AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 21 2009, Vol.325


飼い犬に見るレトロ遺伝子(Going Retro)

進化の期間に新しい機能遺伝子はどのようにして生じたかという興味ある疑問は、ダーウィン生誕200年の今年にふさわしい。飼い犬の何代にもわたる繁殖飼育結果の遺伝子解析から、Parker たち(p. 995, および、Kaessmannによる展望記事参照)は、コーギー(corgi)、ダックスフンド(dachshund))、バセットハウンド(basset hound)を含む少なくとも19種の短足犬の遺伝子表現型が、特に骨の発達を発現する遺伝子をコードする線維芽細胞増殖因子4 (fgf4)と関連あることを見つけた。この遺伝子は、以前人間の低身長症と関連しているとされる遺伝子ファミリーの1つである。興味深いことに犬における短足の原因であるfgf4遺伝子はレトロ遺伝子の特徴を持っており、親の遺伝子がRNAに基づいて複製される時に生じる。(Ej,hE)
An Expressed Fgf4 Retrogene Is Associated with Breed-Defining Chondrodysplasia in Domestic Dogs
p. 995-998.

曲げて、伸ばして(Bend Me, Stretch Me)

屈伸性の電子製品への要求が強まっている現在、大規模生産への転化が可能な技術を用いて簡便に操作できるという理由で、研究の多くは発光ダイオードを含む有機導電材料に注力している。Parkらは(p.977)、無機LEDをガラス、プラスチック、ゴム基板の上に堆積・製造できる手法を開発した。既存の手法を用いてこれらLEDを接合し、フレキシブルでかつ伸張可能なディスプレイを実現している。無機発光材料は基板のごく一部しか覆っていないため、ほぼ透明なディスプレイになっている。(NK,nk)
Printed Assemblies of Inorganic Light-Emitting Diodes for Deformable and Semitransparent Displays
p. 977-981.

光励起ナノ結晶における飽和磁性(Saturated Magnetism in Photoexcited Nanocrystals)

半導体の磁性状態を電場かあるいは光吸収によって反転させることはスピントロニクスではキーとなる要求である。スピントロニクスでは、デバイスが電荷よりはむしろ電子スピンの状態に基づいている。磁性イオンでドープされた半導体ナノ粒子において、励起子はスピン状態、つまり磁性ポーラロンを形成するが、多くは低温(30 ケルビン以下)のときのみ見られる効果であり、また外部磁場が存在しないと飽和しない。Beaulacたち(p. 973)は、MnをドープしたCdSeナノ結晶の合成について報告しているが、量子閉じ込め効果により励起子が長寿命化する。光励起により低温で磁束密度が30テスラを越え、かつ外部磁場がない状態において室温まで持続する交換磁場が得られることになる。(hk,Ej)
Light-Induced Spontaneous Magnetization in Doped Colloidal Quantum Dots
p. 973-976.

重合の力学を考察する(Discussing Polymerization Dynamics)

アクチンとチューブリンは微小線維と微小管の主要成分を代表しており、これらは細胞の骨格を形成するために重要な役目をしている。最近発見された細菌での同様なタンパク質といっしょに考察すると、これらタンパク質のポリマーの組立と解体のメカニズムは、これら細胞質の組織化や運動性を理解する上の基礎となる。Kueh and Mitchison (p. 960)は、細胞骨格の重合の動力学的レビューを行い、重合を制御する上での構造的可塑性の相対的重要性を考察した。(Ej,hE)
Structural Plasticity in Actin and Tubulin Polymer Dynamics
p. 960-963.

暗黒物質からの信号検知に向けて( Toward Detecting Dark Matter Signals)

暗黒物質(Dark matter)は、光を発する物質に対する重力の影響から、その存在が間接的に推測されていた。更に、暗黒物質は銀河系の形状を保ち、宇宙全体の物質のほとんどを形成しているかもしれないと考えられている。その性質はいまだに不明であるが、理論モデルでは、暗黒物質の粒子が衝突すると、それらはガンマ線を出して消滅すると予想している。Kuhlenたち(p.970,7月16日号電子版)は、我々の銀河系くらいのサイズの銀河の数値シミュレーションを行い、近づきあう暗黒物質粒子間に引力が働いて対消滅率が増大するという仮定の下では、我々の銀河系からどんな信号を受け得るかを調べた。もしこの増大効果が正しいとすると、フェルミガンマ線天体望遠鏡によって、我々の銀河系の中に数百の暗黒物質の凝集(dark matter clump)が見つかるはずである。(TO,KU,nk)
Exploring Dark Matter with Milky Way Substructure
p. 970-973.

太陽系クロノメーター(Solar Chronometer)

短寿命放射性同位元素 26Al を初期の太陽系におけるプロセスの精密なクロノメーターとして用いることの妥当性は、初期の太陽系の降着円盤に26Alが一様に分布していたという仮定に基づいている。Villeneuve たち (p.985; Davis による展望記事を参照のこと) は、この仮定が正しいことを始原的隕石物質の高精度な同位体分析に基づいて検証した。さらに、コンドルールは最も一般的なタイプの隕石の構成要素であり、太陽系内で形成された最初の物質の一つであるが、百万年以上の期間にわたって散発的に形成された。(Wt,tk,nk)
Homogeneous Distribution of 26Al in the Solar System from the Mg Isotopic Composition of Chondrules
p. 985-988.

地殻の詳細が解明された(Crustal Details Revealed)

地震波トモグラフィーでは、地球を通過してくる経路を表わしている地震波の大量なデータが、誤差が最小化されるように、密度分布へと逆変換される。通常、この逆変換はトモグラフィー領域では平らな層が積み重なっているという単純なモデルから出発する。Tape たち (p. 988) は、南カリフォルニア地震センターが提供した3次元モデルから開始して、合成地震波画像に基づき、改良型反復近似逆変換法が対象地域の極めて詳細な立体画像を与えることを示した。南カリフォルニアの豊富なデータを使って、堆積盆地や断層の両側の成分の対比など、この地域の地殻の詳細な地質学的歴史が明らかになった。これは地震被害の予測にも大いに役立つであろう。(Ej,nk)
Adjoint Tomography of the Southern California Crust
p. 988-992.

スズメバチを攻撃する(Attacks Wasps)

細菌(Hamiltonella defensa)はアブラムシに感染してウイルスからの病原性決定基を運ぶ。Oliverたち(p.992)は、毒性をもたらすファージが細菌の宿主であるアブラムシに害を与えず、そのアブラムシを攻撃する捕食寄生スズメバチの幼虫を標的としていることを見出した。もし、アブラムシの集団がスズメバチの幼虫に襲撃されなければ、仲良しのバクテリオファージは細菌によって撒き散らかされ、おそらくファージを運ぶ犠牲の少ない安全な方法であろう。もし、スズメバチが捕食を再開すると、アブラムシはもはや保護されずに捕食寄生虫に屈服する。(KU)
Bacteriophages Encode Factors Required for Protection in a Symbiotic Mutualism
p. 992-994.

耐病性の稲(Blast-Resistant Rice)

農作物の耐病性に関する持続性は、その防御性が病原体の方での進化的な回避にどの程度耐えられるかによる。稲の量的形質遺伝子座(quantitative trait locus:QTL)であるPi21は、特に真菌の稲いもち病への持続的な抵抗性に寄与している:抵抗性の対立遺伝子を持つ稲は一世紀以上に渡って栽培されてきたが、未だに病原体はその防御網を破る方法を見つける事が出来ない。Fukuokaたち(p.998;Normileによるニュース記事参照)は、対応するPi21QTL対立遺伝子をクローン化し、Pi21の持つ抵抗性をそれと密接に結びついた米の品質低下を起こすことなく分離することが出来た。これにより、稲作においてこの対立遺伝子のより広範囲な利用への道が開かれる。(KU)
Loss of Function of a Proline-Containing Protein Confers Durable Disease Resistance in Rice
p. 998-1001.

開始相でのタンパク質合成(Protein Synthesis Initiation Complex)

タンパク質合成の開始相の最終段階は、最初のペプチド結合の形成であって、それにはリボソームのP部位に結合するイニシエータ転移RNA (tRNA)が必要とされる。伸長因子P (EF-P)とは、すべての真正細菌で保存されてきたタンパク質で、この最初の結合形成を刺激するものである。これがいかに実現されているかについての洞察は、EF-Pに結合する高度好熱菌70Sリボソームの構造や、イニシエータ転移RNA、さらにBlahaたち(p. 966)によって提示されたメッセンジャーRNAの短い断片によってもたらされる。EF-PはP部位とE部位の間に結合し、イニシエータ転移RNAがP部位に適切に位置するよう促進している。同じような仕組みは、古細菌や真核生物における構造的に相同的なイニシエータ因子にもあてはまるらしい。(KF)
Formation of the First Peptide Bond: The Structure of EF-P Bound to the 70S Ribosome
p. 966-970.

T濾胞性ヘルパー細胞の分化(T Follicular Helper Cell Differentiation)

B細胞が感染に応答するとき、適切な応答をするためにB細胞はCD4+ T細胞からの助けを必要とする。CD4+ エフェクターT細胞のサブセットであるT濾胞性ヘルパー細胞(TFH)が、この機能を担っていると考えられている。エフェクターCD4+ T細胞のいくつかのサブセットは、感染のタイプに依存して現れ、それらは別々の転写プログラムによって自分自身の分化を駆動している。これが、TFH細胞の場合にもあてはまるかどうかは、はっきりしていない(AwasthiとKuchrooによる展望記事参照のこと)。Nurievaたち(p. 1001、7月23日号電子版)とJohnstonたち(p. 1006、7月16日号電子版)はこのたび、転写制御因子Bcl6が、TFH分化とそれに続くB細胞によって仲介される免疫にとって必要かつ十分であることを実証し、それこそがこの系列の主たる制御因子であることを示唆している。Johnstonたちはまた、Bcl6とその転写制御因子Blimp-1の発現が相互交換的にTFH細胞において制御されていること、また間違った場所に発現した場合にBlimp-1がTFHの発生を抑制することも示している。(KF)
Bcl6 Mediates the Development of T Follicular Helper Cells
p. 1001-1005.
Bcl6 and Blimp-1 Are Reciprocal and Antagonistic Regulators of T Follicular Helper Cell Differentiation
p. 1006-1010.

翻訳時の再編成(Translational Rearrangements)

リボソームの立体構造変化は、タンパク質生合成の際のメッセンジャーRNAと転移RNA(tRNA)の転位置のために必要である。たとえば、ペプチド結合形成の後での巨大なサブユニットと小さなサブユニットの回転は、結果としてハイブリッド状態のtRNAをもたらすことになる。複数のtRNAが、小さなサブユニット中ではそれぞれ、アミノアシル-tRNA(A)部位とペプチジル-tRNA(P)部位に結合し、巨大なサブユニット上ではP部位と出口tRNA(E)部位に結合しているのである。Zhangたちはこのたび、無傷の大腸菌リボソームのアポ形態のもの(apo form)ないし、サブユニット間の回転の中間状態を示す1つか2つのアンチコドン・ステムループtRNAミミック結合をもつもの、について、そのx線構造を記述している(p. 1014)。それらの構造は、巨大サブユニットと小さなサブユニットの間のインターフェースが、ハイブリッド状態となるための各段階でどう再編成されているかへの洞察を提供している。(KF)
Structures of the Ribosome in Intermediate States of Ratcheting
p. 1014-1017.

記憶を持続すること(Making Memories Last)

記憶に関するその分子論的観点からの短命の性質と速い代謝回転にもかかわらず、記憶の痕跡が何日も、何週間にも渡ってどうして持続しているのだろうか?最近になって、持続するには、さもなければ急速に忘れてしまうような長期記憶には、訓練後12時間に海馬にBDNF(brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)の発現が必要であることが報告された。Rossatoたち(p.1017)は、このメカニズムが海馬におけるドーパミンD1受容体に作用する腹側被蓋野の活性化による作用で開閉することを示している。腹側被蓋野-海馬の回路における時間制限されたN-メチル-D-アスパラギン酸受容体-依存性の活性が、学習に関する海馬-依存的な形である訓練後の12時間という海馬におけるBDNFの遅延した増加の根底にある。(KU)
Dopamine Controls Persistence of Long-Term Memory Storage
p. 1017-1020.

銀の光放出はフェルミの黄金則に従う(Silver Emission Follows Golden Rule)

走査トンネル顕微鏡(STM)のチップから放出された電子は、ある場合に表面構造から光放出を励起するのに用いられる。このような方法は、表面上の様々な長さの金属の鎖で作られる「箱の中の粒子(particle-in-a-box)」状態を解析するのに用いられる。Chenたち(p.981)は、ニッケル-アルミニウム合金表面上に構築された、10原子長までの銀の鎖に関する光子放出を空間的に解明する事が出来た。放出の極大は電圧に関するSTM電流の微分コンダクタンスに見られる節と相関していた。この相関はフェルミの黄金則(運動量演算子による放射遷移の最初と最終状態を結びつける)に従い、光放出プロセスの更なる理解に導く。(KU)
Visualization of Fermi’s Golden Rule Through Imaging of Light Emission from Atomic Silver Chains
p. 981-985.

APC輸送体の構造(APC Transporter Structure)

アミノ酸、ポリアミン、及び有機カチオン(amino acid,polyamine,organocation:APC)の輸送体は、細胞膜を越えてさまざまな有機分子を運び、多くの細胞プロセスにおいて重要である。Shafferたちは、水素イオン-依存のAPC輸送体であるapoApcTの結晶構造を報告している(p. 1010、7月16日号電子版)。その構造はナトリウム結合したアミノ酸輸送体であるLeuTとの類似を示していて、LeuTの1つのナトリウムイオンに相当する位置にリジンからなるアミノ基を持っている。これは、水素イオンに結合する輸送体とナトリウムイオンに結合する輸送体に共通の原理が存在していることを示唆するものである。(KF,KU)
Structure and Mechanism of a Na+-Independent Amino Acid Transporter
p. 1010-1014.

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