for transcription activation)

細菌は、2つの独立した部類の動員機構を介して転写を開始できる。 Liu たちは、損なわれないクラスⅠ転写活性化複合体の低温電子顕微鏡的構造を決定した。 すべての成分の位置と向き、およびタンパク質-タンパク質とタンパク質-核酸の詳細な相互作用が、クラスⅠ機構をとおして、活性化因子がどのように DNA の転写開始配列と相互作用し、RNA ポリメラーゼを動員するのかを明らかにしている。 最近報告されたクラスⅡ転写活性化複合体とともに、この結果は、細菌の転写活性化に対する構造面での我々の理解を完全なものにする。(MY,kh)

Science, this issue p. 947

溶融金属中のメタンからの水素 (Hydrogen from methane in molten metal)

アンモニア製造や他の工業用反応に用いられる水素は、主にニッケル触媒上でのメタンの水蒸気改質により生産されている。 この高温工程では、温室効果ガスである二酸化炭素も放出する。 Upham たちは、溶融ビスマスに溶解されたニッケルを用いて、メタンを熱分解し、水素を遊離し炭素を形成した。 炭素は、溶融物表面に浮遊し、そこで除去可能である。 水蒸気改質触媒上での炭素形成は、通常、触媒を不活性化する副反応であるが、新工程では、炭素はそのまま回収貯蔵されるか、複合材料中に組み入れることができる。(Sk,MY,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 917

抗腫瘍応答を照らし出す (Lighting up antitumor responses)

樹状細胞(DC)ワクチンおよび全腫瘍細胞抗原ワクチンは、ガン治療としての有望性を示してきたが、最適でない抗原の提示とその結果の T 細胞の活性化により、制約を受けてきた。 Ye たちはマウスの皮膚に、 B16F10 黒色腫からの全腫瘍溶解物をメラニンと組み合わせて充填したマイクロニードル・パッチを貼り付け、このパッチを近赤外光照射に曝した。 この方法は、メラニンによる熱生成を促し、その結果、DC の抗原取り込みを高めた。この光誘発性の熱応答は、T 細胞の遊走と局部的な炎症性サイトカイン産生を高め、原発腫瘍と末梢における続発性腫瘍の両方を標的にするのに有効だった。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 樹状細胞による抗原ワクチン:キラー T 細胞への抗原提示能力を持つ樹状細胞にガン抗原を結合させ、キラー T 細胞によるガン細胞攻撃を可能にしたワクチン。
  • 全腫瘍細胞ワクチン:患者から取り出した腫瘍細胞をラボで不活化して作られたワクチン。?
Sci. Immunol. 2, eaan5692 (2017).

局所的な海面上昇の予測 (Predicting local sea level rise)

陸上の氷床の融解、特に北極と極地域における氷床の融解は、海面上昇に大きく寄与する。 これまであまりよく知られていないことは、氷床融解の位置が、特定の場所における海面上昇速度とどのように関連しているかである。 Larour たちは、大陸の氷床と氷河の流域地質図に基づいて、そのような予測を行う方法を開発した。 彼らの仕事は、融解すれば主要な港湾都市を氾濫させるであろう氷をかかえる、特に注意を要する地域の特定に役立つ。 そして、より一般的には、さらによい沿岸計画に情報を与えることになる。(Wt,MY,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1700537 (2017).

水素イオンはどのように回転力を与えるのか (How protons power rotation)

ミトコンドリア中でのアデノシン三リン酸(ATP)の合成は、大きな分子機械である、 F1F0 ATP 合成酵素によって成し遂げられる。 ミトコンドリア内膜を貫通するF0領域を通過する水素イオンの移送が、回転機構を介して F1 領域での ATP 合成を行わせる。 Guo たちは、電子顕微鏡法で決定された、出芽酵母の二量体 F0 複合体の高解像構造を提示している。 その構造は、水素イオンの移送がどのように回転力を与えるのかについての洞察を与え、F0 二量体がどのように膜を屈曲させて、ミトコンドリアにその特徴的なクリステを与えるのかを示唆している。(Sk,ok)

【訳注】
  • クリステ:ミトコンドリア内膜のひだ。
Science, this issue p. 936

ペプチド系の半導体 (Peptide-based semiconductors)

半導体に対して人は、不純物添加されたケイ素のような無機材料、もしくは、有機芳香族の高分子と小分子を思い浮かべる。 Tao たちは、自己組織型短鎖ペプチドに基づく半導体作製の進歩について総説している。 形成される構造は、一連の半導体特性をもたらす、広範囲な π 結合と水素結合を示している。 この特性は不純物添加またはペプチド配列の機能化によって調整可能である。 これらの材料は、生物学的半導体に光明を与える、言い換えれば生体適合性材料および治療材料を構築するための代替物を提供するかもしれない。(NA,MY,ok,kh)

Science, this issue p. eaam9756

停電における将棋倒し効果 (The domino effect in power failure)

停電はかなり局地的に起こる場合もあるが、他の場合には、同じに見える初期の停電が次々と広がり、大規模で損害の大きい電力系の機能停止を引き起こす場合がある。 Yang たちは、2008 年から 2013 年にわたるデータの標本に基づき、北米の電源ネットワークに対するモデルを構築した(D'Souza による展望記事参照)。 この観測された多段停電群は広範囲にわたったが、全ネットワーク要素のほんの一部、とりわけネットワーク内で最も密接につながっている一部が、多段的機能停止に対して脆弱であった。 もっと大規模の多段停電は、地理的に互いにより近接し、また脆弱な要素群とより近接して、停電が同時に生じることが引き金となる。(Uc,MY,ok,nk,kh)

Science, this issue p. eaan3184; see also p. 860

回転から螺旋へ (From spins to spirals)

光の偏光状態は、撮像用途や光通信に用いることができる。 光は、光角運動量を伝える渦の構造にすることもでき、この渦は、顕微操作と、光通信回線容量の向上に対して用いることが可能である。 Devlin たちは、偏光状態を角運動量を持つ状態へと変換する光用メタ表面変換器を与えている。 平面構造を持つコンパクトな素子中での、任意のスピン角運動量状態の光と任意の光角運動量状態の光の結合は、複雑な構造を持つ光場形成に応用できるかもしれない。(NK,MY,ok,kh)

Science, this issue p. 896

アフリカ人のゲノム解析と肌の色 (African genomics and skin color)

肌の色はヒト集団で異なり、薄い色の肌はより高緯度でのビタミン D の産生を最大にし、黒い色の肌は赤道地帯で UV 光から守り、選択の下にあると考えられている。 Crawford たちは、ヒトの肌の色調の幅を引き起こす遺伝子を特定するため、多様なアフリカ人集団にわたって全ゲノム分析を適用した(Tang と Barsh による展望記事参照)。 皮膚の発現型に機能を持ちそうな遺伝子変異体が特定された。 モデル生物との比較で、色素形成における進化的に保存された MFSD12 の機能が証明された。 ある世界的な遺伝子学的基準図を、肌の色に関連する対立遺伝子がどのように世界で移動したらしいかを, アフリカ内外でヒトが移動するのにつれて、たどるのに用いた。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. eaan8433; see also p. 867

電子物性を深く研究する (Delving deep into electronic properties)

材料のスペクトル関数は、その電子状態分布を運動量とエネルギーの関数として反映しており、その特性に関する豊富な情報を伝えてくれる。 しかしながら、特に表面の表面的測定手段が届かない系や絶縁体では、スペクトル関数を直接測定するのは大変である。 Jang たちは、電子が測定層からヘテロ構造の奥深くにある目的層の非占有状態へトンネル移動する、運動量(およびエネルギー)分解トンネル分光とよばれる方法を導入している。 その電子の運動量とエネルギーは厳密に制御されるため、測定されるトンネル確率は、目的系のスペクトル関数に比例する。(Sk,MY,kh)

Science, this issue p. 901

運転中の車輪に別の回転 (Another spin at the wheel)

NLR(nucleotide-binding domain leucine-rich repeat)タンパク質は、病原体に対する初期の自然免疫応答の重要な細胞内成分である。 微生物リガンドに結合した後、さまざまな NLR ファミリーのメンバーが集まり、巨大なシグナル伝達複合体(インフラマソーム)を形成し、それが炎症性サイトカインの分泌と細胞死を促進する。 Tenthorey たちは低温電子顕微鏡を用いて、リガンドが結合したインフラマソームの集合を可視化した。 彼らは、NLR ファミリーのひとつ、NAIP5 がフラジェリンに結合すると、NAIP5 は立体構造を変化させ、別の NLR ファミリーである NLRC4 の単量体の回転を引き起こし、さらなる NLRC4 動員を触媒することを発見している。 NAIP5 は閉じた対称的「車輪」という以前の説明とは対照的に、フラジェリンとの立体的な衝突が結果として部分的に開いた構造をもたらす。 さらに、NAIP5 はそのリガンドの複数領域を認識するので、NAIP5 の回避を可能にするフラジェリンの変異は、細菌の進化的適応を損なう。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • フラジェリン:細菌の鞭毛を構成するタンパク質の 1 種
  • NAIP5:NLR family, apoptosis inhibitory protein 5
Science, this issue p. 888

ルビジウム原子の三つ組を追跡する (Tracking a trio of rubidium atoms)

交差分子線は、いかに量子力学が化学反応を支配しているかについて、数十年もの価値ある知識を提供してきた。 それにもかかわらず、この技術は一般に、二体間の衝突に制限されている。 Wolf たちは、完全な量子状態の分解能で、三体系に関して報告している。 彼らは、光学的に捕捉した場所でルビジウム原子を超低温まで冷却することにより、第三の原子との衝突で安定化させた、二量体形成を観察し、関与する原子の初期状態への生成結果の状態の正確な依存性を抽出することができた。(Sk,ok,kh)

Science, this issue p. 921

光電子放出の時計を置き直す (Resetting the clock on photoemission)

光のアト秒パルスができる特質によって、原子内で起きている最速の電子的過程の幾つかに近づくことができる。 原子が高エネルギー光子を吸収して電子が脱出する光電子放出過程の時間的動力学を追跡することで、初期の実験的知見とその後の理論モデルとの間の矛盾が明らかになった。 Isinger たちは、ネオン原子の光電子放出過程に対する種々の寄与を説明し区別できる、超高速過程を提示している。 この発見は、これまでの矛盾を説明できる「電子振り混ぜ」過程を明らかにし、7年間の議論に終わりをもたらす。(Sk,MY,ok,kh)

Science, this issue p. 893

グラフェン二重層中で電子と正孔を対にする (Pairing up electrons and holes in bilayer graphene)

固体中の電子と正孔が束縛状態で対になった励起子は、光電子工学的応用に利用できる。 励起子のエネルギーを調整できることは、そのような素子に対し機能的な柔軟性をもたらすであろう。 調整可能な励起子はグラフェン二重層中で形成可能であると予測されてきたが、それを実験的に観測することは困難であった。 Ju たちは、六方晶系の窒化ホウ素層の間に挟まれた高品質のグラフェン二重層試料を用いて、この材料中の励起子を観察した。 励起子エネルギーは、ゲート電圧を制御することにより広い範囲にわたって調整された。(Sk,kj,kh)

Science, this issue p. 907

多すぎても少なすぎても、いい加減よりは良い (Too much or too little—better than some)

デング熱はジカ・ウイルスに似た蚊伝播性フラビウイルスによって引き起こされる。 両方のウイルスとも、悲惨な後遺症のある重篤な疾患をヒトに引き起こすことがある。 宿主の免疫応答が疾患をさらに悪化させうることが、ヒトにおいて疑われ、動物モデルで示されてきた。 Katzelnick たちは、デング・ウイルスに曝されたニカラグアの子供たちについての長期研究からのデータを調べた(Feinberg と Ahmed による展望記事参照)。 彼らは、抗体依存性の疾患亢進が特定の抗体濃度領域で生じることを確認した。 低濃度の抗体は疾患を亢進せず、中間濃度が悪化させ、高抗体価は重篤な疾患を防いだ。 これらの結果は、フラビウイルス・ワクチンに対して重大な意味を持つ。 実際、最近のワクチン治験は、以前にウイルス暴露されたワクチン被接種者の何人かに重症疾患の証拠を示してきた。(MY,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 929; see also p. 865

がん細胞がアンモニアを復職させる (Cancer cells put ammonia back to work)

代謝廃棄物とみなされることが多いアンモニアは、新しいアミノ酸を製造するために再利用させることができる。 急速に増殖する細胞は、細胞外窒素を産生する。 Spinelli たちは、15N の代謝追跡法を用いて、細胞外アンモニアの運命と 200 成分以上の窒素代謝物への組み入れを追跡した(Dang による展望記事参照)。 アンモニアの蓄積は、還元的アミノ化でグルタミン酸デヒドロゲナーゼが働くことを可能にし、その結果、アンモニア窒素のアミノ酸への組み戻しを可能にした。 マウスの実験でも、グルタミン酸、アスパラギン酸、およびプロリンへのアンモニアの組み入れが示された。(Sh,MY,nk,kh)

Science, this issue p. 941; see also p. 862

小頭症に向かっての変異 (Mutation for microcephaly)

ヒトのジカ・ウイルス感染症は、1947 年以来知られている。 ジカに関連する小頭症と神経病理は、最近報告されたのみで、アメリカ大陸でもっとも頻繁である。 Yuan たちは、ウイルス・ゲノムの最近の安定した突然変異を研究し、それらを遺伝子操作し低病原性祖先株に組み込んだ(Screaton と Mongkolsapaya による展望記事参照)。 ウイルス膜タンパク質の前駆体における単一のアミノ酸置換(セリンからアスパラギン酸、S139N)は、妊娠マウスの症状を悪化させた。 復帰突然変異(N139S)は毒性が低かった。 2015 年にウイルスがブラジルに飛び火する前に、S139N 突然変異は 2013 年にフランス領ポリネシアで発生した。 生体外では、このアミノ酸変化は、マウスとヒトの神経前駆細胞に対するこのウイルスの感染力をより強くし、アポトーシスを促進した。 したがって、妊娠中感染の恐ろしい後遺症は、ウイルスの単純な突然変異の結果である可能性がある。(Sh,MY,kj,kh)

Science, this issue p. 933; see also p. 863

新しい標的、より優れた白血病マウス・モデル (New target, better leukemia mouse model)

T 細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)は、しばしば、Notch1 をコードしている遺伝子の変異によって引き起こされる。 この Notch1 は細胞間接触によるシグナル伝達を仲介する。 しかしながらこれらの変異を発現しているマウスは、T-ALL を発病しないことが頻繁である。 Pajcini たちは、転写因子 MAFB が、マウスとヒトの T-ALL 細胞で、Notch1 がシグナル伝達で標的としている遺伝子の発現を増加させることを見つけた。 MAFB の発現は、マウスにおいて、Notch1 変異による T-ALL の発生を高めた。 Notch1 は、さまざまな生体組織を維持するのを助けているため治療目的で抑制できないから、MAFB を抑制する方法の開発は、白血病患者に対するさらに標的が絞られた治療法を提供するかもしれない。(MY,kj,nk,kh)

【訳注】
  • T 細胞急性リンパ性白血病:急性リンパ性白血病の約 15 %をしめ、骨髄においてリンパ芽球が増殖し、正常な造血が損なわれる造血器の悪性腫瘍性疾患。
  • Notch シグナル伝達経路:細胞間の情報伝達機能を担い,細胞運命,細胞分化などを制御しているシグナル伝達経路。
  • 転写因子:DNA 上の転写制御する領域に特異的に結合し、DNA の遺伝情報を RNA に転写する過程を促進、あるいは抑制するタンパク質。
Sci. Signal. 10, eaam6846 (2017).

環境によりやさしいプラスチックへの筋道 (Routes to greener plastics)

プラスチックは、主に化石燃料資源から製造され、短期間の使用後に廃棄されることが多い(MacArthur による解説参照)。 展望記事で Hillmyer は、より持続可能なプラスチックに向けて次の2つの道筋について議論している。すなわち、(i) 植物資源からの汎用ポリマー用モノマー構成単位の作製、(ii) 既存の化石燃料起源製品と競合できる植物起源の新しいポリマーの創出、である。 関連する展望記事において、Garcia と Robertson は混合プラスチック廃棄物のわずかな割合だけしか再生されない理由を調べている。 彼らは、さらなる再生のための3つの主要段階を強調している。 すなわち、混合プラスチック再生の進歩、化学物質再生手法に必要なエネルギーの削減、そして再生可能なプラスチック範囲の大幅な拡大である。 3つ目の展望記事では、Albertsson と Hakkarainen がプラスチック廃棄物削減における分解性ポリマーの可能な役割について検討している。(ST,MY,nk,kh)

Science, this issue p. 868, p. 870, p. 872; see also p. 843

免疫抑制のための MSC の犠牲 (MSC sacrifice for immunosuppression)

間葉系間質細胞(MSC)の移入は、その細胞が移入直後に検出できなくても、免疫抑制を誘発する。 MSC の免疫抑制機構は、多分に謎めいていた。 Galleu たちは今回、MSC のアポトーシスが重要であることを示唆している。 移植片対宿主病のマウス・モデルにおいて、細胞傷害性細胞は移入直後に MSC をアポトーシスさせた。さらに、MSC 治療に応答した患者由来の細胞は、MSC に対してより高い細胞傷害活性を有していた。 これらの知見は、患者への移入前に MSC 治療の可能性がありそうかどうかを選別できることを意味している。(KU,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 移植片対宿主病:臓器移植においてドナー側の免疫系がレシピエント側を攻撃して起こる合併症(拒絶症と逆)。
  • 細胞傷害性細胞:宿主にとって異物となる外来細胞を認識して破壊するリンパ球 T 細胞の一つ。キラー T 細胞と同じ。
Sci. Transl. Med. 9, eaam7828 (2017).