AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 12, 2007, Vol.318


ほとんど1日分の仕事(Almost in a Day's Work)

多くの植物は開花時期を特定の季節と関連させているが、季節の変化を決定する指標の一つは日の長さである。Sawa たち(p.261, 9月13日オンライン出版、および、Rubio とDengによる展望記事参照) は、日長を開花の開始に翻訳する分子相互作用について洞察した結果を示した。タンパク質FKF1 (FLAVIN-BINDING,KELCH REPEAT, F-BOX1)と GIGANTEA (GI)が青色光で刺激されて発現して協働するには、日の長さが十分長いことが必要である。植物の概日クロックはGIタンパク質の日々の律動的な発現を制御し、GIとGTLとの相互作用は青色光によって安定化される。GI-GTL相互作用は、クロック成分であるTOC1の集積を制御することで、遺伝子発現上のロバストな概日振動を可能にしている。青色光は同時に FKF1-GIタンパク質複合体の形成を開始させ、これが、今度は開花の転写抑制因子のCDF1を標的にして分解する。CDF1タンパク質分解によってCO遺伝子の転写抑制を遊離し、このCO遺伝子がCOタンパク質発現と長日依存性物質を集積させ、開花を促進させる。(Ej,hE)
FKF1 and GIGANTEA Complex Formation Is Required for Day-Length Measurement in Arabidopsis
p. 261-265.
PLANT SCIENCE: Standing on the Shoulders of GIGANTEA
p. 206-207.

ポリマー内部の設計(Interior Design for Polymers)

分離システムには高いスループットと高い選択性を達成することが必要である。ポリマー膜の分離機能は、オングストロームスケール(自由体積)の多孔度 (ポロシティー)となる空孔サイズに依存するが、これらの空孔は一般的に広いサイズ分布を示している。ねじれをもつ棒状ポリマーはより均一な空孔を持つているが、プロセスが困難である。Parkたち(p. 254)はプロセスの容易な形状の剛性ポリマーと熱による後変換プロセスを用いて、アモルファスポリマー中に十分に結合した構造をもつ狙いの自由体積要素を作つた。これらの物質によって、小分子やイオンに対して顕著な輸送特性と分離特性をもつ膜が形成された。(hk,KU)
Polymers with Cavities Tuned for Fast Selective Transport of Small Molecules and Ions
p. 254-258.

粘着性は皮膚の厚さ以上(Sticky Is More Than Skin Deep)

ある種の木登りサルや脊椎動物の手足は、物体表面に強力に張り付けると同時に容易に離れることもできる。この接着掌の模様パターンを真似ることが試みられた。Majumder たち(p.258; および、 Barnesによる展望記事参照) は、接着力を変化させるにあたっての表面下構造の役割に焦点を当て調べた。彼らは、表面のすぐ下に液体が詰まったマイクロメートルサイズの管があると、柔らかい物質の接着能力が顕著に増加することを示した。この液体の通路は、表面からフィルムが剥がれるときに伴う裂け目の拡大を防ぐのに効果があるだけでなく、液体自身が物質との毛細管現象による接着の助けになる。(Ej,hE,nk)
Microfluidic Adhesion Induced by Subsurface Microstructures
p. 258-261.
MATERIALS SCIENCE: Biomimetic Solutions to Sticky Problems
p. 203-204.

地球型惑星(Earth-Like Planets)

地球型惑星の探索は、検知の技術と方法が改良されるにつれ、加速されつつある。現行、および、将来の衛星による宇宙探査計画は、次の数年にうちに、さらに多くのものを発見するであろう。Gaidos たち (p.210) は、地球型惑星が恒星のまわりでどのように形成されるかについて、そして、どのくらいの恒星が水を擁していると期待できるのか、あるいは、どのくらいの恒星が、それらの中心星からまさに適切な距離の軌道を回っていて潜在的に居住可能なのかについて、われわれのこれまでの理解をレビューしている。(Wt,nk)
New Worlds on the Horizon: Earth-Sized Planets Close to Other Stars
p. 210-213.

転位を防ぐ(Disturbing Dislocations)

雪崩のときには安定に見えた形が突然崩れて大量の物質が流れ落ちる。この現象はミクロの世界でも発生する。例えば、応力-歪みジャンプに伴う結晶体内部の欠陥の変動などがそうである。Csikorら(p.251,Sethnaの展望記事参照)は、シミュレーションにより様々な変形モードに伴う微結晶内の転位雪崩崩壊(dislocation avalanche)を調べた。その結果、雪崩の規模分布に法則性が観測された。雪崩崩壊の規模は材料の長さに反比例するのである。材料がその形状を保つためにはある一定の大きさを持たなければならないことを示唆している。(NK,nk)
Dislocation Avalanches, Strain Bursts, and the Problem of Plastic Forming at the Micrometer Scale
p. 251-254.
MATERIALS SCIENCE: Crackling Wires
p. 207-208.

緑藻類の動物的側面(The Animal Side of a Green Alga)

真核生物の系統樹の根幹にいる生物体は植物と動物の両方の特質を共有している。Merchantたち(p.245)は、最も基本的な緑色植物の一つである緑藻類コナミドリムシのゲノム配列を報告している。そのゲノムに関する彼らの解析は、陸生植物により近い関係にもかかわらず、この緑藻類は動物と共有する遺伝子と特質を保持していることを実証している。その例として、運動性の繊毛は中心の対を取り囲む外側に9つの二重微小管を持っている。加えるに、著者たちは植物系列における光合成の遺伝子と進化をも研究している。(KU)
The Chlamydomonas Genome Reveals the Evolution of Key Animal and Plant Functions
p. 245-250.

無性種の多様性の維持(Maintaining Diversity Sans Sex)

ワムシを含めて特殊な生活状態にある無性種のあるものは、遺伝的多様性と言う有性生殖の利点が無いにもかかわらず長期に渡って生き延びてきた。これらのワムシ類は400種ほど存在し、これら無性種の系列が有害な変異を蓄積していただろうにもかかわらず、どのようにして分岐し生き延びたのかは今だに不明である。Pouchkina-Stantchevaたち(p.268;MeselsonとMark Welchによる展望記事参照)は、無性種においての遺伝的および機能的多様性が生じるメカニズムに関して記述しており、更に無性種だけに生じているメカニズム、その昔では対立遺伝子であった遺伝子の多様な機能、この例としてLEAタンパク質のメンバーが乾燥への耐性に機能している。(KU)
Functional Divergence of Former Alleles in an Ancient Asexual Invertebrate
p. 268-271.
EVOLUTION: Stable Heterozygosity?
p. 202-203.

マイクロRNAがバランスをとっている(MicroRNAs Strike a Balance)

数百のマイクロRNA(miRNAs)が数千の標的メッセンジャーRNAs(mRNAs)を抑制していると考えられているが、しかしながら、個々のmiRNA-mRNAペア間の相互作用を調べるのは困難であった。Choiたち(p.271,8月30日のオンライン出版)は、ある一つのmiRNAと特異的な標的部位間のその相互作用をブロックする方法を開発した。miRNA結合部位に相補的なアンチセンスのモルフォリノオリゴヌクレオチドにより、特異的なmRNAをmiRNA-介在の抑制から保護することが出来た。この技術をゼブラフィッシュの胚形成に適用して、彼らは、miRNA miR-430がNodalシグナル伝達経路のアンタゴニスト(拮抗物質)とアゴニスト(作用物質)を抑制していることを見出した。抑制が失われると、シグナル伝達の不均衡と異常な発生が生じた。(KU,hE)
Target Protectors Reveal Dampening and Balancing of Nodal Agonist and Antagonist by miR-430
p. 271-274.

プロテインキナーゼアイソフォームの特異性の解明(Unraveling PKA Isoform Specificity)

サイクリックAMP(cAMP)は、細胞ストレスに対するシグナルであり、哺乳動物の細胞においてはcAMP依存性のタンパク質キナーゼ(PKA)に結合して、多様なシグナル伝達経路を活性化する。機能的な多様性はPKAの触媒性(C)と調節製(R)のサブユニットにおけるアイソフォームの多様性によって行われる。特に、二つのクラスの調節性サブユニット、RⅠ型とRⅡ型はcAMPの非存在下でCサブユニットを抑制する。アイソフォームの多様性に関する分子論的基礎を得るために、Wuたち(p.274)はRⅡαホロ酵素の構造を決定し、これをRⅠαホロ酵素の以前決定された構造と比較した。その構造は、Cサブユニットが様々なドッキングモチーフを用いて様々な抑制因子と相互作用しており、そしてATPがどのようにして二つのホロ酵素を区別して制御しているかを示している。この知見はアイソフォーム-特異的な活性剤、或いはPKAに対する拮抗剤を作るうえで役立つものであろう。(KU)
Holoenzyme Reveals a Combinatorial Strategy for Isoform Diversity
p. 274-279.

ミツバチコロニー崩壊の犯人(Culprit in Honey Bee Collapse)

合衆国におけるミツバチの劇的な消失によって、価値ある作物のために花粉を媒介しているミツバチを供給している養蜂業者の供給能が脅かされるに至っている。この荒廃は、ミツバチの集団全体に渡って広まっているある感染病原体と関わっていて、これによってコロニーの50から90%の損失がもたらされている。メタゲノム技術を用いて、Cox-Fosterたちは、感染を受けたコロニーと健康なコロニーそれぞれに関わる微生物叢全体の配列決定を行った(p. 283、9月6日オンライン出版)。比較によって、イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)がミツバチコロニー崩壊の元凶であるらしい。(KF)
A Metagenomic Survey of Microbes in Honey Bee Colony Collapse Disorder
p. 283-287.

ワン・ツー・パンチで腫瘍の増殖を遅くする(Slowing Tumor Growth with a One-Two Punch)

レセプター型チロシンキナーゼ(RTK: receptor tyrosine kinase)を抑制する薬剤は、臨床治験で有望な抗癌性治療薬として現れたのだが、多形神経膠芽腫(GBM:glioblastoma multiforme)などのある種の固形腫瘍は、その薬剤にはじゅうぶん反応しなかった。Stommelたちによる研究(p.287、9月13日オンライン出版)が、なぜ、攻撃的な脳腫瘍の1つの形態であるGBMが、典型的には単一の薬剤として投与されるこの薬剤に抵抗性があるかを説明する助けになるかもしれない。神経膠芽腫細胞は、複数RTKの随伴性活性化を示すが、そのすべてが、細胞増殖の決定的な駆動要因であるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)シグナル経路を刺激しているのである。前臨床モデルでは、複数のRTKを標的にした薬剤の組み合わせが、このPI3K経路の抑制と腫瘍細胞増殖の緩徐化にとって、単一薬剤より強力であった。こうした結果は、GBMにおけるRTK阻害剤の有効性を最適化する潜在的な戦略、臨床治験において今まさに検証可能なアイディアの存在を示唆するものである。(KF,hE)
Coactivation of Receptor Tyrosine Kinases Affects the Response of Tumor Cells to Targeted Therapies
p. 287-290.

相利共生パートナー間のシグナル伝達(Signaling Between Symbiotic Partners)

植物とある種の土壌菌類は一緒になって相利共生の菌根関係を結んで作用しており、この相利共生関係には、地上植物種の80%が関与している。Drissnerたちはこのたび、これら大きな植物と小さな菌類のパートナー同士の関係を仲介する分子シグナルを同定した(p. 265)。相利共生のやりとりに従事していると知られている正リン酸塩輸送体をコードするこの遺伝子を用いて、著者たちは、植物-真菌共生体から得られたリン脂質抽出物が、ジャガイモから得られた標的遺伝子の転写を活性化することを発見した。培養されたトマト細胞による更なる研究と質量分析によって、鍵となるシグナル伝達化合物がリゾホスファチジルコリン(lyso-phosphatidylcholine)であるということが示されたのである。(KF)
Lyso-Phosphatidylcholine Is a Signal in the Arbuscular Mycorrhizal Symbiosis
p. 265-268.

もっと穏やかに引っ張って(Pulling More Gently)

多くの生物学的過程には、弱い一過性の力に対する応答としての微妙な立体構造変化が含まれることがあるが、実験上の制限によって、単一分子の研究は、相対的に大きな力の影響の検証に限定されていた。Hohngたちは、ピコニュートン以下の力に応答して生じる単一分子の立体構造変化をナノメートル規模でモニターできる、分子間力−蛍光分光のハイブリッド法を開発した(p. 279)。彼らはこのアプローチを使って、ホリディジャンクション(Holliday junction)を穏やかにいろいろな方向に引っ張って、その際の蛍光共鳴エネルギー移動をモニターし、ホリデイジャンクションの応答状況についての洞察を得た。(KF,KU,hE) 【訳注】Holliday junction:2つの二本鎖DNA分子間の交差した(χ構造)領域で遺伝子組み換えなどが起こる。
Fluorescence-Force Spectroscopy Maps Two-Dimensional Reaction Landscape of the Holliday Junction
p. 279-283.

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