AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 7, 1997, Vol.275


窒素の固定(Fixating on nitrogen)

2つのレポートは、遷移金属の錯体による窒素(N2)の固定について明らかにしている(Leigh に よる展望 p.1442 を参照のこと)。水素(H2)の存在下では、ニトロゲナーゼ酵素の効果は減少する 。これは一見、化学的な変換なしに生じた N2 の置換よるもののようにみえる。Fryzuk たち (p.1445) は、N2を含むジルコニウムの錯体を研究した。そして、 H2 を含む架橋 錯体を作り、H2 の添加によって N2 の変換が起こりうることを示した。Shan たち (p.1460) は、3個の金の原子2組によって作られる「鳥籠」の内部の6個の金原子の中に、N2 を 貯えることができることを示している。この拘束的な幾何形状は N2 の化学の中でもほとんど前例 が無い。この系の化学は全く異なってはいるが(ニトロゲナーゼは金を含まない)、この結果は、N2 分子がどのようにして ニトロゲナーゼクラスターの中に収容されているかを解明する助けとなる可能 性がある。(Wt)

濡れ方を制御する(Controls wetness)

高分子分野の科学者は、付着性や濡れ性のような表面特性をコントロールするために、しばしば、 異なる高分子を組み合わせる。しかし、ある場合には、一つの成分の分離が非濡れ性 (dewetting)や細片化をもたらす可能性がある。Mansky たち(p.1458) は、シリカの基板の上に共 重合体をグラフト化して、5nm の厚さの「ブラシ」を作成した。これらは、ポリスチレン(PS) と ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)とから成っており、リビング重合法(成長末端の活性の大きな 重合法)による成長鎖にランダムに組み上げられている。最適な PS-PMMA の比は、両方の高分子に 等しい親和性を有していると判った。(Wt)

最初に飛んだ?(First in flight?)

今までに知られている、最も古い飛ぶことの出来る爬虫類は、今から2億5千万 年以上前の二畳紀に生きていたCoelurosauravus jaekeliである。明らかにこの動 物は滑空によって飛び、肋骨が伸びて出来たと思われる変わった翼構造を持って いた。Freyたち(p.1450;およびWuethrichによるニュース解説p.1419)は、ドイツ で見つかったこの爬虫類の完全な骨格について述べ、この翼は、皮膚に起源を持 つ長い骨張った棒状体と長い尾によって支えられていたことを見つけた。(Ej)

混合する海洋(Ocean mixing)

カーボン・サイクルと海洋の栄養補給を理解する上で、そして気候のモデル化に おける重要な疑問点は、深海の湧昇流と、これが表面にまで達してい るかどうかの程度についてである。この過程を解明するためのトレーサーと成り うるのが炭素の同位体であるC14である。これは、上層大気中で作られているた め、古い深海の水中では減少している。サンゴにおいてこの炭素同位体の比率を 調べることで、長期間の炭素交換の記録を得ることが出来る。Druffel(p.1454)に よれば、バーミューダのサンゴは、10年単位でC14とC12の比率が変化してお り、これは、過去において何回かの表面水と深海水との短期の混合があったこと を示している。(Ej,Og)

光演算において負の状態表現(Dwelling on the negative in optical computing)

光コンピューティングや画像処理はともに、光強度の減少を直接的に記録する方法からも恩恵をこ うむることができるが、多くの測定法は単に正の値を記録するのみである。Lewis たち (p.1462) は、蛋白質のバクテリオロドプシン(bR) を含む高品質な光学的フィルムを調製した。これ は、青か黄色のどちらかの光を発する2つの光生成物の間を相互変換することができる。色消しレ ンズを用いて、別々に青と黄色の焦点を結ばせた。これは、作られる光生成物の量により、数学的 には2つのガウシアンの関数の差を表現することができたり、あるいはある物体のエッジ検出に用 いるうるようにするためである。光生成物は異なる電荷状態を有しており、これはイメージを電気 的に記録することが可能になるであろう。(Wt)

複雑な代謝(Complex metabolism)

インシュリンは、タンパク質脱リン酸酵素1(PP1)によって仲介されるプロセスで ある脱リン酸を促進することによって、多くの代謝性酵素の活性を調節する。 Printenたち(p.1475)は、PP1の触媒性サブユニットに結合し、グリコーゲンを標 的とするような、インシュリン-感受性組織の中のタンパク質を同定した。この新 しいタンパク質はPTGと呼ばれていて、グリコーゲン代謝のホルモン制御に携わる 中心的酵素であるホスホリラーゼ・キナーゼ、ホスホリラー ゼa、そしてグリコーゲン合成酵素といっしょに複合体を形成する。著者は、PTGが、ホルモン・シグナ ルを局在化して受容するために、これら酵素をグリコーゲン粒子上に構築するた めの分子骨格としての役割を持っているかも知れない、と示唆している。(Ej,Kj)

藻類の起源(Algae origin)

アピコンプレックスの(Apicomplexian)寄生虫(例:マラリア寄生虫)は、核や ミトコンドリア遺伝子に加えて、35キロベースの環状DNA分子を含んでいる。 Koehlerたち(p.1485;およびVogelによるニュース解説p.1422)は、インサイツ・ハ イブリッド形成法を用いて、このDNA分子を、もう1つの生物体であるトキソプラズマgondiiの 4つの膜で囲まれ、分離された細胞小器官に局在化した。これらの結 果と系統樹発生分析から、この構造は、緑藻の光合成プラスチドに関係したプラス チドであることを示唆している。この細胞小器官は、多分緑藻から直接捕獲され たものと思われる。この機能については未だ不明であるが、この変わった性質に よって、有効な治療標的となるかも知れない。(Ej,Kj)

HIV-1と免疫機能過剰活性(HIV-1 and immune hyperactivity)

ヒト免疫不全症ウイルス-1型(HIV-1)による感染の結果は、免疫システムの慢性活 性化過剰であり、HIV-1が、静止T細胞を感染出来ないので、感染を維持した状態 にある。Ottたち(p.1481)は、試験管内での末梢性ヒト白血球のHIV-1による感染 によって、細胞がCD3やCD28受容体を通してT細胞によって活性化されているとき、 インターロイキン2(IL-2)の生産が刺激されることを示した。分泌されたIL-2は、 非感染細胞の、リンパ節のような限局された環境における活性化に対する応答性 をより高めうる。同じIL-2の応答は、HIV-1転写性活性化因子Tatを発現するCD3や CD28によって同時刺激される細胞において生じる;Tatの第2のエキソンは、IL- 2転写を刺激するためにCD28経路と相互作用をする。(Ej,Kj)

忘れられた森林象(Forgotten forest elephant)

今まで、アフリカの森林地帯に住んでいる象は、サバンナのアフリカ象の亜種で あると思われていたが、最近のDNA分析の結果を加味して考えると、全く異なっ た種であると考えられる。分析によれば、360万年前に両者は分化したらしい。 Tangley(p.1417)の解説記事によると、現在明らかになりつつある研究結果によれ ば、これら森林アフリカ象は、小集団を作って住み、森の生態系と密接に関わり あっている。例えば、少なくとも25種の植物がその種子を象によって拡散され ている。(Ej)

珊瑚礁のストロンチウム石(Strontianite in coral skeletal aragonite)

珊瑚礁のストロンチウム含有量は、過去の海水温度を調べるために利用されてき たが、外の方法で得られた結果、例えば酸素同位体比としばしば異なることがあっ た。Greegorたち(p.1452)によると、ストロンチウムは珊瑚礁を構成するアラゴナ イトに取り込まれ、多い場合は7500ppmにも達する。彼らによると、アラゴナイト 中のストロンチウムは6つの金属原子と13個の酸素原子に4.05オングストロームの 距離で囲まれており、温度に依存してストロンチウムの分化が生じるメカニズム は極めて複雑なことが分かった。

炭素の同位体比率の変化(Rapid change of C12 in tha past)

スエズ効果(Suess effect)として知られている、年輪におけるC14/C12の同位体比 率が1870年から1950年にかけて徐々に減少する現象は、C14をほとんど含まない 化石燃料の燃焼によるものであるが、核実験による影響が出る以前の、北大西洋 における珊瑚礁中のC14同位体比は、予想に反して、スエズ効果が見られない、と Druffel(p.1454)は報告している。これは、太洋において深海との海水の循環に よる効果と見られる。(Ej)
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