AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 12, 1997, Vol.277


白血病ウイルスの構造(Leukemia virus structure)

受容体結合活性(Receptor Binding Activity=RBD)を有するFriendマウス 白血病ウイルス(Friend murine leukemia virus)の断片が、2.0オング ストロームの解像度でFassたちによってx-線構造解析された(p.1662)。 RBDはL型の分子であり、受容体の特異性を決定すると思われ、螺旋状の可変性 領域を示す骨格の役割を持つ保存されたβシート核を持っている。これらの発見は、 基礎ウイルス学にも遺伝子治療におけるベクターの設計にも重要である。(Ej,hE,Kj,SO)

ストレスをなめる(Licking stress)

愛に育まれた幼児期というものは、ストレスに対処できる、適度に順応した子孫を 作り上げるものと考えられている。Liuたちは(p. 1659、P. 1620のSapolskyに よる展望も参照)出生後の若い時期を通しておとなのねずみの神経内分泌反応を 母親と子供のコンタクトの関数として調べた。子供の頃に なめたり、毛づくろいをすればするほど、副腎皮質刺激ホルモンを放出する 糖質コルチコイド制御をうまく行なえる大人になることがわかった。すなわち、ストレスに対する 反応は、より過酷でなく期間も短かった。(Na)

より古いトリの分岐(Older bird divergence)

北アメリカの多様なトリの種の起源は、更新世後期の氷河サイクルと時期を 同じくすると考えられていた。ある種において、住み心地が悪いテリトリー である侵入バリヤで隔離された個々の集団は 彼ら固有の遺伝的パスをたどり、他の種への分岐が行われた。KlickaとZinkは (p. 1666、p. 1622のRosenzweigの展望も参照)多様なトリの種のミトコンドリアの DNAを分析し、DNAに記録された種の進化の歴史は更新世よりはるかに古いことを 発見した。北アメリカのトリの種の分岐は予想されていたものより緩やかで、 この氷河サイクルよりも古いものだった。(Na)

静止した成長(Arrested growth)

分割(卵割)初期から、孵化した若い個体に至る後生動物の発生段階が 化石においても見つかった。BengtsonとZhao(p.1645;および表紙)は、 約5億5千万年前の初期カンブリア紀から、沢山の化石化した幼生の 後生動物を発見したと報告している。著者たちによると、このような化石は、 もしかしたら極めてありふれたものかも知れないが、その形が小さいことと、 特徴の無い外見のために今まで見過ごされていたのかも知れない、と言う。 (Ej,hE,Kj)

酸素を提供する(Providing Oxygen)

胎盤は、胚性細胞が母親の子宮の壁に侵入することによって形成される。Genbacev たちは、この微小環境への特異的な細胞の反応が、この過程を制御している様を明 らかにしている(p.1669)。胎盤の細胞栄養原形質は、発生過程にある胚にある 他のほとんどの細胞とは異なって、酸素の欠乏に対して、増殖することによって反 応する。妊娠の早い段階、つまり胚が子宮との密接なつながりを確立する以前の段 階では、胚は徐々に発達し、一方胎盤は細胞分裂して増殖し子宮壁に侵入する。 そして、ひとたび子宮-胎盤の血液循環がしっかりと確立されると、酸素のレ ベルが上がり、胚は急速に発達するが、胎盤の細胞は増殖を停止する。(KF)

彗星とX線(Comets and x-rays)

百武彗星の観測から得られた驚くべき結果は、X線を放射していたことである。 Dennerlたち(p.1625)は、保管されていた衛星(ROSAT)による他の彗星の画像を再検討し、 これらもまたX線を放射していることを見出した。それとともに、そのデータは、 X線は太陽風と彗星の粒子との相互作用によって発生していることを示している。 (Wt)

STATの現状(What's up with STATs)

細胞内部の変化を起こす多くの細胞外ポリペプチドは、転写シグナルの変 換・活性器であるSTATを経由してその変化が起こされる。STATは 、細胞表面に存在する、細胞外ポリペプチドと相互作用する受容体によっ て活性化される細胞質タンパク質である。STATは、チロシンがリン 酸化された後、二量体化して核に入り、ここで多くの遺伝子の転写を制御す る。Darnell(p.1630)は,STATの機能と進化に関して現在までに解 明されている事、および、現在、研究のトピックスであるいくつかの未解 決の問題について議論している。(Ej,hE,Kj)

噴火の型(Volcanic styles)

ほとんどの火山性噴火は、シリカと水に富んだマグマによるものであるが、 シリカ含有量の低い玄武岩性物質では噴出性が高く(爆発性が低く)なる。 Roggensackたち(p.1639)は、メキシコのCerro Negro火山における最近の 2つの玄武岩性噴火を調べた。その内の1つは、極めて爆発性が高く7km もの高さの火山灰柱を生じた。溶融含有物のデータによれば、爆発性噴火では、 噴火に先立って地下6-15kmで集積された溶融物のマグマ中に水と二酸化炭素 が取り込まれたことが推察される。もっと噴出性の高い(爆発性の低い)噴火に おいては、最初に、より浅い所でガスが抜けた。このことは、他の惑星の噴火の 型をそのマグマの組成から推測する根拠にはならないと思われる。(Ej,Og)

一回、一回だけ(Once and only once)

酵母が細胞分裂周期のG1相からDNA合成(S)相まで進行するには、 Cdc34というユビキチンを抱合している酵素の活性と、サイクリンに依存する リン酸化酵素活性阻害薬の、ユビキチンに仲介されたタンパク質分解が必要である。 YewとKirschnerたち(p.1672)は、アフリカツメガエルのDNA合成開始の制御における Cdc34の役割を研究し、酵母における制御機構との類似および差異を発見した。 アフリカツメガエルには、DNA複製の開始にCdc34と他のタンパク質の大規模の 複合体が必要であり、サイクリンに依存するリン酸化酵素阻害薬(Xic1)の破壊によっ て Cdc34が作用するようである。Xic1の破壊には、細胞核の存在が明かに必要である。 この結果は、高等真核生物において、DNA複製が細胞分裂と協調することによって、 細胞分裂周期毎にDNAがたった一回だけ複製されることを保証する生化学的機構が 明かになりはじめた。(An)

バクテリオロドプシンの構造(Bacteriorodopsin structure)

ある種の細胞に光を照射すると、プロトンが内部から外部に移動する。光 エネルギーを電気化学的勾配中に貯えることの出来るタンパク質であるバ クテリオロドプシンは、多くの基本的な生物学的な膜の通過モデルとして 利用されてきた。Pebay-Peyroulaたち(p.1676)は、脂質マトリッ クス中で結晶化されたこの結晶の高解像のx-線構造を提示した。し かし、これですべての謎が解けた訳ではなく、プロトン移動の経路におけ る8個の水分子がどのような位置を占めているか、などは依然不明である 。(Moffatによるニュースストーリ参照p.1607)(Ej,hE,Kj)

分泌中のレドックスの保持(Maintaining redox during secretion)

分泌されたタンパク質は、最初小胞体(ER)に転位させられ、ここで 折り畳まれ、組み立てられて、分泌経路を通じて輸送される準備が整う。 多くのタンパク質の畳み込みプロセスの一部には、システイン残基間のジ スルフィド(disulfide)結合の形成が含まれ、これには酸化環境であ る必要がある。Carelliたち(p.1681)は、細胞がシステインとグル タチオンの小さなチオールを周辺の媒質中に、ジスフィド含有の分泌性タ ンパク質レベルに応じた量だけ分泌することを明らかにした。この発見は 、ERからの搬出制御におけるチオールの役割とレドックスの状態に つじつまが合っている。(Ej,hE,Kj)

より良い結合のためのグリア細胞(Glial cells for better connections)

中枢神経系の主要な作用はニューロンによって成されているが、種種の多 様な特殊化した細胞が、それぞれ独自の方法で寄与している。Pfrieger とBarres(p.1684)は、ある種のグリア細胞がニューロンシナプスが効 率的に働くために決定的な役割を演じていることを見つけた。グリアの無 い状態で培養したラットのニューロンは正常に生存したが、シナプスによ る伝達は弱かった。グリア細胞が存在する状態で培養した場合、シナプス 結合は、より頑健であった。(Ej,hE,Kj)

海岸に沿った長い旅(A long trip up the coast)

ブリティッシュ・コロンビア州、アラスカ州の海岸沿いの大部分は、元来低い緯度 にあった土地が北へ移動したものだといわれてきた。しかし、古い時代の磁気の証 拠には、本質的に議論の余地がある。というのも、もともとの傾き(これによって 岩の過去の緯度がわかるとされているわけだが)が変化させられたり、回転したり している可能性があるからである。Ward たち(p.1642)は、ヴァンクーバー島にある、ほぼ水 平で変化していない点で注目すべき、一連の堆積岩を特定した(p.1642;また、Kerr によるニュース記事p.1608参照のこと)。これらの岩の古い磁気データは、白亜紀の頃、 バハカリフォルニア(Baja California, Mexico)の緯度にあったことを示している。(KF)

いっそう堅固な光(Steadier light)

地球大気の対流により光は屈折され、その結果天体観測の分解能は著しく低下する。 Max たち(p.1649) は、レーザーにより生成された地球の中間圏[訳注]のナトリウムの 蛍光観測を用いて、この大気による歪みを補正する方法を提示している。これにより 2つの測定方法において解像度を、約2倍に出来たが(光強度を2.4倍、半値幅を 0.5倍)地上に設置された望遠鏡でも回折限界に達することができる可能性がある。(Wt)
[訳注] 地球の中間圏とは、大気の成層圏と熱圏の間に挟まれた部分で、 高さ 50〜80kmの大気の層を指す。温度は平均-50℃であるが、高さが増すに連れ 0℃〜-80℃まで変化する。

煙の雲(Smoke clouds)

大気中に漂う粒子やエアロゾルの、雲の放射特性に対する影響は、定量化すること が困難であった。直接の測定はほとんどなかったし、様々な要因による影響を切り 分けることも簡単ではなかった。Kaufman と Fraser(p.1636) は、南米上空の衛星による データを解析し、生物を燃やして生じる煙の粒子による気候の強制(climate forcing)が水蒸気の利用 可能性に依存していることを明らかにした。この結果によって、煙が雲の反射率を 上げることが示され、また煙の雲による気候強制(climate forcing)がどの程度のものか推定すること が可能になった。(KF)

複数の役割(Playing several roles)

ヒトのヘルペスウィルス8がカポシ肉腫に関連し、ヒトの細胞情報伝達分子 と似ているタンパク質をコードするようである。 Kledalたちは(p.1656)、このタンパク質の一つであるvMIP-IIのリガンドとしての作用 の仕方が普通とは異なっていることを示している。vMIP-IIは、ヒトのケモカイン受容体CXCR4 および構造的に異なっている受容体CCR5とCCR2とCCR1およびサイトメガロウィルス によってコードされた受容体US28に高親和性をもって結合できる。 vMIP-IIの存在下では、ケモカインに応答して正常にカルシウムが細胞内貯蔵から 急速に移動することが起らず、RANTESによって誘発される走化性が遮断された。 CXCR4とCCR5は、細胞にヒト免疫不全ウィルス-1型が入るための共同受容体であるため、 vMIP-II研究によって、エイズの新しい治療法についての洞察が得られるかもしれない。 (An)

生命と脂質(Life and Lipids)

細胞死につれ、細胞の脂質代謝が変っていく。 いくつかの脂質、例えばセラミド、が死経路に密接に関連していると思われている。 死経路は、細胞表面の「死受容体」あるいは照射によって引き起される。 De Mariaたち(p.1652)は、死が誘発されるとGD3ガングリオシドが蓄積され、 この脂質が生成され過ぎると死を誘発できることを示している。 この脂質の合成が阻害されると、死のプログラムが抑制される。 この天然の生成物は、ミトコンドリアの膜貫通電位を平坦化させることができるが、 これが死経路に決定的な役割を担っており、開始から実行までのリンクされている。 (An,SO)
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