AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 26, 2003, Vol.301


金属のより剛直な見方(A Harder Look at Metals)

Lomer lock と呼ばれる、転位運動に対する特別なタイプの障壁は、面心立法(fcc) 金属に対する主要な歪み硬化のメカニズムと考えられてきた。複数の長さスケール によるシミュレーションを用いて、Madec たち (p.1879; Gumbsch による展望記事 を参照のこと) は、可動性の転位の切片と他のコリニアー(同一直線上の転位、 collinear)な転位との消滅を含むような、以前は無視されてきたメカニズムが、よ り頻繁に発生していること、そしてそれを乗り越えるにはより大きな応力が必要で あるということを提案している。(Wt)
MATERIALS SCIENCE:
Modeling Strain Hardening the Hard Way

   Peter Gumbsch
p. 1857-1858.
The Role of Collinear Interaction in Dislocation-Induced Hardening
   R. Madec, B. Devincre, L. Kubin, T. Hoc, and D. Rodney
p. 1879-1882.

少ない配列情報によるイヌの遺伝子解明に向けて(A Low-Coverage Approach to the Dog Genome)

現在までに、ヒト、マウス、ラットのゲノム配列が決定されている。多くの真核生 物のゲノムについて高精度のドラフトを集めるにはかなりの経費がかかることか ら、限られた配列資源を利用して、もっと多くのゲノムを低いカバー率で決定する ことが、やるだけの価値のあることなのかが問われてきた。Kirkness たち(p. 1898; O'Brien とMurphyによる展望記事も参照)は、1.5X配列カバー率のイヌのゲ ノムを作り(マウスの場合は8X)、入手可能な良く管理されたゲノムを参照データ として、エクソンについての情報を生成し、配列要素の比較用アノテーションとシ ンテニー情報を比較し、その可能性をテストした。その結果、イヌとヒトのゲノム は、マウスとイヌ、あるいは、マウスとヒト、のどちらよりも類似度が数段高いこ とがわかった。もっともイヌの系統は共通祖先の最初から分かれているように見え る。(Ej,hE)
GENOMICS:
A Dog's Breakfast?

   Stephen J. O'Brien and William J. Murphy
p. 1854-1855.
The Dog Genome: Survey Sequencing and Comparative Analysis
   Ewen F. Kirkness, Vineet Bafna, Aaron L. Halpern, Samuel Levy, Karin Remington, Douglas B. Rusch, Arthur L. Delcher, Mihai Pop, Wei Wang, Claire M. Fraser, and J. Craig Venter
p. 1898-1903.

DNAを利用する(Exploiting DNA)

DNAが本来持つ自己構築能力を利用して、表面へのパターン形成とタンパク質分析に 用いられてきた。Yan たち (p. 1882) は、4つの腕を持つDNAタイルを作り、これ を互いに結合させて超構造を形成した。そして、このタイルの中心にビオチンを置 くことによって、ストレプトアビジン配列の鋳型とした。このDNA超構造は高伝導度 の銀のナノワイヤへと金属化することもできる。抗体認識の感度と、免疫ポリメ ラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイ中のPCRによるスケールアップを組み合わせること で、2つの抗体認識部位を持つタンパク質が検出された。このPCRアッセイ中では抗 体はDNAマーカーと結合している。このアッセイの検出限度と速度は、1つの抗体に 結合できるDNAの量と、初期の結合段階での不均一性によって制限される傾向があ る。 Nam たち (p. 1884; およびServiceによるニュース記事参照) は、いくつか の抗体とたくさんのDNAタグを金のナノ粒子に付着させることが可能で、その結果タ ギング感度が増加し、表面における付着化学が磁性ラテックス粒子上で実現できる ことを示している。標的DNAは認識複合体から完全分離することができる。また、あ る場合には十分なDNAが存在するために、DNA検出以前にPCRステップを行わなくても よい。著者たちはこの手法を応用して、前立腺特異性抗原の検出に利用した。 (Ej,hE)
MATERIALS SCIENCE:
Tiny Particles Flag Scarce Proteins

   Robert F. Service
p. 1827.
Nanoparticle-Based Bio-Bar Codes for the Ultrasensitive Detection of Proteins
   Jwa-Min Nam, C. Shad Thaxton, and Chad A. Mirkin
p. 1884-1886.
DNA-Templated Self-Assembly of Protein Arrays and Highly Conductive Nanowires
   Hao Yan, Sung Ha Park, Gleb Finkelstein, John H. Reif, and Thomas H. LaBean
p. 1882-1884.

雲と宇宙線(Clouds and Cosmic Rays)

上部対流圏と下部成層圏における粒子の核形成は、雲を形成する一連の事象の中で も重要なるステップであるが、このプロセスに寄与するメカニズムは殆んど理解さ れていない。粒子の核形成への可能な方法の一つは、銀河系宇宙線による気体粒子 のイオン化であり、その後液滴をつくる種として作用する。Leeたち(p. 1886)は、 上部対流圏と下部成層圏において新たな粒子の核形成に関する観測と、数値モデル に基づく計算結果とを報告している。観測と計算の両者は粒子の量と大きさの分布 がイオン−誘発核形成タイプによる生成物と一致していることを示している。それ 故に、銀河系宇宙線はエアロゾルの粒子形成に影響を及ぼし、ひるがえっては地球 の放射エネルギーバランスと気候に影響をもたらすものである。(KU,Nk)
Particle Formation by Ion Nucleation in the Upper Troposphere and Lower Stratosphere
   S.-H. Lee, J. M. Reeves, J. C. Wilson, D. E. Hunton, A. A. Viggiano, T. M. Miller, J. O. Ballenthin, and L. R. Lait
p. 1886-1889.

銀の足跡(Silver Tracks)

世界最大の銀の鉱床や鉱山の幾つかは西ボリビアに位置している。この資源をイン カの人々は明白に認識しており、西暦1400年ごろはインカの人が、そしてその後は スペイン人によってこの地域が大規模に採掘された。採掘と精錬により侵食と金属 の流出が加速された。AbbottとWolfe(p. 1893)はボリビアのCerro Rico de Potosi での鉱床近くの湖から沈殿層中の金属堆積物に関する長期の記録を再構築した。湖 からの採取サンプルにおける多様な金属元素の比は金属が処理されていたことの証 拠を与えるものであり、精錬により銀を分離していたことを暗示している。恐ら く、西暦1000年には既に採掘が始まっていたものと思われる。(KU,Nk)    
Intensive Pre-Incan Metallurgy Recorded by Lake Sediments from the Bolivian Andes
   Mark B. Abbott and Alexander P. Wolfe
p. 1893-1895.

組み合わせ可能なスイッチ(Modular Switches)

多くのたんぱく質は、複数の入力を統合し下流の出力を制御する複雑なスイッチ のような働きをする。このようなスイッチ機能は、モジュラードメインの組み換 えで達成されると考えられていた。Dueberたちは(p. 1904)、ウイスコット-アル ドリッチ症候群たんぱく質のアクチン-重合活性を再プログラムして、入力領域を 非相同領域と置き換えることで不自然な入力に対して反応することを示して、こ の理論を実証した。このプロセスによるスイッチ多様性の達成が情報伝達回路の 進化の基礎をなすものであろう。(Na)
Reprogramming Control of an Allosteric Signaling Switch Through Modular Recombination
   John E. Dueber, Brian J. Yeh, Kayam Chak, and Wendell A. Lim
p. 1904-1908.

炎症信号伝達を回避する(Bypassing Inflammatory Signaling)

腫瘍壊死因子(TNF: Tumor Necrosis Factor)は、その受容体と結合して、炎症反 応を引き起こす。TNFの活性化によって関節リウマチのような病気が生じると考えら れており、TNF信号伝達を抑制させるような治療法が求められている。Steedたちは (p. 1895)TNF信号伝達を防ぐ手法を提案している。彼等はドミナントネガティブ TNF変異蛋白質の構造を設計し、天然のTNFとヘテロトリマー(異種3量体)を形成さ せTNF受容体との結合を妨げることに成功した。さらに、動物実験によりTNFが関与 する病気をin vivoで軽減する有効な手法であることが確認された。(NK)
Inactivation of TNF Signaling by Rationally Designed Dominant-Negative TNF Variants
   Paul M. Steed, Malú G. Tansey, Jonathan Zalevsky, Eugene A. Zhukovsky, John R. Desjarlais, David E. Szymkowski, Christina Abbott, David Carmichael, Cheryl Chan, Lisa Cherry, Peter Cheung, Arthur J. Chirino, Hyo H. Chung, Stephen K. Doberstein, Araz Eivazi, Anton V. Filikov, Sarah X. Gao, René S. Hubert, Marian Hwang, Linus Hyun, Sandhya Kashi, Alice Kim, Esther Kim, James Kung, Sabrina P. Martinez, Umesh S. Muchhal, Duc-Hanh T. Nguyen, Christopher O'Brien, Donald O'Keefe, Karen Singer, Omid Vafa, Jost Vielmetter, Sean C. Yoder, and Bassil I. Dahiyat
p. 1895-1898.

年齢による遺伝子危機(Genetic Perils of Aging)

ゲノム不安定性は、癌およびその他の加齢関連性疾患の発症において中心的な役割 を果たしている。加齢と共に増加しつつあるゲノム不安定性の症状発現の一つ--お よび腫瘍における一般的な遺伝的変化--は、ヘテロ接合性の喪失(LOH)である。 LOHには、遺伝子の正常な対立遺伝子の変異による喪失が関与しており、そしてそれ により有害性の対立遺伝子に対するヘミ接合性またはホモ接合性のいずれかが細胞 に対して付与される。酵母は、高等生物と同様に、加齢と共にゲノム不安定性が増 大するのだろうか?McMurrayとGottschling(p. 1908; Sinclairによる展望記事を 参照)は、発芽酵母の"母細胞"とその"娘細胞"の両方における不安定性に関して調 べる代わりに、LOHをモニターすることによりこの疑問に取り組んだ。娘細胞におけ るゲノム不安定性は、母細胞の加齢と共に増加し、そして母細胞のゲノム完全性 は、娘細胞とは対照的に維持された。ゲノム不安定性の発生は、母細胞のライフス パンにおける変化に依存した。(NF)
CELL BIOLOGY:
An Age of Instability

   David A. Sinclair
p. 1859-1860.
An Age-Induced Switch to a Hyper-Recombinational State
   Michael A. McMurray and Daniel E. Gottschling
p. 1908-1911.

エクジソンの最初の役目(A Very Early Role for Ecdysone)

ショウジョウバエ(Drosophila)のライフサイクルの間、ステロイドホルモンであ るエクジソンが、変態に関連する細胞形状変化と細胞移動を制御することはよく知 られている。しかしながら、胚におけるエクジソンのパルスの役割はあまり知られ ていない。これに対して、エクジソン受容体は、胚外羊漿膜において活性化され、 この組織が初期胚において活性なエクジソステロイドの供給源として関与してい る。エクジソンのシグナル伝達は、胚条収縮および頭部陥入に関与しており、それ により一齢幼虫が形成される。KozlovaとThummel(p. 1911)は、このホルモンが、 初期幼生のボディープランを確立するために、ライフサイクルのより初期の時点で も作用することを報告した。このようなホルモンのより初期のパルスは、脊椎動物 胎盤に対応するものと推定される羊漿膜から生じるもののようであり、このことか ら発生の間のホルモンの主要な供給源として、2つの組織が類似するものであること が示唆される。(NF)
Essential Roles for Ecdysone Signaling During Drosophila Mid-Embryonic Development
   Tatiana Kozlova and Carl S. Thummel
p. 1911-1914.

しぶしぶ開放する(Letting Go Only Reluctantly)

バクテリオファージ?は、二本鎖のDNA基質のひとつの鎖を消化するエキソヌクレ アーゼをコードする。3つの酵素単量体がトロイダル状三量体を形成し、その三量体 はDNAを開放する前に数千ヌクレオチドを消化できる。外部エネルギーは不要なの で、リン酸ジエステル結合の加水分解は、長距離(0.1?ochm程度)にわたって酵素の 運動に力を与えるために十分であるに違いない。単一分子技術を用い、Perkinsたち (p 1914)は、この酵素の動力学を研究し、個々の分子の速度は1秒に約10から15ヌク レオチド程度で、その間に様々な持続時間と様々な位置で休止することを発見し た。M13ウイルスDNA基質における最強の休止部位は、GGCGA配列で起こったので、? ゲノムの左端の組換え頻度が右端より少ないことを説明できるかもしれない。(An)
Sequence-Dependent Pausing of Single Lambda Exonuclease Molecules
   Thomas T. Perkins, Ravindra V. Dalal, Paul G. Mitsis, and Steven M. Block
p. 1914-1918.

サルモネラがアクチンをステープルで繋げる方法(How Salmonella Staples Actin)

サルモネラ浸潤タンパク質A(SipA)は、サルモネラが哺乳類の宿主細胞を浸潤する時 にアクチン細胞骨格の再構築に役割をはたす重大な病原性決定要因である。Lilicた ち(p 1918)は、SipAの結晶構造と電子顕微鏡的分析に基づき、SipA活性の機構的な モデルを記述している。病原性因子は、"分子ステープル"と呼ぶ機構を用い、アク チンに結合し重合するようである。SipAタンパク質は、球状領域を形成するが、2つ の非球状"腕"は、アクチンフィラメント内の個別の鎖におけるアクチンサブユニッ トを繋げることによってフィラメントを安定化する。(An)
Salmonella SipA Polymerizes Actin by Stapling Filaments with Nonglobular Protein Arms
   Mirjana Lilic, Vitold E. Galkin, Albina Orlova, Margaret S. VanLoock, Edward H. Egelman, and C. Erec Stebbins
p. 1918-1921.

表面的免疫(Immunity That Runs Skin Deep)

皮膚への感染に対する免疫は、皮膚表皮中に常に存在する特化した樹状細胞(DC) であるランゲルハンス細胞が司っているものだと長いこと考えられてきた。単純 疱疹ウイルス(HSV)感染したマウスモデルを用いて、Allanたちはこのたび、そう した従来受け入れられていた見方に挑戦している(p. 1925; またSerbinaとPamer による展望記事参照のこと)。ランゲルハンス細胞は、表皮の樹状細胞であって、 外来抗原に出会うと、表皮からリンパ節に移動して、そこでT細胞を刺激すると考 えられていた。しかし、これらの細胞は、HSVの皮膚感染以後にHSV-特異的T細胞 を刺激する役目を果たす高いCD8 α+樹状細胞とは別のものであった。 こうした予想外の結果は、ランゲルハンス細胞に対して、皮膚の免疫に関わる新 しいがいまだに同定されていない役割を割り振るものである。(KF)
IMMUNOLOGY:
Giving Credit Where Credit Is Due

   Natalya V. Serbina and Eric G. Pamer
p. 1856-1857.
Epidermal Viral Immunity Induced by CD8 alpha + Dendritic Cells But Not by Langerhans Cells
   Rhys S. Allan, Chris M. Smith, Gabrielle T. Belz, Allison L. van Lint, Linda M. Wakim, William R. Heath, and Francis R. Carbone
p. 1925-1928.

太陽と気候の関係(Solar Climate Connections)

完新世の気候における太陽の強制力(solar forcing)の役割、そして異なる地域間の 気候の関係をより良く理解することは、詳細な気候を再構成し、これを比較するこ とにより可能となる。Huたち(p.1890)は、アラスカ沿岸にある湖沼堆積物の分析か ら北太平洋地域における気候変動の高精度な記録を作成した。彼らは、そこでの水 循環(hydrological cycle)や生態系における周期的な変動は太陽活動のサイクルと 類似しており、そして北大西洋の気候とも類似していることを示した。日照の小さ な変動が2つの離れた地点で気候サイクルを決定する重要な役割を演じてきたという この証拠は、現代の測定機器による記録の時間スケールに比べて長い気候サイクル の役割を強調している。そしてまた、この証拠は、これらのサイクルをより将来の 気候変動を正確に予測するための気候モデルに組み込むことが出来ることを示唆し ている。(TO)
Cyclic Variation and Solar Forcing of Holocene Climate in the Alaskan Subarctic
   Feng Sheng Hu, Darrell Kaufman, Sumiko Yoneji, David Nelson, Aldo Shemesh, Yongsong Huang, Jian Tian, Gerard Bond, Benjamin Clegg, and Thomas Brown
p. 1890-1893.

干渉の促進(Promoting Interference)

RNA干渉においては、異常な(二本鎖)RNAが、まず最初に、RNAse-III酵素Dicerに よって21ないし25ヌクレオチド長の断片に切り分けられる。こうしてできた小さな RNAは、次にRNA-誘導サイレンシング複合体(RISC)によって寄せ集められ、RISCは第 2のステップでそれらを用いて破壊の標的となるRNAを同定するのである。この2つの ステップがいかに結びついているのかは、謎であった。Liuたちは、ショウジョウバ エ細胞からダイシング活性を純粋に取り出し、それがDicer-2と新たに発見されたタ ンパク質R2D2とから構成されていることを示している(p. 1921)。R2D2は線虫 (C.elegans)のタンパク質RDE-4と関係しているが、これもRNAiに関与していて、ど ちらもRNA-結合領域を有している。Dicer-2-R2D2複合体は21ないし25ヌクレオチド 断片と結合し、それらをRISC複合体に運ぶことに関わっていて、RISC複合体がRNA標 的の場所を把握しそれを破壊する指示をするのを可能にしているのである。(KF)
R2D2, a Bridge Between the Initiation and Effector Steps of the Drosophila RNAi Pathway
   Qinghua Liu, Tim A. Rand, Savitha Kalidas, Fenghe Du, Hyun-Eui Kim, Dean P. Smith, and Xiaodong Wang
p. 1921-1925.

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