AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 19, 2003, Vol.301


水分子の水素結合ネットワークの構造緩和(Relaxation in Water)

超高速振動分光を用いて、水分子の水素結合ネットワークが再構成される挙動を観 測することができる。このネットワーク構造が再構成される過程に於いて、OH伸縮 振動の周波数は変化する。Fecko等は(p. 1698)50 フェムト秒(fs)の超短光パ ルスを用いてD2O(重水)中に存在するHOD分子の振動挙動変化を測定した。彼等 は、初めの170 fs間で時定数60 fsの減衰振動が生じていることを見出した。この時 間領域では、水素結合による振動抑制がさほど強くないことを示している。さらに 彼等は、シミュレーションから、観測された振動挙動は、OH基に最近接しているD2O 分子の影響によるものであることをつきとめた。200 fs後には水素結合ネットワー クが再構成され、分子の振動挙動は不鮮明になる。
Ultrafast Hydrogen-Bond Dynamics in the Infrared Spectroscopy of Water
   C. J. Fecko, J. D. Eaves, J. J. Loparo, A. Tokmakoff, and P. L. Geissler
p. 1698-1702.

暗黒の中であなたの道を見つける(Finding Your Way in the Dark)

冷たいダークマターパラダイムの一つの要点は、ダークマターからなるハローの併 合から銀河が形成されたというものである。多くの渦巻銀河の周りにおけるこれら のハローに対する証拠は、渦巻きの中心から次第に離れていくときの、軌道を回る 星の半径方向の速度分布に基づいている。楕円銀河に対しては、中心から離れた星 の速度を決定することは、さらに困難であり、このため、ダークマターハローの広 がりを定めることは難しい。Romanowsky たち (p.1696) は、三つの楕円銀河の周り に分布する惑星状星雲の速度を定めることにより、この問題を回避した。速度の示 すところは、これらの楕円銀河の周りにはダークマターハローは存在しない。そし て、この結果は、これらの銀河形成のメカニズムを未解決のままとするものであ る。(Wt)
A Dearth of Dark Matter in Ordinary Elliptical Galaxies
   Aaron J. Romanowsky, Nigel G. Douglas, Magda Arnaboldi, Konrad Kuijken, Michael R. Merrifield, Nicola R. Napolitano, Massimo Capaccioli, and Kenneth C. Freeman
p. 1696-1698.

高分子の流れの秘密を解く(Unchaining Secrets of Polymer Flow)

流れの状況下にある高分子鎖の挙動は、個々の鎖の応答とそれらが形成する絡み 合ったネットワークの応答が重なって非常に複雑になる。しかしながら、レオロ ジー的応答をその基本的な鎖の動きに関係づけることは、流れの結果としての構造 が最終製品の特性を決める重要な役割を果たすがゆえに、高分子の加工処理上での 手助けとなるであろう。Bentたち(p. 1691;Marucciによる展望参照)は、特別に工夫 したフローセル中で一連の単分散高分子に関する中性子散乱と複屈折のデータを得 た。このフローセル中では高分子が収縮しながら流れる様子を研究することが可能 である。著者たちはこれらの結果を鎖の動きに関する最新の理論と関係づけること に成功し、そして鎖の絡み合いの長さに比べて全体鎖の長さのスケールにおいては るかに緩慢な配向消滅を観測している。(KU)
MATERIALS SCIENCE:
Polymers Go with the Flow

   G. Marrucci
p. 1681-1682.
Neutron-Mapping Polymer Flow: Scattering, Flow Visualization, and Molecular Theory
   J. Bent, L. R. Hutchings, R. W. Richards, T. Gough, R. Spares, P. D. Coates, I. Grillo, O. G. Harlen, D. J. Read, R. S. Graham, A. E. Likhtman, D. J. Groves, T. M. Nicholson, and T. C. B. McLeish
p. 1691-1695.

微細構造ファイバーの高エネルギーソリトンの伝播(High-Powered Soliton Propagation in Microstructured Fibers)

光学領域のソリトンは、光の弾丸のように、それらの強度や空間的スペクトル的分 布を変化させることなしに物質の中を伝播するのであるが、それは、媒体の分散 的、および、非線形的光学特性条件が適合する場合に生ずる。そして、そのソリト ンは、典型的には、高強度レーザーパルスが光学ファイバー中に打ち込まれた時に 発生する。それらは非均一性に対して堅牢であるため、光コミュニケーションネッ トワーク中の情報のキャリアとして用いることを目標に研究されてきている。不幸 にも、従来のファイバー中のソリトンは、伝播時に自己相互作用を起こして、分 散、すなわち、色を変化させる。Skyrabin たち (p.1705) と Ouzounov たち (p.1702) は、微細構造を有するフォトニックバンドギャップファイバーが用いられ ると、分散的特性は制御でき、色のシフトは除去できることを示している。さらに は、 Ouzounov たちは、そのような微細構造ファイバーにより送達される最大パ ワーは、5MW を超えうることを示している。(Wt)
Generation of Megawatt Optical Solitons in Hollow-Core Photonic Band-Gap Fibers
   Dimitre G. Ouzounov, Faisal R. Ahmad, Dirk Müller, Natesan Venkataraman, Michael T. Gallagher, Malcolm G. Thomas, John Silcox, Karl W. Koch, and Alexander L. Gaeta
p. 1702-1704.
Soliton Self-Frequency Shift Cancellation in Photonic Crystal Fibers
   D. V. Skryabin, F. Luan, J. C. Knight, and P. St. J. Russell
p. 1705-1708.

巨大ネズミが吠えていた?(When Rodents Roared?)

げっ歯類はもっとも成功した哺乳類の目である。Sanchez-Villagra は(p.1708;Alexanderによる展望記事参照)は最大のげっ歯類Phoberomys pattersoni の完全な化石について記述している。これは以前は歯しか知られていなかった。こ れは、約800万年前の中新世の南アメリカに住んでおり、700キログラムにも達する バッファロほどの大きさで、後ろ足で立てるよう、バランスをとるための長い尾を もっていた。現存種であるカピバラと同様、Phoberomysは水辺の茂みに住んでお り、藻類を食べていたらしい。(Ej,hE)
EVOLUTION:
Enhanced: A Rodent as Big as a Buffalo

   R. McNeill Alexander
p. 1678-1679.
The Anatomy of the World's Largest Extinct Rodent
   Marcelo R. Sánchez-Villagra, Orangel Aguilera, and Inés Horovitz
p. 1708-1710.

征服前のアマゾン(Pre-Conquest Amazonia)

アマゾンにおける征服以前のヒト移住の程度に関してと、低地の森林が本質的に 「太古」のものであるのか、或いはコロンブスのアメリカ大陸発見以前のヒト集団 により密に開拓され、広範囲に利用されたものであるのかに関して多くの議論がな されている。Heckenbergerたち(p. 1710;Stokstadによるニュース記事参照)は、西 暦の最初の1000年期にさかのぼるブラジルのアマゾン川支流のシング川上流におけ る橋や人道、水路、及び環状の移住地跡に関して記述している。これらの移住地に は同じ領域で今日存在する以上の多くの構造体を含んでおり、はるかに沢山の局所 的な集団が存在していたことを示唆している。この発見は、アマゾンの環境が景観 の影響や活発な資源管理とか個体群密度とかで定義される社会政治学的な複雑さが 障害ではないことを示唆している。(KU)
AMAZON ARCHAEOLOGY: 'Pristine' Forest Teemed With People
   Erik Stokstad
p. 1645-1646.
Amazonia 1492: Pristine Forest or Cultural Parkland?
   Michael J. Heckenberger, Afukaka Kuikuro, Urissapá Tabata Kuikuro, J. Christian Russell, Morgan Schmidt, Carlos Fausto, and Bruna Franchetto
p. 1710-1714.

古代のホルモン受容体の再構成(Reconstituting an Ancient Hormone Receptor)

古代のタンパク質の機能性を明確するために、現在のタンパク質の祖先を再構築で きるのであろうか?Thorntonたち(p 1714)は、脊椎動物だけに存在していると思わ れたステロイドホルモン受容体タンパク質のクラスを研究した。軟体動物のエスト ロゲン受容体遺伝子が同定され、特性づけられたっことによってこのタンパク質 ファミリは確かに両側対称的動物の起源の前に現れたことを示唆する。系統的方法 を用い、6.7〜11億歳の祖先(原生動物)タンパク質を再構築、合成し、発現した。始 原的なステロイド受容体は、エストロゲン活性化タンパク質と思われる。(An)
Resurrecting the Ancestral Steroid Receptor: Ancient Origin of Estrogen Signaling
   Joseph W. Thornton, Eleanor Need, and David Crews
p. 1714-1717.

二方向リアルタイム情報伝達(Real-Time Signaling Both Ways)

インテグリンは、細胞表面を双方向的に情報を伝達するヘテロ二量体の膜タンパク 質である。インテグリンの活性化は、細胞外領域の立体配置的変化に関連するが、 サブユニット細胞内領域との相互作用も活性化と情報伝達の制御に重要であるかも しれない。生細胞において蛍光共鳴エネルギー移動を用い、Kimた(p 1720)は、イン テグリン活性化には、細胞質領域を分離するようにする細胞質領域の立体配置的変 化が関与することを示した。どちらの方向、つまり細胞の内から外へまたは外から 内へ、にも伝達した信号がこの機構に共役するようである。(An)
Bidirectional Transmembrane Signaling by Cytoplasmic Domain Separation in Integrins
   Minsoo Kim, Christopher V. Carman, and Timothy A. Springer
p. 1720-1725.

受容体-キナーゼ複合体における亜鉛(Zinc Links in a Receptor-KinaseComplex)

T細胞コレセプターであるCD-4およびCD-8の尾部を介したこれらの受容体と細胞質 Src-ファミリーチロシンキナーゼLckのN-末端との結合により、T細胞の活性化およ び成熟が制御される。Kimたち(p. 1725)はこの相互作用における亜鉛の必要性を 調べ、そして金属イオンが鉤のような作用をし、それが受容体-Lck複合体を安定化 させることを報告した。LckのN-末端とコレセプターの尾部は分離して非構造のもの であるが、亜鉛の存在により組み立てられて、コンパクトに折り畳まれた CD4-Lck-Zn2+およびCD8α-Lck-Zn2+の2種のヘテロ二量体ドメインが形成された。タ ンパク質の修飾により鉤をはずし、そして受容体-Lck結合を修飾することができ る。(NF)
A Zinc Clasp Structure Tethers Lck to T Cell Coreceptors CD4 and CD8
   Peter W. Kim, Zhen-Yu J. Sun, Stephen C. Blacklow, Gerhard Wagner, and Michael J. Eck
p. 1725-1728.

Gタンパク質、植物生長、そして寄生虫侵入(G Proteins, PlantGrowth, and Parasites Invasion)

Gタンパク質シグナル伝達(RGS)の制御分子の機能は、哺乳動物および酵母におい て、まさにその名が示す通りのものであり、これらのタンパク質は、細胞表面にあ るGタンパク質-結合型受容体(GPCR)により開始されたシグナルを減弱する。Chen たち(p. 1728)はここで、ヘテロ三量体Gタンパク質と共に機能して根および芽の 生長を調節する、シロイヌナズナにおけるRGSタンパク質を同定した。植物RGSは、 生化学的に正真正銘のファミリーメンバーのようにふるまうが、しかしその配列 は、他の既知のRGSタンパク質とは全く異なり、GPCRと同様な7回-膜貫通型-スパニ ング領域を含有する、タンパク質であると予想された。マラリア原虫、Plasmodium falciparumによる赤血球の侵入のプロセスは、疾患の発症に必須である。Harrison たち(p. 1734)は、侵入を成功させるために宿主赤血球細胞膜中のGPCR活性化が必 要であることを示した。活性化受容体が精密な赤血球皮質下細胞骨格の再構成を促 進して、寄生虫の侵入のあいだに必要とされる膜の変形を可能にするようであ る。(NF)
A Seven-Transmembrane RGS Protein That Modulates Plant Cell Proliferation
   Jin-Gui Chen, Francis S. Willard, Jirong Huang, Jiansheng Liang, Scott A. Chasse, Alan M. Jones, and David P. Siderovski
p. 1728-1731.
Erythrocyte G Protein-Coupled Receptor Signaling in Malarial Infection
   Travis Harrison, Benjamin U. Samuel, Thomas Akompong, Heidi Hamm, Narla Mohandas, Jon W. Lomasney, and Kasturi Haldar
p. 1734-1736.

長生きのためには今からでも遅くない(Reducing Short-Term Risks)

脊椎動物と無脊椎動物においてカロリー摂取の減少は長寿命と関連性がある。例え ば食事制限した成長後のショウジョウバエはより長く生きる。Mairたちは(p. 731、Vaupelによる展望も参照)、7000匹以上のショゥジョウバエを観察し、成長後 のどの時点におけるカロリー制限も短期的な死亡の危険を少なくすることによる長 寿命化に同じような効果があることを発見した。この知見は、過去の食事状況より も、現在の栄養摂取の状況が寿命に影響を与えることを示唆している。(Na)
AGING:
It's Never Too Late

   James W. Vaupel, James R. Carey, and Kaare Christensen
p. 1679-1681.
Demography of Dietary Restriction and Death in Drosophila
   William Mair, Patrick Goymer, Scott D. Pletcher, and Linda Partridge
p. 1731-1733.

古典的条件付け、タイミング、そして小脳(Classic Conditioning, Timing, and the Cerebellum)

運動のタイミングは動物の生存にとって重要であるので、その神経系は運動のタイ ミングを最適化するよう常に試みている。よく研究されている例はまぶたのまばた き応答の古典的条件付けであるが、そのタイミングは、究極的には条件刺激の開始 と無条件刺激の開始との間隔によって決定されている。まぶたの運動を記録する新 規の技法と細胞-特異的なマウスの変異体を用いて、Koekkoekたちは、小脳の長期抑 圧が、訓練された運動の大きさを適合させるのに必要なだけでなく、入力-特異的機 構を介して適切なタイミングを学習するのにも必要である、ということを示してい る(p. 1736; またLindenによる展望記事参照のこと)。(KF)
Cerebellar LTD and Learning-Dependent Timing of Conditioned Eyelid Responses
   S. K. E. Koekkoek, H. C. Hulscher, B. R. Dortland, R. A. Hensbroek, Y. Elgersma, T. J. H. Ruigrok, and C. I. De Zeeuw
p. 1736-1739.
NEUROSCIENCE:
From Molecules to Memory in the Cerebellum

   David J. Linden
p. 1682-1685.

樹冠における生命(Life in the Treetops)

生物多様性、コミュニティの構造、そして生態系機能の間の相互作用が、生態学的 研究の主要な焦点になりつつある。Wardleたちは、孤立した雨林樹冠着生生物すな わち「樹冠の島」によってできる空中に浮かぶ土壌における分解者コミュニティの 構造と生態系機能について評価を行った(p. 1717)。島の特性(その大きさと、「本 土」からの距離)は、構成要素となっている生命体のコミュニティ構造を変化させる ことによって、生態系-レベルの属性に影響を与えていた。孤立と基質(この場合は 宿主となっている木の種類)の、土壌無脊椎動物の多様性と葉積分解などの生態系プ ロセスに対する影響もまた、記述的アプローチと実験的アプローチを用いて検証さ れた。こうした知見は、他のタイプの生態系の孤立と断片化にも関連するものであ る。(KF)
Island Biology and Ecosystem Functioning in Epiphytic Soil Communities
   David A. Wardle, Gregor W. Yeates, Gary M. Barker, Peter J. Bellingham, Karen I. Bonner, and Wendy M. Williamson
p. 1717-1720.

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