AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約 |
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Science August 12 2016, Vol.353
地下水の総てが川に流れて終わるわけではない。幾分かは海岸に沿って海洋に直接流出する。川に運ばれる水より体積的にはるかに小さいけれど，このような海面下の地下水の流出は、溶解したイオンや栄養物、或いは人間活動による汚染物質の隠れた源であるかもしれない。Sawyerたちは、合衆国の海岸線に沿って陸起源の地下水の流出に関する高分解能の大陸規模での解析を行った。全体で、海岸の水の1/5以上が地下水由来の汚染を受けやすい。（KU,kj,nk)
ミューオン水素の分光分析によりこれまでに受け入れられた値と大きく異なることが示唆されて以来、陽子半径は論点となっている。Pohlらは、このいわゆる陽子半径パズルを解く重要な手がかりを手に入れた。彼らは、陽子と中性子からなる原子核である重陽子の荷電半径を、ミューオン重水素の遷移振動数から測定した。陽子半径パズルを反映して、その重陽子の半径は、以前に電子重水素の分光分析から推定された値よりも 標準偏差の数倍小さかった。陽子と重陽子の双方で独立に示された核子半径の矛盾は、実験または理論の誤りを、さらには標準モデルを越えた物理法則の存在さえも指し示している。（NK,KU,kj,nk)
我々は、脊椎動物が我々と同じくらい、大体50年から100年ほど生きるものだと考えがちである。海洋種は非常に長寿命である可能性が高いが、それらの年齢を決定することはとりわけ困難である。Nielsenたちは、1950年代の核実験によって生じた炭素14の急増も用いて、特に発育中に眼に取り込まれた炭素14でニシオンデンザメの年齢を決定した。この種は大型であるが、成長が遅い。彼らが試料としたその動物の最高齢のものはほぼ400年生きており、彼らは、その種が約150歳で成熟期に達すると結論付けている。（Sk,kj,nk）
ニューロンの同時活性化がニューロンのアンサンブル形成に導くという、ドナルド・ヘブの仮説が数十年間神経科学者を触発してきた。そのようなアンサンブルの実験的創作は技術的に困難だった。単細胞の分解能で2光子光遺伝刺激法を用いて、Carrillo-Reidらは、一団のニューロンの反復活性化が脳回路に刷り込まれるアンサンブルを創ることを発見した。ニューロンの一つを活性化すると、パターン（入力情報）の完全化と呼ばれる 現象が起きて、全体のアンサンブルの再生へと導くことができる。人工的なアンサンブルは数日間持続し、そして内在性回路網を妨害することなしに、その後の時点で、再活性化される。（NA,KU,kj,nk)
飽和脂肪酸は不活性と考えられているが，驚くべきことに，気液界面に被覆膜として存在する場合には反応性になることもある．Rossignolたちは，ノナン酸が水面上で単分子層として存在する場合，光化学的に活性であることを示している（Vaidaによる展望記事参照）．脂肪酸は環境中のどこにでもあり，その光化学的反応過程は，地域でのオゾンや粒子の形成に大きな影響を及ぼすかもしれない．（MY,kj,nk）
社会的方策や財源などの安全網がない人たちにとって、保険が効かない医療費のような衝撃がホームレスと疾病状態への悪循環のきっかけとなりうる。Evansらは、シカゴで行われた、人々が自分の家に住み続け、またはホームレス宿泊所から出て行けるようにすることを目的とした一時的な経済的支援をするというプログラムの効果とコストを評価している。彼らは、1500ドルまでの一時的な支払いが、ホームレスになる可能性を大きく減少させることを発見している。経済的利益の見積もりはコストの見積もりを上回り、さらにそこには数字化できない精神的および身体的な利益も上乗せされる。(ST,KU,nk)
透明なタッチ画面は、大画面の対話型情報地図から最新式の携帯電話まで、日常生活の一部になった。しかしながら、そのような装置はすべて硬い材料を用いている。Kimたちは、透明度が高く、導電率向上用に捕捉 LiClを含む、ポリ・アクリル・アミドのハイドロゲル（水で膨潤された架橋重合体）を基にした、柔らかいタッチ・パネルを開発した。そのハイドロゲルは柔らかく、タッチの感度を維持したまま大きく引き伸ばすことが可能である。（Sk,nk）
ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)に対する阻害剤が引き起こす骨欠損は，この薬の臨床的価値を制限する．Carpioたちは，HDAC アイソフォームの一つ HDAC3が，コンドロサイトと呼ばれる軟骨細胞からの炎症性因子の分泌を制限し，骨成長を促進することを見出した．コンドロサイト内のHdac3（HDAC3をコードしている遺伝子）を生後に欠損したマウスでは，長骨の発達が損なわれた．これらのマウスのコンドロサイトでは，炎症誘発性転写因子の活性化が増加していた．この発見は，HDACの阻害剤が何故，子供，妊婦や骨折患者に対して適切な選択でないのかの説明を助ける．（MY,kj,nk）
ドナーからの造血幹細胞（HSC）移植に対して被移植者の骨髄を対応させるために、患者に化学投薬または放射線照射を行う現行の措置は有害となり場合もある。Chhabraらは、表面抗原 CD47を封鎖するという代替戦略を試した。それによって、貪食性の骨髄細胞が抗体標的とされた被移植者の HSCを飲み込めるようになり、免疫応答性マウスの骨髄から効率的に HSC を枯渇させて、ドナー細胞の生着を可能にするのである。(Sh,kj,nk)
ジカ・ウイルスは1947年にウガンダで同定された．それ以来，このウイルスは熱帯地方を覆い，さまざまな重症度の疾患をもたらした．Lesslerたちは歴史的文献を振り返り，これが持つ向神経性が，1953年のナイジェリアでの臨床例報告の前から，マウスで観察されたことに気付いた．何が臨床症状を決定しているのか：地域特有の条件，媒介生物，遺伝，野生宿主がどのように伝染や地理的まん延に影響するのか：何が最良の対応戦略か：そして，如何に有効な薬・ワクチン・診断法を開発すべきかは全て，データを必要とする重要な問題である．（MY,nk）
電位開口型K+チャネル Eag1は、様々な癌からの腫瘍細胞で過剰発現し、そして Eag1の抑制は腫瘍増殖を減少させる。Whicherと Mackinnonは、阻害剤カルモジュリンに結合した哺乳類の Eag1の構造を3.78オングストロームの分解能で決定した (Toombes and Swartzによる展望記事参照)。電位感知の領域と孔領域の組織化が、他のカリウム・チャネルのそれと異なり、開閉機構が異なることを示唆している。その構造はまた、電位感知器の位置に無関係に、チャネルがリガンドによりどのように閉じられるかを示している。（KU,nk)
いまや数千の太陽系外惑星が知られているが、直接画像としては、ほんのわずかのものが検知されただけである。Wagnerたちは巧妙な補償光学系を用いて、三重連星系である HD 131399の画像中に一つの惑星を発見し、その大気スペクトルを得た(Oppenheimer による展望記事を参照のこと)。その惑星は、木星質量のおよそ4倍であるが、その系の一つの星の周りの軌道を周っている一方、他の2つの伴星ははるか外側を動いている。この普通ではない配置は、困惑させるものである。実際、この惑星の軌道は安定かもしれないが、それがどのように形成され、あるいは、そこに移動したのかは明らかでない。この結果は、惑星形成理論を改良するのに用いられよう。(Wt,kj,nk)
交代勤務，時差ぼけ，睡眠障害，加齢により経験されるような睡眠不足は，多くの健康側面の悪化を招く．私たちが徹夜する場合，認識力はたちまち大幅に低下する．Mutoたちは，寝不足の間の脳応答の時間的経過を調べるため，長時間覚せい状態にしたボランティアを何度も機能的核磁気共鳴法で撮像して調べた（Czeislerによる展望記事参照）．そこでは，概日性および恒常性の活動が，脳の局所領域に時間差を伴って影響を与えた．（MY,nk）
神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症と前頭側頭型認知症は、通常 C9orf72遺伝子の変異により引き起こされる。その変異は、非翻訳領域における拡大されたヘキサヌクレオチド反復である。拡大された反復はセンスとアンチセンスの RNA転写物を生成し、それが患者の細胞に蓄積し、RNA結合タンパク質を隔離するらしい。センスとアンチセンスの転写物はまた、ジペプチド反復タンパク質に翻訳され、それは凝集しやすく、脳や脊髄に蓄積する。最後に、ニューロンとグリアにおける C9orf72の発現低下による機能喪失は、疾病に寄与しているかも知れない。Kramerたちは、SPT4と呼ばれる単一遺伝子を妨害することでセンスとアンチセンスの転写物の両方を標的にし、3つの型の病状の全てを低下させることでヒト細胞における悪化を緩和した。（KU)
人間活動が生態系の崩壊を更に引き起こしつつある。展望記事において、Frankと Schlenkerは、経済的発展と保存の間の幾つかのトレード・オフの関係を考察している。彼らは、生態系に金銭的価値を割り当てることは困難であるが、それをしないと生態系の値段をゼロにしてしまうリスクがあると主張している。効果的な保存のためには、政府は生態系に適正な価格シグナルをつけるか、或いは生態系を直接に保護下に置かなければならない。1972年と2012年の間で、豊かな国では生態保護区の面積が最高に増加した。これは経済的成長が保存と両立できる可能性を示している。（KU,kj,nk)
アルツハイマー病（AD)は、認知症や短期記憶喪失へとゆっくりと進行する慢性神経変性疾患である。ADは、老人斑と神経原繊維変化においてアミロイドβ（Ab）とタウ・タンパク質の凝集によって引き起こされると考えられている。Vendruscoloらは、異常なタンパク質の凝集がある組織で発見され、他の組織では発見されないのはなぜかを調べた。その結果、ADでは、タンパク質恒常性が損なわれて、特異的な一群のタンパク質の発現が高まり凝集されることがわかった。このように、健康な組織での Abとタウの恒常性に基づいた組織脆弱性の地図によって、ADが予測できるかもしれない。(Sh,kj,nk)
フェロセンは、サンドイッチ化合物の典型であり、そのように呼ばれる理由は金属原子が二個の炭素環の間に挿入されているためである。フェロセンの構造解明は、二十世紀半ばにおける有機金属化学の発展にとって、決定的に重要であった。その分子の中心にある鉄を、+2（二価）と+3（三価）の酸化状態の間で切り替えられるという容易さにより、その化合物はよく用いられる電気化学的な標準物質になった。Malischewskiたちは、+4（四価）状態の鉄を有するフェロセン塩の合成と単離を報告し、その中で結晶学的および分光学的な特徴を明らかにしている。（Sk,KU,nk）