AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 3 2013, Vol.340


ロボット蠅の王(Lord of the Robotic Flies)

小さなスケールの飛翔物体は、自然界のいたるところで見られるものであるが、技術的に作ろうとするとかなり難しい。大きさが小さくなると、固定した翼を持つ飛行は、空気の抗力抵抗の増加により効率が低下する。Maたち(p. 603)は圧電材料を用いることで、上下に羽ばたくような羽を持つ糸に繋がれたロボット蠅を開発した。飛行運動の制御にはフィードバック・プロセスを用い、これにより糸に繋がれたロボット蠅は空中で静止したり、そして制御された飛行操縦をすることが可能となった。(KU,nk,ok)
Controlled Flight of a Biologically Inspired, Insect-Scale Robot

磁性フラストレーション(Magnetic Frustration)

磁性フラストレーションの研究は、 固体物理学において長い歴史を持っているが、今日冷たい原子系により精緻な制御の元でこの問題をシミュレートする可能性が提供される。Islamたち(p. 583)は、16個のトラップされたイオンに関して研究し、このイオン間のクーロン相互作用を用いて磁性系に存在する交換相互作用をシミュレートしている。測定されたスピン相関は、有効磁場と相互作用の範囲が調整可能により、その系の振舞いに関する見通しを与えるものである。(KU)
Emergence and Frustration of Magnetism with Variable-Range Interactions in a Quantum Simulator

環を閉じる(Closing the Cycle)

環に窒素を含有する環状炭化水素は,医薬品化学で最も多く研究されている化合物の一つである。HennessyとBetleyは,炭化水素鎖の末端側の炭素-水素結合にアジド窒素を挿入し,鎖状アルキルアジドの環化を誘発することで,そのような一連の化合物を合成する鉄触媒を示している(p.591)。 この反応は,非反応性部位に活性基を導入することを必要とせずに,比較的単純な前駆体から精巧な生成物を作り出す炭素-水素結合活性化化学の潮流を押し進めるものとなる。(MY)
Complex N-Heterocycle Synthesis via Iron-Catalyzed, Direct C?H Bond Amination

その表面の下を見る(Seeing Below the Surface)

Marte Vallisは、火星での若い洪水の流路の中で最大のものである。この流路がなければ、冷たく、乾燥していると知られている火星のある時期に起こった大昔の大洪水の結果と考えられているが、この流路系は長さほぼ 1000km、幅 100kmを越えて伸びている。しかしながら、この流路の深さは、溶岩流によって埋められたために不明である。Morganたち(p. 607, 3月7日号電子版)は、火星偵察軌道船(Mars Reconnaissance Orbiter)に搭載された SHARAD レーダー深測器を用いて、流路表面下の三次元像を再構築した。その流路は以前考えられていたよりも2倍深く、その溢れ出てきた水は、ケルベロス溝(濠)の伸長破壊領域(Cerberus Fossae extensional fracture system)からやってきた。(KU,nk,ok)
[訳注]
・SHARADレーダー:火星の地下構造を探査するために開発された短波長帯のレーダー。Shallow Subsurface Radarの略称
・ケルベロス溝(濠):火星のケルベロス平原に見られる半ば平行状の亀裂
3D Reconstruction of the Source and Scale of Buried Young Flood Channels on Mars

セロトニン受容体を調べる(Dissecting Serotonin Receptors)

セロトニン受容体は、うつ病から肥満や片頭痛にいたる病気の治療に処方される多くの広範囲に用いられている薬剤の標的である(Palczewski and Kiserによる展望記事参照)。Wangたち (p. 610, 3月21日号電子版)は、抗片頭痛薬剤、或いは幻覚薬 LSDの前駆物質に結合した受容体のセロトニンファミリーの二つのメンバーの結晶構造を記述している。特定のリガンドがその受容体に結合する仕方の僅かな差異が、受容体によって作られるシグナルに、そしてその結果としての生物学的応答に大きな差異を引き起こす。この構造から、リガンドが結合する特定の受容体に依存して、同じリガンドが2つの主要なセロトニン受容体のシグナル伝達メカニズムのの一つ、或いは双方をどのように活性化しているかを明らかにしている。(KU,nk)
Structural Basis for Molecular Recognition at Serotonin Receptors
Structural Features for Functional Selectivity at Serotonin Receptors

イソクエン酸デヒドロゲナーゼの作用(IDHology)

癌ゲノム配列プロジェクトから得られる最も刺激的な薬剤標的の中で,関係する2つの代謝酵素であるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1と2(それぞれ,IDH1とIDH2)がある。ある種のヒト癌では,IDH1とIDH2の遺伝子変異がよく見られる。変異IDHの活性を抑制することが治療効果をもたらすかについては,よく分かっていない(KimとDeBerardinisによる展望記事参照)。 F.Wang たちは,変異IDH2の活性を選択的に抑制する低分子を単離し,この化合物の変異酵素への結合の詳細な構造を記述し,さらに,この化合物がIDH2変異を持つ患者由来の白血病細胞の増殖を抑制することを示している( p. 622, 4月4日発行の電子版)。Rohleたちは,IDH1に対する低分子抑制剤が,IDH1変異を持つ患者由来の脳腫瘍細胞の増殖速度を選択的に低下させること示している((p. 626, 4月4日発行の電子版 )。(MY,KU,nk,ok)
Targeted Inhibition of Mutant IDH2 in Leukemia Cells Induces Cellular Differentiation
An Inhibitor of Mutant IDH1 Delays Growth and Promotes Differentiation of Glioma Cells

ダイナミックな保護(Dynamic Protection)

免疫応答の際、保護するためにCD8+ T細胞が補充される。そのほとんどは、病原体を排除するのを助けるための短命なエフェクターに分化するが、残りの細胞は、再感染から守るため、長命な免疫記憶細胞を形成することになる。Gerlachたち(p. 635, 3月14日号電子版)とBuchholzたち(p. 630, 3月14日号電子版)は、一定の特性を有するマウスT細胞の生体内での運命予定図を細菌感染の際に作成し、個々の細胞の応答のダイナミクスが均一でないことを示している。あるT細胞集団の応答とは、大きく拡がる少数のクローン(「大きなクローン」)と少量増殖するだけの多数のクローン(「小さなクローン」)とを平均したものなのである。記憶プール(免疫記憶細胞群)は、大部分小さなクローンから生じる一方、エフェクターは主に大きなクローンからなっているのである。(KF,nk)
Heterogeneous Differentiation Patterns of Individual CD8+ T Cells
Disparate Individual Fates Compose Robust CD8+ T Cell Immunity

夢を読み解く(Reading Dreams)

夢の中で見る特定の内容が脳の活動としてはどのように表現されているのかは不明である。機械学習法に基づいた解析によって、特定の視覚的内容を示す刺激誘発性と課題誘発性の脳の活性パターンが解読できる。 Horikawaたち (p. 639, 4月4日号電子版)は、夢を見ている際の脳の活性化のパターンを調べ、それを覚醒時の視覚刺激への応答と比較した。この知見から、夢の視覚的情報は、覚醒時の知覚の際に観察されたものと同じ神経基質による情報と同等であることを示唆している。(KU,nk,ok)
Neural Decoding of Visual Imagery During Sleep

二つの小さな生存可能な惑星(Two Small Habitable Planets)

NASA のケプラー宇宙望遠鏡(Kepler space telescope)は、2009年に打ち上げられたが、これは、太陽のような恒星の生命可能な帯域内に地球の大きさの惑星を探し、これらの惑星の発生頻度を定めることを目的としたものである。Borucki たち (p. 587, 4月18日付電子版) は、ケプラーのデータを用いて、5個の惑星を持つ恒星を検出した。この惑星系では、すべての惑星が地球の大きさの2倍以下であり、かつ、最も外側の2つの惑星はそれらが周る恒星の生存可能帯域中の軌道にある。ここで、この生存可能帯域とは、岩石惑星がその固体表面上に液体の水を宿すことが可能な軌道範囲を指している。この恒星 Kepler-62 は、太陽よりも小さく、低温である。(Wt,nk,ok)
Kepler-62: A Five-Planet System with Planets of 1.4 and 1.6 Earth Radii in the Habitable Zone

生物学的トランジスタ(Biological Transistor)

トランジスタは電気信号を増幅したり切り替えたりする素子である。Bonnet たちは(p. 599, 3月28日号電子版; Benenson による展望記事参照)、個々の生細胞中でトランジスタのように振る舞う、遺伝子回路を設計した。これまでその様なシステムを設計するのに用いられてきた、メッセンジャーRNA の濃度を制御する方法の代わりに、その手法は二重鎖のDNA の状態変化に基づいている。6つの基本的な論理ゲートを設計、製作した。それは、2個のセリンリコンビナーゼの活性に基づいている。(Sk,nk)
Amplifying Genetic Logic Gates

コイル状のものからかご状のものへ(From Coils to Cages)

ウイルス被膜の形成などの、タンパク質の組立てを模倣する自己組織化戦略は、より単純なペプチドの組立てから始まることが多い。Fletcherたちは、ヘテロ二量体とホモ三量体という、2つのコイルドコイルペプチドモチーフを設計した(p. 595, 4月11日号電子版; またArdejaniとOrnerとの展望記事参照)。2つのペプチドは両方ともシステイン残基を含んでいて、ジスルフィド結合を介して架橋することができ、それによって、三量体が六方晶系ネットワークの頂点を、二量体がその辺を形成する。しかしながら、それら成分は柔軟であり、拡がったシートを形成するよりはむしろ、閉じて、直径100ナノメートルほどの粒子を形成した。(KF)
Self-Assembling Cages from Coiled-Coil Peptide Modules

開花のアンチセンス(Making Antisense of Flowering)

長い非コードRNAの生物学的役割の最近の発見は、それらが自らをどう制御しているかという重要な疑問を引き起こしている。Sunたちは遺伝的アプローチを採用して、シロイヌナズナの花の主要な抑制因子であるFLCをコードする座位から得られたアンチセンス転写物の集合、COOLAIRの制御因子を同定した(p. 619)。COOLAIRを誤制御する変異体を解析することで、COOLAIRプロモータをカバーするR-loopを介してCOOLAIR発現を抑制している、ホメオドメインタンパク質が明らかになった。つまり、R-loop安定化は、COOLAIR制御とFLC発現、開花時期に関わる複合的部分なのである。(KF,KU,ok)
【訳注】アンチセンス:遺伝子配列に相補的で機能を失わせること
Select this articleR-Loop Stabilization Represses Antisense Transcription at the Arabidopsis FLC Locus
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