AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 17, 2006, Vol.311


石像建築と同時に伐採が始まる(Starting Statues Sooner)

1722年にオランダの船員がイースター島を訪れた時、彼らは、巨人石像が目立つ荒廃した景観の土地に住んでいるポリネシア人の飢えた住民に出会った。これまで一般には、紀元約400年から1000年の間にかけて入植者がその島に移住し、1200年頃に石像を立て、そしてかつては豊かだった森林を伐採したと考えられてきた。Hunt とLipo (p. 1603)は、イースター島の最近の発掘からの放射性炭素年代測定を行い、他の場所からの以前の年代推定を分析した。彼らの測定した年代と分析から、入植は石像を建造した頃辺りに始まったことを示しており、もしそうであれば、ポリネシア人の入植後直ぐに、取り返しのつかない森林伐採が始まったのかもしれない。(TO,nk)
Late Colonization of Easter Island p. 1603-1606.

人工筋肉の動的効率(Mobility for Artificial Muscles)

電気によって駆動されるモーターはロボットや義肢における人工的に装備される筋肉の機能を備えてはいるが、蓄電池を利用する必要がある場合には、蓄電が完了するまでのダウンタイムが見込まれる。Ebron たち(p. 1580; Maddenによる展望記事参照) は、これに対して燃料電池を利用した2つの異なる方法を実演した。その第1は、カーボンナノチューブを含む触媒が水素燃料電池システムにおける筋肉や、燃料電池電極や、スーパーキャパシター電極の役目をするものである。もう一つの水素やメタノールやギ酸の燃料を使うアプローチにおいては、形状記憶合金が使われる。このような人工筋肉ではアクチュエーターの伸び範囲や動きやエネルギー密度の点で自然の骨格筋と同程度に達しており、しかも全応力としては100倍以上を出力する。(Ej,hE,nk)
Fuel-Powered Artificial Muscles p. 1580-1583.
MATERIALS SCIENCE: Artificial Muscle Begins to Breathe p. 1559-1560.

散発性のスポーク(Sporadic Spokes)

土星のメインBリング中の暗い放射状の縞、すなわち、スポークは最初Voyger 宇宙探査機で、その後Hubble 宇宙望遠鏡により見出された。1998年に地球から見て土星のリングが真横に向きはじめた頃にスポークの模様は弱くかすかになっていった。予想に反して、Cassini 宇宙探査機が2004年にそのリングの近くを飛行したときでも消失したままであったが、2005年の 9月かすかではあるが再び現れた。この後者の発見は、スポーク構造が現れたり消えたりするという特徴を有し、その出現がリングの太陽に対する角度に依存していることを示唆している。Mitchell たち(p.1587) はCassini のデータを用いて、帯電したダスト粒子が静電力により、リング平面の上のプラズマに向けて押し上げられているという、スポークの形成過程をモデル化している。彼らは、スポークの見えやすさが急速に変化し、リングが太陽に向くと突然に消失してしまうことを見出した。また、そのスポークが明確に現れそうな時期を予測している。(Wt,nk,Ej)
Saturn's Spokes: Lost and Found p. 1587-1589.

振れの検出(Deflection Detection)

生体分子を高感度に検出する有望なアプローチの一つは、対象分子と結合する受容体あるいは他の分子で修飾された微細構造のカンチレバーを利用することである。 結合によってカンチレバーを偏位させる表面応力が生成される。しかしながら、この偏位は小さく(数十nmレベル)、また今まで用いられた光学、静電容量、あるいは圧電を使う方法はいろいろな制約を持っている。表面応力で偏位するカンチレバー中に電界効果型トランジスタを形成できることをShekhawatたち(p. 1592:2月2日のオンライン出版)は示している。5nm程度の偏位の変化が検知され、また、ビオチンと抗体の検出ができる。(hk)
MOSFET-Embedded Microcantilevers for Measuring Deflection in Biomolecular Sensors p. 1592-1595.

狭い空間内で構築する(Construction in Tight Spaces)

半導体の主要な作成法は化学蒸着(CVD)であるが、この方法では高いアスペクト比を持つ半導体や長い金属ワイヤーを、作ることには適していない。Sazioたち(p.1583)はCVDプロセスを改良して、光導波路内に機能性材料の集積化を可能とし、かなりの高圧CVDプロセスにも対応できる。特に、側面長数ナノメートル以下の金属と半導体のワイヤーを微細構造化した光ファイバー内に作ることが出来る。(KU,Ej)
Microstructured Optical Fibers as High-Pressure Microfluidic Reactors p. 1583-1586.

キャビティ・リングダウン分光法(The Ringdown Cycles)

化学分析における分光法の利用は、往々にしてバンド幅(記録されるスペクトル領域の広さ)、分解能及びデータ取り込み速度の間でトレードオフの関係がある。例えば、キャビティ・リングダウン分光法(cavity-ringdown spectroscopy(CRDS))において、分子による吸収によって光キャビティ内で前後に跳ね返る光は大きく減衰し、その光吸収曲線は極端に高い検出下限を与える。しかしながら、それに付随する周波数領域は限定される。Thorpeたち(p.1595)は、光周波数コムを精緻なる光キャビティと結びつける事で広帯域のCRDSを作り、多数のリングダウンモードに関する減衰を同時に調べた。彼らは、水やアンモニアといった分子に関して可視光と近赤外領域における100nmの波長範囲に渡るスペクトルデータを得た。(KU)
Broadband Cavity Ringdown Spectroscopy for Sensitive and Rapid Molecular Detection p. 1595-1599.

タンパク質を一個ずつ見る(Observing Proteins One by One)

単一のメッセンジャーRNA(mRNA)分子の検出は、生きた細胞内の遺伝子発現に関するすばらしい洞察をもたらす。Yuたち(p.1600)は、生きた大腸菌細胞内の単一のタンパク質分子を画像化する方法を開発した。彼らは、膜ターゲットバ—ジョンの黄色蛍光タンパク質(YFP)を抑制条件下で発現させ、YFP分子が合成される際の個々の膜-局在化YFP分子を検出した。YFPタンパク質分子はバースト状に発現し、個々のバーストは確率的に転写されるmRNA分子から始まっている。この技術は細胞内に数少ない量で存在する多くのタンパク質の動的な研究を可能とする。(KU,NF)
Probing Gene Expression in Live Cells, One Protein Molecule at a Time p. 1600-1603.

鳥インフルエンザのカタログ(A Catalog of Avian Flu)

多数の野生の鳥から採取した4339個のウイルス遺伝子に基づいて、鳥インフルエンザ単離株の大規模な配列解析を行ったところ、ヘマグルチニン配列やノイラミニダーゼ配列の可変性、再集合の頻度、そしてウイルス内のサブユニットの適合性の制限など、インフルエンザ生物学において長く知られていた事実が確認された。Obenauerたち(p. 1576、1月26日にオンライン出版;Krugによる展望記事を参照)は、一緒に行動する遺伝子と遺伝子生成物の特定の組み合わせを同定する方法を使用する彼らが"プロテオタイピング"と呼ぶ技術によりこのウイルスの特徴を明らかにする方法を開発した。彼らはまた、毒性と緊密に相関していると思われる以前は見逃されていたモチーフを、少なくともトリ起源の系統において同定した。(NF)
Large-Scale Sequence Analysis of Avian Influenza Isolates p. 1576-1580.
VIROLOGY: Clues to the Virulence of H5N1 Viruses in Humans p. 1562-1563.

一次視覚野における高次脳機能(Higher Brain Functions in Primary Visual Cortex)

古典的な教科書的視点に従えば、初期段階の視覚野は生まれつき備わっている特徴-検知システムとして動作し、非視覚的特徴の外部刺激により殆ど影響を受けない。しかしながら、ShulerとBear(p. 1606)は、視覚識別トレーニングの初期段階と後期段階において、同一の刺激を提示しているあいだ、一次視覚野(エリアV1)におけるニューロンが非常に異なった反応パターンを有することを示した。彼らは、エリアV1ニューロンの反応と報酬のタイミングとの間に関連性があることを見いだした。動物のどちらかの目を刺激した後に、チューブ上で特定回数舐めた場合に、水を与えるようにトレーニングした。報酬を与えるタイミングは右目と左目で異なっており、一次視覚野におけるニューロンは、トレーニングを受けた動物においては報酬が与えられるまでの時間を予測したが、トレーニングを受けていない動物においては予測しなかった。これは、脳の高次機能が条件反応したことになる。(NF、Ej)
Reward Timing in the Primary Visual Cortex p. 1606-1609.

神経線維の産生系列を管理する(Managing the Neural Production Line)

発生中の脳での神経前躯細胞は、α E-カテニンを含む接着結合によって、近傍の細胞と相互作用している。Lien たち(p. 1609; DiCicco-Bloomによる展望記事参照) は、マウス胚段階の脳発生中のα E-カテニン遺伝子を条件付ノックアウトした場合、マウスが誕生したとき、正常体の2倍の細胞数をもっていた。接着結合によって覆われた細胞表面領域は細胞の密度を決定し、また細胞増殖を制御して、十分ではあるが、過剰な脳細胞が生成されないようにする。(Ej,hE)
E-Catenin Controls Cerebral Cortical Size by Regulating the Hedgehog Signaling Pathway p. 1609-1612.
NEUROSCIENCE: Enhanced: Neuron, Know Thy Neighbor p. 1560-1562.

トカゲの眼(Eye of Lizard)

トカゲの頭頂の眼は明暗には反応するが、画像は形成しない。Suたちは、青色光と緑色光が、視覚的な眼におけるのとは違うオプシンを介して作用し、キーとなるサイクリックGMP(cGMP)・ ホスホジエステラーゼに拮抗性信号を送ることを示している(p. 1617)。引き続いて生じるcGMP濃度の変化によってチャネルの開き方が調節されて、頭頂の光受容器細胞を脱分極させたり過分極させたりする。オプシンと関与するシグナル分子を比較することで、頭頂の眼が視覚的な眼から分岐してきた進化の経路が示唆される。(KF)
Parietal-Eye Phototransduction Components and Their Potential Evolutionary Implications p. 1617-1621.

早老症への有望な治療法は?(Promising Therapy for Progeria?)

早老症とは、骨粗鬆症や血管病、頭髪が失われるなど、高齢者に典型的に見られる徴候が子ども時代に始まる点で特徴付けられる稀な遺伝的障害のグループである。いくつかの早老症障害は、細胞核の構造上の完全性の維持を助けるタンパク質、プレラミンAの機能を変化させる変異によって引き起こされる。早老症の患者から得られた細胞は、核の構築において劇的な変化を示すが、これはプレラミンAがファルネシル脂質修飾のせいで核膜に異常に付着したままになるからである。早老症のマウス・モデルにおいて、Fongたちはこのたび、タンパク質のファルネシル化を抑制し、すでに潜在的な抗癌活性があるとして臨床向けに開発されていた薬剤(ファルネシル化抑制薬すなわちFTI)が、早老症の症状を改善するということを明らかにしている(p. 1621, 2月16日にオンライン出版; 2月17日のTravisによるニュース記事参照のこと)。FTIで処置されたマウスはより強い握力があり、肋骨骨折を引き起こしにくく、短期間の研究では、無処置のマウスより僅かながら長生きする。(KF)
A Protein Farnesyltransferase Inhibitor Ameliorates Disease in a Mouse Model of Progeria p. 1621-1623.

波の衝突を観る(Watching Waves Collide)

原子の波動的な挙動は量子力学が提示する中では、最も直観的に把握しにくい性質である。ヨウ素(I2)のような2原子分子はバネで結合された2個のボールとして描写され、その振動には実際に核の波の重なりが含まれている。Katsukiたち(p.1589)は二つの超高速のパルスレーザ励起を用いて、ヨウ素の振動励起に由来する干渉パターンを可視化した。最初のパルスにより電子的に励起された振動状態の重なりが生じ、第2のパルスにより周波数と時間において可変的に変調され、核の波が衝突し干渉する際に選択的に蛍光を放射する。このスペクトルでは、波のピークと谷がサブオングストロームの分解能で解像され、理論計算と良く一致する。(KU,nk)
Visualizing Picometric Quantum Ripples of Ultrafast Wave-Packet Interference p. 1589-1592.

過去の経験が鍵(Past Experience Is Key)

動物の意思決定のモデルでは、選択が個々の選択のもたらす適合結果(fitness consequences)に基づくことを仮定している。次に、適合利得(Fitness gains)は、オプションの本質的な特性と選択するときの主体の状態の両方に依存している。しかしながら、ヒトや他の脊椎動物の最近の調査から、選択の好み(preferences)は、選択する時期よりも学習した時期における主体の状態をより密接に反映していることが示された。Pompilioたち(p.1613)は、ある無脊椎動物においても類似な挙動を示している。エジプトツチイナゴ(desert locust)では、報酬源を伴う知識経験をした、状態-依存性の利得(state-dependent benefit)が後の選択に影響を与えていた。この発見は、過去の利益よりもむしろ現在の利益に依存するという生物学や経済学における選択の規範的な法則や、状態-依存性の利得よりもむしろ絶対的な報酬の大きさを用いる強化学習に関する心理学的モデルとは対照をなしている。(TO)
State-Dependent Learned Valuation Drives Choice in an Invertebrate p. 1613-1615.

適者生存?(Survival of the Fittest?)

選択を経験する無性集団、たとえば宿主範囲を切り換えている癌細胞やウイルスはクローン干渉を経験するが、そこでは多数の有利な変異が競合系列を創造することになる。Hegrenessたちは、数値シミュレーションと混合されマーク付けされた細菌の集団の分析を用いて、根底にある個々の変異体細胞の分布に関わらず、集団の進化は、すべての有利な変異が適応においては同等の有利さを与えられるとする同等性モデルによって近似できることを示している(p. 1615)。この同等性原理は、そうした集団における順応に関する他の目安、たとえば多形性の程度や変異体系列の平均適応度などの予想にも用いることができる。(KF)
An Equivalence Principle for the Incorporation of Favorable Mutations in Asexual Populations p. 1615-1617.

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