AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 19, 2007, Vol.315


ねじれを伴う細胞形態の形成(Cellular Morphogenesis with a Twist)

多細胞動物にとって、発生初期の大部分の期間を通じて細胞の形態形成は重要な意味を持っている。ショウジョウバエの原腸形成期、胚の腹側の上皮細胞は尖端狭窄の形態を示し、これが中胚葉の陥入を生じさせ腹側の溝を形成させる。Koelsch たち(p. 384)は、転写活性化因子であるTwistのターゲットタンパク質を同定した。この膜貫通タンパク質であるT48は、シグナル伝達因子のFog およびCtaと協力して、修飾因子 RhoGEF2を腹側細胞尖端側に局在化させ、細胞骨格の尖端狭窄と腹側溝形成を生じさせる。(Ej,hE)
Control of Drosophila Gastrulation by Apical Localization of Adherens Junctions and RhoGEF2 p. 384-386.

技術革新を何が可能にするか(Enabling Innovation)

開かれた技術革新において、多様な人間が柔軟な形態で協力し合い、その結果自分だけで達成するよりももっと効率的に商品やサービスを開発することができる。Dearing (p. 344)は、ヨーロッパの政府が有意義な革新技術として育成しようとしている政策に合致するものの中で、会社が革新技術と思うものを関連付けた。これによると、技術革新のための効果的エコシステムとして定義される事項には、市場成長の可能性、直接的で効果的な規制、熟練した技術資源などが含まれる。(Ej,hE)
Enabling Europe to Innovate p. 344-347.

アルミニウムのピラミッド(Aluminum Pyramid)

ホウ素の電子欠乏が巧妙な多面体の水素化物のクラスターで補償されるという傾向は、長い間、化学者の興味をそそり、電子構造に基づいた籠型の幾何構造を合理的に説明する一連の詳細な結合則を与えてきた。対照的に、アルミニウムは、ホウ素と同様の価電子構造を共有するにもかかわらず、対応する豊富な水素化物クラスターの化学的性質を示してはいない。しかしながら、Li たち (p.356) による光電子分光研究から、中性の Al4H6 クラスターは、実際のところ、非常に安定であることが示唆されている。密度汎関数理論ではアルミニウムの歪んだ四面体配置を支持している。この分子の安定性は、広範囲の (AlH)n 構造を合成できる可能性を示唆している。(Wt)
Unexpected Stability of Al4H6: A Borane Analog? p. 356-358.

ランダムな積層によって断熱性を達成(Random Stacking Beats the Heat)

熱伝導率の低い金属は熱障壁として有用であるばかりでなく、熱電エネルギー変換用としても有用である。Chiritescu たち(p.351,2006年12月14日、オンライン出版;および、Goodsonによる展望記事参照)は、グラファイトのように層状に積層し、層方向の結合力が弱いタングステンセレン化物を、交互に重ねたタングステンとセレンの薄膜から置換反応で成長させ、しかも、重なり状態をランダム化した。このように、層内では高い秩序をもち、垂直方向には無秩序化させたことで、層に垂直方向には極めて低い熱伝導度の金属を作った---室温において、0.05 watts/meter/kelvin、すなわち、単結晶WSe2のc軸方向の熱伝導率の1/30が達成された。イオン照射によって層構造を壊すと、この垂直方向超低熱伝導率は増大した。(Ej, hE, nk)
Ultralow Thermal Conductivity in Disordered, Layered WSe2 Crystals p. 351-353.

電界で変調される磁気(Electric-Field-Modulated Magnetism)

印加電界で物質の磁気特性を変調することが出来れば、低消費電力で高速なメモリデバイスが実現可能となる。このためには、超薄膜のような表面が材料物性に強い影響を持つ必要がある。Weisheitたち(p. 349)はドライのプロピレン炭酸塩電解液に浸された金属強磁性薄膜の三層接合の製作法について報告している。電界液と接触する2ナノメートル厚みの鉄パラジウム(FePd)薄膜層における強磁性体の磁化が、対電極白金(Pt)(作用極で発生するのと同じ電流値を系に返すための電極である)との間のポテンシャル障壁を越える電圧を印加することで大きく変調された。この磁気パラメータの変化は電圧に応答した不対電子の数の変化による。(hk,KU)
Electric Field-Induced Modification of Magnetism in Thin-Film Ferromagnets p. 349-351.

端点制御手段でナノフィルム製造(The Ends Enable the Means)

棒状のナノ粒子の端部は被覆層によって、その成長を抑え、あるいは凝集化することを防止している。このような層は等方性と推察され、これ以上ナノ粒子の先端を延ばそうとしたとき、その方向を選ばない。しかし、棒状の分子が球状の物体上に寄せ集められると、少なくとも2つの対極には欠陥領域ができるはずだ。これは人間の頭髪が渦巻状パターンを持っているのと同じだ。DeVries たち(p. 358)は、2つの異なるタイプの配位子(ligand)を金属ナノ粒子に選択的結合させるためにこの現象を活用し、極において反応を再開させる選択方位性結合法を開拓した。こうすることで、ナノ粒子を被覆膜などでなく、自立したフィルムとして成長させることが可能となった。(Ej,hE,nk)
Divalent Metal Nanoparticles p. 358-361.

水がアセノスフィア(Asthenosphere)層の限界を定めている(Water Marks Asthenosphere)

プレートテクトニクスでは、硬いプレートがより軟らかで海底下約60kmから220km、大陸では150km下に拡がっていると考えられている、アセノスフィア(Asthenosphere)の上を浮遊しながら移動していると考えられている。アセノスフィアの軟らかさは、おそらく含水熔融体のポケットによるものであろう。Mierdelたち(p.364;Bolfan-Casanovalによる展望記事参照)は、アセノスフィア層がマントルの鉱物中における水の溶解度が最小となるゾーンと一致する事を示す実験を行った。圧力、即ち深さと共に含アルミニウム斜方輝石中の水の溶解度が著しく低下したが、一方かんらん石における水の溶解度は連続的に増加している。アセノスフィア層の限界は、水が熔融体から出て、そして含水のケイ酸塩熔融体のポケットを形成する領域であろう。(KU,tk,og,nk)
Water Solubility in Aluminous Orthopyroxene and the Origin of Earth's Asthenosphere p. 364-368.

細胞骨格のモデル化(Modeling the Cytoskeleton)

細胞の力学的な構造体である細胞骨格は、非平衡の活動的な機械であり、この機構を用いて細胞移動といった仕事を行っている。Mizunoたち(p.370)は、アクチンフィラメント、クロスリンカー及びモータータンパク質からなる再構築されたモデル系において、モーターの活性がアクチンネットワークの力学的特質を制御している事を示している。アデノシン三リン酸がネットワークの強さを100倍近く増加させ、更に粘弾性の応答を変化させているらしい。定量的なモデルでは大規模なゲルの特性を分子力の発生へと結び付けている。(KU)
Nonequilibrium Mechanics of Active Cytoskeletal Networks p. 370-373.

ねじれながら横向きに(Sideways with a Twist)

ABC膜輸送体のファミリーは、ヌクレオチド-結合領域(NBD)で加水分解されるアデノシン三リン酸からのエネルギーを用いて、膜貫通領域(TMD)を通して細胞の内外に物質輸送を行う。Pinkettたち(p.373, 12月7日のオンライン出版)は、細菌の金属キレートのインポータの内側に向いている高次構造に関するNBD-TMDの構造を報告しており、他のABCのファミリーのメンバーであるビタミンBインポータの外側に向いている構造と比較した。TMDにおける膜貫通らせん体における相対的な配向の小さな変化により、周辺質から細胞質への中心の腔の入りやすさが切り換わる。更に、このような変化がNBDにおける捩れと並進の構造変化と関連しており、そして恐らくはこの構造変化によってもたらされている。(KU)
An Inward-Facing Conformation of a Putative Metal-Chelate-Type ABC Transporter p. 373-377.

スイッチを作ったり破壊したり(Making (and Breaking) the Switch)

B細胞は、高度に可変性のある抗原結合性フロントエンドと機能的リアエンドから選ばれた1つとを、クラス・スイッチ組み換えを介して組み合わせることで、さまざまな抗原のクラスを産生する。このクラス・スイッチ組み換えでは、体細胞性の遺伝子再編成によって、定常部セグメントに隣接するイントロンのスイッチ領域配列が集められる。シチジン脱アミノ酵素AIDによって二重鎖切断がなされ、それに引き続く末端結合(end joining)の後に、介在性DNAが除去され、上流の可変性配列が、選択された定常部パートナーと結びつく。AIDとスイッチ領域それ自身がこのプロセスにおいて果たす役割をより詳細に見ることで、Zarrinたちは、そのスイッチ配列を、独立の二重鎖切断の産生を行う酵母からのエンドヌクレアーゼで置換した(p. 377、12月14日にオンライン出版; またChaudhuriとJasinによる展望記事参照のこと)。驚いたことに、クラス・スイッチ組み換えは、測定可能な頻度で、AIDに依存することなく、生じたのである。(KF,Ej)
Antibody Class Switching Mediated by Yeast Endonuclease-Generated DNA Breaks p. 377-381.

踊れ、カメよ、踊れ(Dance, Turtle, Dance)

肢の運動の根底にある基礎的な脊髄のネットワーク機構は、いまだ良く理解されているわけではない。成体のカメの脊髄標本を調べることで、Bergたちは、運動性パターンの産生に際して、脊髄のネットワークがいかに作用しているかを記述している(p. 390; また表紙とKristanによる展望記事参照のこと)。シナプスの興奮と抑制のバランスの取れた増加が、脊髄の運動ニューロンで作用することで、確率論的性質をもつ活動電位のリズム性のバーストが生み出される。この活性は、反相的な抑制と興奮が振動性脊髄ネットワークにおけるリズム性の活性を生むとする古典的見方と、まったく対照的なものである。(KF)
Balanced Inhibition and Excitation Drive Spike Activity in Spinal Half-Centers p. 390-393.

夢想を信じる人(Daydream Believer)

毎日の生活における夢想の重要性にもかかわらず、その神経認知的基盤についてはほとんど知られていない。脳はいかにして、外部からの刺激とは独立にイメージ、音、考え、感情を生み出して自発的な思考を行うのだろう?人をとりとめのない考えにさまよわせ勝ちにすることが知られているある認識行動を被験者にさせ、同時に得られた機能的磁気共鳴画像信号を分析して、Masonたちは、現実的な思考と目標に向けての行動の期間の間では、心は皮質領の神経網において緊張性の活性を示す、ということを明らかにしている(p. 393)。このいわゆるデフォルト・ネットワークが、刺激に依存しない思考と自覚される心の放浪の体験を生むのに寄与しているのである。(KF,nk)
Wandering Minds: The Default Network and Stimulus-Independent Thought p. 393-395.

有機ガラスの安定化(Stabilizing Organic Glasses)

ケイ酸塩のような強いガラス材料と異なり、多くの有機分子は液相の急冷とか、超低温に冷やされた基板への気相成長といった特殊な条件化でのみガラスが作られる。Swallenたち(p.353, 12月7日のオンライン出版)は、通常のガラス転移温度(Tg)下の50ケルビンに冷却(Tg−50K)された基板上での制御された気相成長により、結果として得られた固体ガラスのTgの増加をもたらすことを示している;1,3-ビス-(1-ナフチル)-5-(2-ナフチル)ベンゼンの場合Tgは347ケルビンから363ケルビンへと上昇した。著者たちは、このTgの増加がより高い基板温度でのより大きな分子運動によるとしている。この分子運動により、微結晶を作ることなくより安定な高次構造を作るのに役立っている。(KU)
Organic Glasses with Exceptional Thermodynamic and Kinetic Stability p. 353-356.

海面上昇の予測(Predicting Sea-Level Rise)

多くの様々なプロセスが海面上昇に関与しているが、これらのプロセスのごく僅かしか良く理解されておらず、正確なプロセスに基づいた予測を可能にするモデル作成が困難である。Rahmstort(p.368、12月14日のオンライン出版)は半経験的手法を用いて、上記の決定的な理解のギャップを回避している。そこでは、20世紀の間の地球規模での平均の海洋表面温度と海面変化の割合に関する観測された関係を用いて、21世紀を通して海面がどのように変化するかを予測している。この手法において、「気候変動に関する政府間パネル」からのシナリオを用いて、彼は2100年までに1990年のレベルを0.5〜1.4mの範囲で海面上昇をもたらすと計算している。これが正しいとすると、今日の海面変化の予測における不確かさは過小評価されていることになる。(KU)
A Semi-Empirical Approach to Projecting Future Sea-Level Rise p. 368-370.

濃度に制御される遊離(Concentration-Controlled Release)

大部分の陸生植物にとって、落葉落枝の分解が、窒素固定の主要な源であるが、大規模な、長期にわたる分解と窒素遊離のパターンは良く理解されていない。10年にわたる世界的規模の実験で得られたデータを用いて、Partonたちは、落葉からの窒素遊離が主に、乾燥した草地以外の場所では、気候に関わらず、分解する植物組織の窒素の初期濃度と減衰していく残りの物質の質量の関数であることを明らかにした(p. 361)。この分析は、分解する側の基礎的な生理的制約が、分解が生物学的に媒介される気候や土壌の条件に関わらず、窒素遊離の比率を制御しているということを示唆するものである。(KF)
Global-Scale Similarities in Nitrogen Release Patterns During Long-Term Decomposition p. 361-364.

生物多様性に対する農業の影響の評価(Assessing Agriculture's Impact on Biodiversity)

多くの生態系において、農業こそが生物多様性の損失の主要な要因であり、2050年までに予測される農業生産の倍増は、生物多様性とそれに付随する生態系の機能に深刻な影響を与える。持続可能な発展には、生物多様性の保存と増加する農業生産の両立が必要である。Butlerたちは、英国の農用地の鳥をモデル系として用いて、生物多様性と生態系の機能に対する農業変化のもたらす影響を予測するリスク評価の枠組みを提示している(p. 381; またBentonによる展望記事参照のこと)。この一般化可能な枠組みは、現状の保存状態と集団の成長速度の双方を正確に予測できた。(KF)
Farmland Biodiversity and the Footprint of Agriculture p. 381-384.

レドックス反応活性なシステインを見つける(Finding Redox Active Cysteines)

システイン残基は広範囲のタンパク質に見出されていて、そこで多くの機能に役立っている。特定の機能を同定するには骨の折れる個々の特徴づけが必要である。Fomenkoたちは、配列データベース中で孤立したセレノシステイン-システイン対を検索することによって、どのシステインがレドックス反応に作用するかを同定できるアルゴリズムを提示し、実験的に検証している(p. 387)。この方法は、酸化還元酵素ファミリー同定のためのメタゲノム解析においても助けとなるに違いない。(KF)
High-Throughput Identification of Catalytic Redox-Active Cysteine Residues p. 387-389.

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