AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 11, 2008, Vol.319


EPCが切り替えている(EPCs at the Switch)

腫瘍は自分に必要な酸素と栄養分を確保するために、新しい血管の成長を刺激するための信号を送り出す。内皮前駆細胞(EPC)と呼ばれる骨髄由来の細胞が、腫瘍に関連して成長する血管の場所に補充されることが知られていたが、この細胞の腫瘍性血管での濃度があまりにも低いので、その機能の寄与の度合いを評価することが困難であった。肺転移のマウスモデルを利用して、Gao たち(p.195; およびRafii and Lydenによる展望記事参照)は、EPCが“血管新生スイッチ”の決定的な制御装置であることを示した。これが、休眠している微小腫瘍転移(micrometastases)から致死的な腫瘍転移へと駆り立てる役目を負っている。腫瘍を持つマウスの遺伝子操作によってEPCの動員をブロックして血管新生を阻害すると、肺の腫瘍転移の形成も阻害され、生存時間が延びる。(Ej,hE)
Endothelial Progenitor Cells Control the Angiogenic Switch in Mouse Lung Metastasis
p. 195-198.
CANCER: A Few to Flip the Angiogenic Switch
p. 163-164.

磁界内の風変わりな超伝導体(Exotic Superconductors in Magnetic Field)

超伝導体に磁場を印加すると、単一の磁束量子から成る渦格子が通常形成される。この過程は、Ginzburg-Landauの現象論により、2つの磁界の長さ尺度、すなわちコヒーレンス長と侵入長によって記述されている。Bianchiたち (p.177)は、重フェルミオン化合物CeColn5の中性子散乱実験においてこのモデルと全く異なる結果を発見した。筆者らは、量子臨界点付近の超伝導状態から生じる普通の状態の渦コア内の準粒子のスピン偏極によって引き起こされていると説明している。(NK)
Superconducting Vortices in CeCoIn5: Toward the Pauli-Limiting Field
p. 177-180.

化学的な入り口と出口(Chemical Ins and Outs)

二分子求核置換(SN2 反応)においては、通常では陰イオンの攻撃グループが炭素中心に結合し、同時に脱離基を反対側に放出する。この反応は広い意味で古くから知られているが、溶液反応系での媒質効果や気相研究で得られる低いエネルギー差異の識別困難なことから詳細は良く判っていなかった。Mikosch たち(p.183; および Braumanによる展望記事参照)は、Cl-およびCH3Iのエネルギーの詳細な制御によって、気相での衝突実験からCH3Cl およびI-に至る量子力学的挙動を解明した。解析と理論的シミュレーションによって、エネルギー増加に伴って反応前複合体が関与するメカニズムからより直接的に置換するメカニズムへと進展することを明らかにした。(Ej,hE,KU)
Imaging Nucleophilic Substitution Dynamics
p. 183-186.
CHEMISTRY: Not So Simple
p. 168.

白亜紀の寒い期間(Cold Cretaceous Pockets)

白亜紀は、例外的に海表面温度が高くそして海面位置レベルが高い期間であったが、地質学的あるいは同位体データによる証拠では、その期間に氷河作用が起こっていたことを示唆している。Bornemannたち(p. 189; Kerrによるニュース記事参照)は、白亜紀の温暖化がピークとなった9100万年前付近の期間に、かなりの規模の氷河作用が起こったことを示している。著者たちは、海洋温度と氷の体積の関数である有孔虫(foraminifera)の酸素18同位体の標準試料との偏差値(δ18O excursions)の測定値と、気温変化だけを反映する膜脂質指標(membrane lipid index)とを組み合わせて、その結果、おそらく現在の南極の氷冠の約半分のサイズに当たる氷床として、氷河が20万年の間存在していたことを示す。(TO)
Isotopic Evidence for Glaciation During the Cretaceous Supergreenhouse
p. 189-192.

矮小銀河の謎(Dwarf Galaxy Puzzles)

矮小銀河における恒星やダークマターは、理論が予測するよりも中心への集中が少ない。Mashchenko たち (p.174, 11月29日のオンライン出版)は、コンピュータシミュレーションを用いて、矮小銀河の大局的な特性に対する超新星から排出された物質と恒星風の効果をモデル化した。このような恒星による物質のフィードバックは、大規模で一塊となった星間ガスの運動を引き起こし、銀河の中心の物質密度を減少させるような重力ポテンシャルの変化をもたらす。この効果は、矮小銀河の大きなダークマターのコアや、球状星団の分布、恒星分布の傾きなど、矮小銀河に関わる多くの当惑させるような特性の説明に役立つ。(Wt)
Stellar Feedback in Dwarf Galaxy Formation
p. 174-177.

作用が生じる場所(Where the Action Is)

感染に対する免疫応答は二次リンパ組織内部で始まるが、その部分では樹状細胞によって外来抗原がT細胞に提示される。活性化されたT細胞は次に感染した末梢組織に遊走する。Wakim たち(p. 198)は、末梢部位は抗体の単なる最終闘争場であるとの従来の見解を見直す必要があるとの証拠を示した。1つの病原体 (単純ヘルペスウイルス)は、実験的に、養子免疫で導入されたT細胞と組み合わせて移植された神経組織内で再活性化された。新鮮なT細胞の活性化がこれらの部位で検出された。これは、リンパ節で生じたように、このプロセスには樹状細胞とCD4+ T細胞の助けが必要である。(Ej,hE,og)
Dendritic Cell-Induced Memory T Cell Activation in Nonlymphoid Tissues
p. 198-202.
   

エストロゲン-応答遺伝子の発現(Expressing Estrogen-Responsive Genes)

エストロゲンの同種受容体の補充において、エストロゲンがターゲット遺伝子の発現を支配している。Perilloたち(p. 202)は、エストロゲン-応答遺伝子の転写がヒストンH3における重要なるアミノ酸、リジンのホルモン-依存性の脱メチル化によって促進され、局所的な酸化バーストを誘発してグアニン酸化による周囲のDNAを修飾し、次に特異的なグリコシラーゼによって除去されることを示している。8-オキソ-グアニン-DNAグリコシラーゼ1とトポイソメラーゼⅡβ酵素がこれらの部位に補充され、介在しているDNA-染色質領域を折り曲げて、転写開始部位の標識付けをし、エストロゲン-応答遺伝子の発現を促進する。(KU)
DNA Oxidation as Triggered by H3K9me2 Demethylation Drives Estrogen-Induced Gene Expression
p. 202-206.

パートナーを探せ(Find Your Partner)

複合体中でのタンパク質相互の相互作用やタンパク質サブユニット間の相互作用は、よく知られているように接触界面にあるアミノ酸側鎖によって一義的に記述される。界面のアミノ酸残基は進化面での変化のホットスポットであり、この変化に関する種間での比較により、オリゴマー構造と触媒-調節機能の間の関連に関する洞察が得られる。Grueningerたち(p.206;Janinによる展望記事参照)は或るプロジェクトにおいてこの洞察を適用して、5つの酵素のオリゴマーの状態を合理的なやり方で変化させた。著者たちは、対称性の要素が自然界でのタンパク質-タンパク質相互作用の再設計を上手に達成するための鍵であると結論している。(KU)
Designed Protein-Protein Association
p. 206-209.
BIOCHEMISTRY:Dicey Assemblies
p. 165 - 166.

DNA骨格によるRNA分子の捕獲(Capturing RNA Molecules with DNA Scaffolds)

核酸分子の分析用検出には、通常増殖戦略を必要とする。Keたち(p.180)は、直接的な捕獲戦略に関して報告しており、そこではRNA分子が原子間力顕微鏡(AFM)を用いて可視化される。彼らはDNAの骨格を変化させており、そこでは短い一本差のオリゴヌクレオチドを用いて遥かに長い一本差のDNAをコンパクトな形状に折りたたむ。このケースでは、彼らは、M13ウイルスDNA(~7000塩基)を200以上の短い合成DNA鎖(ヘルパー鎖)を用いて長方形のタイル形に折りたたんでいる。このヘルパー鎖の一部が対になって20-ヌクレオチド突き出ており、これがマウスのメッセンジャーRNAターゲットに対する捕獲配列として作用する。細胞抽出物とのインキュベーション後、このDNAタイルを雲母上に吸着し、その後AFMで可視化する。RNAと結合していないヌクレオチドの対は柔らかくて力の信号を殆んど与えないが、RNAとの結合により対のヌクレオチド鎖が架橋して剛い構造となり、強い力の信号を与える。知られている特徴により(registration feature)、関心の或る特別の遺伝子に関するタイルをタグ付けする。この方法を用いることで、200ピコモル以下の濃度でのRNAを定量化することが出来る。(KU)
Self-Assembled Water-Soluble Nucleic Acid Probe Tiles for Label-Free RNA Hybridization Assays
p. 180-183.

非火山性震動のトリガー(Nonvolcanic Tremor Triggers)

非火山性震動とそれに伴う緩慢なスリップの現象は、日本やカスカディア(Cascadia)の沈み込みゾーンで起こっている。これらの事象は長期的な時間スケールにわたって生じており、普通の地震とは異なる物理的な寄与をする(RichardsonとMaroneによる展望記事参照)。カスカディアにおいて、Rubinsteinたち(p. 186,11月22日のオンライン出版)は、この現象が潮汐と関連していることを示している。彼らは、カスカディア沈み込みゾーンのPuget Sound-Southern Vancouver Island地域での3つの現象を記録し、月のそして日月合成による潮汐の基本周期と同じ、12.4時間と24~25時間の周期を持つ明瞭なるパルス状の震動活動を見出した。震動は普通の地震より潮汐により敏感であり、震動が非常に低い歪み断層帯で起こっている可能性を示唆している。Gombergたち(p.173;11月22日のオンライン出版)は、2002年のDenali地震由来の表面波が北アメリカ-太平洋プレート境界でのカリフォルニアにおける無数の地殻構造学的環境において非火山性震動のトリガーとなったことを示している。(KU,nk)
GEOPHYSICS: What Triggers Tremor?
p. 166-167.
Tidal Modulation of Nonvolcanic Tremor
p. 186-189.

アマゾンの将来(Amazonia Futures)

アマゾン熱帯雨林の広い地域での立ち枯れは、今世紀における気候変化の潜在的な結果である。Malhiたちは、アマゾン海盆において働いている気候のメカニズムと、大気-生物圏モデルの構造に対してのそのメカニズムの感受性について検討した(p. 169; 11月29日オンライン出版)。彼らはまた、そうした変化に対する森林の生物群系およびヒトの集団双方の対応力や弱さ、フィードバックのあり方と、その地域および地球にとってのそうした変化のもたらす結果の可能性を探求して、アマゾンにおける森林伐採の割合の減少がいかにその地域および世界の気候変化を緩和しうるかを示している。最後に、彼らはアマゾン地域における保存と開発の計画について、熱帯雨林をもつ国々が自分たちの森林を保護することによって放出を回避するための経済的なインセンティブも含め、評価している。(KF)
Climate Change, Deforestation, and the Fate of the Amazon
p. 169-172.

絶滅の影響を探求する(Exploring Extinction Effects)

無関係な種の間の密接な相利共生は生態系ではあたりまえの特色だが、相利共生にあるものと、生態系のそれ以外の構成要素との相互作用については、不十分にしか理解されていない。Palmerたちは、アフリカのサバンナ生態系における、アリとアカシア属樹木の相利共生に対する大型草食哺乳類絶滅の影響をシミュレートした(p.192、また表紙を見よ)。共生系を含む4ヘクタールの区画から草食動物が10年間いなくなれば、アカシア属樹木につく相利共生アリのコロニーのサイズは減少することになり、そのせいで、茎をかじる甲虫による攻撃が増加し、樹木の成長は減少し、死亡率が上昇することになる。この実験は、古典的な相利共生の進化において大型草食動物の演じる強い役割を示しており、直観に反する東アフリカにおける大型動物相絶滅の間接的影響を示唆するものである。(KF)
Breakdown of an Ant-Plant Mutualism Follows the Loss of Large Herbivores from an African Savanna
p. 192-195.

癌の抗原が明らかに(Cancer Antigens Uncovered)

腫瘍に侵入し攻撃をかけるT細胞の潜在力は、癌の免疫療法における非常に有望ないくつかの方策の基礎を形作っている。しかし、腫瘍細胞を標的にするためにキラーTリンパ球が用いる抗原の特徴づけが不十分なせいで、進歩はしばしば妨げられている。Savageたちは、前立腺癌のマウスモデルにおける広く認識されている抗原について記述している(p. 215; またSchreiberとRowleyによる展望記事参照のこと)。異常なことに、この抗原は、免疫系による検出からは通常隔離されてる偏在性ヒストンタンパク質に由来するものであった。しかし、腫瘍のコンテクストでは、この抗原は潜在的に反応性のあるT細胞に対して露出されており、このことはその腫瘍環境が免疫系による抗原処理および結合の規則をいささか歪めたものになっていることを示すものである。このモデルの特徴はヒトの癌において見られるものと類似しているので、この系は腫瘍検出と治療に際しての免疫介入についての探求に有益であろう。(KF)
Recognition of a Ubiquitous Self Antigen by Prostate Cancer-Infiltrating CD8+ T Lymphocytes
p. 215-220.
CANCER: Quo Vadis, Specificity?
p. 164-165.

数を表す単語(Words for Numbers)

数量についてほんの少しの単語(1、2、たくさんなど)しかもたないアマゾンの言語についての最近の実験的研究は、ある言語における単語の補完物が思考に影響しうる(4個の物体を正確に列挙できない、など)ということを示唆するものである。BellerとBenderは、オセアニアの文化の言語学的また人類学的分析から、思考が言語に影響を与えうるという議論を支持する証拠を提示している(p. 213)。彼らは、文化的なニーズが、数を表すためのより抽象的かつ複雑な体系の子孫における進化に貢献してきたということを提唱しており、それは、ウシを数え上げる際に「頭」という単語を使うなど、モノそれぞれに特有な数詞や数的分類詞を生み出すものだった。(KF)
The Limits of Counting: Numerical Cognition Between Evolution and Culture
p. 213-215.

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