AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 25 2014, Vol.344


二重になった二重らせん(Double Helix, Doubled)

クロマチンはヌクレオソーム上にパッケージされたゲノムDNAからなり、即ちヒストンタンパク質の二重ドーナツ形状の複合体である。およそDNAの150塩基対が、中間にある可変長のリンカーDNAと共にそれぞれのヌクレオソームの周りを取り巻いている。低温電子顕微鏡を用いて、Songたち (p. 376; Traversによる展望記事参照)は、DNAの12個ヌクレオソームの紐の構造を11オングストローム分解能で決定した。そのセグメントは30ナノメートルのファイバー構造を形成しているが、それ自身二重らせん構造であり、それがパッケージしているDNAと似ているのである。(KU、KF,nk)
Cryo-EM Study of the Chromatin Fiber Reveals a Double Helix Twisted by Tetranucleosomal Units

アフリカの疫病神(Africa's Bane)

ツェツェバエは吸血性の、高速に飛び回るハエで、原虫病原体である。トリパノソーマの一連の種を伝染させ、ヒトにおいては眠り病を、家畜においてはナガナ病ををもたらす。国際ツェツェバエ ゲノムイニシアティブ(p. 380)は、ツェツェバエmorsitanのゲノム配列を決定し、そして胎生や、哺乳類の乳タンパク質類似体の発現など、ツェツェバエに特有な生物学の多くの属性のもととなっている遺伝子を同定した。ツェツェバエは、そのハエにとって必須な栄養物を合成する幾つかの特異的な共生生物にとっての宿主であり、また今まで未発見の寄生種由来のウイルスにとっても宿主である。このゲノムをより深く探究することで、このハエ種が宿主として働き、またトリパノソーマ特異的であることの理由も明らかになるだろう(KU,KF,nk,ok)
Genome Sequence of the Tsetse Fly (Glossina morsitans): Vector of African Trypanosomiasis

納得できる窒素損失(Understanding N Loss)

生物学的に利用可能な窒素 (N)は、海洋植物にとって必須であり、そして Nの不足は光合成を制限する。海洋の Nは脱窒素プロセスと嫌気性のアンモニア酸化 (anammox)プロセスによって除去されるが、しかしこれら二つの経路間のバランスは、何が制御しているのだろうか? Babbinたち (p. 406, 4月10日号電子版)は、実験室での N除去に関する化学量論比の効果を調べ、そして N 損失プロセスのそのバランスがソースとなる有機物質の化学量論比に依存していることを見出した。(KU,nk,ok)
Organic Matter Stoichiometry, Flux, and Oxygen Control Nitrogen Loss in the Ocean

光遺伝学観測による洞察(Optogenetic Insights)

多くの挙動に関する機能的な神経回路をマッピングする(解読する)ことはほとんど不可能である。このため,Vogelsteinたちは(p. 386, 3月27日発行電子版;O'LearyとMarderによる展望記事参照),広く適用可能な神経細胞作用のマッピング(解読)方法を開発し,それを表現型の幼生ショウジョウバエに対して用いこれによって基準地図を作った。光遺伝学実験は特定分野の神経科学研究では普通のものとなってきているため,さらに一層特別な手段を創出することが必要な状況にある(Hayashiによる展望記事参照)。Wietekたちと(p. 409, 3月27日発行電子版),Berndtたちは(p. 420),チャンネルロドプシンを遺伝子工学的に操作することで,2つの異なる光ゲート型アニオンチャンネルを作った。これらのアニオンチャンネルは,シナプス刺激の間で,あるいは,脱分極性電流の流入の間で生じる活動電位の発生を阻止する。これらの新しい手段は,チャンネルロドプシンへの理解を向上させるばかりでなく,細胞をサイレント化する方法をも提供するものとなる。(MY,ok)
Discovery of Brainwide Neural-Behavioral Maps via Multiscale Unsupervised Structure Learning
Conversion of Channelrhodopsin into a Light-Gated Chloride Channel
Structure-Guided Transformation of Channelrhodopsin into a Light-Activated Chloride Channel

2 + 2への2方面からのアプローチ(A Dual Approach to 2 + 2)

ある特定形状の化合物を生成する反応経路は,一般に,非対称性の触媒作用により強められる。この経路は,反応温度を下げて競争反応の速度を低下させることによって制御される。光化学反応で選択性を生じさせることは,これより難度が高い。しかしながら,Duたちは(p. 392; Neierによる展望記事参照),4員環を生成するオレフィンの[2 + 2]カップリング反応に,可視光吸収を有するルテニウム触媒を用いた。この触媒は,基質の固有光吸収端振動数より小さな振動数の光で基質を活性化する。その後,2番目の---キラルなルイス酸---触媒により,生成物の立体選択性が誘導される。この2段階反応の主要な利点は,各々の触媒を個別に適正化できることである。(MY,nk)
A Dual-Catalysis Approach to Enantioselective [2 + 2] Photocycloadditions Using Visible Light

湿らされたアパタイト(Wetted Apatite)

乾燥した月という昔からの物語が、水素を含むガラス小球が発見された数年前に書き直された。最も高い含水量が月のアパタイト(リン灰石)で見いだされ、そのレベルは、地球のアパタイトの含水量に匹敵するような信じられないようなものであった。Boyceたち (p. 400, 3月20日号電子版; Anandによる展望記事参照)は、月のアパタイトの含水量が月の海(大平原部)の玄武岩中の水の存在量に関する信頼できる指標ではないことを示している。高い含水量を有するアパタイトの存在は、溶融によるフッ素の豊富なアパタイトの少量の損失と水素置換による不可避の結果であって、つまり、「湿った」月を示すものではないのである。(KU,KF,nk,ok,th)
The Lunar Apatite Paradox

家それとも顔?(House or Face?)

非空間的注意とは違って、空間的注意についての神経メカニズムはよく知られている。BaldaufとDesimoneは、いくつかの技術を組み合わせて、非空間的な、モノに基づく注意を仲介するヒトの前頭側頭骨ネットワークを同定した(4月10日電子版p. 424)。その振動性相互作用には明瞭なトップダウンの方向性があり、下前頭皮質を、非空間的注意の下側頭皮質への入力の鍵となる資源として確立している。驚いたことに、非空間的注意の仕組みは、空間的注意のそれと著しい並行性を備えているのである。(KF)
Neural Mechanisms of Object-Based Attention

軽い制御ではない(No Light Control)

光は、植物にとってエネルギーの主要な源であり、増殖と発生ためのシグナルとしても使われる。実際、シロイヌナズナとコメにおいて、光はトラスクリプトーム全体の5分の1までをも調整することがある。Petrilloたちは、植物の適切な増殖に必要な、セリン-アルギニンに富むタンパク質At-RS31の選択的スプライシングを介して、光が遺伝子発現に影響を与えることがあることを明らかにした(4月10日電子版p. 427)。しかし、光受容器は関与しておらず、むしろ、葉緑体由来の移動性逆行性シグナルが、At-RS31の選択的スプライシングを制御しているのである。(KF)
A Chloroplast Retrograde Signal Regulates Nuclear Alternative Splicing

拡大された閃光(Magnified Flare-Up)

2010年に発見された超新星の光度の上昇と下降は、それの属するクラスでは典型的なものであったが、その見かけの明るさは、類似の事象よりも30倍も明るいものであった。Quimby たち (p.396) は、最高の明るさの時のスペクトルとその超新星が暗くなってからのものを比較した。そして、これから、彼らは、なにかが超新星の(地球側からの)見え方に干渉していると結論付けている。これまで知られていなかった超新星の前景にある銀河が、レンズとして作用して、その超新星からの光を曲げたり拡大していることが判った。潜在的には、このような時空の歪みを用いることで、宇宙膨張を直接的にテストすることが可能なるかもしれない。(Wt,KF)
Detection of the Gravitational Lens Magnifying a Type Ia Supernova

深所での凍結

地質学者は通常、氷河や氷床はそれらの下にある地面を侵食し、地下の地形に起伏を作る巨大な研磨剤であると見做している。Biermanら(P.402, 4月17日の電子版で公開)は、このことがいつもそうとは言えないことを示している。彼らは、グリーンランド氷床計画2(GISP2)で見出されたコアの最深部にあるシルト(沈泥)がかなりの量のベリリウム10を含んでいることを発見した。これは宇宙線によって大気中で生成される同位体であり、土壌に堆積されるとそこに付着する。したがって、氷床の底での粉塵は、何百万年も前の、氷河氷の3000メートル下での地形の状態を示していることになる。(hk、KF)
Preservation of a Preglacial Landscape Under the Center of the Greenland Ice Sheet

RNAの異形成(RNA Heteroplasmy)

核のDNAと同様に、ミトコンドリアのゲノムは、適切に機能するために、転写後に修飾されないといけない。しかし、多くの個人間で、ミトコンドリアRNA(mtRNA)の転写物は、あまりよくわかっていないやり方で異なっている。Hodgkinsonたちは、700人以上の個人におけるmtRNA編集イベントと転写後のメチル化を調べた(p. 413)。面白いことに、転移RNAの9番目の位置での変種は、ある場合には遺伝性の高頻度での変動を示したのである。(KF,nk)
High-Resolution Genomic Analysis of Human Mitochondrial RNA Sequence Variation

ラン藻の多様性(Cyanobacterial Diversity)

グローバルな種であるとはどういう意味なのだろう? 海洋のラン藻Prochlorococcusは、遍在していて、議論の余地はあるにせよ、すべての生物体の中でもっとも大量に存在し、増殖力も強い。我々の眼には海というものは均一に見えるが、細菌にとっては、海洋の大部分は微細環境が過度にあり過ぎる。非培養細胞の大規模単細胞ゲノム解析によって、Kashtanたちは、Prochlorococcusが、そうした多くの環境に対応するよう分化してきたことを明らかにした(p. 416; またBowlerとScanlanの展望記事参照)。この「種」は、それぞれ百万年前の祖先をもつ大量の亜集団から構成されているが、それらは季節によって量が変化している。この亜集団は次に、核となる対立遺伝子と可変性の遺伝子内容物の集合に即して共変動する入れ子状態のクレイドを形成するが、これは急速な環境変化への応答の柔軟性を示すものである。共存する複数の集団からなる大きな集合というものは、高度に混在性のある生息環境に生きる他の自由生活細菌種においても、一般的な特徴のようである。(KF)
【訳注】
・クレイド:共通の祖先から進化してきた生物種
Single-Cell Genomics Reveals Hundreds of Coexisting Subpopulations in Wild Prochlorococcus
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