AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 30 2013, Vol.341


ラミンと組織の硬さ(Lamins and Tissue Stiffness)

ミクロな環境は細胞の運命や挙動に影響を与える。例えば、細胞外基質 (ECM)の硬さは細胞増殖を増やし、そしてECMの剛さは細胞張力の増加により組織の形態形成に障害をもたらす。Swiftたち (1240104; Bainer and Weaverによる展望記事参照)はプロテオミクス解析法を用いて、核における組織の弾性に対する機械的センサーである分子を同定し、そしてラミン-Aレベルの発現が明らかに「メカノスタット(mechanostat)」として機能していることを見出した。(KU)
【訳注】・ラミン:核膜の裏打ち構造である核ラミンを構成している主要タンパク質     ・プロテオミクス:生物が産生するすべてのタンパク質を調べる研究 
Nuclear Lamin-A Scales with Tissue Stiffness and Enhances Matrix-Directed Differentiation

金属-有機物構造体に関する戦略(Strategies for Metal-Organic Frameworks)

金属-有機物構造体は高表面積の多孔質材料であり、ガスの貯蔵や分離、触媒としての応用が期待されている。Furukawa等は(1230444)、これまでに開発された構造体について総説しており、そして類似した骨格を有しながら、孔径やリンカー官能基が異なる材料群の設計及び合成戦略について考察している。(NK)
The Chemistry and Applications of Metal-Organic Frameworks

天王星のトロヤ群天体(A Uranian Trojan)

惑星と軌道を共有し,惑星に対して60度だけ先行もしくは後行する天体はトロヤ群と呼ばれている。Alexandersenたちは(p. 994),カナダ・フランス・ハワイの望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope)のデータに基づき,天王星の後を動く天体を発見した。これは少なくとも70万年の間,トロヤ群の状態を維持し,離脱するまでおよそ100万年間,共有軌道を運行すると予測されている。(MY,nk)
A Uranian Trojan and the Frequency of Temporary Giant-Planet Co-Orbitals

うつ病と手綱外側核(Depression and the Habenula)

手綱外側核(lateral habenula)は、うつ病において重要な役割があると考えられている。しかし、その基となるメカニズムは十分に理解されていない。Liたち (p. 1016)はうつ病の複数のげっ歯動物モデル(multiple rodent model)を用いて、シグナル経路と関連する神経細胞の順応を明らかにしたが、手綱外側核中で酵素 βCaMKIIが選択的に発現上昇していた。βCaMKIIレベルを高める処置はうつ病と関係する表現型(phenotypes)を増加させ、そして CaMKIIbのRNA干渉はうつ病を鈍らせた。 手綱(habenula)中の βCaMKIIレベルの増強は、これらのニューロンにおける興奮性シナプス伝達を促進し、そしてグルタミン酸受容体の特定のサブタイプの発現上昇によって媒介される活動電位の発火が増加した。(TO,KU)
βCaMKII in Lateral Habenula Mediates Core Symptoms of Depression

氷の潤滑(Ice Lubricant)

グリーンランドや南極の氷床は双方ともに、表面の氷が融けた水が集まって、氷床の基部に輸送される水文学的システムを有している。水が氷床の岩盤との境界に達して、広域に分布すると、海に向かって氷床を急速に運ぶ潤滑剤の役目を果たすことになるであろう。Bamberたちは(p. 997)、グリーンランド北部の巨大な750km長の氷底谷の存在を報告しているが、その谷は氷床の縁部へと基底部の融水を運ぶ水路として働き、このため氷床の動力学に広く影響を与えている可能性がある。(Uc,KU,kj,nk)
Paleofluvial Mega-Canyon Beneath the Central Greenland Ice Sheet

リーダに従う(Follow the Leader)

鳥類は、困難な条件の下で時には数千キロメートル以上も、どのようにして冬を過ごす土地とひなを育てる土地との間を移動するのかは、まだ謎が残されている。捕獲し飼育した鳥を飛行機を追尾するように訓練して自然に戻すことにより、北米のアメリカシロヅルの自然回復がなされているが、これによって、Muellerたち(p. 999; カバー記事参照)は、個別の鳥に対して8年間のデータを分析する機会が得られた。移動するツルの群れの中に年齢の高い鳥が存在すると、直線の移動経路をとる群れがそこから逸脱することが明らかに少なくなった。遺伝的成分の証拠がないことから、移動行動の発生において、社会的な学習が生得的能力に優っていることを示している。(TO,KU)
Social Learning of Migratory Performance

卵のWAVE1(Egg WAVE1)

卵は正常な発生のために精核を活性化するだけでなく、移植された体細胞核を再プログラムする。アクチンの組織化におけるよく研究された細胞質での役割に加えて、Miyamotoたち (p. 1002)は、卵細胞におけるウィスコット・オールドリッチ症候群タンパク質ファミリーのメンバ-1が、核内の転写装置と協力して、以前サイレンスされた遺伝子を活性化することを発見した。(KU)
【訳注】ウィスコット・オールドリッチ症候群(Wiskott-Aldrich syndrome):免疫系の調節異常により血小板とT細胞の異常を示す
Nuclear Wave1 Is Required for Reprogramming Transcription in Oocytes and for Normal Development

繊毛の難問(Cilium Conundrum)

繊毛は真核細胞の触覚として出現したもので,感覚の受容や発生過程でのシグナル伝達に多くの機能を有している。多発性嚢胞腎のような幾つかの疾患は,繊毛構造が損なわれることで生じる。Bhogarajuたちは(p. 1009),鞭毛内輸送装置によっていかにして繊毛の原料、チューブリンが、認識され、繊毛の維持・形成に不可欠で、繊毛の先端で絶えず入れ替えされているか, を解明している。(MY,kj)
【訳注】チューブリン:微小管を構成するタンパク質
Molecular Basis of Tubulin Transport Within the Cilium by IFT74 and IFT81

ハイドロゲルの伸縮(Hydrogel Stretch)

一連の伸縮可能な導電性材料は、より伸縮可能な導電体を合成したり、あるいは伸縮可能な材料に導電体を添加することで作ることができる。Keplinger たち(p. 984; Rogersによる展望参照)は、変形可能なデバイスを作製するのに使われるハイドロゲル材料に基づく伸縮が可能なイオン導電体を有望な代替可能な材料として加えた。このイオン導電体材料は、可視光スペクトル領域にわたっで完全に透明であり、かつ高電圧と高周波に耐えられる。(hk,KU)
Stretchable, Transparent, Ionic Conductors

表面下の酸化物化学(Oxide Chemistry Below the Surface)

二酸化チタン(TiO2)のような金属酸化物は触媒酸化反応や光触媒に用いられるが,酸素(O2)が基質と直接反応する訳ではない。ルチル相TiO2の表面領域にある空孔では、吸着されたO2に負電荷が移動ことで,さらに活性な反応種が生成される。対照的に,ナノスケールのTiO2粒子に認められる相のアナターゼ型では,空孔は表面下に形成される。Setvinたちは(p. 988),ニオブをドープしたアナターゼ結晶に対し,走査トンネル顕微鏡探針を用いてこれらの空孔を表面に引き出し,吸着されたO2がパーオキソ化合物と架橋O2二量体へ転換する過程を調査した。(MY)
Reaction of O2 with Subsurface Oxygen Vacancies on TiO2 Anatase (101)

貧しさという重荷(Burden of Poverty)

お金や時間を欠くことによって、人はより貧しい決断をするようになるが、それは、貧困というものが注意を弱らせ、努力を減少させることになる認知的負荷を課すからである。Maniたちは、ニュージャージーのショッピング・モールにおける買い手と、インドのTamil Naduの農夫からの証拠を集めた(p. 976; またVohsによる展望記事参照)。彼らは、自動車の修理のお金をどうやって払うか、などの金銭的な決断の想定を考慮することが、それと論理的には無関係の空間課題や推論課題の成績に影響を与えることを発見した。低収入の個人は、修理が高額だと成績が良くなかったが、金額が低いと成績は良く、一方、高収入の個人は双方の条件で成績が良く、あたかも金銭的な負荷の想定が、認知に何等のプレッシャーをも課していないかのようだった。同様に、Tamil Naduのサトウキビ農家は、収穫後の方が、収穫前よりも、これらの課題の成績が良かったのである。(KF,KU,kj,nk)
Poverty Impedes Cognitive Function

X線におけるわれわれの銀河系の中心(The Galaxy Center in X-rays)

われわれの銀河系の中心には、太陽より400万倍を越える大質量のブラックホールが存在している。Wang たち (p.981; Schnittman による展望記事を参照のこと) は、この超大質量ブラックホールの周りの降着流に関するデータについて報告しており、いかにそれが周囲のものと相互作用しているかを明らかにしている。そのデータによると、観測されている不活動状態にある(すなわち、フレアのない)X線は、われわれの銀河系中心における星々からのコロナ放射によって生み出されるという可能性が除外される。そして、また、エックス線放射の効率が低く、ジェットのような放出流を伴わない純粋な降着だけが存在しているという可能性も除外される。(Wt)
Dissecting X-ray?Emitting Gas Around the Center of Our Galaxy

多能性の制御(Pluripotency Control)

転写制御因子である Pou5f1/Oct4やSox2及び Nanogは、哺乳類の胚性幹細胞(ES細胞)の多能性の制御において中心的役割を果たしている。非哺乳類脊椎動物の初期発生における多能性制御ネットワークとその役割の進化は知られていない。Leichsenringたちは、ゼブラフィッシュ胚においては、Pou5f1が、接合子に発現した最初の遺伝子のプライミングと転写活性化を制御していることを示している(p. 1005, 8月15日号電子版)。転写的にサイレントなRNA切断の段階から転写的に活動的な胞胚期へと遷移させるこの仕組みが進化して、哺乳類の初期発生および胚性幹細胞における遷延性の細胞多能性状態を制御している可能性があり、このことが接合子の遺伝子活性化と多能性制御の間を結び付けている。(KF,KU,kj)
Pou5f1 Transcription Factor Controls Zygotic Gene Activation In Vertebrates

その場での加速(Local Acceleration)

地球を取り囲んでいるヴァン・アレン帯に捕捉されている電子がどのようにして加速されるているのかは、1958年の発見当時から議論されてきた。Reeves たちは(p. 991,7月25日号電子版)、2012年8月30日にNASAによって打ち上げられたヴァン・アレン帯嵐探査機からのデータを用いて、放射帯の電子は、磁場の弱い部分〔放射帯外部〕から強い部分〔放射帯内部〕へ半径方向に運ばれることにより加速されているのではなく、波動粒子相互作用によってその場〔放射帯内部〕で加速されていることを見出した。(Sk,KU)
Electron Acceleration in the Heart of the Van Allen Radiation Belts

MraYでレンガを運ぶ(Moving Bricks with MraY)

細菌の細胞壁を組み立てるレンガであるペプチドグリカンは、細胞質中で合成され、細胞膜を越えて輸送されなければならない。これを実現するため、ペプチドグリカンは、膜内在性タンパク質MraYによって、キャリアである脂質に付着する。MraYは天然抗菌剤の標的とされるもので、有望な抗菌薬開発の標的である。Chungたちは、MraYの、3.3オングストロームの分解能での結晶構造を報告している(p. 1012)。その構造と変異マッピングとを合わせると、活性部位の位置の概要が示され、MraY酵素がいかにして基質に結合し、キャリアである脂質への付着を触媒しているかについての興味深いヒントが提供される。(KF,KU,kj)
Crystal Structure of MraY, an Essential Membrane Enzyme for Bacterial Cell Wall Synthesis
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