AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 19, 1997, Vol.277


液体中での微量電荷(Small steps in solution)

量子ドットや単分子のような微細構造物への荷電は、飛び飛びの1電子ごと (あるいはクーロン)のステップによって形成される。Fan と Bard (p. 1791) は、鋭敏な検出手段を使うことによって、酸化還元対を形成 する反応物質を含んだ溶液中のナノメートル・サイズの電極でも、同様の 荷電形成ステップが観察できたことを示している。(Ej,hE,Kj)

共役ポリマーを折り畳む(Folding conjugated polymers)

同一の芳香族炭化水素のユニットからなる比較的単純なポリマーは、溶媒により 駆動される折り畳み挙動を示す。Nelsonたち(p.1793; Pennisiによる解説記事 (p. 1764)を参照のこと)は、フェニルアセチレンの骨格を持つポリマーは緻密なら せん状の構造に折り畳まれることを示している。そしと、その遷移は分子鎖の 長さや、溶媒、温度に依存する。水素結合による相互作用は存在しないので、 その遷移は特異ではない力により駆動されている。(Wt)

光のひと触れ(A light touch)

あるカルコゲナイド系のガラスは、光誘導性の異方性を示すことが知られている。 これらの材料は、さまざまな方向に偏光した光を吸収あるいは屈折する。Krecmerた ち (p.1799; Tanakaによる展望記事(p.1786)を参照のこと)は、偏向した光を吸収すると 、 そのガラスの膜は偏光した光の電気ベクトルに平行な方向に収縮し、それに垂直な方 向に 膨張することを示している。この効果は、ナノメートル以下の精度で位置決めが要求 されるナノテクノロジーに利用できる可能性がある。(Wt)

古代の集合塚(Early mounds)

初期のアメリカ原住民はルイジアナ州ワトソンブレイクに、西半球の集合社会の はしりとして記録されている、いくつかの集合塚を建設した。Saundersたちは (p.1796、p.1761のPringleのニュースストーリーも参照)これらの塚の数多くの 放射性炭素年代を入手し、これらの多くが、従来考えられていたものよりはるかに 古い5000年から5400年前に建設されたことを示した。明らかのこれらの塚は 季節別に使用されていた。(Na)

疾病の炭水化物手掛り(Carbohydrate clues to disease)

遅発型小児性ニューロンの セロイド(ceroid)リポフスチン沈着症という致死的な 神経変性疾病の分子的な基礎が発見され、その発見方法が他のリソソーム 貯蔵疾病の研究にも役に立つであろう。 Sleatたちは(p.1802)、新しく合成した可溶性リソソームの酵素が ターゲティング信号として作用するマンノース-6リン酸塩(man-6-P)という 修飾した炭水化物を含んでいることを示している。 man-6-Pの受容体を用い、修飾したタンパク質を検出し、患者と対照の差異を調べた。 遺伝子配列は、タンパク質分解酵素と類似し、患者の脳には不足している。 (An)

視覚損失の遺伝学(Genetics of vision loss)

年齢関連性黄斑変性症(AMD)は、高齢者における苛酷な視覚損失の主要な原因で ある。Allikmetsたちは、互いに関係のないAMD患者167人を検査し、 そのうちの26人がABCRの突然変異をもっていたことを発見した(p.1805; また Pennisiによるニュース記事p.1765参照のこと)。ABCRとは、網膜の 光レセプターにおけるあるアデノシン三リン酸-結合輸送体タンパク質を コード化する遺伝子である。同じ遺伝子における突然変異は、 黄斑性ジストロフィーの遺伝の形態の一つであるStargardt病の患者でも 同定されていた。この発見は、AMDの前駆症状の検査とその予防と治療に 道を拓きうるものかもしれない。(KF)

完全に巻き付けた(All wrapped up)

バクテリオファージλからのDNAエキソヌクレアーゼの構造が決定され、 その機能の理由を明かにした。 KovallとMatthews (p.1824)は、機能的エキソヌクレアーゼがDNAを 巻き付けることを発見した。タンパク質によって作成されたトンネルは、一端が 二本鎖のDNAに適応しているが、もう一端は一本鎖のDNAに適応している。 両端の間には、分解活性部位がある。 構築した構造は、DNAが端から離れる時あるいはサブユニットに解離される時まで、 DNA鎖からはずれないので、観察した生化学的機能は前進的(すなわち、DNA の3'末端から順次5'単量体をはずしていく)となるのである。(An,SO)

シクリッドが消える暗い話(Cichlid loss: A murky tale)

ビクトリア湖の色鮮やかなシクリッド(淡水魚)は、その急速な進化で有名だが、 今や急激な減少によっても有名になっている。ここ数年ですべての種の半数が消え てしまったのである。Seehausenたちは、確実そうな説明を用意している(p.1808)。 シクリッドの呈色と種の多様性は色-連合性の交配によって維持されてきたが、こ の交配は光の条件と相関しているものである。湖の富栄養化が、水の濁りを増し、 それによって生殖に関するバリアが崩壊し、種の多様性が失われるに到るのである。 かくて、古典的な絶滅ではない形で、種の多様性が急速に失われているのだ。(KF)

しっかりと付く(Getting a good trip)

ムール貝の足から分泌されるあるコラーゲンの一次構造が、Coyneたちによって、 示された(p.1830;またEngelによる展望記事p.1795参照のこと)。特徴的なコラーゲン の三重らせん体を形づくる中央にある構造部に隣接しているのは、腱や 靭帯の主要な成分であるエラスチンやクモの糸に見い出されるのと同様のシークエ ンスからなる領域である。この領域の外側には、亜鉛-結合のシークエンスがあり、 これが個々の分子を束ねて、ムール貝が岩にしっかりとくっ付くための、強靭でし なやかな足糸にしているのである。(KF)

ビタミンDの利用(Using vitamin D)

健康な骨や応答性の免疫系には、ビタミンDが決定的である。 ビタミンDの不在や代謝不能は、くる病を引き起こす。 食事から得たビタミンDを体内において生理学的活性型に転換する ことが必要である。 Takeyamaたちは(p.1827)、腎臓にある1α水酸化酵素を マウスにおいてこの段階を管理している酵素として同定している。 (An)

ステロール 多様性の起源(Origins of sterol diversity)

イソプレノイド(訳注)は、例えば、視色素(視覚物質、visual pigment)、 生殖や接合(交配) のホルモンやステロイド、膜構成物質、として随所に存在 している。これの生合成機能が損なわれると心臓病や癌になることがある一方で、 タキソールのようなイソプレノイドは確かで有益な治療薬である。展望記事に おいて Sacchettini andPoulter (p. 1788)が議論しているように、多様な様相を 持つイソプレノイドは、多くの酵素やシクラーゼの基質を形成している炭素原子数が 5,10,15,20の化合物から作られる。Lesburg たち( p. 1820), Starks たち (p.1815) , および Wendt (p. 1811) は、これらシクラーゼの中の3つの構造を記述し、 プロトン化の機構について議論している。(Ej,hE,Kj)
(訳注)イソプレノイドはテルペンとも呼ばれ、イソプレン(CH2=C(CH2)CH=CH2) を構成単位とする一群の天然有機化合物の総称で、23,000以上が知られている。

疫学ニュース:未発表の研究成果を登録する計画(A plan to register unpublished studies)

臨床学の研究において危険が指摘されている問題がある;研究者は、その 研究結果が以前の研究に比べて対立するものを発表したがるが、これを 査読したり評価する研究者は、研究結 果の結論がはっきりしなかったり、あるいは否定的なものは認めたがらな い。その結果、特定の治療の有効性や、予防手段を判定するような論文の 査読や調査は偏見が入りやすい。Taubes(p.1754)の報告によると、 世界の100の学術雑誌の編集者たちは 、この問題を解決する良案を提案している。それによると、未発表の研 究結果を登録するように研究者に呼びかけ、この、登録されたもの を、World Wide Web上に掲示して、査読や調査に当たる研究者に 未発表の結果を参照してもらおうとしている。(Ej)

生物物理ニュース:非線形の脳をマスターする(Mastering the nonlin ear brain)

シカゴ発--数理物理学の概念を応用することによって、何十億のニューロ ン集合の動力学を理解し、あわよくば、てんかん症の制御が期 待されている。ヒトおよび動物の脳の電気活動の研究とともに、てんかん症 の活動記録は、神経科学と共に、非線形動力学と呼ばれる数学の分野と関連し ている。この非線形動力学は複雑な周期を理解するために発達した分野で 、「バネで連結された振り子の運動」とか、「金属表面上の化学反応」とか、「海岸の波頭 列の立ち上がりと崩壊」のような複雑な現象を対象とする。神経科学者 、生物物理学者、そして数学者の研究者仲間は、脳で相互に結合された何十億も のニューロン集団の動力学についても、同じ概念が当てはまることを見出 したと、Glanz(p.1758)は報告している。(Ej)

生物物理ニュース:ニューロンのノイズによって感度を高める(Sharpe ning the senses with neural 'noise')

Glanz(p.1759)によれば、昨年の一連の研究によって、知覚刺激は機械的・ 電気的ノイズを含むことによって、触覚とか、手が空間の何処にあるか、 と言う認識−固有受容(自己刺激の知覚)とか、あらゆる知覚を尖鋭化し ていることが明らかになった。これらの結果は、神経系の通常の研究に役 立つだけでなく、極限状態に置かれて知覚を喪失した末梢神経病患者に、状 況を考慮しながら簡単な課題を再学習させる、と言ったリハビリに新たな戦略を提供 しうる。(Ej)

クロノバイオロジー(Chronobiology)ニュース:哺乳類の体内時計の 遺伝子見つかる(Gene for mammals' body clocks found)

Balter(p.1762)の報告。最近、生物の体内時計を動かしている生化学的機 構が目覚しく理解されるようになってきたが、この多くは少数の動物や植 物種の一握りの遺伝子で発見されたことに依存している。テキサス州ヒ ューストンのBaylor Collegeの医学部のチームのよると、こ れらの遺伝子のいくつかは進化の過程を通じて保存されて来ているらしい、 と言う新しいアイデアにたどり着いたが、このことは、すべての種に共 通に時計が刻まれていると言う普遍的メカニズムがあることを示唆して いる。(Ej)
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