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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science December 4, 1998, Vol.282
熱帯性と温暖な気候の両方を記録する (Recording Tropical and Temperate Climates)
アンデス山脈の熱帯性氷河の気候記録で、極地氷河に記録された現象が 本当に地球規模に及んでいたかどうか、またその時期についての研究を 行うことができるようになる。Thompsonたちは(p. 1858)、最後の氷 期(LGS: Last GlacialStage、およそ2万年前)まで遡ることの出来るボ リビア氷河から掘削アイスコアの炭素-14による高分解能の古気候記録 を提示している。この記録は、LGSが地球規模にわたっており、グリー ンランドのヤンガードライアス冷却とほぼ同時期の退氷期に急激な逆転 冷却を示した、という数多い証拠にあらたな証拠を付け加えた。極地地 方とは対照的に、地球規模での低温は大量の降水量と蒸発量の低減に関 連している。我々の所有している、最後のいくつかの氷期を通しての詳 細な気候記録は殆どが、海底堆積物かサンゴから入手されている、大陸 奥地からの記録はほとんどない。放射性同位炭素による年代特定も4万5 千年前にしかさかのぼれない。Doraleたちは(p. 1871)、最後の氷期の 氷河の最南端のわずか南に位置するミズーリ州クレバス洞窟のトリウム -230により年代測定された石筍から北米中央部の7万5千年前から2万5 千年前までの期間の気候変化の記録を提示した。その気候記録は4つの石 筍の中に存在しており、その形成途中で局所的なプロセスにより偏って いないことを示している。安定した炭素と酸素の同位元素データにより、 その場所で、顕著な冷却が5万5千年ほど前に開始し、草原が森林に置き 換わったことを示している。(Na,Og,Nk)
耳を同調させる(Tuning the Ear)
耳に到達した音波は神経刺激に変換されなければならない、しかし、異 なる対象のデータを用いた聴神経繊維の応答特性と内耳の基底板を比較 すると直接的な関係はなかった。Narayanたちは(p. 1882)、チンチラ の同一蝸牛中の基底板と聴神経繊維の録音を示した。チンチラでは蝸牛 の周波数選択性は基底板の振動により説明される。この知見は哺乳類の 蝸牛にあるとされる2番目のフィルターの仮説に対し強力な議論を投げ かけている。(Na)
変質した小惑星(Altered Asteroids)
原始的隕石であるコンドライトは、コンドリュールと呼ばれる円磨度の よい鉱物の難揮発性粒状物から成るが、これは、太陽系を形成する星雲 の中で最初に付着した成分であると考えられている。しかしながら、コ ンドライト中の鉱物相は、高温、高圧、あるいは、その後形成された比 較的小さな母天体への流体の浸透により変質している可能性がある。 Hutcheon たち(p.1865) は、炭素質コンドライトのモコイワ(Mokoia) 隕石中に産する鉄カンラン石をイオンマイクロブローブで分析した。そ して、マンガン53の放射性崩壊で生じる放射性起源のクロム53が過剰 に存在することを明らかにした。彼らは、鉄カンラン石は、太陽系星雲 が散逸した後の、後期の変質過程中に結晶化したと推論している。 (Wt,Tk,Og)
反応中の単一酵素分子を観る (Watching Single Enzyme molecules in Action)
単一分子の研究によって、大きな分子集団の研究では覆い隠されている 反応過程を明らかにすることが出来る。Luたち( p. 1877)はコレストロ ール酸化酵素の活性作用における”メモリー効果”の証拠を与えている。 反応速度は、酸化酵素の補助因子であるフラビン・アデニン・ヂヌクレ オチドがその酸化された形においてのみ蛍光性を持つため共焦点顕微鏡 を用いて測定された。蛍光が”スィツチ・オン” する時間分布は単一酵 素分子間で大きく変化し、更に一個の酵素分子においてすらその時間分 布は分子構造のゆっくりした揺らぎに起因する形で指数関数的挙動から 偏移する。(KU)
細菌の中の磁鉄鉱(Magnetite in Bacteria)
走磁性細菌は、直径数ナノメートルの磁鉄鉱(あるいは他の鉱物)の小さ な結晶の鎖を含んでいる。Dunin-Borkowski たち(p.1868) は、電子 線ホログラフィーを用いて、細菌の中にそのままの姿で、個々の結晶お よび結晶の鎖の微細な磁性構造を可視化した。このアプローチでは、彼 らは試料を通過する電子波と参照波とを比較して、ホログラフィー像を 形成している。最小の結晶の磁化方向は、鎖の中のより大きな結晶によっ て制御されている。このアプローチは、細菌内部でこれらの結晶がどの ように相互作用するかを示すものであるが、より高度な有機体中の磁鉄 鉱結晶に拡張できる可能性がある。(Wt)
意識を明らかにする(Clarifying Consciousness)
意識の基礎を探究するなかで、TononiとEdelmanは、意識的体験のキー となる特性を同定し、それらに対応するものを見い出すために知られてい る神経現象の調査を行なった(p. 1846)。彼らが発見したのは、意識は統 合されており(下位のものに分解することができず)、分化している(ある意 識的体験は、可能な非常にたくさんの意識的体験のうちの一つにすぎない)、 ということである。脳の後頭や側頭、前頭における、常に変化する神経系 のサブセットもまた統合されていながら分化しており、これから著者たち は、ヒトの意識の機構に関する「動的コア」仮説を提案するに到ったので ある。(KF)
酵素を解明する(Ironing Out an Enzyme)
微生物は、化学的に単純な反応を上手に利用しているが,ヒドロゲナーゼ (水素分子の出入を伴う酸化還元反応を触媒する酵素)がその典型的な例と して示される.それは、2つの陽子と2つの電子を分子の水素に転換する作 用を起こす.Petersたち(p. 1853; AdamsとSteifelによる展望記事参照) は,クロストリディウム嫌気性細菌からヒドロゲナーゼの1.8オングストロ ーム結晶構造を示した.この600以下のアミノ酸でできた大きさが中程度の タンパク質の酵素は,鉄原子を豊富に含んでいる(1分子当たり20)。すなわ ち、Hクラスタ活性部位 ([4Fe-4S]1つと二核Fe-Sが1つ)の中に6つ、そし て4つのアクセサリ硫酸鉄クラスタ([4Fe-4S]が3つと[2Fe-2S]が1つ)の中 に14の鉄分子が含まれている。電子と陽子が内部へと辿っていきHクラスタ と出会うために起こりそうな経路を認識できる。(TO)
同位元素によって鳥類を追跡する(Tracking Birds Isotopically)
渡り鳥の個体群変動の研究は、繁殖地と越冬地間の距離が大きく離れている こととオスとメスが異なる時期にやって来ることとによって、阻害されてい た。Marraたち(p.1884;Wuethrichによるカバー記事とニュース記事を参照) は、生育地特有の同位元素のシグニチュアを用い、サンショクアメリカムシ クイ(Setophaga ruticilla)が熱帯で冬を過ごす場と温帯の繁殖地域とを結 びつけた。繁殖場への飛来時期と生殖の成功率は、その前年の冬の間におけ る食料確保に対する競争の影響を受けている。より成功した鳥が持っている 炭素13同位体の値は、彼等の餌である虫が豊かな森林の生育地と関連してい ることを示している。(TO)
ストレスを仲介(Mediating Stress)
分裂促進因子活性化タンパク質リン酸化酵素(MAPK)ファミリのメンバーが、 MAPKリン酸化酵素リン酸化酵素(MAPKKK)から始まるタンパク質リン酸化 酵素のカスケードによって活性化される。MEKK1というMAPKKKがJNKと ERKという2つの異なっているMAPK種類の活性化を導くことができるが、 生体内ではMEKK1の生理学的標的が不明であった。Yujiriたち(p 1911)は、 MEKK1タンパク質を発現しないマウスを作成し、特異的なMAPKへのMEKK1 の結合が外部ストレスの種類に極端に依存することを示した。例えば、寒冷 ストレスや血清因子に応答するJNK活性化が失われたが、紫外照射や熱ショッ クへの応答は失われなかった。場合によって、MEEK1がERKの活性化に寄与 したが、MEEK1を活性化した他の刺激はJNKの活性化だけをもたらした。 (An)
電流チャレンジの対応(Meeting the Current Challenge)
M電流は、興奮性の制御に重要であるカリウムコンダクタンスであるので、 神経系中の多数のニューロンのシナプス入力に対する応答性にも重要である。 Wangたち(p1890;Barinagaによる記事参考)は、KCNQカリウムチャネル遺 伝子ファミリの2つのメンバー(KCNQ2とKCNQ3)における生物物理学的特徴 と拮抗物質薬理学とメッセンジャーRNAの発現パターンが、生体内のMチャ ネルの行動と分布と同一していることを示している。著者の結論は、M電流の 根底にあるイオンチャネルがこの2つのサブユニットのヘテロマーから構成さ れていることである。(An)
抑制の連続(Continuing Repression)
ショウジョウバエ胚の発生において、ホメオティックな遺伝子が重大な役割、 例えば付属器がアンテナか脚かになるかを決定する役割をはたす。分節遺伝 子産物がホメオティック(HOX)遺伝子発現の最初の空間制限を行い、その後 この抑制がPolycombグループ(PcG)遺伝子産物によって連続される。Kehle たち(p 1897)は、この調節成分の関係を同定した。dMi-2というタンパク質 がHunchback(Hb)という分節遺伝子産物と相互作用する。それに加えて、遺 伝子分析によれば、dMi-2は、Hb仲介およびPcG仲介のHOX遺伝子抑制に機 能する。dMi-2の脊椎動物同族体がヒストン脱アセチラーゼ複合体の成分で あるため、HOX遺伝子の抑制にヒストン脱アセチル化が関与するかもしれな い。(An)
τ(タウ)イソフォームと神経変性 (τ Isoforms and Neurodegeneration)
微小管に付随するタンパク質τをコードする遺伝子中の変異は、いくつかの 神経変性病に関与している。前頭側頭部痴呆とパーキンソン症は染色体17 (FTDP-17)に関連しており、τタンパク質を含む糸状の集合物が患者の脳か ら見つかっており、これはアルツハイマー病の患者に見られる集合物と似た ものである。Hong たち (p. 1914)は、FTDP-17を持つ患者において、変異 が異なっているとタウ・エキソン(τexon)のスプライシングに異なった効果 をもたらし(その結果、脳にτタンパク質のアイソフォーム組成として表れ る)、τタンパク質が微小管に結合したり、微小管の組み立てを促進したり する能力に異なった効果を表す。(Ej,hE)
酸素−16の豊富な液滴 (Oxygen-16 Enriched Droplets)
原始的隕石に見出された難揮発性のカルシウム−アルミニウムに富む包有物 (CAI)は、太陽系星雲中で結晶化し、集積した最初の微粒子と考えられてい る。Yurimotoたち(p. 1874)は二次イオン質量分析計を用いて、メキシコの アエンデ(Allende)産の炭素質コンドライトのCAI中に含まれている鉱物の酸 素同位体成分を測定した。いくつかのメリライト(melilite)粒子は、以前測 定された炭素質コンドライトや,このCAI中の別の鉱物に含まれていたメリラ イトに比べ酸素−16が異常に凝集していた。著者等は,ひとつのCAI中での異 なる鉱物相間の酸素16濃度の変動はCAIが太陽星雲中で酸素16に富んだ 液滴として形成され、酸素16の欠乏した星雲ガスの下で結晶化を進行させ たという考えを示唆している。(KU,Tk,Og,Nk)
青信号があれば(Given the Signal to Go)
脳の発達過程で、神経のコネクションができあがっていく際、皮質のニュー ロンは遠くにある目標に向けて軸索を伸ばしていく。この進路決定の最初の 段階では、軸索は皮質の表面から遠ざかるように成長する。Polleuxたちは、 そうした初期の段階を支配する信号について詳しく調べた(p. 1904)。キー となる情報伝達分子はsemaphorinファミリのメンバーの1つで、これが neuropilin-1受容体を通して、発達するニューロンにおける反応の引きがね となるのである。(KF)
エイズの進行に対する遺伝子の影響 (Genetic Influences to AIDS Progression)
CCR5およびCCR2ケモカイン受容体遺伝子の対立形質における遺伝的変異は、 HIV感染に対する防御およびエイズの進行の遅延化と結びつくと考えられてき た。Martinたちは、5群(cohort)の患者を分析し、CCR5遺伝子の上流にある プロモータ領域における変異が、より急速な、とくに感染後の最初の4年から 6年におけるエイズへの進行と関係していることを証明した(p. 1907)。(KF)
細胞分裂の制御と停止(Controlling and Halting Cell Division)
細胞分裂周期の正常な制御には、DNA合成がS期に完了するまで、有糸分裂が 開始されないことが必要である。MichaelとNewportは、有糸分裂に入ること を制御している生化学的な機構についての証拠を与えている(p. 1886)。DNA 複製が完了した後、タンパク質リン酸化酵素Wee1は、ユビキチン-接合酵素 Cdc34に依存した様式で分解(degrade)される。有糸分裂に入ることはタンパ ク質リン酸化酵素Cdc2によって制御されるが、Wee1はCdc2をリン酸化し、 不活性化するのだ。DNA複製が遮断された場合は、Wee1の分解が阻害される。 こうして、Wee1の制御されたタンパク分解は、明らかに、先行するS期の完了 と有糸分裂とを結びつける手段となっているのである。DNAがダメージを受け ると、ATM(ataxia telangiectasia mutated)タンパク質に依存したチェック ポイント機構を介して、細胞の細胞分裂周期は停止する。Matsuokaたちは、 細胞周期のG2期におけるATM-依存の静止は、Rad53タンパク質の相同体であ り、酵母(Saccharomyces cerevisiae)と類似の機能を有する、Chk2タンパ ク質リン酸化酵素のリン酸化と活性化を介して生じる、と報告している (p. 1893)。Chk2は、それからタンパク質脱リン酸酵素Cdc25Cをリン酸化す る。そのリン酸化は、明らかにCdc25Cの活性の抑制を導き、サイクリン-依存 的リン酸化酵素Cdc2の脱リン酸化と活性化を妨げるのである。(KF)
パッケージングによって邪魔されないで(Unhindered by Packaging)
RNAポリメラーゼIIと一般的転写因子の添加によって、試験管内でクラスII遺 伝子の転写が再構成された。これら因子は裸のDNAテンプレートを転写するに は十分であるが、ヒストンと一緒にパッケージされているDNAには不十分であ る。LeRoy たち(p.1900)は、染色質中に組み立てられるDNAテンプレートの 転写に作用するRSF 因子(remodeling and spacing factor)を精製した。一 般転写因子、FACT (facilitates chromatin transcription)とRSFの組合わ せは、試験管内で組み立てられる染色質テンプレートを通して活性化転写され るための最小限の必要事項となっている。 [JohnとWorkman による展望記事 参照] (Ej,hE)
後期先カンブリア紀のミクロ化石 (Interpreting Late Precambrian Microfossils)
C.-W. Liたちは中国南部のGuizhou中央部にある初期Vendian(5億8000万年 前)のDoushantuoリン酸鉱床における微小化石を研究し、海綿や後生動物の幼 生遺物を同定した (Reports, 6 Feb., p. 879 )。Y. Zhangたちは、これにコメ ントし、「parenchymella の幼生と思われるものは、、、実際は acanthomorphic acritarchsであり、planktic eukaryotic algaeの包のう の遺物に対比されるものであろう」としている。彼らは「化石の変化」がどの ように生じるか、および、その他の化石の劣化によって誤判断を招き易いかを 図示している。これに応じて、Liたちは、「今ではWengan海綿の経時的な幼 生生成を再構成することが出来た」と述べ、コメントに示された「壊れた acritarchs」は、有機物の遺物に生じた「糸状 細菌」ではないか、と述べて いる。彼らはWengan試料についての「更なる研究と評価」の必要性を訴えて いる。これらのコメントの全文は、以下を参照(Ej,hE):
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/282/5395/1783a
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