AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 5, 2007, Vol.318


サンゴの組成について再考する(Rethinking Coral Composition)

現代のサンゴ礁は主として石質サンゴのサンゴ礁からできており、ベルム紀大絶滅後の三畳紀に出現した。今日では全てのサンゴ礁はアラゴナイドの骨格からできており、この組成は化石の石質サンゴにも共通だと思われていた。Stolarski たち(p. 92) は、白亜紀の石質サンゴ礁は当初カルサイト(方解石)の骨格から出来ていたものと同定した。内部構造が詳細に保存されており、MgとSrの化学組成から、初めからカルサイト構造であり、アラゴナイトが変性したものではないと結論付けた。この結論は、カルサイトの骨格を形成したがベルム紀の大絶滅で滅びた四放サンゴ(Rugose coral)と、これらのサンゴとの進化上の関連を強めるものである。当初カルサイトの骨格が生じたが、後のベルム紀の絶滅でこれが除去された。これらの結果から、サンゴは海水の化学的変化に伴なって自分の生化学反応を変えることができることを示唆している。(Ej,hE,nk)
A Cretaceous Scleractinian Coral with a Calcitic Skeleton
p. 92 - 94.

密接なコンタクト(Intimate Contact)

複合材料は、一般に、母型となる材料によって取り囲まれた強靭な、あるいは、高剛性の粒子、または、繊維から構成されている。しばしば、最良の特性は、強化のための材料と母型材料との接触が最大のときに観察されるが、多くの場合において、強化材料の分布や付着が不十分で理想的な分散を制限してしまう。Podsiadloたち (p.80) は、層ごとのデポジション手法を用いて、樹脂母型中に粘土小板を分散させ、こうして作った一連の薄い透明膜に対し極めて理想的な特性を得た。ナノメートル大の粘土小板はよくそろった薄膜を形成し、樹脂母型との非常に強力な水素結合を可能とするので、樹脂と粘土との間で効率的な荷重の分担が確実となっている。(Wt,nk)
Ultrastrong and Stiff Layered Polymer Nanocomposites
p. 80 - 83.

中性クラスターの重要性(The Importance of Neutrality)

大気中のエアロゾル(3〜10nm直径)の粒子は、対流圏のあらゆる場所で継続的に発生している。これら粒子は、太陽光を吸収・散乱したり、雲の発生や大気中の化学反応に寄与するため、気候に多大な影響を及ぼしている。しかしながら、エアロゾル形成のスタートとなるより小さいクラスター(cluster)は観測が困難であり、そのためにエアロゾルの発生量や発生メカニズムは殆んど解明されていない。Kulmalaたち(p.89、8月30日にオンライン出版)は、3nm以下のクラスターの分布の観測に成功し、大気中には殆ど常に大量の中性クラスターが貯えられていることをつきとめた。少なくとも針葉樹林帯では、これらの中性クラスターが核となりエアロゾルが発生している。「エアロゾルはイオン性のクラスターから成長する」というこれまでの提唱を覆す発見である。(NK,nk)
Toward Direct Measurement of Atmospheric Nucleation
p. 89 - 92.

基板を確認してから成長しなさい(Check the Substrate Before You Grow)

ポリスチレン(PS)あるいはポリメチル-メタクリル酸のようなゲート電極を被膜する高分子絶縁体上に有機半導体層を成長させることによって、有機薄膜トランジスタ(TFT)を製作することができる。Kimたち(p. 76)は、これらの薄い絶縁層のガラス転移温度(Tg)が、この薄い絶縁層に対応するバルク物質のガラス転移温度(Tg)より遥かに低く、また半導体層の成長に通常用いられている温度範囲にあることをを明らかにしている。低下した表面ガラス転移温度(Tg)以下の温度で成長するペンタセン層は、より高い温度で成長するペンタセンの層より高いキャリア移動度と粒径を示した。より高い温度では薄膜の絶縁膜はゴム状であり、またより大きな高分子鎖の挙動を示す。PSフィルムの酸素プラズマ処理のような絶縁層の鎖を架橋結合する表面処理により、表面のTgが高くなり、そしてより高い移動度を回復した。(hk)
Polymer Gate Dielectric Surface Viscoelasticity Modulates Pentacene Transistor Performance
p. 76 - 80.

失われたジグソーパズルのピース(Missing Jigsaw Piece)

ハワイ・エンペラー海山列の軌跡変化で分かるように、太平洋テクトニクプレートは約五千万年前に明らかに移動方向が変わった。なぜこれが起こったのかは明確ではない。Whittakerたち(p.83)は、太平洋プレートの周りにあるオーストラリアと南極との間のプレートの付随した動きを、地磁気と人工衛星から観測した重力データから調べられることを示した。これによると、プレートの再編成が5000万年から5300万年前に発生したことを示唆している。この研究を基に書き替えられた太平洋海洋底再編成の描像によると、上に述べた太平洋プレートの運動方向変化の最大の原因は、イザナギ拡大海嶺の沈み込みとそれに引き続くマリアナ/トンガ-カーマデックの沈み込みの開始であったのかもしれない。(TO,nk)
Major Australian-Antarctic Plate Reorganization at Hawaiian-Emperor Bend Time
p. 83 - 86.

学習、自閉症とシナプスの関係(Learning, Autism, and the Synapse)

自閉症の人のなかには少数であるが、シナプスを通って神経細胞の情報伝達を容易にする細胞接着タンパク質であるニューロリギンとニューレキシンをコードしている遺伝子に変異を宿している。Tabuchiたち(p. 71, 9月6日のオンライン出版;Crawleyによる展望記事参照)は、このような変異の一つ、即ちマウスに変異タンパク質を導入することでニューロリギンー3にR451C置換したその機能的な影響を調べた。このマウスは空間的な学習スキルは上昇したが、社会的相互作用面では損なわれている。これらの行動面の変化は抑制性のシナプス伝達における選択的な増強が伴っていた。このように、興奮性と抑制性のシナプスにおけるバランスの変化が学習に影響し、このバランスの変化が自閉症の病変形成をもたらす因子の一つであろう。(KU)
A Neuroligin-3 Mutation Implicated in Autism Increases Inhibitory Synaptic Transmission in Mice
p. 71 - 76.
MEDICINE:Testing Hypotheses About Autism
p. 56 - 57.

神経細胞のロードマップ(Neuronal Roadmap)

神経系が成長する際、特有の介在ニューロン結合のネットワークが形成される。Colon-Ramosたち(p.103)は、ネットワークの支持組織であるグリア細胞がこれらのネットワークを作るに必要なロードマップを提供していることを見出した。特定のグリア細胞がネトリンを発現し、このネトリンがシナプス後ニューロンに結合場所を教え、そしてシナプス前ニューロンに結合に必要な下部構造を作る場所を教えている。グリア細胞におけるネトリン発現の局在化が、正しい位置での神経細胞のシナプス−構築形成に役立っている。(KU,nk)
Glia Promote Local Synaptogenesis Through UNC-6 (Netrin) Signaling in C. elegans
p. 103 - 106.

捕獲による育種は再生の適応性を減らす(Captive Breeding Reduces Reproductive Fitness)

絶滅を防ぐための捕獲による育種プログラムは、多くの絶滅の危機に瀕した野生集団や種を回復するのに行われているが、このようなプログラムの効果については殆んど実証されていない。Arakiたち(p. 100)は、捕獲によって育てた魚を自然環境で育てたときの繁殖の是非を評価した。捕獲によって育てられた親からの捕獲-育種された子供は、野生の親からの捕獲-育種された子供の半分ぐらいの繁殖能力しか無い。適応性減少の程度は捕獲-育種の世代あたりほぼ40%であり、このことは、このような捕獲-育種プログラムを野生集団の減少を回復するために用いる際に、その効果の更なる評価が必要であることを示唆している。(KU)
Genetic Effects of Captive Breeding Cause a Rapid, Cumulative Fitness Decline in the Wild
p. 100 - 103.

公明正大か、あるいはそうではないか(Fair's Fair...or Not)

人類は公正さという感覚を持っているという説を実証する実験的な基準は、最後通牒ゲーム(Ultimatum game:訳注参照)におけるふるまいである。もし、最初のプレーヤーが提案した分け前が充分公正(大体、合計の40%から50%程度)でなければ、2番目のプレーヤー(受け手)は提案を拒絶することが多く(利益を得ることを完全に諦める)、その結果、最初のプレーヤーもあらゆる受け取りが不可能になる。Jensen たち(p. 107)は、チンパンジーにおけるこの最後通牒ゲームを干しブドウを使ってやらせた場合、人間の場合と異なり、干しブドウの数がいくらであっても受け手は受け入れる。結論としては、チンパンジー2匹によるゲームでは公正な取り引きと言う概念には到達しないように思える。(Ej,hE,nkr> 【訳注】最後通牒ゲーム:受け手が受け入れた場合、提案者が提案した通りの分配が与えられるが、受け手が拒否した場合は、提案者も受け手も分配はゼロ。
Chimpanzees Are Rational Maximizers in an Ultimatum Game
p. 107 - 109.

同定された植物の保護者(Plant Protector Identified)

病原体による最初の攻撃を生き延びた植物は、しばしばその後の感染に対しても抵抗性を増す。たとえば、タバコ植物が前もってタバコモザイクウイルス(TMV)に感染していると、その植物はTMVあるいは他の病原体によるその後の挑戦に対する抵抗性の増加を示すようになり、これは全身獲得抵抗性(SAR:systemicacquired resistance)と名付けられている。SARの発生には、一次感染した組織で作られたシグナルが、篩部(phloem)を介して遠くの全身組織(distal systemictissue)に移動することが必要である。Parkたちは、SARのためのこの移動性シグナルが生物学的に不活性なサリチル酸、サリチル酸メチル(MeSA)であって、これが多くの植物病原体への宿主防御を活性化する鍵となるホルモンであることを明らかにしている(p. 113; またLeslieによるニュース記事参照のこと)。(KF)
Methyl Salicylate Is a Critical Mobile Signal for Plant Systemic Acquired Resistance
p. 113 - 116.

ある免疫応答の解剖学(Anatomy of an Immune Response)

生体内画像処理技術は、実験的に誘発された免疫反応をリアルタイムに追跡することを可能にする。にもかかわらず、この技術はしばしば、人工的に標識付けられた免疫細胞が、非生理的なほど多数、動物の体内に移入されていることに頼っている。Khannaたちは、生体内原位置での脾臓の共焦点顕微法を十分な解像度で用いることで、ある細菌感染症への免疫応答の微細な特色を検出できることを報告している(p. 116)。内在性の一次および二次(記憶)T細胞の応答を比較することができ、T細胞が活性化し、拡大し、そして末梢性の解剖学的部位へと遊走するに際しての、脾臓中の予想外の再局在化が明らかにされたのである。(KF)
In Situ Imaging of the Endogenous CD8 T Cell Response to Infection
p. 116 - 120.

南ではなく、北を冷やして(Cooling North But Not South)

氷河期から温暖期への最後の遷移期間である約13000年前、Younger Dryasと呼ばれている厳しい寒冷化事象が生じ、1500年間も北部大西洋を低温状態にした。このYounger Dryasは南半球も低温化させたかどうかについては議論が続いている。Barrows たち(p. 86) は、この時期のニュージーランド内部および近辺の記録を提示し、Younger Dryas寒冷期は南半球のニュージーランド近辺では無かったことを示した。ニュージーランド南島のモレーン(氷堆石)の年代を定め、太平洋海面付近の温度記録を再構成することによって、著者たちはYounger Dryas期において暖かかったことを示した。このモレーンは以前、Younger Dryas寒冷を示していると思われていたものである(Ej)
Absence of Cooling in New Zealand and the Adjacent Ocean During the Younger Dryas Chronozone
p. 86 - 89.
EVOLUTION:Feathers, Females, and Fathers
p. 54 - 55.

同じ種の鳥?(Birds of a Feather?)

複数の集団が出遭い、そして交配するとき、ハイブリッド(雑種)はしばしば低い適応度を体験することになる。このように自然選択はハイブリッドに対して抑制的なので、近縁交配の傾向があらゆる面で強化されるであろう。ハイブリッドの形質およびそれに対する選好性(preferences)は、ハイブリッド形成の結果生じる組換えにも関わらず、いかにしてそれぞれの新しい種内に付随して留まることができるのだろう? Saetherたちはメスのハイブリッドと交差-育成実験(cross-fosteringexperiments)を用いて、ヒタキ(flycatcher)のハイブリッドゾーン中の近縁交配選好性がその鳥の父性的に受け継がれたZ染色体上に存在していることを明らかにした(p. 95; またRitchieによる展望記事参照のこと)。Z染色体にリンクした遺伝子はまた、雄性の羽衣(plumage)形質にも関わっていて、ハイブリッドの適応性を減少させるものになっている。Z染色体は、それらヒタキ間で組み換えられないので、種分化は組換えには拘束されずに進んでいる可能性がある。(KF,nk)
Sex Chromosome-Linked Species Recognition and Evolution of Reproductive Isolation in Flycatchers
p. 95 - 97.
EVOLUTION:Feathers, Females, and Fathers
p. 54 - 55.

深い多様性(Deep Diversity)

ピロシーケンス技術は、小さなサブユニットリボソームRNAの小領域の単位複製配列(amplicon)をハイ・スループットで配列決定するのに用いられ、微生物の多様性について高分解能での評価を可能にするものである。その高い分解能は、試料とされたコミュニティの生態学に光をさまざまな方角から当てられるよう、データを調べることを可能にしている。Huberたちは太平洋深海の熱水噴射口周辺のミクロフローラ(microflora;微生物叢)を試料にして、異なった化学成分をもつ2つの噴射口には、違った種類のミクロフローラがいるということを発見した(p. 97)。古細菌は細菌よりも多様性が少ない傾向があり、より完全にサンプリングできる。古細菌の一般的なパターンは少数の異なった集団が支配的であり、それとともに新規な多様性のほとんどは存在量の少ない数千のタイプの種である。(KF,KU)
Microbial Population Structures in the Deep Marine Biosphere
p. 97 - 100.

開花遺伝子の沈黙(The Silence of the Flowering Genes)

遺伝子の転写は、各プロモータにおける特異的因子によって、また周囲の染色質中の一般的な活性化、ないしサイレンシングの状態によって制御されている。シロイヌナズナの染色質サイレンシングの研究の過程で、Baurleたちは、開花における欠損に気づいた(p. 109)。FCAやFPAを含めて、開花時期を制御すると既に知られているいくつかの遺伝子はまた、開花制御以外の別のプロセスに関与する染色質修飾においても機能しているようであった。一倍体の雌性配偶体の発生および胚発生は、とりわけ、FCAおよびFPAによる染色質修飾機能の失敗に対する感受性が強いようであった。ゆえに、FCAおよびFPAタンパク質は核に局在化し、座位依存性のメカニズムにより多くの座位での効率的なサイレンシングに必要とされる。(KF,KU)
Widespread Role for the Flowering-Time Regulators FCA and FPA in RNA-Mediated Chromatin Silencing
p. 109 - 112.

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