AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 2 2014, Vol.344


トリックとごちそう(Trick and Treat)

フォーク状の尾を持つオウチュウ(forked-tailed drongo)はアフリカに生息する特別に頭のよい種類の鳥である。オウチョウは他の多くの鳥類や哺乳類の種と遭遇するので,これにより,これらの種は,オウチョウが出す警告声に対しての応答を学習することができる。オウチョウはまた,極めて上手に,他の種が発する警告声を模倣する。これらの複数の種にまたがって警戒度が高まることは,一般にすべての種にとって有益であるが,オウチョウはしばしば,競合する種を餌から追い払うため,これらの鳴き声を策略として使い,餌を盗み取る。しかしながら,この手口を効果的に維持するための何らかの取り組みがなければ,オウチョウの手口は,じきに見透かされてしまうことになる。今回,Flowerたちは(p. 513),オウチョウが,発する鳴き声の種類を柔軟に変えることで,狙っている種をより長期的に欺くことができることを明らかにしている。(MY,KF,nk)
Deception by Flexible Alarm Mimicry in an African Bird

超分子の入れ替えを検証する(Examining Supramolecular Exchange)

微小管は、1次元(1D)超分子構造の自然な例のひとつである。1D の原繊維を合成した例では、しばしばモノマーは弱い非共有結合性の相互作用によって結合されて、この結合においては、原繊維の内と外とのモノマーの入れ替えが可能である。Albertazzi たち (p.491) は、個々の原繊維の超解像顕微鏡像と確率論的シミュレーションを組み合わせて、積層された 1,3,5-benzenetricarboxamide モチーフから形成された原繊維の中でのモノマーの入れ替え状況を調べた。このモノマー交換には、断片の大規模な脱重合や再重合、あるいは再整列を必要とせず、個々のモノマーが原繊維全体で均一に入れ替わることにより、進行していた。(Wt,ok)
Probing Exchange Pathways in One-Dimensional Aggregates with Super-Resolution Microscopy

界面での反応性を向上する(Improving Reactions at Interfaces)

白金のような貴金属を,鉄やニッケルのような豊富にある遷移金属と合金化することで,その触媒としての反応性の向上や,コストの低減が可能となる。Chenたちは(p. 495),白金ナノ粒子担持体上に鉄の酸化体-水酸化体の層をコートしたものを一酸化炭素(CO)の酸化に適用することを検討した。この層があることで,2つの金属上の異なる反応サイトが一緒になって機能し,室温で急激に反応が進むことが可能となった。ニッケルを添加すると触媒の寿命が向上し,また,酸化処理をすると,さらに複雑な形態のナノ粒子が生じ,白金の利用が増えた。(MY,KF,ok)
Interfacial Effects in Iron-Nickel Hydroxide?Platinum Nanoparticles Enhance Catalytic Oxidation

ナノチューブ工学(Nanotube Engineering)

一般に、非共有結合を介してのナノチューブの可逆的自己組織化は、完全に集合体を作るか、あるいは完全にバラバラにされるかのどちらかになる。Fukinoたちは、その中間の可能性をもつシステムを開発した(4月10日電子版p. 499; またHudsonとMannersの展望記事参照)。AgBF4と混合されたフェロセン系のテトラトピックピリジルリガンドから、中空のナノチューブ構造が構築された。フェロセングループの酸化を介して、そのチューブは安定で大きな環に切り出すことができ、フェロセングループの還元によって可逆的にナノチューブへと再構築できた。(KF,ok)
Interfacial Effects in Iron-Nickel Hydroxide?Platinum Nanoparticles Enhance Catalytic Oxidation
Assembly and Disassembly of Ferrocene-Based Nanotubes

脳の分子を観測する(Watching Brain Molecules)

磁気共鳴画像法(MRI)分子センサーを用いた脳機能イメージングは,神経システムの機構を解析する上で有用な方法となりうる。Leeたちは(p. 533),MRI検出センサーを適用し,非侵襲的イメージングによって,脳機能の分子的側面についての測定を行った。この分子センサーにより,報酬処理に関与する脳領域である腹側線条体領域中での,ドーパミンの放出の空間マップが変化していく様子が定量的に明らかになった。(MY,nk)
Molecular-Level Functional Magnetic Resonance Imaging of Dopaminergic Signaling

増加する代謝循環率(Increasing Turnover)

大気中の二酸化炭素の濃度上昇は、植物の増殖を刺激し、バイオマスと土壌中の炭素貯蔵量の増加をもたらし、それによって大気中の二酸化炭素レベルの上昇率は緩和されそうにみえる。Van Groenigenたちは、大気中の二酸化炭素の濃度の上昇がまた、土壌中の有機炭素の増加とおよそ同じ量だけ、土壌中の有機物の炭素の微生物による分解を刺激していて、その結果、平衡状態にある土壌炭素存在量の水準を下げ、炭素蓄積を制限することになっている、とするメタ解析とモデル化の結果を報告している(4月24日電子版p. 508)。つまり、土壌は期待されていたほどには炭素を貯蔵できない可能性があるのだ。(KF,nk)
Faster Decomposition Under Increased Atmospheric CO2 Limits Soil Carbon Storage

干ばつへの対応を予測する(Predicting Responses to Drought)

米国中西部のトウモロコシ地帯は、世界のトウモロコシの生産のかなりの部分を担っている。さまざまな要因によって、長年にわたってその収量は増加してきた。Lobellたちはこのたび、干ばつへの感受性もまた同様に増加してきたことを示している(p. 516; またOrtとLongによる展望記事参照)。植物は理想条件下で収量を増すように育てられるうちに、非理想的条件に対してより感受性を増すようになる、ということらしい。鍵となる要因は栽植密度であるかもしれない。今日のさまざまなトウモロコシは、叢生(密集させての栽培)に対しても頑健であり、農業家は面積あたりより多くの植物を収穫できるようになったが、この同じ叢生法は、水資源が制限されると、大損害をこうむることになるのである。(KF,ok,nk)
Greater Sensitivity to Drought Accompanies Maize Yield Increase in the U.S. Midwest
Limits on Yields in the Corn Belt

メチル化された系譜(Methylating the Family Tree)

現代人と古人類の間には、DNA配列に関する高いレベルの類似性が存在する。しかし、表現型の差を説明するであろうゲノムのメチル化領域の違いの程度は、明確になっていなかった。Gokhman たちは(p.523, 4月17日号電子版)、古代のDNAの中で自然分解されたメチル化したシトシンはチミンに変換されており、これが古代のメチロームの再構築に使えることを実証した。この結果から、手足の発生にとって重要な一組の遺伝子において、現代人と古代原人の間の骨組織のメチル化に違いがあることが示唆された。(Sk,bb,ok,nk)
Reconstructing the DNA Methylation Maps of the Neandertal and the Denisovan

核障害のリモデリン

A型ラミンタンパク質の制御異常は、クロマチン構造の組織崩壊と奇形核をもたらす。そして、そのことが、様々なヒト疾患の病理の根底にあると考えられている。そうしたヒト疾患には早期老化障害ハッチンソンギルフォード早老症候群(HGPS)および種々の癌が含まれている。Larrieuら((p. 527)は、小分子であるリモデリン(Remodelin )を開発した。これはヒトラミンA/C-枯渇細胞とHGPS細胞及び老齢正常細胞の核の形状障害を改善しただけでなく、DNA損傷マーカーのレベルを減少させ、また全体的な細胞の適応度を改善した。(hk,nk)
Chemical Inhibition of NAT10 Corrects Defects of Laminopathic Cells

気候変動の尺度を解釈する(Interpreting Climate Change Metrics)

生物多様性に対する気候変動の影響の予測はその殆どが、複雑さが異なる気候と生物の関係に関するモデル化によるアプローチに頼っている。もう一つの手法は、長期にわたり気候変動にさらされた領域を定量化する単純な尺度を作成し、それらを生物多様性に関するさまざまの脅威と機会とに関係付けるために、シンプルな尺度を使うべきである。現在使われているいくつかの尺度が与える情報が互いにどう違うのかは、とくに生物多様性との関係では、未だよくわからない点が多い。Garciaたちは(p.10.1126/science.1247579)、気候の平均的現象・極端現象の地域差、気候の利用可能性やその役割の領域による違い、そして気候変動の速度までをも考慮に入れた、生物多様性への影響評価において通常使用されている多様な尺度について評価している。尺度はしばしば生態学や進化論の研究において適当に選択され、そして気候変動の同義語として恣意的に使用されているが、それぞれがスケールの異なる変化を捉えていて、地球上の対照的な空間パターンを明らかにしている。気候変動のスケールと、それが種に対して及ぼす影響との間の繋がりを明確化することから、気候変動の尺度を解釈する枠組みが築かれるであろう。(Uc,KF,nk)
Multiple Dimensions of Climate Change and Their Implications for Biodiversity

必要になった活性(On-Demand Activity)

オリゴデンドログリアは、脳内の軸索をミエリンによって鞘で覆うようにしていて、これは、神経細胞の電気的インパルスの伝達速度を向上させる絶縁性をもたらしている。ヒトの脳中でのミエリン形成のプロセスは、脳発生と認知活動のすべての様式と同時並行的に、何十年にもわたって進行する。Gibsonたちは、光遺伝学を用いて、神経活動に応答してのミエリン形成を研究している(4月10日電子版p. 10.1126/science.1252304; またBechlerとffrench-Constantによる展望記事参照)。覚醒しているマウスの脳の運動皮質の電気的活性は、オリゴデンドロサイトの増殖分化をもたらし、結果として、運動性応答におけるミエリン形成と変質が増大したのである。(KF,ok,nk)
Neuronal Activity Promotes Oligodendrogenesis and Adaptive Myelination in the Mammalian Brain
A New Wrap for Neuronal Activity?

免疫遺伝の変動(Immunogenetic Variation)

多くの遺伝的変異体が病気に関与していることが明らかにされてきたが、組織や細胞型のいたるところで、それらの機能への効果は、未解決である。Rajたちは、発現量的形質座位(eQTL)測定メッセンジャーRNAレベルの解析を提示し、ヨーロッパやアフリカ、アジア系の健康な個体における精製された単球とT細胞中での遺伝子型と遺伝子発現との相関を検討した(p. 519)。すべてではないが、eQTLと発現へのその効果の大部分は、人種間で共有されており、細胞型間のかなりの比率で同様だった。病気に付随する変異体と、従来のゲノム全体の解析によって神経変性性の自己免疫疾患に関与することが知られていた座位との間でのリンクが発見された。(KF,ok,nk)
Polarization of the Effects of Autoimmune and Neurodegenerative Risk Alleles in Leukocytes

極限での光学(Optics On the Edge)

わずか一原子分の厚みの安定した素材を単離できるようになったことは、新世代の薄膜技術の原動力となってきた。通常、そのような素材は、画家的な想像図としては、原子の単結晶の1層だけを取り出した単一の連続的な膜として考えられている。しかしながら、走査プローブおよび透過型電子顕微鏡法が真実の姿を明らかにした。それによれば、その素材はモザイク状の粒界によって分離され、異なる配向や大きさをもつ多結晶体からなるパッチワークのキルトのようなものである。このような構造は、膜の輸送特性や光学特性を決定するのに大きな役割を果たす。Yin たちは(p. 488; Neshev と Kivshar による展望記事参照)、物質の非線形光学応答に基づく単純な顕微鏡技術を実証し、MoS2 の原子レベルの薄膜を調べて、特性を明らかにできることを実証した。原子レベルの薄膜の特性値化や最適化において、本技術が有用となることは確実である。(Sk,ok,nk)
Edge Nonlinear Optics on a MoS2 Atomic Monolayer
Nonlinear Optics Pushed to the Edge

振動で水を切り離す(Vibrating Water Apart)

合成工業化学における主要な水素製造経路は水蒸気改質法で,この方法では,水とメタンが高温状態でニッケル触媒上で反応し,水素と二酸化炭素が生成される。水とメタンの両方とも,反応の最初の解離段階は,分子の並進運動エネルギーおよび内部振動エネルギーにより促進される。これらの反応の基礎的な研究により,反応に対する並進運動および振動の相対的な寄与度を決定しようとする試みがなされている。メタンの反応については,よく研究されてきているが,最近になって,水をより高次の伸縮振動に励起できるレーザが利用できるようになった。今回,Hundtたちは(p. 504),Ni(111)表面でのD2Oの解離についての,実験と理論からの共同研究について報告している。入力エネルギーが一定のときに,反応障壁を越えるのに寄与が大きかったのは,並進エネルギーより振動エネルギーの方であった。(MY,nk)
Vibrationally Promoted Dissociation of Water on Ni(111)

特殊な進化

多くの植物が、ヒトに効能がある化学化合物を生成するが、その進化の歴史は明らかではない。Chaeら(P.510)は、藻類や陸上植物が、一次的な不可欠な代謝経路を維持するよう進化を純化させようとする圧力を受けながら、いかにして二次代謝の生化学(藻類や陸上植物の環境に応じて生成される化合物)を進化させることができたかを調査した。ゲノムデータを用いて、二次代謝経路遺伝子から一次代謝経路遺伝子を分離し、二次代謝の進化の軌跡を組み立てた。二次代謝経路は、新たに複製された遺伝子と維持された遺伝子とからなるクラスター化され同時制御されるセットによってコントロールされる傾向がある。(hk,KF,nk)
Genomic Signatures of Specialized Metabolism in Plants
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