AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science September 2 2016, Vol.353

犬脳内での言語表現 (Language representation in the dog brain)

何千年もの間、犬は人と共に生きてきた。このため人と犬は、仕事と娯楽両面において親密な意思疎通方法を作り上げてきた。Andicsらは、脳スキャン技術を用いて、犬がどのように人の言葉を処理しているのかを調べた。褒め言葉に対しては、左脳半球が強く反応し、抑揚については、右聴覚脳領域が違いを判別している。報酬領域は、言葉と抑揚がともに称賛的である場合にのみ活性化する。言葉の意味と抑揚を別々に分析して統合するための犬に存在する神経機構は, 言語が存在せずともこの能力が進化できることを示唆する。(NK,nk,kh)

Science, this issue p. 1030

デング熱のワクチン防御を識別する (Discerning dengue vaccine protection)

Sanofi-Pasteur社のデング熱ワクチンの臨床試験は、デング熱のサブタイプ間の複雑な免疫相互作用のせいで、完全な成功には至っていない。Fergusonたちは、公開されたフェーズ3の臨床試験からのデータを解析し、どのようにワクチンを配備すれば最善となるか、どのように病気増大の危険を最小限とするかを考案した。ワクチン接種は無症状の自然感染と同様の免疫学的効果を持っている。すなわち、ワクチン接種は血清学的陽性である人には予防を増進させるが、未接種者を後日の自然感染という潜在的に深刻な危険にさらす。したがって、定期的なワクチン接種を行う場合の成功は、対象グループ中の、それ以前にデング熱感染を経験していた比率に決定的に依存している。(Uc,MY,ok,kh)

Science, this issue p. 1033

シナプスに対する道標 (Signposts for synapses)

脳の発生には、正しい場所にニューロンを置くだけではなく、機能的回路のための正確な結合を構築する必要がある。生まれたばかりのマウスの脳において、Ohたちは、シナプス発生の正確な位置がどのようにして指定されるかを発見した。神経伝達物質 GABA (γ-アミノ酪酸) は、樹状突起棘の形成、固定場所の蓄積、そしてそれに引き続く GABA受容体の補充を誘発する。したがって、通常、成体の脳内で抑制性神経伝達物質として知られている GABAの遊離は、発生中の脳において、シナプスをまさにどこに構築するかを決める役目をする。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 1037

カリウム・チャネルのスナップ写真 (Snapshots of a potassium channel)

カリウム・チャネルは、細胞の内部と外部の間の適切な電荷の差を維持するのに役立っている。チャネルのカリウム選択性は、カリウム・イオンが一列で通過せざるを得ないほど狭い、細孔によって与えられている。カリウム・イオンがどのように細孔を通過しているのかについて、議論が重ねられている。Kratochvil たちは、超高速二次元赤外分光法を用いることにより、細孔中のイオンの瞬間写真を得た。それにより、糸を通したガラス玉のように、カリウム・イオンと水分子が、チャネル中の結合部位を交互に占めているらしい。(Sk,kh)

Science, this issue p. 1040

抗体はどのようにしてHIV-1を防ぐのか (How antibodies protect against HIV-1)

予防ワクチンは,HIV-1防止における大きな目標である.そのようなワクチンは,中和抗体を誘発して感染を阻止する必要がある.Liuたちは,中和抗体による防御の機構を理解するため,まず初めに,感染阻止が知られている抗体でアカゲザルを処置し,次に,サル順応型HIV-1を感染させた.その結果,生殖器感染の2,3日後に,サルの腸やリンパ節でHIV-1ウイルスのDNAやRNAが見出された.このことは,抗体が,ウイルス侵入部位だけではなく,体の中の複数の部位で,HIV-1ウイルスを阻止する可能性があることを示唆する.(MY,kh)

【訳注】
  • 中和抗体:抗原に結合し,抗原の毒性や活性を減退または消失させる抗体のこと
Science, this issue p. 1045

発散する応答を同一受容体で (Divergent responses, same receptor)

マクロファージは,トール様受容体(TLR)を含むパターン認識受容体で,感染や組織傷害を検知する.Piccininiたちは,マクロファージがどのようにして,細菌性産物リポ多糖(LPS)と細胞外基質成分テネイシン-C(ともにTLR4を刺激する)に反応するのかを調べた.双方の刺激はともに,共通した幾つかのシグナル伝達経路を活性化したが,LPSの刺激は,マクロファージに対して,細胞外基質成分の破壊を生じやすくさせ,一方,テネイシン-Cの刺激は,マクロファージに対して,細胞外基質成分の合成を誘起した.このように,同じ受容体を活性化するのであるが,多様に異なる刺激はそれぞれに適切な炎症性や組織修復性の応答をもたらし得るのである.(MY,nk,kh)

【訳注】
  • トール様受容体:病原体に関連する分子パターンを認識し,自然免疫を作動させるパターン認識受容体.マクロファージでは,細胞膜上や細胞内に発現している
Sci. Signal. 9, ra86 (2016).

木々がチベット高原に押し寄せる (Trees surge on the Tibetan Plateau)

非常に多くの因子が木の成長に影響するため、森林が地球規模の環境変動にどのように反応するかについての簡潔な考え方を展開するのは、ほとんど不可能である。チベット高原において加速しつつある木の成長が、その問題を探る機会を提供してくれる。Silva たちは、過去250年程度の期間の中で、最近になって成長が激化した理由を理解するために、チベットの木々の年輪中の炭素、酸素、および窒素の安定同位体を分析した。二酸化炭素濃度の上昇、水の利用効率の変化、および永久凍土の融解が、成長促進を説明するかも知れない。(Sk,kh)

Sci. Adv. 10.1126.sciadv.1501302 (2016).

シャツを脱ぐことなしに涼しく過ごす (Keeping cool without losing your shirt)

人々は、寒さの中で温かさを保持するために衣服を用いる。しかし、暑い時に涼しく過ごすための衣服は、どうすればよいのだろう? 課題は、人体からの輻射を通過させるが、可視光に対しては不透明である材料を見つけ出すことにある。Hsu たちは、これらの特性を併せ持つ、ナノ多孔性のポリエチレン織物を作り出した(Boriskina による展望記事参照)。その材料の重要な特徴は細孔の大きさであり、中赤外光に対してはほとんど透明でありながら、可視光を吸収するように調整可能である。その材料は透水性があり、強度があり、綿よりも肌をずっと涼しく維持する。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 1019; see also p. 986

銅触媒によるラジカルな中継 (Copper-catalyzed radical relay)

C-H結合の切断は、反応性の高い炭素ラジカルを作ることが可能で、それを用いて酵素は、その炭素中心に新たな結合を作ることができる。Zhangたちは、そのラジカルが自らの形成環境を逃れる際に、銅触媒が、ラジカルの反応性を精密に方向づけることもまた可能であることを示している。銅上のキラル配位子が CN基の非対称性付加反応を導き、医薬品の中間体として利用可能な高度に光学異性選択性のあるニトリル生成物を作る。(KU,MY,kh)

Science, this issue p. 1014

Dawnは準惑星ケレスを探査する (Dawn explores the dwarf planet Ceres)

2015年3月、Dawn宇宙船がケレス(セレス)を回る軌道に到着した。このケレスは、準惑星であり、小惑星帯の中では最大の天体である。続く何か月かにわたって、Dawnのチームは、ケレス表面の広範囲な地図を作製し、その特性を探査した。Russell たちは、ケレス全体の特性の概観と, 短寿命の大気によるものと解釈するプラズマの弧状衝撃波の発見を報告している。Hiesinger たちは、地表のクレーターについて調べ、その形態と分布が, 地表の年代同定を可能にしたのに加えて, 地殻が岩石と氷の混合物であると示した。Buczkowski たちは、ドームや線状構造のような地表の地質学的な特徴と形態を記述して, 氷マグマ活動と地表下での氷の存在を示唆するものとしている。Ruesch たちは、Ahuna Mons 山の詳細な研究を提出し、この山が塩と氷の粘性混合物の噴出によって形成された氷火山であると結論づけている。Ammannito たちは、地表の鉱物組成の地図を作製したが, それでは粘土に似たフィロケイ酸塩が主要だ。Combe たちは、Oxo クレーターにある水氷の露頭について報告したが、それは比較的最近地表に運ばれたに違いない。まとめて言えば、これらの論文は、岩石と氷からなる複雑な世界を示しており、これはこれまで研究されてきた小惑星とは大きく異なっていることを示している。そして、これらはまた、これから数年に渡る Dawn のデータの分析を支えるものとなろう。(Wt,MY,nk,kj,ok,kh)

Science, this issue pp. 1008, 1003, 1004, 1005, 1006, and 1007

暖かい北極的寒冷大陸? (Warm Arctic—cold continents?)

最近数十年間、北極の気温は急速に上昇してきており,広範囲の海氷消失を招いている。Shepherdは展望記事で、この上昇する北極の気温が、北半球の中緯度地域における異常に寒い冬にも影響を及ぼしているのかどうかを検討している。何人かの科学者は、北極が温暖化し、中緯度地域が寒冷化するようになってきていることは、自然な気候の変化によって説明ができると主張してきており、別の科学者は、気候変動によって引き起こされていると強く主張してきている。Shepherdは、この二者択一の二分法は単純化しすぎで、どちらかと言えば、自然な変化と気候変動が、ともに北極とその周辺における気候パターンに影響を与えている可能性が高いと結論している。(ST,MY,kh)

Science, this issue p. 989

ストロンチウムの損失はイリジウムの利益である (Strontium's loss is iridium's gain)

植物も人も酸素を作る目的で水を分解することはない。酸素は単に、川下利用(downstream use)に対して H2O中の Hを遊離する際の副産物である。それにもかかわらず、いわゆる酸素発生反応 (OER)の遅い反応速度は、水に由来する水素生成反応の効率改善の課題である。Seitzたちは、酸性条件下でストロンチウムを含む前駆物質 SrIrO3を用いて、イリジウム酸化物触媒の能力を高めた。初期に、ストロンチウムは表面層から溶け出て、高活性な、安定な OER触媒が残った。(KU,kj,ok,kh)

Science, this issue p. 1011

植物におけるホルモン除去と形態形成 (Hormone clearance and morphogenesis in plants)

サイトカイニンは植物の形態形成の制御を助ける植物ホルモンの一群である.Zuercherたちは,植物細胞中のサイトカイニンのシグナル伝達がどのように制御されうるのかについて示している.プリン透過酵素14(PUP14)は細胞膜に存在し,植物細胞壁(アポプラスト)の連続体からサイトカイニンを吸いとる輸送体である.PUP14は細胞内空間にサイトカイニンを送り,サイトカイニンはここで分解される.サイトカイニンがアポプラストから取り除かれると,細胞膜上のサイトカイニンを検知するセンサーはシグナルを検出しなくなる.このシグナル伝達の落ち込みが形態形成を微調整している.(MY)

【訳注】
  • アポプラスト:植物体から,細胞膜とその内側の部分を除いた残りの部分で,細胞壁や導管が含まれる
Science, this issue p. 1027

心房細動の遺伝的基盤 (Genetic underpinnings of atrial fibrillation)

心房細動の速く不規則な心拍は、人を脳卒中や心臓病の危険にさらす。ゲノム研究は、この異常の危険を増加させる遺伝子変異体を同定した。Nadadurらは、これらの遺伝子が心臓の心房の拍動にどのように影響するかを示している。彼らは,遺伝子Tbx5を欠いている心房細動のマウス・モデルで、7つのこれら心房細動危険遺伝子座を結ぶ複数層の転写ネットワークについて記述している。このネットワークは、非干渉性のフィード・フォワード・ループとして組織化されていて、心房調律遺伝子の発現を厳格に制御している。そして危険遺伝子座によるその動揺が、心房細動を起こしやすくさせている。(Sh,MY,ok,kh)

Sci. Transl. Med. 8, 354ra115 (2016).

2つのC-H結合のうち1つだけを標的にする (Targeting just one of two C-H bonds)

C-H結合を直接C-C結合で置換することは,複雑な分子を作るのにとりわけ効率的なやり方である.パラジウム触媒は,この反応の不斉型変種に対して効果的で,医薬品開発において有用である.しかしながら,同一炭素中心上の2つのC-H結合のうち,1つを選択することは特別困難度が高い.Chenたちは,そのような特別な筋書きの中で高い選択性を与える,一式の2座配位のキラル配位子を開発した.これらの配位子からなるパラジウム錯体は,アミド化合物や幾つかのカルボン酸化合物のCH2基に,さまざまなアリール環を付加する.(MY,kj,kh)

Science, this issue p. 1023