AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 19, 2007, Vol.318


サンゴの中の時計(Clocks in the Corals)

サンゴ礁を形成するサンゴの同期した放卵を誘発するのは月の光であるが、月の光を感知する機構はほとんど判っていない。Levy たち(p. 467)は、サンゴ礁を構成する Acropora millepora (phylum Cnidaria門刺胞動物)中に、青色光に対する昔からある光受容器の一つ、クリプトクロムが存在することを実証した。このクリプトクロムは、より高度な動物や植物の概日時計の同調を制御している。2つのサンゴのクリプトクロム遺伝子、cry1 と cry2、の発現は明暗サイクルの下では律動性があるが、定常的な暗さの中では律動性を示さない。cry2の発現は満月によって変化する。この研究から、クリプトクロムは植物や高等動物の概日時計で機能するだけでなく、グレイトバリアーリーフの同期放卵現象も誘発していることが示唆される。(Ej,hE,nk)
Light-Responsive Cryptochromes from a Simple Multicellular Animal, the Coral Acropora millepora
p. 467-470.

スズメバチの社会性についての洞察(Insights into Wasp Eusociality)

昆虫の「労働者」(ハチの場合は働きバチ)が、自分の子孫を残すことなく、同胞の世話をすることは社会性の特徴であり、ある意味での利他主義であり、これはダーウィンを含む多くの生物学者たちを魅了してきた。Tothたち(p. 441, 9月27日オンライン出版参照 )は以下のようなアイデアをテストした;この行動は、スズメバチPolistes metricusの生殖発達の前に、「母性看護遺伝子」の初期発現から進化した行動である。よく研究されたミツバチと異なり、スズメバチでは働きバチでも生殖性のハチでも両方とも母性(介卵する)行動を示すが、その時期は異なる。ミツバチの配列決定されたゲノムとの類似から、スズメバチの脳に発現した遺伝子が同定され、行動との関連が解明された。生殖機能を持つ母性のメスの遺伝子発現パターンは、生殖性非母性メス(女王バチ)よりも、非生殖性母性メス(働きバチ)に似ている。(Ej,hE)
Wasp Gene Expression Supports an Evolutionary Link Between Maternal Behavior and Eusociality
p. 441-444.

有限、巨大、かつ複雑さ(Finite, Huge, and Complex)

大気、輸送ネットワーク、及びインターネットのような多くの物理系は大変複雑であり、研究者たちは、これらの物理系をを数式モデルにすることに大変な努力を向けている。しかしながら、数学それ自体はまた、複雑な系であり、見た目には単純な原理によって大変な数の対象と構造が組立てられている。Foote (p. 410)は有限群論のケースをレビューしており、数学のこの分野は15,000頁の証明を必要とする巨大定理(Enormous Theorem)とやら10の54乗の要素を含むモンスター群(Monster group)というような例が示すように、簡単な基本要素から複雑なものを生み出されることを特色としている。簡単な数学的な概念から複雑な構造が生み出されていく過程は我々が物理系の複雑さを理解する助けとなる。また、その逆も考えられる。また、物理的な複雑さが理解できれば、数学的な概念を構築できる手助けとなる。(hk,nk)
Mathematics and Complex Systems
p. 410-412.

水銀の移動を追跡する(Tracing Mercury's Movements)

水銀には多くの同位体があり、この同位体比を測定することで環境中での動きを追跡する手がかりが得られる可能性がある。Bergquist と Blum (p. 417,9月13日オンライン出版、および、 Lamborgによる展望記事参照)は、典型的に見られる同位体の質量依存性分配比に加えて、ある還元条件下では奇数質量数の水銀同位体には質量に依存しない分別が存在する証拠が見つかった(以前、酸素とイオウにおいても見つかったことがある)。研究室での実験と、ミシガン(Michigan)湖とニューイングランドからの魚から、この同位体の痕跡はメチル水銀の光還元による減少の追跡に利用できた。(Ej,hE,nk)
Mass-Dependent and -Independent Fractionation of Hg Isotopes by Photoreduction in Aquatic Systems
p. 417-420.
GEOCHEMISTRY: A New Twist for Mercury
p. 402-403.

むらさき貝からの多用途のコーティング剤(From Mussels to Multiuse Coatings)

表面塗料は下層の材質に合わせて作る必要がある--それ故に、様々な処方を用いて内部の木部をしっくいのモルタール壁で被覆する。Leeたち(p.426)は表面を僅かに塩基性のドーパミン溶液中(むらさき貝が用いている接着剤を含んでいる)に浸漬することで、二次的な反応で容易に変化する高分子接着剤を開発した。このポリドーパミン接着剤は汎用性があり、複雑な表面やパターン化した表面は勿論、様々な材質(金属や高分子、およびセラミックス)の表面に適用できる。被覆されたポリドーパミン表面は、金属化と自己組織化単層膜の形成といった二つのタイプの二次的な反応を行うことが出来る。(KU)
Mussel-Inspired Surface Chemistry for Multifunctional Coatings
p. 426-430.

金ナノ粒子の内部に迫る(The Inside Scoop on Gold Nanoparticles)

金属ナノ粒子は一般に非一様であり顕微鏡によりその特性付けが行われる。しかし、100以上の金属原子からなる明確に定められた金属クラスターが製造されX線解析で特性が明らかにされてきている。構造の全く同じなナノ粒子を製造することができれば、X線による構造解析が可能となる。白金を例にとると、金属結合は非常に強固であり、粒子内の原子のパッキングの源になっていることが知られている。丹念な微小結晶成長技術を用いて、Jadzinskyたち(p.430、表紙および展望記事参照)は、それぞれがちょうど102個の金原子と44個の硫黄有機配位子からなるナノ粒子を作り上げ、X線回折により1.1オングストロームの分解能で構造を明らかにした。10面体のコア構造は以前の仮説と一致した。表層の配位子は金属原子のみならず、隣接配位子と強固に作用して安定な表層を形成し、粒子にキラリティー(掌性)を与えていることが明らかとなった。(NK,Ej,nk)
Structure of a Thiol Monolayer-Protected Gold Nanoparticle at 1.1 Å Resolution
p. 430-433.
CHEMISTRY: Nano-Golden Order
p. 407-408.

冷たいところから暖かくなる(Warming from the Cold Places)

氷河期の状態から間氷期の状態に変化する間で、気候系の異なる場所同士がどのように振る舞いそして相互作用するのかについての詳細は未だに究明中の問題である。Stottたち(p. 435; 9月27日オンライン出版; Kerrによる9月28日のニュース記事参照)は、どこから温暖化が始まり、なぜ起きたのかという問いの答えを見つけるため、最終氷期の終りにおける高緯度と低緯度気候の変化を再現している。海洋堆積物の同じ掘削コアから取り出された水底性(benthic)有孔虫とプランクトン性有孔虫の両方に由来するデータにより、西熱帯太平洋の海洋表面温度が上昇する約1500年前に、深海の水温が上昇したことを示しており、このことは低緯度の深海水の源となる高緯度地域での海水表面温度のより早い温暖化が始まっていたことを示している。深海の温暖化は大気二酸化炭素の上昇に対しても先行している。そのことは、南半球の高緯度地域の日照の増加が海氷の後退を引き起こし、そこだけでなく更に遠い場所を温暖化させていたことを示唆している。 (TO,KU,nk)
Southern Hemisphere and Deep-Sea Warming Led Deglacial Atmospheric CO2 Rise and Tropical Warming
p. 435-438.

DNAを巻き戻してプライミングする(Unwinding and Priming DNA)

ほとんどのDNAポリメラーゼは、刺激を受けた一本鎖(single-stranded:ss)DNAの基質上でDNAの合成を開始する。真性細菌の細胞において、DNAの巻き戻しとプライミングはDnaBへリカーゼとDnaGプライマーゼの複合体によって行われる。DnaBとDnaG間の相互作用により、巻き戻しとプライミングの活性化の両方を刺激するが、どのようにしてこれが行われているかは不明であった。Baileyたち(p.459)は、リガンド非結合六量体のDnaBとDnaGのヘリカーゼ結合領域(HBD)とのその複合体の結晶構造に関して報告している。DnaBの二つの領域は異なる対称性でもって包まれ、二つの層状の環構造となっている。結合した3つのHBDが高次構造における六量体を安定化して、そのプロセシビティー(processivity:反復的な触媒過程)を増し、そして潜在的なDnaB上のssDNA結合部位がDNAをそのDnaG活性部位へと導いているのであろう。(KU)
Structure of Hexameric DnaB Helicase and Its Complex with a Domain of DnaG Primase
p. 459-463.

予期された以上に違っている(More Different Than Expected)

ゲノムの構造上の変異体(SV、コピー数の変異体を含むある種の変異型のこと)を同定する方法がKorbelたちによって記述されている(p. 420、9月27日にオンライン出版)。対になった終端マッピング(paired-end mapping)によって、高い分解能で限界点の位置を迅速に同定でき、また、殆んどのケースでゲノムのどこでそれが生じるかを正確に決定できる。この方法を使って、異なった民族的背景にある2人の個人から得られたDNAの解析によって、個人間に予期せぬ量のSVがあることが示されたが、このことは人間が従来認識されていたよりもずっと遺伝的に多様であることを示すものである。見つかった重要な知見の中には、SVは独自の配列と同じように、幾つかの(すべてではないが)繰り返しの型と結び付いているという知見がある。SVが生じる仕組みに対する洞察も、また得られている。(KF)
Paired-End Mapping Reveals Extensive Structural Variation in the Human Genome
p. 420-426.

メチル基の標識を外す(Off with the Metyl Marks)

真核生物におけるバルクな染色質を構成しているタンパク質、ヒストンのメチル化は後成的な遺伝子発現制御において決定的な役割を果たしている。この標識を染色質に付ける酵素はよく知られているが、再びこの標識を外す酵素のクラスである脱メチル化酵素のJumonji C(JmjC)ファミリーはごく最近の発見である(RivenbarkとStrahlによる展望記事参照)。幾つかのJmjCリジン脱メチル化酵素は知られているが、ヒストン中のアルギニン残基からメチル基を除去するJmjCタンパク質は未だ同定されていない。Changたち(p.444)は、アルギニン2でのヒストンH3とアルギニン3でのヒストンH4を脱メチル化する酵素、JMJD6の発見に関して報告している。このアルギニン2,3の標識は染色質の機能を調節する「ヒストンコード」の重要な部分と考えられている。リジン27上のヒストンH3(H3K27me2-3)の2個及び、3個のメチル化は殆んど抑圧性のシグナルであり、X-染色体の不活性化、刷り込み、幹細胞の維持、概日リズム、及び癌に関係している。その標識を付ける酵素は知られており、M.G.Leeたち(p.447,8月30日のオンライン出版)は、タンパク質のJmjCファミリーのメンバーである(他の脱メチル化酵素に類似している)ヒトの酵素UTX(ubiquitously transcribed mouse X-chromosome gene)を同定した。このものはH3K27me2-3の標識を除去し、そして遺伝子発現の活性化を促進するものである。(KU)
MOLECULAR BIOLOGY: Unlocking Cell Fate
p. 403-404.
JMJD6 Is a Histone Arginine Demethylase
p. 444-447.
Demethylation of H3K27 Regulates Polycomb Recruitment and H2A Ubiquitination
p. 447-450.

まったく同じ(All the Same)

太陽表面から太陽風の粒子が開放される過程においては、元素や同位体成分のある種の変化が刻み付けられる可能性がある。太陽風の各領域間での特徴的な同位体比率の変化は、特別のプロセスを示しているのかもしれない。Genesis 宇宙飛行によって地球に戻ってきた太陽風の3種の試料において、Meshik たち (p.433; Marti による展望記事を参照のこと) は、試料の得られた各領域間では、20Ne/22Ne あるいは 36Ar/38Ar のどちらにおいても顕著な差異は見出されなかった。しかしながら、地球大気と比較して、36Ar/38Ar は3倍以上も大きな値である。これは、地球大気からより軽い同位体が失われていることを示唆している。(Wt)
Constraints on Neon and Argon Isotopic Fractionation in Solar Wind
p. 433-435.
PLANETARY SCIENCE: Sampling the Sun
p. 401-402.

より深い表面混合(Deeper Surface Mixing)

北大西洋への大量の流氷放出の8事例は、Heinrichイベントと呼ばれ、過去6万5千年間に生じたものである。それらの事例はその領域に激烈な冷却を引き起こし、それが起きるたびに、数百年から数千年もの間、深い部分での海洋循環を破壊してきた。北大西洋の表面海水へのそのインパクトは、そこの水がほとんどの生物活性を持続させてきたものであり、また気候プロセスに直接的に関与するものであるので、特別な興味の対象になっている。RashidとBoyleは、Heinrichイベントが北大西洋の上層の水の質量を、その厚みと深さを増加させることで変容させていることを明らかにしている(p. 439、9月20日にオンライン出版)。そうした変化はその領域の生態系に大きな衝撃を与えてきたであろう。著者たちは、この変化がそれらの時代には風が強かったための結果であるという示唆も行っている。(KF,Ej)
18O Approach
p. 439-441.

コンパクトな遺伝子輸送箱(Compact Genetic Carrying Cases)

データ保管の問題に対するコンパクトな解決策は、新規な技術革新であるが、ある種の生物体は、ずいぶん昔から遺伝的パッキングについてのエレガントな解決案を発達させてきている(Landweberによる展望記事参照のこと)。超微小な単細胞紅藻であるCyanidioschyzon merolaeは、その祖先である真核生物の型を表現しているようで、これまでに配列決定されたすべての自立的真核生物のうちで最小のゲノムを持っている。解析によって、C. merolaeは核の転移RNA(tRNA)をたった30個しか含んでおらず、これは、遺伝暗号の61個のコドンのすべてを解読するのに不十分な数であるということが示唆されている。Somaたちはそのゲノムを再解析し、11個のtRNAを発見した(p. 450)。そこでは、遺伝子の5'ハーフの上流、7から74個の塩基対に3'ハーフが存在している。これらハーフは、順序を替えられた(permuted)遺伝子が正しく5'から3'の順になるように環状にされ、単一のRNAを発現する。分割tRNA遺伝子や順序を替えられた遺伝子はどちらも知られているが、遺伝子の環状配列はこれまでは観察されていなかった。単細胞原生生物Diplonema papillatumのミトコンドリアのゲノムは、多数の小さな環状染色体から構成されている。MarandeとBurgerは、これら環状ミトコンドリアDNAの配列を決定し、どれもが完全なミトコンドリア遺伝子を担っておらず、ほんの短い遺伝子断片だけを担っていることを示している(p. 415)。それらは個別に転写され、それから、トランススプライシングとは明らかに違うやり方で一緒に元に戻されて、くっついたメッセンジャーRNAを作るのである。(KF)
GENETICS: Why Genomes in Pieces?
p. 405-407.
Permuted tRNA Genes Expressed via a Circular RNA Intermediate in Cyanidioschyzon merolae
p. 450-453.
Mitochondrial DNA as a Genomic Jigsaw Puzzle
p. 415.

最良の攻撃は、相手の防御を利用すること(The Best Offense Is Someone Else's Defense)

アグロバクテリウムがその宿主植物の細胞を攻撃するのに用いる戦略の一部には、自分自身のゲノムの一部を植物細胞のゲノム中に転移することが含まれている。このDNA転移イベントは、研究室における植物の遺伝形質転換の手段として効果的に用いられている。自然界における相互作用において、アグロバクテリウムは自分と宿主のタンパク質複合体を用いて、植物細胞核への自身のDNA転移を効果的に行っている。植物のタンパク質の1つVIP1は、アグロバクテリウムのDNA転移に機能していることが知られていたが、宿主植物へのその利用は知られていなかった。Djameiたちはこのたび、植物のVIP1が病原体防御カスケードにおいてそのDNA転移に機能すると想定されることを発見した(p. 453)。つまり、アグロバクテリウムは植物自身のエフェクターを用いて植物の防御能を壊し、細菌性DNAを植物の核に輸送している。(KF,KU)
Trojan Horse Strategy in Agrobacterium Transformation: Abusing MAPK Defense Signaling
p. 453-456.

正しいパートナーを見つける自由(Freedom to Find the Right Partner)

非相同的末端結合(NHEJ:nonhomologous end joining)は、DNA二重鎖切断(DSB)修復の修復にとって重要であるが、それは大部分のDSBが損傷した非相補的末端を持っており、ブリッジされ、切除され、再合成されなければならないからである。Brissettたちは、結核菌から得られたNHEJシナプス複合体を解析した(p. 456)。修復DNAリガーゼDの付属的重合酵素は、DNA末端に、反対側の断点上にある配列の相補性を検索する自由を与えている。ブリッジのシナプス前構造の形成は、マイクロホモロジーによって方向付けられた塩基対生成や誤結合、さらには塩基フリップアウトを含む鋳型の転移などによって仲介されている。断点の端にあるヘアピン構造は、重合酵素によって仲介された末端充填段階のための準備として、末端の切除を促進しているらしい。(KF)
Structure of a NHEJ Polymerase-Mediated DNA Synaptic Complex
p. 456-459.

Ras相互作用の解明(Unraveling Ras Interactions)

低分子量のGTP分解酵素Rasを介しての活性化されたシグナル伝達には、しばしば癌細胞の異常な増殖が付随する。Stitesたちは数学的モデル化と実験を組み合わせて、Rasに影響を与えている因子のネットワークの調節性の性質について、またそれら因子がどうして癌細胞中で変化するのかについての新たな洞察を得ている(p.463)。彼らの結果は、なぜ、他でもない特定の活性化Rasが癌細胞中に発見されるかについての洞察を提供し、また正常な細胞を保ちつつ、腫瘍形成性変異型Rasを含むネットワークにおける過剰なシグナル伝達を優先的に妨害できる薬理学的戦略を示唆するものである。(KF)
Network Analysis of Oncogenic Ras Activation in Cancer
p. 463-467.

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