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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science November 26, 1999, Vol.286
花粉の好み(Pollen Preferences)
ある種の植物では、同種の他の植物個体と自分自身の花粉を識別する、 自家不和合性を持っており、これによって自分以外の花粉に優先的に 反応し、近親交配を避けている(Dickinsonによる展望記事参照)。 Stoneたち (p. 1729) は、ARC1の活性を解析し、これが柱頭の原形 質膜に局在しているキナーゼとリン酸化依存性相互作用をしているこ とを示した。彼らによる生体内での研究によると、雌側から、この自 家不和合性の鍵となっている制御装置はARC1であることを示してい る。Schopfer たち(p.1697)は、今度は花粉側で、これを制御してい る重要物質を同定した---これは柱頭のタンパク質と相互作用し、花 粉中で発現する多形タンパク質(polymorphic protein)であり、結果 的に繁殖性(稔性)が生じるかどうかを決定する。(Ej,hE)
ATPを分解する(Cranking Out ATP)
細胞中で利用されるエネルギー形態は通常はアデノシン三リン酸 (ATP)であり、脂肪やデンプンのような化学的な形態か、あるいは細 胞膜の両側のイオン勾配のような電気化学的形態の両方で保存されて いる。脂肪やデンプンは代謝されて少量のATPと、大量エネルギーを プロトンの濃度勾配の形態で産生し、このエネルギーがATP合成酵素 として知られている酵素によってATPに変換される。Stockたち (p. 1700;表紙も参照)は、合成酵素の膜結合型部分(F0)と、ATP-合 成部分(F1)に結合する軸の結晶構造を明らかにした。F0は Sambongiたち(p. 1722)が示したように、エネルギー的により低い、 タンパク質のプロトンによる内部軸回転へと変換する。これらナノ発 電機の働きについてはFillingameによる展望記事を参照されたい (Ej,hE)。
太陽と月、そしてプルーム (The Sun, the Moon, and the Plumes)
地球表面上において大規模な火山活動がこれまで幾つか記録されてい るが、これらの多くは、コア‐マントル境界からの大きな熱異常 (thermal anomaly)、マントルプルームの上昇によって起こされると 考えられてきた。Greff-LefftzとLegros (p.1707) は、地球、月、 そして太陽の間の重力相互作用によって、プルームの発生と火山活動 期との間の関係をモデル化した。彼らは、流体の外核の振動は、月と 太陽の潮汐力と、太陽の潮汐波と共鳴する外核の回転固有振動とによっ て引き起こされること、そして、プルームを引き起こした可能性がある 共鳴が、先カンブリア時代の3つの火山活動期と同じ頃に起きたことを 示した。(TO,Nk)
作用中の酸素(Oxygen in Action)
多くの酵素反応において電子受容体としての酸素の重要性にもかかわ らず、レドックス酵素による酸素活性化の機構は良く知られていない。 Wilmotたち(p.1724)は、銅アミン酸化酵素による酸化の中間反応 (half-reaction)と関連する凍結トラップ中間体のX線構造を決定し た。彼らはまた単結晶分光光度計を用いて,個々の構造にたいするキノ ン補助因子の酸化状態を決定した。彼らの研究はジオキシゲン (Dioxygen)の結合サイトや過酸化水素の生成を明らかにし、そして酸 素へのプロトン移動の過程を示している。その生成物アルデヒドは、 結晶中において酵素の再酸化を阻害する。このように、アルデヒドの 遊離が反応の律速となっている。(KU)
変化の風(The Winds of Change)
前世紀の間での熱帯性北大西洋の領域における10年以下の気候の変化は、十分 に理解されると考えられている。しかし、数十年から数世紀にまたがって起こ る長期間の変化は、より解明が難しい。それは、機器による記録は十分過去に 遡れないし、堆積による記録は必要な時間精度を持っていないからである。 Blackたち(p. 1709)は、カリブ海の堆積物の掘削コアから、数十年あるいは数 世紀のスケールでの貿易風の変化を表す825年間の記録を発表した。それは、 産業革命以前の過去に、自然の気候の変化が突然発生していたことを示してい る。こうした発見は、大西洋の温度と塩分による作用(熱塩大循環: thermohaline)による循環と他の熱帯性気候の変化との間の関連性も強調して いる。(TO,Og)
ポリマー経由によるナノポーラスなセラミックフィルム (Nanoporous Ceramic Films via Polymers)
異なる化学成分のセグメント(ブロック)が結合したブロックコポリマ ーは、ナノメートルスケールで相分離し、そして複雑で入り組んだ構 造を作る。Chanたち(p.1716)は、シリコンを含むポリマーからな るブロックで分離された二つの炭化水素ブロックを含むコポリマーが 二重ラセン構造を持つ開いたナノポーラスのネットワークを形成する ことを示している。オゾンや紫外線を用いた一段階プロセスによって、 シリコン含有のブロックがセラミック構造体に変わり、そして残余の 炭化水素材料を除くとナノポーラスなセラミックフィルムが形成され る。(KU)
分子シャトル(Molecular Shuttle)
走査型トンネル顕微鏡(STM) は、表面上の原子および分子に対して高 度な制御を行うことが可能である。顕微鏡のチップは、一個の吸着さ れた分子および基板との間に形成する結合を同定し、キャラクタリゼ ーションが可能となる振動スペクトルを記録するのにも用いることが できる。Lee と Ho (p.1719) は、低温STM のこれら両方の能力を用 いて、銀表面上の一個の鉄原子を STM チップ上に一酸化炭素(CO)分 子と結合させる研究をした。鉄と一個あるいは二個の CO 分子との錯 体であるFe(CO)、あるいはFe(CO)2が形成され、それらのキャラクタ リゼーションが計測された。(Wt)
関節の抗原(Joint Antigen)
関節リウマチは、T細胞とB細胞の両方が活性化される自己免疫疾患で ある。最近の研究のほとんどは、T細胞仲介ダメージの免疫原標的にな りうる関節の特異的な抗原を発見することを中心課題としている。ヒ トの関節炎を模倣するようなマウスモデルにおいて、Matsumotoたち (p 1732)は、T細胞およびB細胞に対する関節炎原の活性を現す抗原が 同じタンパク質に由来するが、そのタンパク質はグルコース6リン酸イ ソメラーゼという遍在性に発現する酵素である。従って、局所性自己免 疫が組織特異性抗原によって引き起こされるとは限らない。(An)
死は正常な生命の中の役割 である (Death Is Role Within a Normal Life)
Bcl-2ファミリのタンパク質は、細胞死を促進することと抑制すること という2つのアポトーシスにおける役割をはたしている。第3のBcl-2相 同性領域だけを含む小さなタンパク質(BimなどのようなBH3だけのタン パク質)が死促進の性質をもつと考えられているが、恒常性や免疫機能な どのような生体内の正常なアポトーシス機能における役割が不明であっ た。Bouilletたち(p 1735)は、Bim欠乏の遺伝子ターゲティングマウス において、このBH3だけのタンパク質が、白血球の正常な恒常性とサイ トカインの取り除きとカルシウム誘発アポトーシスには決定的であり、 自己免疫疾患に対する関門としても作用すると示す結果を報告している。 このように、Bimが生理学的アポトーシス機構の一部である。(An)
伝達経路の下流側について解き明かす (Working It Out Downstream)
特定の成長因子あるいはホルモンに対する細胞の反応過程には、細胞表面 と核との間の信号リレーの過程が含まれている。低分子量GTP結合タンパ ク質Rasは、数多くの成長因子受容体によって活性化されるものだが、単 一の成長因子に応答する場合、細胞のタイプに依存して一つ以上の信号伝 達経路を調節することができる。それゆえ、Rasは信号伝播の分岐点とし て機能することがあり、それが刺激する伝達経路を緊密に調節することが、 適切な生物学的結果を保証するために必要とされるのである。Rasの下流 に存在する2つの伝達経路、すなわちRafキナーゼ-MEK (mitogen-activated protein kinase:分裂促進因子によって活性化され るタンパク質キナーゼ)-ERK(extracellular-regulated kinase:細胞外 で制御されるキナーゼ)経路およびPI3K (phosphatidylinositol3- kinase:ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)-Aktキナーゼ経路、の 間で生じる相互伝達について、2つの報告が記述している。Zimmermann とMoellingは、Raf上の知られた調節部位をリン酸化することでAktが Raf活性を抑制したことを実証している(p. 1741)。乳癌細胞において、 Aktは直接Rafと相互作用したが、Aktを抑制することでRafの活性を増す ことになったのである。著者たちは、この細胞では、この機構がインシュ リン様の成長因子(IGF)に応答して成長を調節しているかもしれないと示 唆している。Rommelたちも、AktはRafと関連しており、分化した筋肉 細胞(myotubes)におけるRaf信号伝達経路を抑制したことを明らかにし ている(p. 1738)。ただし、未分化な前駆細胞においてはそうはならな かったが。Akt経路の活性化、あるいはRaf経路の抑制は、筋肉細胞に対 してIGFによって引き起こされるのと同様の肥大性表現型(肥厚)に帰着す る。これらの研究が示唆するのは、これら2つの経路の、特定の細胞の応 答への統合は、細胞のタイプあるいは細胞分化の段階に依存している可能 性がある、ということである。(KF)
習慣の力(Force of Habit)
行動のパターンは学習され、日常的なものになり、その結果無意識に行わ れるようになる。Jogたちは(p. 1745)、脳の運動制御に関連することで知 られている部位である神経節基底内の神経活動をモニターした。これらの 神経活動はラットがT型迷路(迷路のあるT字路において音の高さの合図を 与え、ゴールにある食物報酬に向けての正しい方向を学習したラット)を学 習するにつれて変化する。ラットの正確さと速度が向上するにつれ、神経 集合は習慣性行動となるべきものの最初と最後でもっとも活動的になるよ うだ。神経節基底部における運動命令全体の説明は、パーキンソン病患者 が運動開始時と終了時に経験する困難さと関連がありそうだ。(Na)
相互に作用する心(Do You Mind?)
他人は信念を持っていて、彼らの行動はこれらの信念に基づき説明できる ということを我々が認識できるのは、「心の理論」として知られている。 FrithとFrithは(p.1692)、脳内の、この心の理論の基礎をなす、ネット ワークについて説明する臨床学的、神経生理学的、そして脳内イメージン グの研究から得られたデータを検討している。次に彼らは、ヒトにおいて 最も発達したように見えるこの社会的知識の側面はサルにおいて、行動と 目標の表現という、より原始的な形で現れていたことを提唱している。 (Na)
酸化マグネシウムとマントルの異方性 (MgO and Mantle Anisotropy)
マントル下部は、主としてペロブスカイトすなわち(Mg,Fe)SiO3と、マグネシ オウスタイトすなわち(Mg,Fe)Oとから成っていると考えられており、多くの研 究が、マントル下部の基底D"層における地震波の異方性をこれらの相によって どう説明できるかを決定することに焦点をあててきた。残念なことに、D"層の 条件に伴う高圧、高温の特性は、MgとFeの正確な量を推定するしかできない複 雑な相についてのモデルないし実験によって近似するしかできないのである。 Karkiたちは、単純な相MgOのバルクとしての特性(密度と速度)を密度関数の摂 動理論を用いてモデル化した(p. 1705) (p. 1705)。彼らの結果が示唆するの は、MgOの格子定向配向は高温、高圧においても優勢な特性として残るので、 D"層における異方性は組成の変化や熱による異常によって説明されるよりは結 晶構造によって説明できる可能性がある、ということである。(KF,Nk,Og)
弱いが、しかし、決定的な(Weak But Decisive)
原子と分子との間の反応は、通常は遷移状態、すなわち反応体が生成物と なる以前に通過しなければならない高エネルギー状態を経て進行する。遷 移状態構造は、全体的な反応力学と速度を定める上で決定的である。しか しながら、Skouteris たち(p.1713) は、反応体がなお比較的遠く離れて いるときでも、弱い van der Waals 相互作用でも反応速度に影響するこ とがあることを見出した。塩素原子とHD分子との反応において、これらの 弱い相互作用は、反応体が互いに接近する道筋を左右し、このため反応力 学に影響する。しかし、これらの効果は反応体の低い回転励起状態におい てのみ見ることができ、それらの検出には精巧なクロス分子ビーム (crossed molecular beam)の実験と、最新の技術を用いた ab initio 計算(非経験的分子軌道法)が必要である。(Wt)
種と、領域の形状(Species and Regular and Irregular Areas)
Harteたちは、種の確率分布は領域について自己相似的であると論じ、こ の考え方を用いて、いくつかの一般的な種と領域の関係について取り扱い、 説明している(4月9日号の報告p. 334参照)。MadduxとAthreyaは、 Harteたちのモデルは「種は3つの自明なやり方のうちのどれか1つのやり 方で分布する、ということを含意している」とコメントし、だからその法 則は「一般的には、…無効である」と結論付けている。Harteたちはこれ に応えて、「パッチの形状が重要である」と述べ、種の豊かさはパッチ形 状に依存するという(自分たちの)理論による予測は理に適っている、とし ている。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5445/1647a
で見ることができる。(KF)
多形は、結局、もとのIL-13 プロモータにもどった (Polymorphisms Return in the IL-13 Promoter)
インターロイキン-13 (IL-13) はアレルギー応答に重要な役割を演じてい る。以前のテクニカルコメント(28 May 1999)において、Andersonたち、 そしてWills-Karp とRosenwasserはIL-13プロモータ領域の一部を詳 細に調べ、そこには多形(Polymorphism)が存在しないことを明らかにし、 プロモータ領域はアトピーについては感受性座位ではないと、結論した。 Van der Pouw Kraanたちは今回、前回詳細に調べたすぐ外側に多形が存 在し、Gillespieたちによってこのことが確認されたことを報告している。 この全文は以下を参照(Ej.hE)。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5445/1647b
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