AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 26, 1997, Vol.277


酵素、煙、そして肺気腫(Enzymes, smoke, and emphysema)

1400万人ものアメリカ人を冒している肺気腫の主要な危険因子は、紙巻きタバコの 喫煙である。最初は白血球が気道に蓄積され、究極的には肺の弾性繊維が肺気腫 に特徴的な破壊を受けるに到る。この過程は数々の酵素の活性化によって引き起こ されるものであるのかもしれない。Hautamakiたちは、マクロファージ・エラスター ゼ欠乏性のマウスが、タバコの煙の影響を受ける正常なマウスとは異なり、肺の中 のマクロファージを増加させることがない、つまり肺気腫を発生させない、という ことを発見したのである(p. 2002)。(KF)

植物における酸素の起源(Oxygen origins in plants)

植物や藻類中の水から酸素が光化学系II(photosystem II)によって 作られるが、 これには4核のマンガンクラスターとチロシルのラジカル(遊離基)が含まれる ことが知られている。Hoganson と Babcock(p.1953) は、最新のデータを調べ、 水の酸化について、今までと異なるモデルを提唱した。これは、チロシルの ラジカルは、単に電子を移 動させるというよりは、水素原子の引き抜き反応剤(アブストラクター)として 働き、二酸素(ダイオキシゼン)そのものは、マンガンに末端リガンドとして 結合している水から形成されるのであり、金属原子間を架橋する酸素からではない。 このメカニズムは、アミノ酸ラジカルを含む、他の酵素反応と類似している。 (Ej,hE,Kj)

太陽の出力と気候(Solar output and climate)

太陽放射の直接的な測定は、最近の2回の太陽サイクルの一部になされたのみであり、長期間の記 録、たとえば太陽黒点の記録のようなものを、太陽の放射量の実際の変化に関連付けることは困難 であった。Willson (p.1963)は、ACRIM 衛星からの太陽放射量の最近の測定を報告している。この衛星は22 回目の太陽サイクルの極小をカバーしている。データによると、放射量が 21回目の太陽サイクルの 極小から 0.03%(すなわち 1平方メートルあたり 0.5W)増加していることを示唆している。こ れは、過去10年間の太陽活動に対してある特別の制約を与えるであろう。(Wt)

水酸化ラジカルの実態(A handle on hydroxyl radicals)

地球大気中において多分最も重要なオキシダントは、水酸化ラジカル(OH)であろう; これは、対流圏での中心的役割を担っているとともに、成層圏でのオゾン破壊反応で も 中心的役割を演じている。Summersたち(p.1967)は、HALOE人工衛星による 最近の水の量の研究とともに、MAHRSI と CRISTA 人工衛星による計測データを 利用して、成層圏における最新のOHとオゾンの分布のデータについて解析した。 それによると、OH化学反応によるオゾンの消失は、モデルが予測する消失量よりも ずっと少なく、OHの量も過大評価されていた。(Crutzenによる展望記事p.1951も 参照)(Ej,hE)

無秩序構造を深く理解する(Understanding deep disorder)

長石や輝石のような、多くのありふれた鉱物において、マグネシウム、鉄、 アルミニウム、ケイ素、カルシウムなどの陽イオンは、結晶全体としての バルクの化学組成は保ちながら、異なった結晶構造のサイトに収まることが できる。もし、各イオンが常に決まった構造サイトにあれば、結晶は理想的に 整列していることになるが、もし、これら構造サイトの全てに各イオンが等しく かつランダムに分布していれば、理想的な不整列となる。Hazen と Yang (p.1965)は、色々な不整列の度合いを持つpseudobrokite型MgTi(2)O(5)試料 を、元の環境下に置いたままで、不整列度合が圧縮性に及ぼす影響をX線回折に よって測定した。試料はダイヤモンドアンビルのセル中で7.51ギガパスカルまで 圧縮された。外挿により、理想的に不整列な構造では、理想的な整列構造に 比べて6%圧縮されにくいことを見つけたが、この結果は理論で予測 されていた値よりも1桁大きなものである。彼らの研究によって、マントルの構造と 組成を決定付ける要因として、結晶構造中の整列・不整列の割合が重要である可能性 が 高いことをうかがわせる。 地球科学者たちは結晶構造変化や組成の違いによる鉱物の圧縮性については実験的結 果 にも理論的結果にも注意を払ってきたが、結晶構造の整列度の段階にまでは及んで いなかった。(Ej,hE)

制御されている成長(Controlled growth)

タンパク質の結晶化は大きなな実験上の課題である;大きな結晶を形成する条件が 分っていないため、多数のタンパク質はまだ結晶化されていない。 最近におけるタンパク質の結晶化を解明するための理論的な試みの焦点は タンパク質間の相互作用の及ぼす範囲と、これが及ぼす相平衡状態図への 影響についてである。 Ten WoldeとFrenkel(p.1975)は、モデルタンパク質システムのシミュレーションを行い、 臨界結晶核の形成に先立って高密度の液滴が形成される間に、 結晶核形成の自由エネルギー障壁が、狭い温度範囲で有意に低くなっていることを 発見した。これを観察するためは、タンパク質の相互作用の有効範囲が 適当な距離に調節されることが重要であるが、これは非イオン性 高分子を添加によって調節することができ、成長速度を加速せずに 結晶核形成速度を選択的に加速することができるであろう。 (An)

わざと静止する(Actively at rest)

成熟T細胞は静止状態の胸腺から出現する。これらが、それらに対する特異的な 受容体を持つ抗原に出会うと、活性化され、増殖し、そしてほとんどの細胞が 最終的に死ぬ。ここで、述べられていないが、次の暗黙の仮定がなされている; 静止状態とは何もしない状態である。 Kuoたち(p.1986)は、この仮定が正しくないだけでなく、特別な転写制御因子で あるLKLFが静止状態を積極的に維持する原因となっていることを示した。LKLFを 欠乏させたマウスは、血流中に成熟T細胞が欠乏し、脾臓中とリンパ節中の数少ない T細胞は、抗原に出会わなくてもあたかも自発的に活性化されて、この活性化に 誘発されて細胞死に至るような応答を見せた。(FreitasとRochaによる展望記事参照 p.1950)。(Ej,hE,Kj)

酵素的チームワーク(Enzymatic teamwork)

さんごにおいて、脂肪酸ヒドロペルオキシドの代謝に特定化した珍しい融合タンパク 質が Koljakたち(p.1994)により記述されている。 タンパク質の構成は、ヒドロペルオキシド基質を形成するリポキシゲナーゼと カタラーセに関連し、酵素的形質転換の次段階を触媒するヘムペルオキシダーゼであ る。 反応の最終産物は、推定上のプロスタグランジン前駆物質であるアレン酸化物である。 (An)

DNAの複合体(A complex about DNA)

DNA-(シトシン-5)メチル基転移酵素(MCMT)が、新しく複製したDNAを厳しく 制御的にメチル化する。Chuangたち(p.1996)は、MCMTが増殖細胞核抗原 (PCNA)に結合することを示している。PCNAは、DNA複製と修復の補助因子である。 DNA複製部位にMCMTが局在化するためには、PCNA結合領域が必要であり、 PCNAとの相互作用がp21WAF1という細胞周期阻害薬によって破壊される。 著者は、PCNAがMCMTを新しく複製したDNAに補充し、p21WAF1がMCMTのPCNAへの 接近を防ぐことによってDNAのメチル化を防ぐことを提案している。 (Baylinによる展望参考)(An)

脊髄をつなぐ(Spinal cord splice)

脊髄の損傷は、傷ついた軸索の接続は回復されることが通常ないので、特に深刻で ある。Liたちは脊髄の病変部位に嗅官を覆った細胞を移植することで、脊髄の 軸索の再生を促すことを発見した。ラットでの実験で、ある特異な運動能力の 回復と、脊髄の軸索再生とは相関関係にあった。このことは、ヒトの脊髄病変にも 期待できる、しかし、病変の多くはここでテストしたような横断型ではないので 注意が必要である。(Na)

細菌の隠れ家に入る(Entering bacterial hideouts)

多くの主要な細菌性病原体は、宿主の免疫による防護を避けるため、宿主の 細胞中に住んでいる。もし細菌が生きるために不可欠の遺伝子が分かって いるなら、抗菌性治療法を作るのに、より多くの可能性を持つことになる。 Valdivia とFalkow (p.2007)は、このような遺伝子を選択する方法を開発した。 彼らは、緑色の蛍光性タンパク質遺伝子とサルモネラ菌ゲノムを含む選択 プラスミドを作った。サルモネラ菌に形質移入した後で、この細菌を マクロファージに侵入させる。蛍光性マクロファージから得られた細菌は、 寒天中で増殖し、蛍光性を持たないものだけを用いて哺乳動物の細胞に 再感染させる。この簡単なシステムによって、細菌が細胞内に居る間に好ましい 発現をする遺伝子を選択できるが、これにより未だ手におえない遺伝的な システムを持つ細菌にも利用される可能性がある。(Ej,hE,Kj)

海洋の地殻の上昇と下降(The rise and fall of the oceanic crust)

海洋底の深さ(bathymetry)を正確に測定することは、以下のことを理解するため に重要である。海洋地殻の構造的また化学的な進化を理解するため、海洋と大陸の プレートまたはその要素間の相互作用を理解するため、海洋循環のダイナミクスを 理解するため、さらにこうしたすべての要因が海の生物相に与える影響を理解する ために。SmithとSandwellは、船で測定した水深の最も包括的なデータと、衛星 (GeosatとERS-1)で測定した重力データとを組み合わせて、地球全体の海洋底の高分 解能の地形図を作成した(p. 1956;また、表紙とMacKenzieによるニュース記事 p. 1921を参照)。海洋底の深さ、その広がりや年代の分布から、彼らは地球全体の bathymetryは、新しく形成された海洋地殻が中央海嶺から遠ざかっていく という単純な岩石圏の冷却モデルでは説明がつかず、ランダムな場所での再加熱に よって幾つかの場所で海洋底が隆起することが必要であると結論づけている。(KF,Og)

内部からの成長(Growth from within)

デンドリマー(dendrimer)分子は単分散性の整列ポリマーで、中央の核から成長 した樹状階層状構造をしている。この表面や内部の空房は、分子被包や分子認識 の部位として利用可能である。Galliot たち(p. 1981) は、既存のデンドリマーが 化学的な変形を受けて、新しいデンドリマーの単位がネットワーク中の明確に 定義された部位から成長できるようになるか、を示した。この合成方法によって、 デンドリマー内部の空房から、色々な化学種が成長可能となる。(Ej,hE,Kj)

小さいが強い(Small but strong)

多くの材料は、その理論が与える強度にまで達することは決してない。これは欠陥が破壊を引き起 こし、ひいては力学的な損壊に至るからである。しかし、金属のウィスカーのような小さな構造は 、欠陥の密度が小さく、はるかに強い可能性がある。Wong たち(p. 1971) は、SiCのナノメ ートルサイズのロッドと、多層の壁面を持つカーボンナノチューブの強度を研究した。彼らは片方 の端でチューブを固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、それらの露出した長さ方向に沿っ て、力と偏差を測定した。SiCのナノロッドは、それらより大きな類縁のものに比べ顕著に強く 、多層の壁面を持つナノチューブの曲がりは異常な弾性坐屈過程により発生することが判った。 (Wt)

配列された粒子(Snuggling up)

整然と配列されている微粒子は、粒子間の分離、粒子のサイズまたは粒子の 化学量論などを調整することで、物質の光学的または電気的な特性を設計 できる可能性がある。Collierたちは(p. 1978) 視覚的にも鏡面が形成される ことから観測できるが、水表面に浮かんでいるアルキルチオールの層で 覆われた銀粒子の単層が縮むとき、絶縁体から金属への遷移が起こることを 示した。光学的反応は異なる粒子の波動関数間のオーバーラップである、 粒子間の量子的相互作用によって特徴付けられている(つまり、波動関数 のオーバーラップは、導電性を表している)。(Na)

幼児にとってお馴染みの単語(Familiar words to a child)

早期学習の仕組みは、どの程度一般化できるものなのだろう。JusczykとHohneは、 まだ8カ月の幼児に、リストの中の単語が、2週間前に聞いた子供向けのお話に頻繁 に出てきたお馴染みの単語か、新規の単語かを偶然ではなく判定できるということ を示した(p. 1984)。著者たちは、こうした単語の長期の保持は、発話を分節する 能力が早期からあることを反映しているだけでなく、語の音響的特徴を視覚的な、 あるいは概念的な表現と結びつける語彙の発達をも反映していると示唆している。 (KF)

ハンチントン病の手がかり(Clues to Huntington's disease)

ハンチンチン(huntingtin)をコードする遺伝子中におけるポリグルタミンの反復 の伸長がハンチントン病と関係していることが知られているが、遺伝子が線条体や 皮質に生じる神経変性に、どのように結び付いているかは良く分かってない。 DiFigliaたち(p. 1990) は、この病気のマウスモデルによって研究した結果である このプロセスの、手がかりを掴んだようである。ハンチンチン(huntingtin)の断片を 持つトランスジェニックマウスは、以前は神経細胞内の核構造特徴、あるいは、 導入遺伝子生成物集合を含むインクルージョン(含有物)やジストロフィー軸索 (これは、変質性皮質ニューロンの軸索を表している)を持つことが示されていた。 今回、著者たちの示したところによると、ハンチントン病に侵された個人の脳にも このようなインクルージョンやジストロフィー軸索が存在する。ポリグルタミン の反復が長いほど、より多くのハンチントンが累積している。これらの構造中に ユビキチンが存在していることから、変異体ハンチンチンは正常なタンパク質 切断メカニズムによる分解に対して抵抗力があり、異常に集積していると言うことは 病気の発生に関連している。(Ej,hE,Kj)

ヘルパーに離れるように伝える(Telling helpers apart)

Tヘルパー細胞それぞれは、異なった機能を持っており、異なったタイプの免疫 応答に関与している。1型ヘルパー(TH1)細胞は、炎症組織に見られ、 インターフェロン-γ産生によってマクロファージを活性化する。一方、 2型ヘルパー(TH2)は、インターロイキン-4(IL-4)とインターロイキン-5を 産生するとともに、好酸球(eosinophils)や好塩基球(basophils)と一緒 にアレルギー性反応の部位に見られる。どうやってTH2細胞が、適した 組織を見つけるのかは、分かっていなかった。Sallusto たち(p. 2005) は、 TH1ではなくて、ヒトのTH2細胞は、eotaxinに結合するケモカイン受容体である CCR3を発現することを見つけた。CCR3は、以前は主に好酸球や好塩基球に 検出されたが、このことは、炎症性アレルギー反応に寄与する主要な細胞型に 選択的に到達することの説明になっているようだ。CCR3はまた、TH2細胞を、 他の型のT細胞ヘルパー細胞から区別することができると今までに示された唯一の 分子である。(Ej,hE,Kj)
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