AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 6 2013, Vol.341


肥満型から痩身型への変換(Transforming Fat to Thin)

微生物叢は宿主の表現型にどれほどの影響を与えているのだろうか? Ridauraたち (1241214; Walker and Parkhillによる展望記事参照) は、体重が違う双子(片方は肥満、もう一人は痩せ型)からの無培養の糞便微生物叢を得、それを生長した無菌のマウスに移植した。脂肪過多(肥満)がヒトからマウスへと感染すること、そして脂肪過多が分枝鎖アミノ酸の血清中濃度の変化と関係していることが発見された。更に、肥満-表現型のマウスでは、痩せたマウス由来のバクテロイデス( Bacteroidales:グラム陰性腸内細菌)のメンバーに侵入されるが、しかし幸いなことに、痩せたマウスでは肥満の微生物叢による侵入が抑制された。(KU,nk,kj)
Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Mice

ブラックホールがガスを押しやる(Pushy Black Hole)

多くの銀河の中心に位置する巨大ブラックホールは、銀河の進化過程に影響を与えているが、この過程はあまりよく分かっていない。Morganti たち (p.1082; McNamara による展望記事を参照) は、活発な降着が起きているブラックホールを有する銀河の高分解能電波像を得た。このブラックホールからは、相対論的な粒子ジェットが放射されている。観測によると、中性の水素ガスの雲が外向けに追いやられており、おそらくは、この現象が恒星形成や銀河の成長に寄与しているのであろう。(Wt,nk)
Radio Jets Clearing the Way Through a Galaxy: Watching Feedback in Action

下がって上って(Downs and Ups)

毎春、北半球のCO2の大気濃度は地上の植物の成長にあわせて減少し、毎秋、CO2は植物が枯れて腐敗するのにあわせて増加する。気候変動は、Gravenたち(p. 1085, 8月8日号電子版; Fungによる展望記事参照)がいくつかの緯度で季節サイクルの振幅が約50%以上を超えていることを発見したほど、大気のCO2のこの季節サイクルを不安定にしてしまった。この増加を説明する唯一の観点は、北方の生態系の構造や構成が変化している結果として、温帯の陸地の生態系が、半世紀前そうだったよりももっと成長したり、縮小しているかどうかである。(Uc,KU,kj,ok)
Enhanced Seasonal Exchange of CO2 by Northern Ecosystems Since 1960

リグニン生合成の複雑さ(Lignin Biosynthesis Complications)

リグニンは,木の強度特性を与え,植物細胞壁の強じん性を向上させる重合体であるが,セルロースからできた植物バイオマスをバイオ燃料に変換する上で化学者に課題をつくりだしている。Vanholmeたちは(p. 1103, 8月15日発行電子版; 表紙参照),シロイヌナズナにおいてリグニン生合成経路に新たなステップを同定したが、そこではカフェオイルシキミ酸エステル分解酵素がカフェ酸エステルを触媒合成している。リグニンの量を減らした変異植物では,セルロースはより効率的にブドウ糖へと転換された。(MY,KU,ok)
【訳注】カフェ酸エステル:リグニン合成経路中の中間生成物
Caffeoyl Shikimate Esterase (CSE) Is an Enzyme in the Lignin Biosynthetic Pathway in Arabidopsis

致死的なキメラ(Fatal Chimeras)

胚発生の初期にDNAメチル化がうまく持続されないと、ゲノム刷り込みに関連した疾患を引き起こすであろう。Lorthongpanich たちは(p. 1110)、複数の刷り込み遺伝子座位のDNAメチル化状態を、単細胞レベルで検出する高感度な測定法を考え出した。ゲノム刷り込みの欠損を有する卵割球では、致死的な異常を発生する複雑で後成的なキメラが現れる。前核の移植により、正常なマウスの発生が回復され、母系性の機能不全により引き起こされる後成的な異常を克服する治療方針が提供された。(Sk,KU,nk,kj)
Single-Cell DNA-Methylation Analysis Reveals Epigenetic Chimerism in Preimplantation Embryos

暗さを求めて(Looking for the Dark)

ショウジョウバエの成熟幼虫は食物摂取から離れ,蛹化に適した暗い場所を探すようになる。Yamanakaたちは(p. 1113),この現象を調べる中で,前胸腺刺激ホルモン (PTTH)を作る4つの神経細胞が,脳中心で光選好性を仲介していることを明らかにした。PTTHは血リンパ中を循環しており,その受容体であるTorsoにより2つの光センサーに信号を送り、光センサーの光検出が活性化される。その後,幼虫は動き回る状態から動かないサナギへと変態し,光と捕食者の目から隠れるのである。(MY,KU,kj,ok)
Neuroendocrine Control of Drosophila Larval Light Preference

難聴と異常行動(Deafness and Misbehavior)

運動亢進を伴う行動上の問題は、高度な難聴や前庭の機能障害を持つ子供たちによく見られる。これまでの説明は社会環境因子に集中していたが、Antoine たちは(p.1120)、内耳の異常が、線条体の機能障害を引き起こす可能性があることを見出した。線条体領域は運動神経の出力制御を助けているので、その障害はドーパミンとグルタミン酸の信号を媒介して、異常行動(特に運動亢進)を引き起こす。この異常行動は、細胞外信号制御キナーゼ阻害剤の注射により反転させることが可能であり、それは行動性の障害の治療に対する新たな目標への道筋を提供する。(Sk,nk)
A Causative Link Between Inner Ear Defects and Long-Term Striatal Dysfunction

絶対的イメージ(Absolute Images)

分子は負電荷をもつ電子と正電荷を持つ原子核の釣り合いによって結び付けられている。複数の電子がレーザー照射により放出されると、残った原子核は斥力によって飛び散る,いわゆるクーロン爆発を引き起こす。Pitzerらは (p.1096)、結晶サンプルを必要とするX線回折法の代わりに、レーザー照射クーロン爆発によって発生する比較的単純な分子ガスの破片の軌道を追跡し、光学異性体(鏡像異性体)の絶対的な立体化学構造を解明できることを報告している。(NK)
Direct Determination of Absolute Molecular Stereochemistry in Gas Phase by Coulomb Explosion Imaging

変化の風(Wind of Change)

太陽系を通過する星間ガスや宇宙塵の流れは変化しないと考えられていた。しかし、 Frischたち(p. 1080)は、過去40年間に渡って太陽系を通過した星間ヘリウムの流れの方向に、顕著な変動があったことを示している。宇宙時代のほぼ全期間を通しての10の異なる宇宙探査機から収集されたデータは、太陽系の銀河環境が定常的であるよりも変化があることを示唆している。(TO)
Decades-Long Changes of the Interstellar Wind Through Our Solar System

量子的衝突の進路(Quantum Collision Course)

我々が経験する、明らかに古典物理によって支配される世界は、量子力学的効果がナノメータより遥かに大きなサイズの世界では平均化されてなくなるという事実の結果生じたものである。分子レベルにおいてすら、回転エネルギー分布の量子化された性質は、しばしば平均化の影響によって不明確になる。Chefdevilleたち(p. 1094; CasavecchiaとAlexanderよる展望記事参照)は、水素と酸素の分子ビームが衝突する散乱軌道中における量子化された回転の明らかな徴候を観測した。実験的に解明された部分波共鳴は理論計算との完全な一致を示し、そして古典的な衝突の概念図式と全くはずれている。(hk,KU,nk,kj)
Observation of Partial Wave Resonances in Low-Energy O2?H2 Inelastic Collisions

フルオロ酢酸塩の接合(Stitching in Fluoroacetate)

ポリケチド合成酵素により,単純な酢酸塩とプロピオン酸塩の構成ブロックが接合され,素晴らしく多様な一連の有機化合物が作り出される。今回,Walker たちは (p. 1089)これらの生化学経路を操作することで,フルオロ酢酸塩--唯一知られている天然酵素によるフッ素化反応の主要合成物--をトリおよびテトラケチドに組み込むことができることを示している。このやり方は,大腸菌の細胞中で,医薬および農薬研究用の一連の複雑な化合物にフッ素置換基を導入する、汎用性のある方法としての可能性を持つことが示された。(MY,KU,kj)
Expanding the Fluorine Chemistry of Living Systems Using Engineered Polyketide Synthase Pathways

数の感覚(Number Sense)

数の大きさへの知覚(Numerosity perception)は 、一次感覚の知覚に似ており、実際にナンバーセンス(the number sens)と呼ばれていた。すべての一次感覚は皮質において組織分布的に体系づけられているので、Harveyたち (p. 1123)は、数の大きさへの知覚もまた、組織分布的に体系づけられているというその仮説を検証した。超高磁場での脳機能画像検査(法)を適用し、そして特種設計した解析(custom-designed analysis)を用いて、彼らは数の大きさの組織分布的な知覚マップがヒトの頭頂皮質で生じていることを確認したが、このマップは、知覚する選ばれた数の大きさに対応した皮質上の位置や、広さの倍率及び調整幅の間の関係が系統的であると言ったような、一般的な特徴を示している。(KU,kj,ok)
Topographic Representation of Numerosity in the Human Parietal Cortex

植物の保護(Plant Protection)

2010年10月に合意された、生物多様性の20個の愛知目標に関する条約は、生物多様性の損失を停止させるための国際的なコミットメントを2020年まで延長するものである。「植物リスト」(www.theplantlist.org)のデータを用いて、Joppaたちは、植物種のおよそ65%までは、主に、大陸としては中南米とアジアに集中しつつ、多くの島嶼も含む、地球の陸上表面の17%に特有のものであることを明らかにしている(p. 1100)。それら地域には、すべての植物種の75%が含まれる。この地域はまた、すべての鳥類や哺乳類、両生類の種を含む陸生の脊椎動物にとっても重要なのだが、結局、これらの地域では地表の6分の1しか、保護されていないのである。(KF,nk)
Achieving the Convention on Biological Diversity’s Goals for Plant Conservation

性決定のさらなる要因(More Determined Sex)

哺乳類の性決定にはいくつかの転写制御因子が関与しているのだが、特異的な後成的制御が寄与していることが、明らかにされた。 Kurokiたちは、タンパク質Jmjd1aを含んでいるJmjC領域が、マウスにおいて、Yに連結した性決定遺伝子SryのH3K9脱メチル化を触媒して、必要な閾値レベルを超えるその発現を可能にしていることを明らかにした(p. 1106)。Jmjd1a機能を取り除くと、マウスでは雄性から雌性への転換が生じたが、これは、Sry制御の機構を明らかにするだけでなく、哺乳類の性決定における後成的制御の中心的な役割を明らかにするものでもある。(KF)
Epigenetic Regulation of Mouse Sex Determination by the Histone Demethylase Jmjd1a

カルシウムのためのコード化(ORFing for Calcium)

ゲノムは、アミノ酸100個以下のペプチド類をコードしている短いDNA配列である、小さな翻訳領域(smORFs)を何千も含んでいる。Magnyたちは、ショウジョウバエにおいて、カルシウム輸送と、それ故に心臓の収縮をも制御しているアミノ酸30個以下のペプチドをコードする2つのsmORFを記述している(p. 1116, 8月22日号電子版)。そのペプチドは、ハエからヒトに至る種の範囲で、5億5千万年以上も保存されてきたらしく、いくつかの重篤な心疾患にも関わってきたものである。そうした保存が示唆するのは、smORFが、機能するわれわれのゲノムのうちで、古くからのものであるということである。(KF,KU)
Conserved Regulation of Cardiac Calcium Uptake by Peptides Encoded in Small Open Reading Frames
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