AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 8 2014, Vol.345


折りたたみ型のロボットとメタマテリアル(Folding robots and metamaterials)

折り紙と同じ原理により、自己集合型のロボットや可変同調型のメタマテリアル(自然界では見られない特性を持つように設計された人工物;You による展望記事参照)を作ることができる。Feltonたちは、平らな型板から複雑な自己折りたたみ型のロボットを作成した。そのようなロボットは、崩壊したビルやトンネルの中に送り込まれ、その後、自らを最終的な機能するための形状に形状に自動的に組み上げることが可能である。Silverbergたちは、単位セルをモザイク状に折り重ねた、機械的なメタマテリアルを作り出した。これらのセルは軟らかい状態と硬い状態の間を可逆的に切り替り、その素材が押しつぶされたときの反応に、大きく、制御可能な変化を生じさせることが可能である。(Sk,nk)
Using origami design principles to fold reprogrammable mechanical metamaterials (Science, this issue p. 64; see also p. 623)
A method for building self-folding machines (Science, this issue p. 647; see also p. 623)

重金属製造所を移転する(Relocating a heavy-metal factory)

隕石中の重元素の放射性同位体を測定することにより、太陽系の過去について知ることができる。これは、地球上における炭素による年代測定の地球外版である。鉄より重い元素は、主に超新星か漸近巨星分枝 (AGB:asymptotic giant branch)の星で合成される。どの元素がどこで生成されるかを正確に知ることは、太陽系の年代測定にとって鍵となるものである。Lugaro たちは、AGBの星は 182Hfと呼ばれている核種を、以前考えられていたよりも多く生成することを見出した(Bizzarro による展望記事を参照のこと)。その存在量は、それが太陽の誕生よりおよそ3000万年前に生成されたことを示している。(Wt)
Stellar origin of the 182Hf cosmochronometer and the presolar history of solar system matter (Science, this issue p. 650; see also p. 620)

原子レベルで磁性を調べる(Seeing magnetism on an atomic level)

走査トンネル顕微鏡の磁化させたチップから物質表面にトンネル電流として流れる電子は、物質の磁気構造を明らかにできる。研究者たちは単純なナノ構造においてこの技術を用いてきたが、より新規な物質の磁化の状態を可視化するためにぴったりのチップを作成するのに苦労してきた。Enayat たちは、先端に磁気クラスターを有するチップを用いて、Fe1+yTe の磁化状態のパターンを明らかにした。この物質は Teを Se原子で置き換えると超伝導を示すようになる。研究者たちは、単にその物質の表面から原子を拾い上げるだけの方法で、このチップを作成した。(Sk)
Real-space imaging of the atomic-scale magnetic structure of Fe1+yTe (Science, this issue p. 653)

生命のより継ぎを与える薬剤(Drugs that provide the splice of life)

運動ニューロンは神経系から筋線維へシグナルを伝える。脊髄性筋萎縮症の患者において、これらのニューロンの生存に必要な或るタンパク質が欠如したり、或いは全て失われており、その結果ニューロンが徐々に死んで、そして患者の筋肉は痩せ衰えていく。この病気は、今日治療不能である。Naryshkinたちは、特異的 mRNAが結合したり、或いは「スプライスされる」仕方を変えることで、失われたタンパク質を細胞が産生可能にする低分子薬剤を発見した (Vigevani and Valcarcelによる展望記事参照)。研究者たちがその薬剤を用いて病気のマウスを治療すると、そのマウスには筋量、運動機能及び生存率に関して顕著な改善が見られた。(KU,nk)
SMN2 splicing modifiers improve motor function and longevity in mice with spinal muscular atrophy (Science, this issue p. 688; see also p. 624)

あなたがたは、見たいものをみているだけである(You only see what you want to see)

私たちは、しばしば情景にある多数の対象物からある特定の項目に焦点を当てている。この能力は選択的注視(selective attention)と呼ばれている。選択的注視は、観察されているものへの感覚神経細胞の応答を高め、そして注意を分散させるものへの応答を弱めている。Zhangらは、視覚野における応答を調節するマウスの前脳領域を同定した。この調節が、視覚的課題におけるマウスの成績を向上させた。(hk,KU)
Long-range and local circuits for top-down modulation of visual cortex processing (Science, this issue p. 660)

脳を模したコンピュータチップを作る(Modeling computer chips on real brains)

これまでのコンピュータは、汎用性の面で我々の脳には程遠い。Merollaたちは、脳の構造や機能に関する現在の知見をもとに、脳と同じ配線規則とアーキテクチャーを用いた新しいコンピュータチップを設計した。適応性、拡張性のあるチップは、非常に少ない電力消費量にもかかわらず、リアルタイムで効率的に作動した。(Sk,nk)
A million spiking-neuron integrated circuit with a scalable communication network and interface (Science, this issue p. 668)

微生物の生命が油のバブルで繁栄する(Microbial life thrives in an oily bubble)

微生物はオイル貯蔵タンクの炭水化物を分解することができる。微生物は主に油水界面で成長する。この領域で,微生物は栄養素を見つけ,代謝物を排出する。今回,Meckenstockたちは,微小水滴もまた,炭水化物分解性微生物にとって適した棲家を与えていることを示している。著者たちは,トリニダード・トバコのピッチ湖(Pitch Lake)のオイルを調べ,多様な微生物が,これらの小さな独立した微小生息域で繁栄していることを見出した。(MY)
Water droplets in oil are microhabitats for microbial life (Science, this issue p. 673)

リボソームのタンパク質合成を支援する因子(Factors that aid ribosomal protein synthesis)

リボソームは,細胞中でタンパク質の合成を担う大きな高分子機械である。タンパク質合成サイクルの間に,リボソームの各部は動く必要がある。これらの移動はリボソームに結合するタンパク質により促進されている。Gagnonたちは,リボソームに結合するそのようなタンパク質の1つである伸長因子4の構造について記述している。リボソームがタンパク質を合成していく際に,伸長因子4は,リボソームの高次構造を元に戻すのを助けているらしい。このことが,タンパク質合成過程でリボソームの活動が停止してしまうことを防止しているのかもしれない。(MY)
Crystal structure of elongation factor 4 bound to a clockwise ratcheted ribosome (Science, this issue p. 684)

出血もない、より優れた血液シンナー(Better blood thinner, without bleeding)

血液シンナー(血液サラサラ薬剤)は、血液が固まりにくくすることで心発作や脳出血を防ぐが、しかしこれらの薬剤は患者に危険な出血のリスクをもたらす。Moeckleたちは、このような危険な副作用もなく血餅を防ぐ酵素に関して記述している。彼らは遺伝子操作により酵素アピラーゼの機能を変えて、血液から血餅を作る前駆分子 ADPを素早く除去するようにした。 心発作を持つイヌやマウスにおいて、アピラーゼは、血餅形成の最初のステップである、血液細胞の凝集を防いだ。最大用量のケースでは、この動物たちは心臓のダメージが少なく、過剰出血も見られなかった。それに比べ、現在患者の治療に用いられる血液シンナーであるクロピドグレルは、心臓発作の予防効果がより低く、過剰出血をもたらす。(KU,nk)
Optimizing human apyrase to treat arterial thrombosis and limit reperfusion injury without increasing bleeding risk (Sci. Transl. Med., 6, 248ra105 (2014))

根をどう理解するかが問題だ(How to plumb the root is the problem)

植物の根の導管系は、4っの外見的には似た細胞から産生される。だが、或る時点で、これらの細胞の子孫たちは異なる運命に従う必要がある。シロイヌナズナにおけるコンピュターモデリングとホルモンのシグナル伝達の操作を結びつけることで、De Rybelたちは、4っの細胞のうちの2っを結合する小さな橋の重要さを見つけた( Mellor and Bishoppによる展望記事参照)。この特徴が、ホルモンのシグナル伝達における非対称性を固定し、その結果、これらの中で木部に最も近い細胞が最も強く応答した。モデルにおいては二つのフィードバックループが別々に機能しており、一方はオーキシンに富んだ領域で発生し、他方は領域間の鋭い境界を作っている。(KU,nk)
The innermost secrets of root developmen (Science, this issue p. 636; see also p. 622)

アンモニアを作るレシピーから炭素を除く(Taking carbon out of the ammonial recipe)

合成肥料のためのアンモニアを作るのに用いられる反応には、水素を必要とする。今日、その水素はメタンから得られるが、副生成物として炭酸ガスが生じる。Lichtたちは、比較的効率の良い電気化学的プロセスを実証しているが、そのプロセスでは水と窒素を直接反応させてアンモニアを作る。このアプローチでは、独立した水素発生のステップが不要となる。このプロセスは溶融した水酸化物の塩で起こり、ナノ構造の鉄酸化物由来の触媒を必要とする。この触媒懸濁液は、今のところ数時間しか安定でないが、このプロトコルは、純粋に再生可能な原料からアンモニアを作る道筋を示している。(KU,nk)
Ammonia synthesis by N2 and steam electrolysis in molten hydroxide suspensions of nanoscale Fe2O3 (Science, this issue p. 637)

コンピュータ利用によるベンゼンの分子配列形式の解明(Working out how to pack benzene in silico)

有機化合物の多くは,エネルギー的にほとんど同じで,分子配列が異なる幾つかの状態,即ち,多形で結晶化する。このことが,再現性のある結晶化に依存している薬剤等の製造過程を複雑にしている。今回,Yangたちは,第一原理に基づく結晶分子配列の計算を,結晶多形を区別できる精度で行うという長年の目標を達成した(Priceによる展望記事参照)。彼らは,ベンゼンをプロトタイプのテストケースとして用い,多体相互作用の見積もりを改良する量子化学的な方法を適用した。この結果は,結晶化方法の最適化に対する今後の理論応用に対して,明るい先行きを示すものとなっている。(MY)
Ab initio determination of the crystalline benzene lattice energy to sub-kilojoule/mole accuracy (Science, this issue p. 640; see also p. 619)

中性子を非対称に散乱する(Scattering neutrons asymmetrically)

固体材料の結晶構造は、しばしばその材料特性に影響を及ぼしている。結晶構造が対称的になればなるほど、材料特性も異方性を示さなくなる。しかし、BaFe2As2化合物由来の超伝導体は例外である。その電気伝導特性は、結晶構造が対称であるにもかかわらず異方性を示すという。Luたちは、中性子散乱法を用いて、BaFe2As2化合物の磁気特性も異方性を示すことを突き止めた。電気伝導特性と磁気特性が似たような温度依存性、及びドーピング依存性を示すことから、共通の異方性発生メカニズムを有することが示唆された。(NK)
Nematic spin correlations in the tetragonal state of uniaxial-strained BaFe2?xNixAs2 (Science, this issue p. 657)

硝酸塩を求めての微生物の競合(How microbes compete for nitrate)

我々の用いるアンモニア肥料の多くは、地表あるいは海辺の水中に硝酸塩として残る。この流出が水質を低下させ、生態系に損害を与える。微生物の窒素呼吸が、硝酸塩のその後の運命に影響を与えているとはいえ、どの環境因子がもっとも大きな影響をもたらしているかははっきりしていない。Kraftたちは、海底質から得られた微生物コミュニティーの長期にわたる培養研究を複数回実施した。硝酸塩と亜硝酸塩の相対的供給量が、炭素および窒素の総量とともに、コミュニティーが脱窒の方向あるいはアンモニア化の方向に進むよう駆動する選択的圧力を提供していた。コミュニティーの世代時間の平均はまた、どちらの呼吸経路が支配するかに強く影響していた。(KF)
The environmental controls that govern the end product of bacterial nitrate respiration (Science, this issue p. 676)

悪玉コレステロールは細菌感染でも悪玉?(Bad cholesterol: Bad for bacteria, too?)

感冒などのウイルス感染症は、どうして、人びとの細菌性肺炎への感受性をより強めてしまうのだろう? その理由の一つは、抗ウイルス性免疫応答を引き起こすタンパク質、Ⅰ型インターフェロンが、細菌感染から保護するその他の炎症性分子を抑制するからである。Reboldiたちは、マウスにおいてこの抑制が分子レベルでどのように生じているかを研究した。インターフェロンは、オキシステロール25-ヒドロキシコレステロール (25-HC)の産生を触媒する特定の酵素の発現を刺激した。25-HCは転写制御因子 SREBPの機能を抑制するが、このSREBPは通常では広範囲の抗菌機能をもつ分泌性炎症タンパク質であるインターロイキン1をコードする遺伝子の発現を促進すしている。(KF,KU,nk)
25-Hydroxycholesterol suppresses interleukin-1?driven inflammation downstream of type I interferon (Science, this issue p. 679)

彎曲=多価不飽和脂肪酸の利点(Bending the benefits of polyunsaturates)

我々はよく、多価不飽和脂肪酸を摂るのは有益だということを聞いている。我々はまた、シナプス小胞などのある種の小器官が多価不飽和脂質に極端に富んでいることを知っている。しかしながら、多価不飽和脂質が体内で何をしているかははっきりしていない。細胞生物学と生化学的再構成、そして分子動力学を用いて、Pinotたちは、膜の彎曲のセンシングや膜の形状生成、それから膜分裂に関与するタンパク質への膜応答を、多価不飽和リン脂質が変えていることを示している。多価不飽和リン脂質は、細胞膜を変形しやすくし、細胞膜の物質取り込み作用、すなわちエンドサイトーシスを促進し、そして再構成実験においては、ダイナミン-エンドルフィン複合体による膜分裂を増加させたのである。(KF,KU,nk)
Polyunsaturated phospholipids facilitate membrane deformation and fission by endocytic proteins (Science, this issue p. 693)

少しずつから膨れ上がる?(Going from a trickle to a flood?)

科学者たちは,しばしば,タンパク質の3次元構造の決定に,X線結晶学や核磁気共鳴分光法を用いている。しかしながら,巨大なタンパク質複合体に対しては,いつも,これらの手法がうまくいくとは限らない。SmithとRubinsteinは展望記事で,超低温で電子顕微鏡が用いられた場合,今では,そのようなタンパク質複合体の極めて詳細な構造を与えることができることを説明している。多くの構造生物学者は,クライオ電子顕微鏡と呼ばれるこの手法のことを,限られた細部しか提供できないため,以前は,"blobology"(役立たず学問の意)とばかにしてきた。検出器技術とコンピュータ処理の進歩により,現在,blobologyは高分解能技術の領域へと高められた。最近,この手法から少しずつ高解像構造が得らているが,まもなくその数が膨れ上がるであろう。(MY)
Beyond blob-ology (Science, this issue p. 617)

T細胞の最大活性化に必要な2つのシグナル(Two signals for maximal T cell activation)

T細胞活性化には細胞内カルシウムの増加と、キナーゼ Itkなどの多様な酵素の活動が必要である。Wangたちは、2つのシグナル、カルシウムと脂質が、T細胞の最大活性化のためにItk上に収束したことを報告している。Itkタンパク質の同じ領域が、シグナル伝達脂質 PI(3,4,5)P3とカルシウム結合タンパク質であるカルモジュリンとに結合していた。PI(3,4,5)P3とカルモジュリンは、Itkへの互いの結合を増強した。PI(3,4,5)P3とカルモジュリンの結合は、T細胞が炎症性サイトカインであるインターロイキン-17Aのレベルを最大化するのに必要だった。(KF)
Calmodulin and PI(3,4,5)P3 cooperatively bind to the Itk pleckstrin homology domain to promote efficient calcium signaling and IL-17A production (Sci. Signal. 7, ra74 (2014))
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