AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 2, 2001, Vol.291


電波領域における磁性(Magnetic in the Radio Range)

ミクロ構造を持つ材料は、異常な光学的特性を示すことがある。これらは、光学的バン ドギャップを持つ材料や負の屈折率を示す材料によって例証されている。Wiltshire た ち (p.849) は、らせん状に巻かれたキャパシタ(商品名ProFilmChrome, つまりアルミ 化したマイラーを伊達巻きのように巻いたもの)が、いかに磁束の誘導に用いるうるか を示している。この材料は、DCの磁場中では非磁性であるが、電波周波数(RF)の場 が印加されると磁性体であるように設計されている。これは、核磁気共鳴や磁気共鳴映 像法に用いる受信コイルに磁束を導くことに利用することができる。(Wt)

ナノワイヤの道具箱(Nanowire Toolbox)

シリコンナノワイヤを電子やホールのキャリアに成長させる過程において容易にドープで きることは、それらをナノスケールの電子的なアーキテクチャに対する構成要素の魅力的 な候補にしている。Cui たち(p.851) は、活性な面積が 10-12 〜 10-10 cm2の交差したナノワイヤの単純な接合からなるある範囲 の機能デバイスを製作・実証しており、これにより、これらの材料の可能性を探索してい る。ダイオードやバイポーラトランジスタや、また、インバータのような基本的論理デバ イスを作成できることは、これらの材料が、ナノスケールエレクトロニクスへの「ボトム アップ」的アプローチにおいて演ずるであろう役割を浮き立たせている。(Wt,Tk)

銅の驚き(Copper Surprise)

水中におけるイオンの溶媒和シェルを決定することは、比較的単純な系に対してでもむ ずかしいものである。例えば、Cu2+イオンは、八面体の歪んだ構造の中に 6つの水リガンドを引きつけているものと長い間推定されていたが、その最近接の銅 −酸素の結合長はよく解析されているけれども、より離れた結合長の解析は出来ていな かった。Pasquarelloたち(p.856)は中性子回析とアブイニシオ計算研究とを結びつけて 、Cu2+水溶性イオンが同じような結合長をもつ5つの水リガンドしか持って いないことを示している。遠位のCu−O結合は存在せず、そしてこのことは遠位の結合 長をはっきりさせようとして試みた以前の困難性を説明するものである。(KU)

芳香族性をもつ金属正方形とは(How Metals Square With Aromaticity)

芳香族分子とはホウ素やチッ素のようなヘテロ原子を含むこともあるが、通常は炭素環 状体である。分子は環状で平面状で、かつ共役結合して、(4n+2)個の非局在のπ電子を 持てば芳香族性と考えられている。Liたち(p.859;SeoとCorbettによる展望記事参照)は 、金属原子のみを含む一連の異常な芳香族分子に関して報告している。その分子は正方 形のAl4-ユニットを持っており、芳香族性に関する構造面と電子面での二 つの判定基準を満たしている。他のグループ-13の元素も類似の化学種を形成している 。(KU)

透明な磁石(Transparent Magnets)

電気的スピンとホストとキャリヤ間の磁気相互作用がデバイスの特性を決定するスプン トロニクス分野では、高度な機能を持つ材料の研究に多大な努力がはらわれている。松 本たちは(p. 854、大野による展望も参照)、コバルトをドープした二酸化チタンベース の透明な強磁性体の発見について報告している。その 、Til-xCoxO2で(0

南極の氷河が薄くなっている(Thinning Ice)

南極西部氷床は、もし完全に融けたら海面が5m上昇するに十分な水を含んでいる。南極 における永久的な氷の放出のほとんどは氷流によるものである。従い、氷河学者たち (と我々も)は氷流による氷の損失が加速されたら出来るだけ早く知りたいと考えている 。南極西部氷流最大の氷放出率を持つパインアイランド氷河は前触れの指標となるだろ う。Shepherdたちは(p. 862)、氷のダイナミクスが原因で内陸氷床の厚さの減少が進行 中であることの人工衛星による高度測定と干渉測定による証拠を提供している。氷流の ダイナミクスが原因で内陸からの氷流出が加速している、という可能性はかなり高い 。もし、現在の氷流出が続けば現在は地表に張り付いているパインアイランド氷河は 600年後には海面を漂うことになる。(Na)

植物多様性のスケールって?(How Plant Diversity Scales)

種の豊富さと面積との相関関係は、群集生態学研究の重要な構成要素である。Crawleyと Harral(p. 864)は、0.01平方メートルから1000平方キロメートルまでの範囲の英国での 様々な空間的スケールで採取した植物種に関するデータを使用して、相関関係が空間的ス ケールにより変化するという詳細な事実を提供する。種-面積相関関係の傾き(種の豊富 さの対数vs面積の対数)は、独特なフローラを有する採集地のマトリックスが、いずれの 所定の面積においても、種の豊富さを最大値にする傾向にある中間スケールにおいてもっ とも大きくなる。その傾きは、個々の植物が互いに強力に相互作用することが予想されう る最小の空間スケール、および新しい採集地がほとんど追加されない最大のスケールの場 合に最小になる。(NF)

ネズミの細胞に永遠の若さを(Eternal Youth for Rodent Cells)

培養ディッシュ中で増殖した細胞は、通常は、特定の回数のみ分裂して老化状態となる 。老化状態になると細胞がアポトーシスできず、特徴的な表現型を有するようになる 。ここで、培養条件を注意深く調整したところ、無限に通常の増殖をする2種類のラッ ト細胞が得られたようである。Tangたち(p. 868)はオリゴデンドロサイトについて 60日間の通常の増殖を達成し、そしてMathonたち(p. 872)はシュワン細胞について 50回継代できたことを報告する。同一条件下でのファイブロブラストは3〜4回継代する と老化してしまう。齧歯類の細胞が普遍的には複製的老化の主題にならないというこの 知見を、ShayとWrightによる展望記事において検討する。彼らは、齧歯類細胞中のテロ メアが特に長いため、ヒト細胞のテロメアが短い結果としてヒト細胞の同等な老化が起 こった後も長い間、それらの細胞が分裂を続けることが可能になるのだろうと指摘して いる。(NF)

融合細孔の動力学(Fusion Pore Dynamics)

細胞の分泌は、膜結合型の分泌小胞と細胞の表面との融合を含む。細胞の融合機構の詳 細は、最近の数年間にもっと明かになってきた。Fisherたち(p 875)は、融合機構にお いてMunc18というタンパク質の役割を研究した。Munc18は、融合自体には直接役割を果 たしておらず、むしろ融合の後期に融合細孔の膨張に重要であるようである。この膨張 は、融合を不可逆的にするために必要である。(An)

上がるフィルム製作者(Rising Film Maker)

細菌と真菌の多くは、固体の表面に接着できる細胞の凝集体として成長できる。この 「生物膜」が医療用具、例えば整形インプラント上に形成すると、感染を有意に加速す ることができる。なぜなら、この保護された微小環境のため、病原体は抗菌薬の治療に 対してもっと抵抗性になるのである。病原性真菌のほとんどは遺伝的によく解明されて いないため、真菌の生物膜生成の基礎機構は特に解りにくい。ReynoldsとFink(p 878;Helmuthによる表紙ニュース記事参照)は、よく研究されているSaccharomyces cerevisiaeという酵母は、研究室内で生物膜形成の初期段階を行うことができ、この過 程にFlo11pという細胞表面の糖タンパク質が必要であることを発見した。生物膜形成を 古典遺伝学および全ゲノム方法によって研究できるようになれば、真菌感染の治療の新 しい標的を同定する一助となるかもしれない。(An)

5つのならず者に1石を投じる(Adding One to a Gang of Five)

HIV-1に感染されるためにはウイルスと細胞膜が融合する必要がある。これが実現され るためにはヘアピン構造の三量体が形成される必要があり、その核として6個のらせん 体の束がgp41外部ドメインのアミノ末端とカルボキシ末端領域を近接させる働きをする 。Rootたち(p.884;および、Helmuth,12 Jan.によるニュース記事参照)は、gp41のカル ボキシ末端領域由来のペプチドにしっかりと特異的に結合する5-Helixと呼ばれる小タ ンパク質を設計した。5-Helixは膜融合を阻止し、従って、多様な外被タンパク質をも つHIV-1ウイルスによる感染を阻止する。このことから5-Helixは抗HIV-1薬剤や、ワク チン開発の戦略の基礎を与えるものであろう。(Ej,hE)

匂いを嗅ぎわけること(Picking Out Odors)

嗅球における匂い表現は不変ではなく、刺激がある間にも変化している。Friedrich と Laurent (p. 889; Yoshiharaたちによる展望記事を参照)は、ゼブラフィッシュの嗅球 にある僧帽状-細胞からデータを取り出した。匂いに対するこれら神経の反応は、刺激 がある時間経過中に、次第に変化していった。この変化は、個々の僧帽状-細胞のチュ ーニングのプロファイルを尖鋭化したわけではない。その代わり、匂い表現は、刺激中 の後半でよりむらなく分布されるように見えた。時間経過に沿ってのパターニングは活 動全体の間での類似度を減じ、時間と共におのおのの匂い表現にもっと特異的になった 。これらのデータは、いかに嗅覚は他の感覚性形式と異なっているかを我々が理解する 上で重要なステップを提供する。(hk)

動物相をあやつる植物相(Flora Facilitating Fauna)

腸は哺乳類の最大の器官であり、その中には大量で複雑な植物相が住み着いている。こ の植物相は宿主動物全体の生理や成長に影響を及ぼす。Hooper たち(p. 881)は、宿主 の腸組織とそこに住み着いている微生物について、無菌マウスの腸内にBacteroides thetaiotaomicronを生育させ、両者の関係を解明する作業を開始した。細菌が腸内に存 在することによって、栄養分の取り込みとか、外部物質の代謝に対して腸内の粘膜関門 の統合を維持するとかの、いくつかの基本的機能に影響が出ることが分かった。 (Ej,hE)

おとなしくしているだけではない(Not Just Sitting Around)

細胞核での遺伝子の発現においては、多くのタンパク質が役目を果たしている。この細 胞核は、複雑で、しかもいろいろなものが存在する環境なので直接研究するのは困難で あった。Misteliは、最新の証拠、とくに顕微鏡による研究の成果についてレビューし ている(p. 843)。この証拠は、タンパク質は決まった場所にとどまっているのではなく 、非常に動的であって、必要なときに確実に利用されうるように核の周囲を動き回って いるということを示唆するものである。(KF)
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