熱を感じるための敏感な皮膚 (Sensitive skin for feeling the heat)
温度を感知するクサリヘビの能力は非常に鋭いので、遠方から温血性の獲物を見つけることができる。これに着想を得て、Di Giacomoたちは、45 Kの温度範囲にわたり、10 mK までの温度差を検出できる、結合架橋したペクチンの薄膜を開発した。そのペクチン薄膜は、温度測定を可能としたまま薄膜を保護するような人工皮膚の中にうまく組み込まれた。(Sk,kh,nk)
AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約 |
温度を感知するクサリヘビの能力は非常に鋭いので、遠方から温血性の獲物を見つけることができる。これに着想を得て、Di Giacomoたちは、45 Kの温度範囲にわたり、10 mK までの温度差を検出できる、結合架橋したペクチンの薄膜を開発した。そのペクチン薄膜は、温度測定を可能としたまま薄膜を保護するような人工皮膚の中にうまく組み込まれた。(Sk,kh,nk)
顕微鏡観察技術の進歩は、液体セル中のような、より現実的な条件下で材料を研究することや、高速プローブを使用して動態をとらえること、などを可能にしようと狙っている。Fu たちは、液体セルを用いた透過型電子顕微鏡法を、超高速ポンプ・プローブ分光法と組み合わせ、ナノ・スケールの対象物の時間分解観察を行った(Baum による展望記事参照)。彼らは、連結した金ナノ粒子の形態対称性に伴う回転特性の変化をうまく捉えた。また、液体環境中で二粒子が互いに融合する際の動態も観察した。(Sk,MY,ok,kh,nk)
粥状動脈硬化、即ち血管中の脂肪斑の成長は高血圧や心臓発作をもたらすことがある。Luたちは、培養血管内皮細胞において、転写制御因子TFEBが、粥状動脈硬化の発生に寄与するプロセスである、酸化ストレスと炎症を減少させることを見出した。高脂肪食を与えられた時、血管内皮細胞中にTFEBを過剰発現させられたマウスは、同じ食事の同腹マウス対照群よりも動脈硬化病変の発生が少なかった。(KU,kh,nk)
最近、選挙結果の予測の基礎となる仮説には疑問が抱かれている。Kennedyたちは、85以上の国での650以上の行政選挙を検討し、二回の生の予想実験を行った。彼等は、経済動向から世論調査データに至るまで、理論的に重要とされた、可能性のある様々な予測因子を分析した。選挙は、利用可能なデータの不確実性にもかかわらず、およそ80~90%は予測可能であった。世論調査データは、予測を成功させるのに非常に重要であるが、系統的な偏りを修正する必要があった。意外にも、経済指標は、予測因子としては弱かった。データ源が改善・増大するにつれ、予測能力は向上すると期待される。(Wt,MY,ok,kh,nk)
Y形状分子における二つの等価な枝分かれ末端の一方のみを標的にすることは、触媒にとって特に難しい課題である。酵素は、タコのように分子全体をしっかり包み込むことでそうしているが、しかし酵素は小さな構造変化であっても対応できない場合もしばしばある。Wuたちは、イソ酪酸アミドを狙ったパラジウム触媒を合成し、オキサゾリン由来のキラル配位子を備えることで、イソプロピル基の一方のメチル基のみを正確に攻撃することができた。この反応は広範囲のアリール基やビニール基をパートナーとするカップリングにおいて、C-H結合をC-C結合にうまく置換した。(KU,MY,kh,kj)
ミトコンドリアは、細胞のエネルギー源であるATPを作り出す、真核生物の小器官である。それらは、ATPを作り出すのに必須の膜タンパク質のいくつかを符号化する、専用のリボソーム(ミトリボソーム)を有している。Desaiたちは、低温電子顕微鏡により決定された、構成ユニットが75の酵母のミトリボソームに対する高分解能構造を提示している。ミトリボソームは、現生細菌のリボソームと祖先を共有している。酵母のミトリボソームの構造と哺乳類のミトリボソームとの比較は、種特異的な機能を果たすために、それらがどのように異なる進化を遂げてきたかを示唆している。(Sk,kh,kj)
動物が目覚めているときの一般活動性や情報処理は,シナプスの強化を推進する。これが睡眠中ではシナプスの結合が弱まり相殺される(Acsádyによる展望記事参照)。De Vivoたちは連続切片走査電子顕微鏡を用い,瞬間凍結したシナプスの3Dイメージングにより,マウスの脳における軸索-樹状突起棘の界面や樹状突起棘頭部の容積を復元した。彼らは,睡眠後の界面の寸法が実質的に縮小することを観察した。この相対的変化の最も大きなものは弱い結合のシナプスで生じ,一方,強い結合のシナプスでは安定していた。Dieringたちは,シナプスが睡眠・覚醒周期で,シナプスのグルタミン酸受容体の変化を受け,それが即時型遺伝子により発現されるHomer1aによって駆動されることを見出した。覚醒している動物では,Homer1aは神経細胞に蓄積するが,高濃度のノルアドレナリンでシナプスから排除される。睡眠開始時にノルアドレナリンの濃度が下がり,それがHomer1aを興奮性シナプスに移動することを可能とし,シナプス結合を弱める方向に働く。(MY,kh,kj)
コンデンシン・タンパク質複合体は染色体分配と凝縮に重要である。このタンパク質は、DNA鎖を取り囲んで位相的に拘束する環状構造をしている。Wangらは、枯草菌コンデンシン複合体が環状染色体の二つの半環状部分をまとめて保持することを明らかにした(Sherrattによる展望参照)。この複合体はそれを、先ず個別のDNA二重鎖を取り囲み、次に二つの二重鎖を「手錠」でつなぎ合わせているらしい。この複合体は、DNAに沿って活発に移動してDNA二重鎖のつなぎ合わせを順に作成・拡大するように働き、これが染色体凝縮につながっている。(ST,MY,kh)
グラフェンや遷移金属ジカルコゲナイドのような二次元材料は、オプト・エレクトロニクスへの応用に対して強力な基盤材料を提供する。しかしながらこれらの材料が薄くなるにつれて、それらの電子的性質の特性決定が実験的難題となることがある。Lovchinskyらは、二次元材料の特性をナノメートル規模の核四重極共鳴分光法により調べるのに、ダイヤモンド中の原子様不純物を用いることができることを示している。原子程度までに薄い六方晶窒化ホウ素において、浅い窒素空孔の色中心を凝集操作することで、わずか数十個の核スピンまでのナノ規模集団に対する測定が可能となった。(NK,MY,ok,kh,nk)
組織の正常な構造と機能に向けて,細胞は増殖対分化に対する厳密な制御を行っている。創傷治癒の遅延や老化現象は増殖が少なすぎることから生じる可能性がある。逆に,ガンの発生は細胞増殖が過剰なことに関係している可能性がある。Asareたちは,表皮中で増殖と分化を均衡させる調節器を探した(GrunebergとBarrによる展望記事参照)。彼らは,表皮前駆体,その分化子孫,表皮ガンに対する転写産物の特徴の違いを観察した。ペルオキシソーム関連タンパク質Pex11bを欠乏した表皮前駆体は,分裂細胞にペルオキシソームを適切に分配しなかった。これが,二極化分裂を乱す有糸分裂の遅れを招いた。これらの事象は,娘細胞の運命を歪め,不良な皮膚障壁をもたらした。このように,ペルオキシソームの継承が,正常な有糸分裂や細胞分化に対して役割を担っているらしい。(MY,kh,kj)
DNA二重鎖の切断は、細胞死あるいはガンを避けるために効率的に修復されなければならない。切断末端は非相同末端結合(NHEJ)によって直接的に結合されるか、姉妹染色分体からの情報を用いる相同組み換えによってより正確に修復されるか、のいずれかが可能である。Sibandaらは、Ku80のC末端のペプチドに結合した、DNA修復機構の主要成分であるDNA依存キナーゼ触媒サブユニット(DNA−PKcs)の高解像度X線構造を示している。その構造は、Ku80がDNA末端を、修復のためにDNA-PKcs二量体に提供することや、Ku80の活性が単量体間の相互作用によって調整されることを示唆している。DNA-PKcs上の同じ結合部位を競合することのある、Ku80とBrCA1のいずれかの結合が、NHEJと相同組み換えのスイッチとなっているのかもしれない。(NA,MY,kh,kj)
全世界からの発議が、広大な領域にわたる森林が伐採された世界規模景観の回復を, とりわけ熱帯において、呼びかけている。展望記事においてHollは、森林の回復が数々の他の土地利用と競争せざるを得ない場所において、野心的な目標と現場の実情との間の分断について光をあてている。森林回復に関する多数の研究は小規模で行われてきており、それらの結果を適用することを困難にさせている。更に、生産的な農業景観の中で森林を回復させる試みはしばしば、その地域の抵抗に遭遇する。ブラジルの大西洋岸森林回復計画とコロンビアの例は、 生態と人類の繁栄目標を均衡させる森林景観回復実現手法が成功する方向を示している。(Uc,MY,kh,nk)
HIVのような急速に変異するウイルスの場合、複数の株を中和することができる抗体は、現実的な治療可能性を持つかもしれない。Williamsらは、HIV-1 gp41の膜近位外部領域(MPER)の一部を認識する広域中和抗体(bnAb)の起源を調べた。彼らは、記憶B細胞と血漿の両方から、MPERを認識するbnAbの類似したクローン系統を見出し、bnAbの供給源として血漿の実現可能性を強調した。これらの系統は、自己反応性が変異していない共通の祖先を共有しており、bnAbに向けての寛容性を乗り越えるに違いないことを示唆している。そして著者らは、血漿と記憶B細胞からのキメラ抗体を作り、ほとんどのHIV-1株を中和することに成功した。(Sh,kh,nk,kj)
正常な神経幹細胞は浸潤性が高く,脳腫瘍の治療を助ける。それは,神経幹細胞が腫瘍由来の走化性シグナルに対して反応し,神経膠腫に向かって自然に遊走するためである。しかしながら,患者から神経幹細胞を得ることは困難なことがあり,また,臓器提供者の幹細胞は,拒絶反応やその他の安全性の懸念を提起する。 Bagóたちは,正常なヒト皮膚・線維芽細胞を採り上げ,それを神経幹細胞へと分化形質転換することで,これらの危険性を回避する方法を見つけた。全過程は終えるまでわずか4日で,患者自己由来の神経幹細胞をもたらす。著者たちはこれらの幹細胞を作り、複数のマウス・モデルで,浸潤し効果的に脳腫瘍を治療することができた。(MY,kh,nk,kj)