AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 1 2014, Vol.345


どうやって指は生える場所がわかるの?(How do fingers know where to grow?)

今日では、殆どの研究者たちは、初期の肢芽内部に決まった場所があるために、それぞれの指が形成すると信じている。しかしながら、30年前、発生生物学者たちは、指の配置が初期胚発生時期に起こる自己組織化プロセス、「チューリング・パターン」に従うことを提案していた。Raspopovicたちは、チューリングのメカニズムを支持する証拠を示している(ZunigaとZellerによる展望記事参照)。彼らは、Wntと BMPのシグナル回路に遺伝子 Sox9が一緒になってチューリングネットワークを形成することを明らかにしている。著者らはこのネットワークを用いて、胚が指を成長させる際に、細胞が従うパターンを正確に再現できるコンピューターモデルを作成した。(Uc,KU)
Digit patterning is controlled by a Bmp-Sox9-Wnt Turing network modulated by morphogen gradients (Science, this issue p. 566; see also p. 516)

巨大な恐竜を小さい鳥にする(Turning large dinosaurs into small birds)

殆どの古生物学者は、鳥類が恐竜の子孫であるという点で一致している。巨大な陸生、もしくは海生の動物が、どのようにして小さい羽をもった空を飛ぶ生物に進化したのだろうか? Leeたちは、2つの巨大な獣脚類の形態学に関するデータベースを用いて、このようなドラマチックな変身を駆り立てたかもしれない進化のパターンを調査した(Bentonによる展望記事参照)。彼らは、すべての獣脚亜目のクレードを通して明確な小型化のパターンの存在を見つけることはできなかった。しかしながら、いくつかの証拠から、恐竜の中でも鳥類へと進化する系統では継続的な小型化が進行していたことが明らかになった。この系統において、体の大きさは小型化し、種の進化速度は速まった。これらはまた、より小さな体と関連して発達し、生態学的、かつ形態学的に一新した。(Uc,KU,ok,nk)
Sustained miniaturization and anatomical innovation in the dinosaurian ancestors of birds (Science, this issue p. 562; see also p. 508)

寄生虫がウイルスとの戦いを難しくする(Parasites make it hard to fight viruses)

微生物の同時感染は免疫系に挑戦を突きつける---排除や封じ込めのため,異なる病原体は,しばしばそれに適した異なる免疫応答を必要とする(MaizelsとGauseによる展望記事参照)。2つのチームは,マウスが寄生虫とウィルスに同時に感染した時に何が起こるかを研究した。Reeseたちは,寄生虫の同時感染が、休止状態のウィルスを目覚めさせることを見出した。Osborneたちは,寄生虫に既に感染してしまったマウスが,ウィルスの撃退性がさらに低下することを見出した。両方の場合とも,寄生虫は,分泌した免疫細胞や分子が,抗ウイルス免疫を犠牲にして寄生虫に有利な環境を作り出すよう,宿主の免疫応答を歪めていた。(MY,KU)
Helminth infection reactivates latent γ-herpesvirus via cytokine competition at a viral promoter (Science, this issue p. 573 ; see also p. 517)
Virus-helminth coinfection reveals a microbiota-independent mechanism of immunomodulation (Science, this issue p. 578; see also p. 517)

ある神経ペプチドが患者のやる気を失わせる(A neuropeptide kills patient's motivation)

慢性痛は,ひどく忌わしく,また,不快であるばかりでなく,人をうつ状態とさせ,意欲をも失わせる。何がこのような結果を引き起こすのだろうか? Schwartzたちは,ガラニンと呼ばれる神経ペプチドの,側坐核と呼ばれる脳領域にある特定のニューロンへの影響の仕方が,慢性痛により変化するこを見出した(Fieldsによる展望記事参照)。ガラニンは種々の行動に影響を与えていて,そこには,摂食や疼痛のある側面が含まれている。今回の場合は,特定の興奮性シナプスにおけるシナプス伝達を抑圧している。このようになるのは,1つには,重要な受容体タンパク質のサブユニット比を変えてしまうことによっている。(MY)
Decreased motivation during chronic pain requires long-term depression in the nucleus accumbens (Science, this issue p. 535; see also p. 513)

触媒でCO2をメタノールへと転換する(Converting CO2 into methanol by catalysis)

CO2に水素添加することで,科学者たちは,温室効果ガスを,望ましい燃料であるメタノールに転化することができる。Gracianiたちは,酸化セリウム上に銅粒子を配置することで,銅に,この反応での高活性触媒の役割を持たせるようにした。酸化セリウムと銅の界面により,CO2をCOに転換する逆水性ガスシフト反応が可能となる。COは,さらに容易に水素と反応し,メタノールとなる。この結果は,この環境に優しいプロセスのための触媒に新局面を開く第一歩となるものである。(MY,KU,nk)
【訳注】
・水性ガスシフト反応:一酸化炭素と水蒸気を反応させて二酸化炭素と水素をつくる反応、逆水性ガスシフト反応はこの反応の逆反応を行う。
Highly active copper-ceria and copper-ceria-titania catalysts for methanol synthesis from CO2 (Science, this issue p. 546)

オンデマンド量子テレポーテーションに向けて(Toward quantum teleportation on demand)

量子情報処理は、量子状態にコード化された情報を格納・操作・伝達できる能力に依存している。しかしながら、そのような動作は、繊細な量子状態を破壊、或いは危うくしてしまう。Pfaff等は、3メートル離れたダイアモンド中の2つの欠陥を用いる量子テレポーテーションについて報告している(AtatureとMortonの展望記事参照)。彼らは次に、一方のダイアモンド欠陥の量子状態をもう一方の欠陥に移すことに成功している。本研究は、巨大な量子ネットワーク実現のキーとなる重要な構成要素を提示したものである。(NK,KU,ok,nk)
Unconditional quantum teleportation between distant solid-state quantum bits (Science, this issue p. 532; see also p. 510)

乳癌における薬剤耐性を防ぐ(Preventing drug resistance in breast cancer)

乳がん患者の中には、薬剤のトラスツズマブを用いた治療に応答する患者もいるが、しかしその多くはその後に耐性を発生する。乳腺腫瘍は、しばしば腫瘍抑制因子である酵素をコードしている遺伝子 SIRT6が欠如している。Thirumurthiたちは、キナーゼ AKTが SIRT6をリン酸化し、このことが SIRT6を分解する一連の反応を開始していることを見出した。SIRT6レベルが高く、AKTレベルが低い乳腺腫瘍を持った患者は生存率が高いことが分かった。SIRT6の分解やリン酸化が妨げられると、乳がん細胞はトラスツズマブの耐性発生が少なくなり、このことは、高いレベルの SIRT6が患者の治療応答を改善出来る可能性を示唆している。(KU,nk)
MDM2-mediated degradation of SIRT6 phosphorylated by AKT1 promotes tumorigenesis and trastuzumab resistance in breast cancer (Sci. Signal. 7, ra71 (2014))

善玉と悪玉の脂肪細胞を見分ける新たなツール(New tools for sorting good and bad fat cells)

「善玉脂肪」が存在し、「悪玉脂肪」も存在する。褐色脂肪組織は「善玉」とみなされているが、これはこの細胞が脂肪を燃やし、肥満と戦うために利用されているためであろう。褐色脂肪細胞が「悪玉」の白色脂肪の内部で発生すると、この組織は「ベージュ」と呼ばれる。Ussarたちは、これらの細胞のサブタイプを可視化し、それらへの薬剤をターゲットするためのツールを開発した。著者たちは、白色、ベージュ、及び褐色の脂肪細胞の3つのタンパク質マーカー、ASC-1、PAT2、及び P2RX5を同定した。この3つのマーカーはコンピュータ手法を用いて選択され、マウスで確認され、そして次にヒトの脂肪組織で検証された。これらのタンパク質は細胞表面に存在し、組織を可視化したり、薬剤をガイドしたりする際に特に有用となる。(KU)
ASC-1, PAT2, and P2RX5 are cell surface markers for white, beige, and brown adipocytes (Sci. Transl. Med. 6, 247ra103 (2014))

ガンマ線新星は変化に富んだ花園かもしれない(Gamma-ray novas may be garden variety)

天文学者たちが、赤色巨星から白色矮星への爆発的質量移動による、はくちょう座 V407 からのガンマ線を検出した時、それは非常に意外なものだった。彼らは、そのガンマ線を粒子の加速を引き起こす強い恒星風によるとした。今回、Fermi-LAT 共同研究により、さらに三つの新星からガンマ線が観測されたが、そのすべてで強い風は観測されなかった。三つのガンマ線源はその性質にわずかに違いはあるが、どれも特に異常なものではない。もし、全ての新星がガンマ線を放出しているのであれば、天文学者たちは、実際に見てきたのと同じ数の新星を、ここ5年で 5-kpc の距離の中に見ることが期待できたであろう。(Sk,nk)
【訳注】
・Fermi-LAT:フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡に搭載されたLAT (Large Area Telescope)
Fermi establishes classical novae as a distinct class of gamma-ray sources (Science, this issue p. 554)

脳での演算の中心的プレイヤー(A central player in brain computation)

神経細胞の小さなサブグループが、脳における情報処理において中心的役割を果たしている。Huたちは、それらニューロンの特異的構成についての現在の我々の知識をレビューしている。とりわけ、それら分子の個別的特性、細胞内での分布、さらにそれら細胞そのものの解剖学的構造が記述されている。この情報は、それらニューロンが、生物体の行動および脳の微小回路の機能にとって重要である理由を説明するのを助けてくれる。このような詳細なレベルでの理解は、これら細胞が神経学的病の将来の治療標的になっていくからこそ、有意味なものになっていく。(KF)
Fast-spiking, parvalbumin+ GABAergic interneurons: From cellular design to microcircuit function (Science, this issue 10.1126/science.1255263)

文明の歴史に関する巨視的概観(A macroscopic view of cultural history)

社会学者と人類学者たちは、人類文明の成長と進化を研究しているが、歴史的時間スケールで文明の相互作用を測定するのは困難である。Schichたちは、文明の歴史に関する情報を、出生と死の記録に関する単純ではあるが、しかし大量のデータセットから抽出するツールを開発した。15万人を越える著名人のの出生と死を通して結合された文明の中心のネットワークが、人の移動パターンと文明が人を引き付けるダイナミクスを明らかにした。2000年という年代に渡る都市の成長パターンは国ごとに異なるが、出まれた所と死んだ場所との距離の分布は、8世紀を越えて変化していなかった。(KU,ok,nk)
A network framework of cultural history (Science, this issue p. 558)

層状にする方法が太陽電池を進化させる(A layered approach improves solar cells)

電荷発生膜の形成を制御し、電極への電荷移動性能を向上させることで、ペロブスカイト膜の光起電効率が大きく上昇した。Zhou たちは、塩化鉛とヨウ化メチルアンモニウムからペロブスカイト膜を形成する際の湿度を制御することにより、膜の欠陥密度を低下させた。低温の処理工程により、ペロブスカイト膜からより効率的に電流を取り出す材料を用いることができた。これらと他の改良により、電池効率が最大19%強に、平均16.6%にできた。(Sk,nk)
Interface engineering of highly efficient perovskite solar cells (Science, this issue p. 542)

腫瘍ゲノム内のヒッチハイク(Hitchhiking through the tumor genome)

レトロトランスポゾンとは、常に動き続けているDNA反復配列である。ある種の細胞酵素を手に入れることで、それらは、ゲノム中の新たな部位に自分自身をコピーし挿入する。ときには、それらは、隣接するDNA配列を巻き込んで動いていくが、これが3'形質導入(3' transduction)と呼ばれるプロセスである。Tubioたちは、3'形質導入が、ヒトの腫瘍においてごくありふれた事象であることを発見した。このプロセスは遺伝子と制御配列をゲノム全体にわたってばらまくことができるので、腫瘍細胞が生き延び、増殖するのを助ける新たな変異を獲得するための別の仕組みを表わしている可能性がある。(KF)
Extensive transduction of nonrepetitive DNA mediated by L1 retrotransposition in cancer genomes (Science, this issue 10.1126/science.1251343)

HIVの組み込みはランダムなわけではない(A not-so-random integration for HIV)

抗レトロウイルス薬の混合物を前にしても、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は粘り強く生き延びようとする。自身のゲノムを宿主細胞のゲノムに組み込むことによって、潜伏状態でそこに生き残ろうとする。このプロセスをよりよく理解するために、Wagnerたちは、抗レトロウイルス薬によって10年以上にわたって治療されてきた3人のHIV患者にHIVが組み込まれていた部位を決定した。彼らは、HIVが組み込まれて過剰提示したのは癌や細胞増殖に関する部位であることを発見した。また、同じ患者の複数の細胞は、同じ組み込み部位を持っていた。このことが示唆するのは、特異的遺伝子への組み込みが細胞増殖とウイルスの生き延びを駆動している可能性があるということである。(KF,KU,ok,nk)
Proliferation of cells with HIV integrated into cancer genes contributes to persistent infection (Science, this issue p. 570)

若い星の脈動の精密な把握(A finger on the pulse of young stars)

幼年期の星は、そのコアで核融合が始まる前に、小刻みに、あるいは、がたがたと震える。Zwintz たちは、ある星が震える時の振動数は、それの進化段階と結びついているという理論的な予測を観測により確かめた(Stahler と Palla による展望記事を参照のこと)。原始星が進化して収縮し、ますます高温高密度に成長するにつれ、その脈動はより速くなる。星震学は、以前は年老いた星のみに適用されてきたが、非常に若い星の年齢を知ることに対しても強力なツールとなりうるものである。若いクラスター内の星にはしばしば一括りにした同じ年齢が与えられてきたが、このように若い星の個々の年齢を決められるという精密化により、一つの星団内での星形成開始時期のずれの研究は大きく進展するだろう。(Wt,nk)
Echography of young stars reveals their evolution (Science, this issue p. 550; see also p. 514)

古代のパターンが種の分岐を明らかにする(Ancient patterns reveal species divergence)

DNAへの修飾は、後成的変化と呼ばれていて、遺伝子の発現を制御している。科学者は最近、何千年もの間保存されてきたヒト祖先の化石中に、そうした後成的変化を検出した。展望記事において、OrlandoとWillerslevは、古代の後成的パターンと現存の人類における後成的パターンの違いが、変化する環境に人類がいかに順応してきたか、また種がいかにして互いに分岐してきたか、に光を投げかけるものになりうると説明している。後成的パターンは複雑で、細胞型や年齢、性、健康、そして環境によって異なっている。古代のDNA中の後成的情報を完全に解き明かすには、さらなる実験上の進歩が必要とされる。(KF)
An epigenetic window into the past? (Science, this issue p. 511)
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