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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science March 14, 1997, Vol.275
部位を外れた転写性活性(Off-site transcriptional activation)
転写が活性化されるためには、プロモータ配列の近くのDNAに結合し、遠方の部位 で機能するRNAポリメラーゼ(RNAP)やその他のものを補充するタンパク質が必要で ある。細菌性転写の研究によって、タンパク質-タンパク質の相互作用の重要性が 分かり始めてきた。Wymanたち(p.1658)は、転写性活性化因子NtrC(窒素調節タン パク質C)が、遠方のDNAエンハンサー部位において大きなオリゴマーを形成する ことを示した。これらNtrCオリゴマーの非DNA結合成分が、活性化には不可欠であ る理由は、これらはプロモータ部位においてRNAPと相互作用するためらしい。 Millerたち(p.1655)は、バクテリオファージN4SSB(1本鎖のDNA結合タンパク質) は、DNA結合領域を通じて転写を活性化させるのではなく、RNAP b'に結合する領 域を通して転写 を活性化することを示した。展望において、Geiduschek(p.1614)は、NtrCと N4SSBはどちらもRNAP複合体を転写受容能のある型に再配位するらしい。(Ej,Kj)
フォノンの締め付け(Phonon squeezing)
ハイゼンベルグの不確定性原理は、共役な変数(位置と運動量のような変数)の 値を、任意精度で同時に知ることはできないと述べている。すなわち、それらの 誤差の積は、常にある値を超えざるをえない。しかしながら、一つの変数の誤差 を量子論的な極限以下にまで減少させるように、実験をデザインすることは可能 である----フォノンの「スクイーズド状態」がある時に生成されたのである。 Garrett たち (p.1638; Cleary のニュース解説 p.1566 を参照のこと) は、 KTaO3の結晶中で、ほぼ周期的な、音響モードフォノンのスクイーズド状態を作っ た。フェムト秒のレーザーパルスにより、高密度のフォノン状態を選択するよう な、反対方向に伝播するフォノンを誘起した。原子の振動に伴う原子の変位の分 散は、各周期の半分に対し、量子論的極限以下にまで低下している。(Wt)
掘削井戸の基線(Borehole baseline)
現在観測されている地球温暖化現象を解釈する場合の1つの問題点は、これと比 較すべき過去の記録がほとんど得られないことである。HarrisとChapman(p.1618) は、掘削井戸から見積られた温度によって、現在の観測記録にも関連している、 ベースライン(基線)が得られることを示した。ユタ州における掘削井戸と気象 ネットワークのデータから、19世紀のユタ州の温度は、最近の平均気温に比べ て、約0.6度C低かったことを示している。(Ej)
コアの中の硫黄(Sulfer in the core)
地球の鉄からなる外部コアの融解温度を決定するためには、どのようにして、硫黄 のような他の元素が、高温高圧下で鉄とともに安定な相を作りうるかを知る必要が ある。Fei たち(p.1621) は、マルチアンビルを用いて実験を行い、14 GPa の近 傍にもう一つの相 Fe3S2 を見出した。Fe3S2 の存在は、単純な Fe-FeS の二元の共 融合金からの外挿によるコアの温度は、過大評価である可能性を示唆している。(Wt)
より冷たい炭酸塩(Cooler carbonates) computing)
火星からの隕石 ALH84001 中の、破砕面に凝結した炭酸塩鉱物の形成温度は、議論 の的となっている。これは、火星の初期の進化とともに、その隕石が初期の生命体の 痕跡を含んでいるかどうかについても、キーとなることである。二つのレポートは、 炭酸塩は低温で形成された証拠を与えている。Kirschvink たち (p.1629) は、破砕 面を横切る輝石の粒界の磁場方向は回転していることを示している。もし、その岩石 が摂氏数百度以上に熱せられたのならば、磁場方向はリセットされたであろう。また、 そのデータは初期の火星は相当の磁場があったことをも示唆している。Valley たち (p.1633) は、炭酸塩鉱物の酸素同位体組成の比は大きく(酸素の同位体組成という のはデルタO18/デルタO16もしくは,それを 規格化したもので,それが高いと高い温度を示すとされている)、また、変わり易いことをこと を示している。これは、鉱物性起源のものは低温でかつ非平衡な状態で凝結したことを示 唆している。(Wt,Og)
大陸の下には(Under continents)
大陸の下にある上部マントルと、海洋の下の上部マントルは異なっているがそ の理由は良くわかってない。ThyboとPerchuc(p.1626)は、いくつかの大陸におい て、震源と観測地点が少なくとも700km(8度)以上離れた、長時間の地震波の反射 断面を調べた。その断面図から、大陸の下のマントルでは部分溶融領域 を持っている;これは低速地震波帯より少なくとも100km上部が層 状化している。(Ej,Og)
反応性酸素と細胞増殖(Reactive oxygen and cell proliferation)
活性酸素種(ROS)は、ある種の癌細胞によって作られ、抗酸化剤はある型の癌に対 して保護作用を持っているように見える。しかし、細胞増殖を制御するうえでの ROSの役割については大部分がよく分かってない。Iraniたち(p.1649;および Pessiniによるニュース解説p.1567)は、構成的に活性型のRasグアノシントリフォ スファターゼによって形質転換された細胞は、スーパーオキシドの生産を増加さ せることを見つけた。Rasで形質転換された細胞の増殖は、化学的抗酸化剤または カタラーゼによる細胞のトランスフェクションによって阻害された。この発見に よれば、ROSの産生は、Rasの発癌性型によって誘発される増強された細胞増殖に 必要であることが示唆される。またこれによって、観察されたいくつかの抗酸化 剤の抗増殖作 用のメカニズムの仮説が得られる。(Ej,Kj)
カルシウム制御(Calcium control)
多くの細胞において、カルシウムを細胞内の貯蔵から放出することは、いろいろ なプロセスを制御するための不可欠なステップである。GolovinaとBlaustein(p. 1643)は、高分解能イメージング法とカルシウムに鋭敏な蛍光色素を使って、刺激 を受けた細胞におけるカルシウムの貯蔵と放出の様子を可視化した。カルシウム は、空間的に仕切られた異なる機能を有する区画に存在し、生理学的刺激に対し て個別に反応する---例えば、ある貯蔵区画ではカルシウムを放出しているのに、 別の区画では貯蔵量を増やしている。このような細胞内のカルシウム濃度の局所 的制御によって、明らかに、単一細胞内における複数プロセスのカルシウムに依 存した制御を可能にしている。(Ej,Kj)
火星からの隕石(Meteorite form Mars)
生物起源の有機物を含むとして有名になった火星から来たと思われる隕石、 ALH84001、は、ディスク状の炭酸塩の凝集物を含んでいる。Valleyたち(p.1633) は、これらの凝集物の1つの酸素O18の同位体比率を計測したところ、9.5-20. 5パーミルを示した。凝集物の核の部分は均質で、このO18比率は16.7±1.2パー ミルであり、第2の凝集物より5パーミル大きい。第2の炭酸塩のホストとなって いる正輝石は均質でO18比率は4.6, また第2のSiO2のO18比率は20.4、C13比率 は46であり、以上の事実を総合して考えると、300度以下の非平衡状態で炭酸塩は 析出したと考えられる。(Ej)
地球の核付近の鉱物溶融(Melting of (Mg,Fe)2SiO4 at core mantle boundary)
マントル底部の主要鉱物は(Mg0.94,Fe0.06)SiO3ペロヴスカイトや(Mg0.84,Fe0. 16)Oマグネシオウスタイトと思われている。HollandとAhrens(p.1623)は、単結晶 オリビン[(Mg0.9,Fe0.1)2SiO4]の放射温度が、80ギガパスカル以上の衝撃圧縮 によって、7040ケルビンから4300ケルビンに急減すると報告している。マグネシ オウスタイトとペロヴスカイトの混合物は4300ケルビンにおいて130ギガパスカル まで固相であることを示唆している。このことは、マントル底部での超低速地震 波の存在、つまり、部分溶融の可能性を示している。(Ej)
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