AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 18 2014, Vol.344


まだら状の絶縁(Patchy Insulation)

髄鞘(ミエリン)は,ニューロン軸索の電気信号がより速く,より効率的に伝搬されるようニューロン軸索を周囲から絶縁化している。しかしながら,全ての軸索がどこも同じように有鞘化しているわけではない。Tomassyたちは (p. 319; Fieldsによる展望記事参照),成体マウスの脳の2つの断片から精細な像を得,個々のニューロンおよび髄鞘パターンの3次元復元像を作った。軸索の中には,髄鞘を持たずに長く伸びているものがあることをこの像は示している。この部分が新しい神経結合の形成場所となる可能性がある。このため,有鞘化は,完全に起きるか、あるいはまったく起こらないかの現象ではなく,むしろ,ニューロンとそれを取り囲む髄鞘産生細胞の間でなされる鞘に関する情報交換の表れと看做せる。(MY,nk,ok)
【訳注】
・髄鞘(ミエリン):ニューロン(神経細胞)の軸策を取り囲んでいる脂肪質の物質
Distinct Profiles of Myelin Distribution Along Single Axons of Pyramidal Neurons in the Neocortex

ハエよ、ぐっすり眠れ(Sleep Tight, Fly)

羽化の直後、成虫になったばかりのハエは長時間の睡眠をとり、なかなか目覚めようとしない。数日後、同じハエはほとんど眠らなくなり、眠ったとしても簡単に目覚めるようになる。Kayserたちは (p. 269)、若い成虫のハエの異なる睡眠パターンの特徴が、ハエの脳の正常な発生にきわめて重要な意味をもつことを示している。若い成虫のハエにおいて、睡眠が途中で妨害されると、ドーパミン作動性の信号もまた遮断され、そして求愛行動の回路における糸球体が正常に発生せず、その結果不適切な求愛行動に繋がり、繁殖に失敗するようになる。(Uc,KU)
A Critical Period of Sleep for Development of Courtship Circuitry and Behavior in Drosophila

グラフェンを滑らかにする(Smoothing Graphene)

シリコンエレクトロニクスに組み込めるほどに広い単層グラフェンを成長させる方法がいくつか報告されてきた。。しかしながら、多くの場合、結晶粒界やシワがグラフェンの電子特性を劣化させている。Leeたち(p. 286, 4月3日号電子版)は、粒子を整列させるゲルマニウム層で覆われたシリコンウェハへの化学蒸着法(CVD)によって、単層グラフェンの平坦な単結晶が成長することを示している。グラフェンは他の基板へ乾式転写することができ、そしてゲルマニウム層はさらなる成長サイクルのために再使用することができる。(hk,KU,nk)
Wafer-Scale Growth of Single-Crystal Monolayer Graphene on Reusable Hydrogen-Terminated Germanium

ツェッペリン飛行船で(On a Zeppelin)

亜硝酸(HONO)は対流圏中の水酸基ラジカル(OH)の前駆体として働く重要な微量ガスであり,大気の自浄能力を担っていて,そしてまた,メタンやオゾンのような温室ガスの濃度を制御している。HONOがどのようにして作られるのかは謎である。Liたちは(p.292),北イタリアのポー渓谷上空をツェッペリン飛行船に乗り,大気が乱されていない朝方の対流圏でHONOが存在することを見つけた。これは,HONOが地表の大気と混合されてできたというよりは,むしろ,そこで生じたに違いないことを示している。高濃度の HONOは,おそらく OHやHO2ラジカルを消費している光依存性の気相源から形成されたらしく,このことから,対流圏全体でのOH存在量に対する HONOの影響が,かなり過剰評価されていることを示唆している。(MY)
Missing Gas-Phase Source of HONO Inferred from Zeppelin Measurements in the Troposphere

星のまばたき(Starry Brightness)

NASAのケプラー天文台が有する優れた測光精度により、多くの惑星が検出できるようになった。その検出理由は、それらの惑星が中心星の前を通過するときに、その中心星をわずかに暗くするからである。これらのデータから、Quintanaたち (p. 277)は、小さな恒星を回る5つの惑星からなる系を見出した。その最も外側の惑星は、地球より10%大きいだけであり、その130日の周期軌道はすべて生命の生存可能な領域内にある。同じく、KruseとAgol (p. 275) が、連星系 KOI-3278 について報告しているように、ケプラー(探査機)は、かすかな周期的な増光をも検出することができる。この系では、白色矮星が太陽に似た G型の伴星の前を88日毎に通過するときに、重力マイクロレンズとして作用している。このレンズ効果により、その白色矮星の質量を評価することができ、これにより似通った連星系がどのように進化したかを理解するうえで有用なものである。(Wt,KU,nk)
An Earth-Sized Planet in the Habitable Zone of a Cool Star
KOI-3278: A Self-Lensing Binary Star System

集合体の変化(Changing Assemblages)

種絶滅の速度が、生物圏全体に渡る人間活動の結果として大きく増加したが、種の保存に関しては集合体におけるシフトよりも絶滅の危機に瀕した種に集中している。Dornelasたち (p. 296; Pandolfi and Lovelockによる展望記事参照)は、過去50年間の海と陸の生息地の双方における種の出現に関する広範囲の生物多様性の時系列セットを用いて、予想を超える種の交替を見つけたが、系統的な生物多様性の消失の証拠は見出せていない。この結果は、外来種による種の集合体の均質化や、気候変動による分布のシフト、及び地球全体の非同期性の変化によって引き起こされたのであろう。これらの全ては、種の保護の優先度を見直すべき時であることを示唆している。(KU,ok)
Assemblage Time Series Reveal Biodiversity Change but Not Systematic Loss

ストレス抵抗性のある過分極(Resilient Hyperpolarization)

大多数の人は,あらゆる種類のストレス要因に絶えず晒されているにもかかわらず,抵抗性を持ち,抑鬱状態の進行が起こらない。しかしながら,私たちは,ストレス抵抗性の神経生理学的基盤について理解してはいない。Friedmanたちは (p. 313),社会的敗北ストレスを与えて抑鬱化させるマウスモデルを用いて,ストレス抵抗性の現象を研究した。その結果,マウス中で,腹側被蓋野(抑鬱症が関与することが知られている脳の領域)の過分極とカリウムチャンネル電流の増加が明らかに病気のレベルにあるにもかかわらず,ストレス抵抗性マウスでは、ドーパミン作動性ニューロンの活性が通常レベルを示していることを見出した。このため,もし,"抑鬱状態の"マウスを,実験的にさらに過分極へと誘発すると--予想外なことに,抑鬱が関与するマウスの行動が完全に逆転した。(MY)
Enhancing Depression Mechanisms in Midbrain Dopamine Neurons Achieves Homeostatic Resilience

超対称性が有望?(Hope for SUSY?)

物質を構成する粒子であるフェルミオンと、フェルミ粒子間の相互作用を仲介するボソンの間の対称性である超対称性(SUSY)は、素粒子物理学の標準モデルのより有望な発展形の一つとして提唱されてきた。しかしながら、今のところ、実験的裏付けは殆どなされていない。超流動のヘリウム3のような凝縮物質系が、その概念を救うかもしれない。Grover たちは(p. 280, 4月3日号電子版)、今後の実験に向けて、理論的アプローチを進展させた。その中では、トポロジカル超伝導体の境界領域において、ボソンの秩序パラメータで特徴づけられる磁気相と、マヨラナフェルミオンが主役である隣接相との間の量子相転移が、SUSY によって予言されることが示唆されている。(Sk,nk)
Emergent Space-Time Supersymmetry at the Boundary of a Topological Phase

引っ張られた超伝導体(Strained Superconductor)

材料を変形させてその応答を観察することにより、その電子状態を知ることができる。薄膜を異なる格子定数を有する基板上に形成することにより、薄膜は歪みを受ける。しかし、バルク状サンプルの変形はより困難である。Hicksたちは(p. 283)、張力と圧縮歪みの両方を加えられる装置を設計し、それを用いて超伝導体 Sr2RuO4 の特性を調べた。これまで長い間、この物質には異常な p-波超伝導が起きていると仮定されてきた。印加された歪みに対する超伝導転移温度 Tc の応答は、歪みが加えられる方向に依存し、歪みがゼロの近傍で生じると予想されていた尖点は現れなかった。この技術は、外部のプローブに対しても、プローブ面をさらしているので、幅広い測定に適用可能であろう。(Sk,KU,nk,ok)
Strong Increase of Tc of Sr2RuO4 Under Both Tensile and Compressive Strain

薄くて選択性のある流れ(Thin and Selective Outpourings)

物質の分離に膜を用いる場合の分離効率は、いかに速く気体や液体が膜を通過できるか、およびいかに選択性があるかによって制限されている。より薄い膜では通常、より速い流速が得られるが、選択性に劣る。選択性を維持する試みとして、Celebiたちは(p. 289)、約2層の厚みのグラフェンシートに、制御された直径の穴をあける巧みな方法を開発した。そのような薄膜では、主な分離上の関門は、膜を通過する流体運動ではなく、穴の入口と出口で生じる。(Sk,ok)
Ultimate Permeation Across Atomically Thin Porous Graphene

どのように密着しているのか?(How Tight?)

後生動物において、上皮細胞のシートは様々な組織の間隙を分離し、それらの組成を制御している。密着結合(tight junctions)は、これらの細胞シートにおける細胞間接着構造であり、細胞間のシールを形成しているだけでなく、イオンや低分子への或る選択的な透過性をも与えている。クローディン(claudin)は、この密着結合の主要成分であり、そしてクローディンの変異はイオンバランスの破壊等遺伝性のヒト疾患を引き起こす。Suzukiたち (p. 304)は、2.4 オングストロームの分解能でマウスのクローディン-15の構造を報告しているが、これは膜貫通の4-ヘリックスバンドルに固定された細胞外β-シート領域を示している。クローディン表面の静電気的分布は、細胞外領域におけるマイナスに帯電した溝の存在を明らかに示しており、プラスイオンに対する通路を与えているのであろう。(KU)
Crystal Structure of a Claudin Provides Insight into the Architecture of Tight Junctions

切り刻みへの抵抗(Resisting the Chop)

デング熱ウイルスと西ナイルウイルス、そして黄熱病ウイルスは、すべてフラビウイルスであり、これらは一本鎖RNAゲノムをもち、感染するとウイルス性の病原性の原因となる特異的で短いフラビウイルスのRNA (sfRNA)を形成する。それら sfRNAは、宿主細胞のエキソヌクレアーゼ Xrn1によるウイルスRNAの不完全な分解によって産生される。宿主の酵素が、ウイルスRNAを完全に切り刻むのを止めているものは何なのだろう? Chapmanたちは、Murray Valley脳炎ウイルスに由来する sfRNAの Xrn1抵抗性要素の構造中にあるシュードノット(pseudoknot:偽結び目構造)を明らかにしたが、これがおそらく宿主のエキソヌクレアーゼ Xrn1がほどくことのできないものなのである(p. 307)。(KF,KU)
The Structural Basis of Pathogenic Subgenomic Flavivirus RNA (sfRNA) Production

普遍的な免疫機能(Universal Immune Function)

ある種の病原体エフェクターが、植物中で細胞質受容体によって検出されている。まずシロイヌナズナの受容体の結晶構造を解決することによって、Williamsたちは、静止状態において、その構造がヘテロ二量体を形成し、これがエフェクター結合のための複合体を用意し、シグナル伝達領域の発火が早過ぎないように保つことを発見した(p. 299; またNishimuraとDanglによる展望記事参照)。ひとたび病原体エフェクターが結合すると、その複合体の構造は変化して、シグナル領域がホモ二量体を形成し、下流のシグナル制御を引き起こすようになる。こうした植物病原体受容体と動物の Toll様受容体の類似は、この分子機構が広い範囲で翻訳されている可能性のあることを示唆する。(KF,KU)
Structural Basis for Assembly and Function of a Heterodimeric Plant Immune Receptor

樹状細胞の活性化へのL[i]nc(L[i]nc to Dendritic Cell Activation)

長い非翻訳RNA (lncRNA)は、遺伝子発現の重要な制御因子であるが、それらが免疫系の重要な制御因子であるのかどうかは、良く分かっていない。Wangたちは、もっぱらヒトの樹状細胞 (DC)中に発現する lnc-DCと呼ばれる lncRNAを同定しているが、それはヒトの単球からの最適な DC分化にとって必要で、また T細胞の DC活性化を制御している(p. 310)。lnc-DCは、DC発生とその機能にとってこれまた必要となる転写制御因子 STAT3と相互作用し、チロシンホスファターゼ SHP1との相互作用を妨げ、チロシンホスファターゼ SHP1による脱リン酸化をブロックする。(KF)
The STAT3-Binding Long Noncoding RNA lnc-DC Controls Human Dendritic Cell Differentiation
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