AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 12 2010, Vol.330


川における食物連鎖(River Food Chains)

自然界における、食べて食べられる関係を食物連鎖と呼ぶが、水生生物におけるその長さは、栄養循環、エネルギーの流れ、及び水生生態系と大気の間の炭素の交換を制御しているキーとなる特質である。北アメリカの河川流域の食物連鎖を調べ、Saboたち(p. 965, および10月14日号の電子版を参照)は、放出流(discharge)の変動が生態系のサイズ(河川流域の面積)と食物連鎖の長さとの間の関係を制御していることを見出した。川の干上がりによって食物連鎖の長さは短縮されるが、それは、間欠的に流れが変動する川では、永年安定して流れる川に比べ、放出流の変動が大きいからである。気候変動や乾燥化などで河川の干上がりの頻度や放出流の変動が増加する可能性のあるので、これらの結果はその管理にとって重要であろう。(Ej,hE,KU)
The Role of Discharge Variation in Scaling of Drainage Area and Food Chain Length in Rivers
p. 965-967.

アマゾンの生物多様性の創造(The Making of Amazonian Diversity)

アマゾン河流域の生物多様性は極めて豊かであるが、どのように形成されてきたかという点は、未だに議論がある。20世紀後半に優勢であった説は、過去約300万年の間で森という避難場所(refugia)(訳注:氷河期に生物が集合的に避難したと推定される地域)の収縮と拡大の繰り返しが多様性の鍵であった、というものである。Hoornたちは (p.927)、新生代 (6600万年前) の期間に、この地域の全体的な歴史の概観を把握するために、分子系統発生学、生態学、堆積学、構造地質学や古生物学等の幅広い学問分野から得られた知見を解析している。アンデス山脈の隆起は、アマゾンの景観の進化にとって非常に重要な出来事であった。なぜなら、このことが河川流域のパターンを絶えず変化させ、次いで様々な形で変化する環境に適合するよう生物に多様な変化も促したのである。アマゾン河流域の現在の生態生物相の多様性は、以前考えられてきたよりも更に古い起源を持っている。(Uc,KU,kj)
Amazonia Through Time: Andean Uplift, Climate Change, Landscape Evolution, and Biodiversity
p. 927-931.

P450に隠れた力(The Power Behind P450)

薬と毒、及び代謝基質は、肝臓中でチトクロムP450と呼ばれる鉄を含んだ酵素のファミリーによって解毒される。鉄成分はしばしば、化学反応に強く抵抗する化合物へ酸素を輸送する。しかしながら、我々はこの生命の解毒プロセスについてほとんど分かっていない。RittleとGreen(p. 933; Sligarによる展望参照)は、P450がオキシダントと反応する際に、その酵素の溶液を凍結することによってP450の反応中間体を捕えた。著しい速さで基質に酸素をパスする鉄(IV)オキソ中間体が分光技術と動態研究によって明らかにされた。(hk,KU)
Cytochrome P450 Compound I: Capture, Characterization, and C-H Bond Activation Kinetics
p. 933-937.

始まりは液体の岩だ(Liquid Rock Beginnings)

月の裏側の高地は月の最高高度地域であることが長年知られていた。Garrick-Bethell たち(p. 949)は、この高地地域の地形と月地殻の厚さの変化は単一の、単純な数学的関数に従い、これが月全体の4分の1の地域を説明することを示した。この発見を説明する鍵は、熱かった古代の月と冷たく氷に覆われた木星の月の1つ、エウロパ(Europa)、との類似点にある。現在のエウロパのように、月の殻はかつて表面下の海に浮かんでいた、ただしそれは溶けた岩の海で水ではなかったが。エウロパの殻に働く潮汐効果は木星の重力によるものであるが、古代の月においても地球の重力による潮汐効果が働いていたと思われる。そのため、潮汐効果と類似した地殻の厚さの変動パターンが月の裏側高地に生じたらしい。(Ej,tk,nk)
Structure and Formation of the Lunar Farside Highlands
p. 949-951.

CCAを付加する(Adding CCA)

遺伝子配列のタンパク質への翻訳は転移RNA(tRNA)によって仲介されるが、このtRNAは特異的なシトシン-アデニン(CCA)尾部を持っており、その尾部にアミノ酸が付着し、そして酵素によって認識される。しかしながら、その尾部は鋳型DNAを持っておらず、代わりにCCA-付加酵素がその付加ヌクレオシドをしっかりと選定する。結晶構造により、これらの酵素がどのようにしてシトシンに対する特異性を達成しているかが示されたが、しかしながらPanたち(p. 937)がその付加反応に関するいくつかのステージで得られたCCA-付加酵素の構造を解明したことで、初めて我々はCCAの最後のアデニンユニットを酵素がどのように選択しているかを知った。結晶化された酵素は、tRNA模擬体とそれぞれのシトシン或いはアデニンの三リン酸との複合体を形成していた。この最後のアデニンは酵素における単一のMg2+イオンの介在によって取り込まれることが発見され、そしてシトシンの三リン酸は付加反応に対する適切な位置に入り込むことが出来ず、もはやシトシンはアデニンに代わって取り込まれることが出来ない。(KU,nk)
How the CCA-Adding Enzyme Selects Adenine over Cytosine at Position 76 of tRNA
p. 937-940.

真菌の侵入か、それとも受粉か?(Fungal Invasion or Pollination?)

花粉が適合性の花を見出すと、花粉管を成長させて、卵子を見つけ、花粉がもつている精子を遊離する。シロイヌナズナの花粉管に影響を及ぼす遺伝子の研究において、Kesslerたち(p. 968;Govers and Angenentによる展望記事参照)は、以前ウドンコ病への感受性に関係付けられた遺伝子(the NTA gene)を見つけた。the NTA geneは7-パス(seven-pass)膜貫通タンパク質をコードしており、このタンパク質は、Ferと呼ばれる受容体様キナーゼと一緒になって、花粉管が順調に成長するために必要である:このタンパク質の二つの組合わせは、またウドンコ病カビの侵入成功に必要なのである。これらのプロセスには細胞侵入に関する共通のメカニズムを共有しており、そのプロセスが花粉管か、或いは葉で作用するかにより、結果として胚形成か、病変形性かになる。(KU,nk,kj)
Conserved Molecular Components for Pollen Tube Reception and Fungal Invasion
p. 968-971.

風変わりなマグネター(Odd Magnetar)

マグネターは、極めて強い磁場によって駆動されていると一般に広く考えられている中性子星である。三つの別々のX線天文台のデータを用いて、Rea たち (p.944, 10月14日号電子版) は、これまで知られていたマグネターの一つが他のマグネターよりもずっと小さな磁場を有していることを示している。これからして、強磁場は、中性子星がマグネター様の挙動を示すには必ずしも必要なものではない。そして、これは、このマグネターといわれる種族は以前考えられたものよりも広範なものであることを示唆している。(Wt)
A Low-Magnetic-Field Soft Gamma Repeater
p. 944-946.

少数多体問題(Few-Body Problem)

一見単純な、量子力学的少体系は理論的記述が非常に難しい。二体束縛状態の形成とほぼ一致する相互作用を示す三体束縛状態として知られているEfimov三量体は、これらの系の中では、例えば核物理と関連性で、もっとも扱いやすい系である。最近観測された極低温原子ガス中での非弾性三体衝突率の特徴から、Efimov三量体は普遍的な比率を持つ相互間力を示すと予言されている。Lompeらは(p.940)は結合エネルギーを相互間力の関数として測定し、識別可能な3つの原子が結合状態の中に存在することをつきとめた。この手法は三量体状態のより正確な研究に活用でき、以前の実験で提案された"nonuniversal correction"(非一般的補正)の真相に迫ると期待される。(NK,KU,nk)
Radio-Frequency Association of Efimov Trimers
p. 940-944.

完全な不完全(Perfect Imperfections)

グラフェンは6原子の環で構成されているが、欠陥として5あるいは7原子の環を含んでいる。Grantab たちは(p. 946)シミュレーションを用いて、より多くの欠陥があっても、必ずしも機械特性のよりひどい劣化にはつながらないことを示した。隣接する結晶の配向の違いによって引き起こされるミスマッチは低角度と高角度の粒界に分類される。一般的には、低角度の粒界の方が機械強度が大きい。グラフェンでは、対照的に、より高い欠陥密度からなる高角度粒界のほうがより歪みを吸収し、7原子のグラフェン環の崩壊で生じる不具合を防止することができる。このことは、完全なグラフェンのそれに近い機械特性を有する不完全なグラフェンシートを合成する方法を示唆している。(Sk,nk)
Anomalous Strength Characteristics of Tilt Grain Boundaries in Graphene
p. 946-948.

熱帯の激しい爆発(Hot Tropical Explosion)

暁新世-始新世境界温暖化極大期(Paleocene-Eocene Thermal Maximum; PETM)は、5500万年前に急激に全世界的に温暖化(5℃)した異常な出来事であり、将来起こりうる地球温暖化の例としてよく使われる。PETM期間の気候変化は、海洋の領域、そして2,3の温帯地域から極地までの陸生地域において広く調査が行われた。しかし、高温化や高レベルの二酸化炭素による熱帯への影響については、ほとんど解明できていない。Jaramilloたち(p. 957)は花粉の分析を行い、PETM期間に熱帯森林の多様化が急激に進展し、また植物の絶滅や地域性の乾燥(aridity)も無かったことを示す。意外なことに、多様化は高温化によって増加するようであり、このことは気温が過度に高くなれば、熱帯の植物相は衰退するというこれまでの仮説と矛盾している。(TO)
Effects of Rapid Global Warming at the Paleocene-Eocene Boundary on Neotropical Vegetation
p. 957-961.

安定した心臓の鼓動(A Steady Beat)

規則的な心拍は心臓ペースメーカの安定した機能による。初期胚の心臓は、成熟した心臓ほどの安定性も、組織化されてもいない。Arrenbergたち(p. 971)は、光感受性タンパク質を発現するようゼブラフィッシュを遺伝子操作して、心臓ペースメーカの位置を突き止め、そしてその機能を操作した。小さなパッチ状の細胞の活性を光ビームで制御することで、著者たちは若い心臓の発生をモニターし、どのようにして心臓ペースメーカが胚形成中に発生するかを示している(KU)
Optogenetic Control of Cardiac Function
p. 971-974.

相互的制御(Resiprocal Regulation)

多くのシグナルカスケードにおける必須のステップは、ホスホリパーゼC-βによって触媒されるイノシトールリピドの加水分解である。C-βはへテロ三量体のGタンパク質Gqのサブユニットにより活性化され、次にC-βはGqを不活性化し、かくしてそのシグナルを強化する。Waldoたち(p. 974,10月21日号電子版)は、この相互的制御の基礎を説明する構造的、かつ生化学的データを報告している。ホスホリパーゼC-βの領域の一つは活性化されたGqに結合している。ホスホリパーゼC-βの活性部位はその構造において閉鎖されたままであるが、そのプラグ(栓)は膜においてこのリパーゼのGタンパク質-依存的配向上に移動する。ホスホリパーゼC-βの第2の領域はGqによるグアノシン三リン酸の加水分解を促進して、シグナル伝達複合体の解離をもたらす。(KU)
Kinetic Scaffolding Mediated by a Phospholipase C-β and Gq Signaling Complex
p. 974-980.

百日咳から分かったこと(Coughing Back)

百日咳の復活は、幼児の死のリスクがあるので問題なのだが、ワクチンが利用できるにも関わらず発生している。Rohaniたちは、百日咳ワクチンの国民への接種が17年前にいったん中断され、1996年に再開されたスウェーデンからのデータを使って、年齢特異的な社会的接触が、感染の伝播に対して重要な影響を与えていることを示すモデルを作っている(p. 982)。このモデルは、ワクチン接種の再開が乳児の百日咳を強く抑制するのに役立ったが、青年の百日咳には効果がなかったということを説明する助けになった。つまりこのモデルは、公衆衛生政策を考慮する際に、集団の中の年齢の層別を考慮することが、いかに重要であるかを実証したのである。(KF,kj)
Contact Network Structure Explains the Changing Epidemiology of Pertussis
p. 982-985.

長引く大気の動揺(Lingering Atmospheric Perturbations)

亜酸化窒素(N2O)とメタンは化学的に活性な温室効果ガスであり、その大気中の量は人類が放出した量に大きく影響される。Prather と Hsu(p. 952)は大気の化学モデルを利用して、亜酸化窒素の放出が連鎖的化学反応によって対流圏のメタン濃度をどのように低下させているかを指摘している。この反応は成層圏のオゾン濃度の枯渇を、太陽紫外線照射量の変化を、成層圏から対流圏へのオゾン輸送の流れの変化を、そして対流圏のヒドロラジカル量の増加を含んでいる。このメカニズムは、メタンの大気圏での滞在期間の10倍、つまり、108年もの時間スケールで作用する。(Ej,hE,KU)
Coupling of Nitrous Oxide and Methane by Global Atmospheric Chemistry
p. 952-954.

ペンギンの羽毛(Feather of the Penguin)

ペンギンは、自分たちの棲む冷たい水生の環境に高度に順応している。羽や羽毛の変化によって、すばやく泳いだりすることや、氷温近くの水からの保護が可能になってきた。Clarkeたちは、およそ3500万年前の、よく保存された羽毛を備えた初期のペンギンについて記述している(p. 954,9月30日号電子版; また表紙参照のこと)。羽と羽毛の形態はすでに変化をこうむっていたけれども、羽毛の色だけでなく、その強さにも影響する羽毛中のメラノソームは、他の多くの水生鳥類に似ていて、今日のペンギンのそれとは違っていた。つまり、ペンギンでは、微細構造変化が生じる前に、羽毛の形状、外形が進化していたのである。そのメラノソーム配列はまた、ペンギンが主に灰-茶色であったことを示唆している。(KF)
Fossil Evidence for Evolution of the Shape and Color of Penguin Feathers
p. 954-957.

さあ、みんなで(Pulling Together)

協調的行動や基準遵守行動をもたらしている条件付の立場や個人的な好みが、向社会的行動の基準にどう影響するのか、という点を洞察する実験研究が行われている。Rustagiたちは(p.961;VollanとOstromによる展望記事参照)、エチオピアのバレ地方の森林保護に対して責任と権威を与えられていた679の個人によって構成されている49のユーザーグループを解析した。条件付協力者(相手が協力的である場合には協力的に振舞おうとする人々)が多数を占めるグループによって管理された森林は、ヘクタールあたりより多くの保護に貢献できていた。コストがかかり時間制約があるが、森林パトロールによってこのような行動を強制することが生産性向上の鍵である。(Uc)
Conditional Cooperation and Costly Monitoring Explain Success in Forest Commons Management
p. 961-965.

感染性アミロイド?(Infectious Amyloid?)

アルツハイマー病の患者は、βアミロイドと呼ばれる重合タンパク質の集まりが関わった脳の特徴的病変を有している。最近、アルツハイマー病のマウスモデルからの証拠によって、βアミロイドを含む脳の抽出物が、直接それを脳に注射することでそれまで健康だった動物を「感染させる」ことが分かってきた。Eiseleたちはこうした知見を拡張して、マウスが、身体の脳以外の場所に同じ脳の抽出物を注射されて数ヶ月すると、それらマウスもまた脳内にアミロイド症を発生することを示している(p. 980、10月21日号電子版; またKimとHoltzmanによる展望記事参照のこと)。(KF)
Peripherally Applied Aβ-Containing Inoculates Induce Cerebral β-Amyloidosis
p. 980-982.

脳における配管工事(Plumbing in the Brain)

身体のさまざまな場所における脈管構造の表面上の類似度は、臓器特異的な発生上の微妙な違いを覆い隠すことがある。脳の脈管構造は唯一、身体の他の部分が耐えなければならない発作から切り離されて保護されなければならない。Kuhnertたちは、脳の脈管構造の発生上のユニークさを、最初に結腸癌の脈管構造においてその作用を同定されたGタンパク質結合受容体であるGPR124の研究を通じて分析した(p. 985)。GPR124は脳の脈管構造の正常発生にも関与しているのである。GPR124の発現が低レベルのマウスは、脳に適切な脈管構造を発生することなく、出血によって死んでしまった。GPR124が多過ぎるマウスは、もつれた、壁の薄い、過剰な脈管構造を脳中に発生した。過剰発現したマウスは生き延びはしたが、それらは運動失調などの神経症状を発症しがちであった。GPR124は血管内皮細胞、とりわけ前脳と神経管腹側におけるそれの、正常発生を制御しているらしい。(KF)
Essential Regulation of CNS Angiogenesis by the Orphan G Protein-Coupled Receptor GPR124
p. 985-989.

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