余震の切れ目を書き込む (Filling in the aftershock gap)
地震後の余震は、地震活動域における将来の危険度評価に対して、重要なデータを提供してくれる。Fan と Shearer は、本震から数秒以内に起きる余震を見分けるという課題に取り組んでいる。それにより、大きな動的誘発余震(本震により引き起こされる地震)は、これまで認められてきたよりも、もっとよく起こっている。(Sk,ok,kh)
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地震後の余震は、地震活動域における将来の危険度評価に対して、重要なデータを提供してくれる。Fan と Shearer は、本震から数秒以内に起きる余震を見分けるという課題に取り組んでいる。それにより、大きな動的誘発余震(本震により引き起こされる地震)は、これまで認められてきたよりも、もっとよく起こっている。(Sk,ok,kh)
脳の海馬の神経回路網の顕著な特性は、部分的あるいは雑音を含む手掛かりからパターンを復元するという、その能力にある。この処理はパターン補完と呼ばれている。記憶復元に対するパターン補完の重要性にもかかわらず、その根底にあるシナプスの仕組みについては、よく分かっていない。Guzman たちは、最大8個のニューロンからの同時記録により、海馬のCA3錐体細胞間の関係は希薄で、シナプス結合がほとんどないことを見出した。そのように簡潔な巨視的および微視的な結合構造が提携して、この脳領域における効率的な記憶の保存と復元を確実にすることを、計算モデル化が明らかにした。(Sk,ok,kh)
アリは、優れた進路決定能力を有している。アリの正確な距離測定は歩数をもとにしていると考えられている。以前の研究は、アリが、視野を通り過ぎる景色の動き(視覚フロー)によっても距離を計測できることを示している。Pfeffer と Wittlinger は、同じ巣の仲間を運ぶという、砂漠アリの独特の行動を利用して、これら 2 種の方法の相対的な重要性を区別した。彼らは、両方の方法が用いられるが独立して機能しており、運ばれる側のアリは視覚フローのみを用いていることを見出した。(Sk,kh)
最近、我々は興奮性シナプスのタンパク質複合体の理解に多大な進歩を見てきた。抑制性シナプスの分子については、はるかに知られていない。 Uezuらは、多くの分子がポストシナプス(樹状突起側のシナプス)の抑制性組織にクラスターを形成し、まだほとんど機能が知られていないタンパク質ネットワークを形成していることを発見した。しかしながら、InSyn1と呼ばれるある新規な成分が、主要な足場タンパク質と共存し、海馬ニューロンにおける抑制性シナプス伝達を制御することが見出されている。(Sh,MY,ok,kj,kh)
アリール環炭素への窒素の結合は、製薬化学の共通した要求である。そのためには、炭素は事前に、臭化物のような反応性基で修飾されなければならない。Paudyalらは、アリールのC-H結合を窒素基で直接置換し、幅広い種類の芳香族アミンを生成する、ロジウム触媒反応について報告している。含窒素前駆体のN-O結合の開裂が、外部酸化剤を必要とすることなく反応を推進する。分子内、分子間のカップリングとも、このすべての反応が可能である。(NA,MY,ok)
機器を外部干渉から隔離したり、機器から発生する電磁波から人を保護するために、電磁遮蔽を用いることができる。電磁遮蔽は一般的に、金属で作られた薄板・網・発泡体の形状をとるが、しばしば、柔軟で軽い素材が望ましい。Shahzadらは、この目標を達成するため、高分子母材に埋め込まれた遷移金属炭化物薄片から、遮蔽素材を作製した。多層構造を有するこの素材は、電磁波の多重内部反射による吸収増加のため、遮蔽効果を改善する。(NK,MY,nk,kh)
多くの集団はインターネットを、情報を共有し、組織化して、自分の影響力を高める手段として使っている。しかしながら、このような努力を妨げる情報格差が存在しており、それは社会経済的あるいは地理的な要因では説明できない。Weidmannらは、国家の中で政治的権力から排除されている民族も同様に、インターネットの利用度が低いことを明らかにしている。(ST,MY,ok,nk,kh)
発生や創傷治癒の間、細胞は協調して頻繁に動く。Sunyerらは、細胞のクラスターが細胞外基質の剛性勾配に応答するメカニズムを説明する。剛性を感知するのと同じ機構のアクトミオシン細胞骨格が、剛(こわ)い基質に向かう推進力の原因である。このいわゆる集団性のデュロタキシスは、シンプルで原始的だが効率的な、細胞のクラスターが運動するメカニズムだと思われる。(Sh,ok,kj,nk,kh)
学習することや記憶することは神経細胞の形を変える.アルツハイマー病のマウス・モデルでは,神経細胞は,学習や記憶が誘発する形態変化を起こさず,また,カルシウム情報伝達に欠損を持つ.Tongたちは,家族性アルツハイマー病に関連する変異型のプレセニリン-1(PS1)が,カルシウム・センサーSTIM1を過剰に切断し,不活性化することを見出した.PS1によるSTIM1の切断は,アルツハイマー病に特徴的な記憶喪失に関与しているのかもしれない.(MY,kh)
キメラ抗原受容体遺伝子改変T(CAR-T)細胞は、特定の腫瘍抗原を認識するように遺伝子操作される。この T細胞は白血病に対する臨床治験において有望な結果を示したが、個々の患者に対する治療効果と毒性を予想することは困難であった。この問題に立ち向かうために、Turtleたちは厳密に定義された T細胞の部分集合から作られた CAR-T細胞を用いて、非ホジキン・リンパ腫患者を治療した。CD8 T細胞に対するCD4 T細胞の比を注意深く制御することで、CAR-T処置前の投薬計画を含めて、治療応答と毒性の相互に関係する治療条件の特性を明らかにできる。(KU,MY,kj,kh)
高次元データ・セットや縦断的解析(longitudinal analysis)により、現在、人類の特定の活動結果を、気候の確率分布から導かれた気象現象に結び付けることが可能になっている。CarletonとHsiangは、人間の健康状態・経済・社会的な騒乱、そして人口統計の領域における最近の発見について概説しており、それら全てが気候変動の影響を示している。(Uc,MY,nk,kh)
気候変化は実際に起こっており、どのように我々はこの影響を緩和できるだろうかということを理解することが優先事項である。この緊急性にも関わらず、気候に対する複雑な自然システムの反応について理解を得ることは極めて困難な試みである。Urbanたちはレビュー記事で、正確に予測することに対する最大の障害は、動植物の種にまたがる基本的なデータが不足していることにたどり着いている。そのようなデータ取得を改善することは、理論モデルを改善すること併せ、変動している気候状態の下で生態系に何がおこりうるか、という点を理解する上で極めて重要である。(Uc,MY,ok,kj,kh)
マクロファージと呼ばれる免疫細胞は、体のほぼすべての器官に存在し、病原体耐性や組織の恒常性と修復に役割を果たしている。組織の微小環境がマクロファージの表現型と機能を強固に形成するが、総ての組織マクロファージは胚発生中に生じ、少なくても部分的には共通前駆細胞から生じる。集団レベルと単一細胞での RNA配列決定法を含む多様な技術を用いて、Massたちは、マウスにおける組織マクロファージが、プレマクロファージと呼ばれる共通の始原細胞から生じており、それは妊娠後9~10日の胚全体にコロニー形成することを見出している。いったん組織に根付くと、マクロファージは多様な遺伝子発現様式を獲得する。(KU,kj,kh)
生物工学にとっての挑戦は,生命体で事象が起きる時期や規模についての情報を観測・記憶できる細胞記録装置を組み立てることである.Perliたちは,CRISPR-Casが媒介するゲノム編集をこの課題に適用する,巧妙な方法について記述している.彼らはこの編集機構を,低分子ガイドRNAが,ガイドRNAそれ自身が転写されて出てきたのと同じDNA中の座位に作用するよう変更した.この変更は,時間とともに,また,信号の強度に比例して増加する突然変異生成を起こし,特定のプロモーターの活動の記録を分子的に残す.そのような系は例えば,腫瘍細胞が生体内で大きくなるにつれて腫瘍細胞を制御する事象が起きる位置や時期に対して,より優れた洞察を与えるかもしれない.(MY,kh)
核酸塩基の間の相互作用は、塩基間の水素結合だけではなく、塩基対間のπ軌道相互作用をも含む。この相互作用を調べるために、Kilchherrたちは平滑末端 DNA鎖のDNA折り紙構造の集合体を構築した。積み重ね相互作用だけでくっついている2個のDNA折り紙構造をとった粒子間の力が、光ピンセットを用いて決定された。積み重ね相互作用に対して得られた自由エネルギは、塩基配列に依存して-0.7から-3kcal/molまで変動した。(KU,ok,kj,kh)
現在のジカ・ウイルス流行を止める最良の方法は,防御効果のあるワクチンだろう.Abbinkたちは,不活化ウイルス・ワクチン,遺伝子ワクチン,ベクター・ワクチンの免疫原性や予防効果について,アカゲザルで試験した.3つのワクチン基盤はどれも,感染性ジカ・ウイルスの投与からアカゲザルを完全に守った(LipsitchとCowlingによる展望記事参照).ワクチン投与したアカゲザルから単離された抗体は,ワクチン投与していないマウスやサルへ受身伝達されると,防御作用をもたらした.このことは,防御を媒介する上で抗体が果たす重要な役割を明示している.これらの研究は,ヒト用ジカ・ウイルス・ワクチン開発・試験の土台となるものである.(MY,nk)
地球化学における永年の問題は、親鉄元素を初期地球のコアの中へと隔離することである。Rubie たちは、地球のコア形成期間中の金属分離は、観察されるようなマントル中のこれらの元素の枯渇をもたらすのではなくて、マントル中の濃度を高めたに違いないと主張している。これは、太陽系の中で木星の"Grand Tack"が進行していたときは、地球ではコア形成時の高圧環境が優勢であったためである。初期地球のマグマオーシャンの中の硫黄の濃度は、物質降着時に非常に高くなり、液体の硫化鉄が地球が冷却するにつれて、マントルから親鉄元素を奪い去った。これは、観測される枯渇を説明するものである。(Wt,nk)
微生物の抗生物質耐性は、巨大で複雑な自然環境中で時間と共に生じる。Baymたちは大きな培養装置を開発し、その中で彼らは空間、時間及び増加する抗生物質濃度を通じて耐性の出現を研究した (McNallyとBrownによる展望記事参照)。多様な変異の傾向は、常に耐性という結果になった。時には、耐性の強化には増殖能力の低下という犠牲を伴ない、適応性を回復するための代償性変異(compensatory mutation)を必要とすることもあった。時には、突然変異誘発遺伝子の表現型が生じたこともあった。予想外なことに、最も適応した変異体は、必ずしもより高濃度の抗生物質の領域に侵入して出現した系列ではなかった。しばしば、派生的系統がより耐性のある自身の子孫さえも、その進化を閉じ込めた。この観測装置は、変異の速度と順番を監視するための規則的サンプリングが可能であり、さまざまなモデル生物や進化の疑問に対応して改造することができる。(KU,ok,kj,nk,kh)
ガン患者はしばしば,その腫瘍に存在する特有の原因遺伝子を基にした標的治療に付き合わせられている.Mayersたちは,新たに出現した一群の治療法に対して,標的とする腫瘍の代謝が,それが示す応答の主な決定要因であるかもしれず,そして,腫瘍の原発組織により決まリ得り、?変異状態だけではないことを見出している(VousdenとYangによる展望記事参照).彼らは,同一の原因遺伝子から始まった肺ガンと膵臓ガンのマウス・モデルで,分岐鎖アミノ酸(BCAA)の変移を追跡した.肺の腫瘍では,アミノ酸やヌクレオチドの生合成用にBCAA窒素の取り込み・利用が増大した.対照的に,膵臓の腫瘍では遊離BCAAの取り込みが減少した.これらの違いは,原発組織が腫瘍の代謝を定め,患者を治療に適合させる場合に考慮されるべきであることを示している.(MY,kj,kh)
世界中で、何万ものダムが川の流れを調整し、電力を供給している。水や土砂の流れを変えることにより、ダムは下流の生態系に影響を与える。展望記事において、Poff と Schmidt は、地域の生態系の必要量を考慮して、日々または季節での放水を管理することにより、有害な下流への影響を低コストで改善することができると説明している。例えば、 年当たり数回の週末の間、コロラド川のダムからの放水を避ければ、大型昆虫の回復を手助けすることが可能であり、それにより地域の魚類に対して餌も提供される。(Sk,kh)