AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science August 14 2009, Vol.325


ゲストルームを持った金属-有機物構造体(MDFs with Guest Rooms)

金属-有機物構造体(metal-organic framework:MDF)は通常、その結晶格子中にゲスト分子を収容する大きな孔を持っており、気体を貯蔵するコンパクトな媒体として有用である。しかしながら、ガス分子と構造体との結合は一般に非選択的な相互作用に依存している。Liたち(p.855)は、構造体の壁を構成するリガンド内に大環状エーテルを取り込んだMDFを合成した。その構造体内にはある種のゲスト正イオンのみが一定量、かつ部位選択的に結合する。タンパク質受容体内での薬剤分子の分子ドッキングに類似している。(KU,nk)
Docking in Metal-Organic Frameworks
p. 855-859.

人と火(Friendly Fire)

人類が象徴的な紋様や装身具を含む、より高度な道具を使用していた兆候は7万5千年前頃にアフリカで現れている。Brownたち(p.859; Webb とDomanskiによる展望記事参照)は、初期の現代人類が道具を改良するためにも、火を使っていたことを示している。石器の作成実験や発見された道具の分析から、この時期あるいはそれ以前でも、当時の南アフリカの人類は、道具を作る中でシルクリート(silcrete)を含む石器を熱して、薄片に割れやすくさせていたことを示唆している。(TO,nk)
Fire As an Engineering Tool of Early Modern Humans
p. 859-862.

ガンマ線パルサーの大豊作(Gamma-Ray Pulsar Bonanza)

われわれが知っているパルサーの多くは、電波放射により検出されたものである。ごく少数は、ガンマ線で脈動していることが知られているが、それらは、最初は他の波長で検出されたものである(Halpern による展望記事を参照のこと)。FermiGamma-Ray Space Telescope を用いて、Abdo たち (p.840, 7月2日号電子版; 表紙参照) は、16個のパルサーをガンマ線観測のみで発見したことを報告している。これらのうち、13個はこれまでは性質が不明だったガンマ線天体と一致し、30年間にわたり謎だった天体の正体が明らかになった。パルサーは、高速に回転する中性子星である。時間とともにその回転はゆっくりとなり、輻射しなくなる。しかし、もし、連星系であると、伴星からの質量移動によりその回転速度を増大させる可能性がある。それらは、ミリ秒パルサーとして新しい一生を始める。他の研究において、Abdo たち (p.845)は、きょしちょう座47 という球状星団からのガンマ線輻射を検出したことを報告している。この輻射は、球状星団のコアの中にあるミリ秒パルサー全体から来ている。このガンマ線強度から、きょしちょう座47球状星団の中には、最大60個のミリ秒パルサーが存在することを示唆しており、この数は電波観測により予測されるものの2倍の個数になる。これに随伴する研究の中で、Abdo たち (p. 848, 7月2日号電子版) は、Fermi Large Area Telescope のデータを探索して、星団の外にある既知のミリ秒パルサー全てに対してガンマ線パルスの存在を探した。その結果、それらのうちの8個に対して、ガンマ線の脈動を見出した。これらのパルサーの特徴は、他のガンマ線パルサーの特徴と似ており、これは輻射メカニズムが同じであることを示唆している。実際、この両群のパルサーは、ガンマ線が中性子星の外部にある磁気圏にから放射されるという輻射モデルを支持してる。(Wt,nk)
Detection of 16 Gamma-Ray Pulsars Through Blind Frequency Searches Using the Fermi LAT
p. 840-844.
Detection of High-Energy Gamma-Ray Emission from the Globular Cluster 47 Tucanae with Fermi
p. 845-848.
A Population of Gamma-Ray Millisecond Pulsars Seen with the Fermi Large Area Telescope
p. 848-852.

固体酸化物燃料電池における多孔性のアノード(Porous Anodes for Solid Oxide Fuel Cells)

電解質としてイオン導電性酸化物を用いている燃料電池は極めて効率が高く、かつ炭化水素燃料を直接的に用いることができる。しかしながら、動作温度が高く(700℃を越える)、電極材料と好ましからざる反応を引き起こし、電池性能の劣化を促進する。燃料電池の電気化学的特性を改善するために、Suzukiたち(p.852)は、アノード材料の空隙率を増すための方法について記述している。そのアノード材料はニッケル酸化物とスカンジウムとセリウムをドープしたジルコニア(ジルコニウム酸化物)を含み、円筒状に作られた。次に、ジルコニアベースの電解質と(La,St)(Co,Fe)O3のカソードの層にコーティングと焼成が行われた。その結果、燃料電池の電力密度が、600℃で1W/cm2を越え、電池内を動く水素燃料の速度増加と共にその性能が改善される。(KU)
Impact of Anode Microstructure on Solid Oxide Fuel Cells
p. 852-855.

リジンアセチル化の目録(Lysine Acetylation Catalog)

共有結合性の翻訳後修飾は必須の細胞制御機構であり、これによってタンパク質の活性が制御される。質量分析法の進展により、Choudharyたち(p.834,7月16日号電子版)は、全体プロテオーム(whole proteome)によりリジンアセチル化の拡がりを評価した。アセチル化は以前認識された以上に広範囲にわたっており、そして生物学的機能のあらゆる所に関与するタンパク質で生じている。アセチル化はリン酸化へのタンパク質の感受性に影響を与え、そして共有結合性のユビキチン結合による他のタンパク質の修飾を制御している酵素と、大きな巨大分子の複合体を形成するタンパク質上ではしばしば生じている。この発見はまた、リジン脱アセチル化酵素阻害剤の作用の解明に役立ち、がん治療における臨床面での希望をもたらすものである。(KU)
Lysine Acetylation Targets Protein Complexes and Co-Regulates Major Cellular Functions
p. 834-840.

戦略的な読み方(Strategic Reading)

最近では、学術文献にざっと目を通すこと(scanning)は、テレビのチャネルを次々に切り替えて見ていくことや、同時に何もかも見ようとすることに似たものになっている。そうした論文スキャンの結果は、優れた論文を見つけ出すことにつながらないことがしばしばであり、徹底的に読み込むことに関わりそうにもないが、そうではあっても、表題や抄録、表や索引、図表のごたまぜの中から、はっきりとは定まらないなんらかの知識の「吸収」が実現されることがある。RenearとPalmerは、学者が新しい形態の文献をどう利用しているか、また新しいコンピュータ技術の普及によって科学的データへのアクセスやその組み合わせ、実用への展開がいかに革新されているかをレビューしている(p. 828)。(KF)
Strategic Reading, Ontologies, and the Future of Scientific Publishing
p. 828-832.

同じ類の鳥はなぜ群れるのか(Why Birds of a Feather Flock Together)

群居本能 (sociality)についての生物学的決定論(biological determination) 、つまりなぜある者が他者と群れることを選ぶのか、そしてそれはどのくらいの大きさの群れなのかについてよくわかっていない。Goodsonたち(p.862)は、群生の鳥フィンチにおいて、オキシトシン(oxytocin)様受容体とその同族リガンド(cognateligand)であるメソトシン(mesotocin) が、グループサイズの選択と関連があることを示している。受容体の分布は、明らかに縄張りを持つ種と群れをつくる種とを区別している。更に、これらの化合物は、哺乳類における所属関係(affiliation)の選択に作用する重要な役割を演じており、その結果、進化的距離分類群(evolutionary distant taxa)を超えて保存されているのであろう。(TO,KU,nk)
Mesotocin and Nonapeptide Receptors Promote Estrildid Flocking Behavior
p. 862-866.

睡眠時間が短くても済む遺伝的資質(Reducing Sleep Length)

殆どの動物と同じように人間も満ち足りた睡眠を必要とする。しかし睡眠の望ましい量と質は個々人によって異なる。人によっては一晩あたり6時間未満の睡眠で十分な傾向を遺伝的に受け継いでおり、この傾向が生涯続く場合もある。Heらは(p.866:HorとTaftiによる展望記事を参照)、一般よりも少ない睡眠時間しか必要としない人々に関係する、ヒト遺伝子の突然変異を発見した。この突然変異は、DEC2なる転写リプレッサー(特定の遺伝子群の形質発現を抑制するたんぱく質)をコードしている遺伝子上に見られ、24時間周期の概日リズムの制御に関与していることが既に知られている。関連変異をマウスやハエに起こさせたところ、同じようにより短い睡眠時間が誘発された。(Uc,KU)
The Transcriptional Repressor DEC2 Regulates Sleep Length in Mammals
p. 866-870.

ミクロなモーターにおける摩擦(Friction in Microscopic Motor)

2つの物体が相対的な運動をすればその間に存在している接着性結合を断ち切らなければならないために摩擦が生じる。Bormuth たち(p. 870; および、VeigelとSchmidtによる展望記事参照)は、単分子に着目し、キネシン8のモータータンパク質が微小管トラックとの相互作用から生じる摩擦引きずり力を測定した。結合が切れることで生じる摩擦によって、モータータンパク質の速度と効率が制約を受けている。(Ej,hE,KU)
Protein Friction Limits Diffusive and Directed Movements of Kinesin Motors on Microtubules
p. 870-873.

サルはヒトの行動を見ている(Monkey See Human Do)

真似と言うのは文化的学習のためのメカニズムの一つであるという考え方がある。たとえば、人間は無意識に他人の行動を真似る習性があるが、他人が自分たちの行動を真似るときは、真似る人が好きになり、同情し、より寛容になることが知られている。Paukner たち(p. 880; および、Call と Carpenterによる展望記事参照)は、社会的行動にも、真似をすることの寄与が見られるらしいことを実証した。オマキザル(capuchin monkey)は、近くにいる人間が、自分たちの行動を真似た場合は、その人間たちにより近づくことを実証した。しかも、人間によるサルの真似が同時である方が、効果が大きい。(Ej,hE)
Capuchin Monkeys Display Affiliation Toward Humans Who Imitate Them
p. 880-883.

ストレスについて解明する(Ironing Out Stress)

ペプチドホルモンのヘプシジン(hepcidin)は、炎症などの細胞外の因子に応答して肝臓から分泌され、膜を通した鉄の輸送によって鉄の恒常性を制御している。Vecchi たち(p. 877)は、小胞体中の細胞内ストレスシグナルによってヘプシジン発現が制御され、したがって、局所的な、あるいは、全身的な鉄の動きを調節していることを示した。このメカニズムは、炎症反応のメディエーター(仲介物質)として知られている転写制御因子の CREBHによって引き起こされている。つまり、この結果から見ると、細胞内ストレス応答と、自然免疫と、鉄代謝は直接関連しているらしい。(Ej,hE)
ER Stress Controls Iron Metabolism Through Induction of Hepcidin
p. 877-880.

アスペルガー欠陥の補償(Diverting Asperger Deficit)

自閉症圏障害(ASD)ファミリー内でのアスペルガー症候群の位置づけは、いささか落ち着きの悪いものであった。アスペルガー症候群の人は、ASDを特徴付けるコアとなる、社会的な相互作用やコミュニケーションにおける機能障害を示すが、にもかかわらず、「心の理論(Theory of Mind)」スキルを心の中に築く(mentalize)、あるいは所有する能力を評価するテストでは好成績を挙げるからである。心の中に築く能力についての古典的テストの1つが、虚偽信念タスクと呼ばれるものである。これは被験者が、自分自身の信念(真)と、引き出しの1つから別の引き出しにキャンディーが移し変えられるのを見ていない場合のように完璧な情報が与えられていないがゆえに偽である他者の信念を表現しないといけない、という課題である。アスペルガー症候群を有する人は、口頭の虚偽信念タスクでは成功するのだが、Senjuたちは、それは、彼らが暗黙バージョンの虚偽信念タスクに存在していて、しかも実証可能な欠陥に対処することを学習したことに拠っていることを明らかにしている(p. 883、7月16日号電子版)。つまり、コアとなっている機能障害は存在しているのだが、意識的かつ明示的な学習によってその補償が可能になっている、ということである。(KF)
Mindblind Eyes: An Absence of Spontaneous Theory of Mind in Asperger Syndrome
p. 883-885.

ダイナミン関連タンパク質の小さなお手伝い(Dynamin-Related Proteins' Little Helper)

ダイナミン-関連タンパク質(DRP)は、GTP分解酵素の大きなファミリーを構成している。そのファミリーは自己組織化して、細胞内膜の振舞いに付随しそれを変える様々なヌクレオチド-依存的構造を形成する。ダイナミンがいかにして単独で機械として振舞うよう機能しているかに焦点を当てて、多くの研究がなされてきた。しかしながら、細胞中でDRPはそれだけでは機能できず、機能するために付加的な関連タンパク質(DAP)を必要としている。DAPの果たしている正確な仕組みはまだわかっていない。Lacknerたちは、この疑問に対して、DRPであるDnm1を必要とするミトコンドリアの分裂の仕組みを用いて取り組んでいる(p. 874)。Dnm1関連タンパク質Mdv1が、Dnm1自己組織化の立体構造上および構造上の核形成促進を担っているのである。(KF)
Mechanistic Analysis of a Dynamin Effector
p. 874-877.

[インデックス] [前の号] [次の号]